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(1)骨代謝学
コレステロール代謝におけるCH25H–CYP7B1–RORα軸が変形性関節症を制御する(The CH25H–CYP7B1–RORα axis of cholesterol metabolism regulates osteoarthritis) |
変形性関節症は加齢に伴う関節の変性疾患の1つで,「ロコモティブシンドローム」の原因としてその対策が求められている。加齢,overuse,荷重などがその原因として知られているが,その発症に関わる分子メカニズムについてはよくわかっていない。またこの疾患は,上記のような物理的な負荷の側面とともに,代謝障害が病態に関与する可能性が示唆されている。今回著者たちは,変形性関節症のマウスモデルの解析により,軟骨細胞ではコレステロールの取り込みが増え,コレステロールヒドロキシラーゼであるCH25H(cholesterol 25-hydroxylase)・CYP7B1(25-hydroxycholesterol 7α-hydroxylase)およびコレステロール変換酵素の発現が上昇し,これらによって生じるオキシステロール代謝物が増加することを明らかにした。さらに,CH25HやCYP7B1を軟骨細胞に過剰発現すると,変形性関節症が誘導されること,それらの欠失によって発症が妨げられることを示した。これらコレステロール代謝の下流にはレチノイン酸関連オーファン受容体α(retinoic acid-related orphan receptor alpha:RORα)が存在し,matrix metallopeptidasesなどのマトリックス分解酵素の発現が誘導されることで軟骨破壊が誘導されることが考えられた。
今回の成果により,軟骨細胞のコレステロール取り込みの段階やCH25H–CYP7B1–RORα軸への介入が,変形性関節症の予防・治療につながる可能性が期待される。代謝異常に基づく慢性炎症からの疾患発症に至る連関が,動脈硬化などに限らず骨関節疾患にも関与するというのは大変興味深い。
(2)循環器病学/代謝学
PKG1によるTSC2の修飾はmTORC1活性を介して有害な心臓ストレスを抑制する(PKG1-modified TSC2 regulates mTORC1 activity to counter adverse cardiac stress) |
Tuberin(Tuberous Sclerosis Complex 2: TSC2)は結節性硬化症の原因遺伝子の1つであり,GTPase活性をもつmTORC1の重要な制御因子である。TSC2は恒常的にmechanistic target of rapamycin complex-1(mTORC1)の活性化を阻害するが,その阻害作用はさまざまなkinase活性によるTSC2のリン酸化ステータスによって変化する(NEWS AND VIEWSで簡単な概略図とともに説明されている)。
今回著者らは,病的状態(例えば成長因子過剰や高血圧)では,mTORC1の活性化がTSC2の変異の種類やリン酸化状態に依存して増加したり減弱したりすることを示している。またNOやナトリウム利尿ペプチドが誘導するprotein kinase G1(PKG1)による心筋肥大の抑制作用およびオートファジーの促進作用にはTSC2のリン酸化が必須であることを示し,TSC2のリン酸化が阻害される変異をノックインしたマウスでは,mTORC1が過剰に活性化することにより心筋障害が増悪することがわかった。今回の報告から,心筋障害に限らず,mTORC1の調節が治療の選択肢となりうるような他の多く病態について,その上流で機能するPKG1における役割の重要性が示唆されると同時に,新たな治療標的となる可能性が期待される。
(3)腫瘍免疫学
樹状細胞におけるmRNAのN6-メチルアデノシン修飾とYTHDF1は抗腫瘍免疫を制御する(Anti-tumour immunity controlled through mRNA m6A methylation and YTHDF1 in dendritic cells) |
N6-メチルアデノシン(m6A)は,哺乳類細胞のメッセンジャーRNA(mRNA)で頻繁にみられるRNAの修飾であり,mRNAの安定性に関わっている。またその安定性はYT521 homology domain family protein 1(YTHDF1)によってコントロールされる(YTHDFによるmRNAの制御を報告したもとの論文を参考に示す)。YTHDF1は,N6-メチルアデノシン修飾を選択的に認識し,標的となる転写産物の安定性を低下させる。
著者らは,樹状細胞特異的にYthdf1を欠損させると癌抗原の抗原提示能(クロスプレゼンテーション)が亢進し,その結果として抗腫瘍性のCD8T細胞が野生型の樹状細胞と比較してより強く誘導されることを示した。またその結果として,マウスの癌細胞移植実験で,抗PD-L1抗体に対する感受性も亢進し,抗腫瘍効果が増強することが分かった。抗原提示細胞においてYTHDF1の作用を減弱させることで,より効率的に癌由来のネオ抗原をT細胞へデリバリーできる可能性が示された。免疫チェックポイント阻害薬や樹状細胞ワクチン療法を含めた癌ワクチン治療の効果改善を目的とした新たな標的として期待される。
(1)微生物病学/腸内細菌
ヒト腸内細菌由来の遺伝子変異原性を有するコリバクチンはDNAアルキル化を誘導する(The human gut bacterial genotoxin colibactin alkylates DNA) |
ヒトの腸内細菌のうち一部の大腸菌は,polyketide synthaseをコードする遺伝子配列をクラスターとして保有していて,その結果コリバクチンと呼ばれる分子を産生する。このコリバクチンを産生する大腸菌は大腸癌発症した患者では多く認められることが10年以上前にすでに報告され,発癌への関与が示唆されていたが,その化学構造・作用機序については長い間不明であった。著者らは,大腸菌が腸管細胞にコンタクトすると,大腸菌由来のコリバクチンが腸管細胞の核内に運ばれ,DNAのアデニンアルキル化をもたらすことを示した。さらに化学構造解析の結果(コリバクチンとその付加体の構造式),コリバクチンがDNAの付加体として出現し,DNAダメージの原因となること見出している(PERSPECTIVE )。コリバクチンは以前よりdysbiosisと大腸癌リスクを考えるうえで重要な因子と考えられていたが,今回その作用機序および化学構造が解明されたことから,大腸癌発症予防に繋がるような治療薬の開発が加速するものと考えられる。
(1)禁煙
禁煙に関する電子たばことニコチン代替療法との無作為化比較試験(A randomized trial of e-cigarettes versus nicotine-replacement therapy) |
英国で行われた試験。合計886人の禁煙に参加する成人を,ニコチン代替製品を提供する群と,電子たばこを提供する群に無作為割り付けしたもの。プライマリーアウトカムは1年間の禁煙継続率(最終受診時に生化学的に検証)。副次的アウトカムには,参加者が報告した製品の使用と呼吸器症状などが選択された。1年間の禁煙継続率は,電子たばこ群18.0%に対し,ニコチン代替群9.9%(95%信頼区間[CI]1.30~2.58,p<0.001)。1年の時点で禁煙継続者のうち,電子たばこ群では,製品を使用していた参加者の割合がニコチン代替群よりも高かった。咽喉・口腔刺激感の頻度は電子たばこ群のほうが高く,悪心の頻度はニコチン代替群のほうが高かった。電子たばこ群では,52週までの咳嗽と痰の症状改善は,ニコチン代替群よりも顕著であった。以上より,電子たばこは,使用に伴う気道刺激性の要素が加わるものの,禁煙継続率および咳嗽・喀痰症状の改善率において,ニコチン代替療法よりも有効であったという結論。
こちらの論文について,Editor-in-ChiefのDrazen先生から鋭い反論が出ている。
EditorialにはPro&Con的内容で2報でているが,Drazen先生はニコチン代替という戦略そのものに関する問題点を指摘している。そもそもニコチンの依存性はヘロインと同等と言われている。特にミントなど風味がついた電子たばこは従来型の可燃性たばこと比べて親しみやすいことから,若年者の間で広がりをみせており,返ってニコチン依存の低年齢化を助長しているという背景がある。FDAの妥協のない介入を望むという内容。
NEJMの優れた点は,こうした雑誌としての矜恃をはっきり示す点だろう。この号のNEJMは呼吸器を専門とする先生方には一読されることをお薦め。Drazen先生は呼吸器が専門だが,nicotine問題の根深さを十分理解されている。
(2)Review Article
誤嚥性肺炎(Aspiration pneumonia) |
誤嚥性肺炎の総説が掲載されている。誤嚥性肺炎における原因病原体は,嫌気性菌から好気性菌へと変わってきている。また近年気道の細菌叢の研究により,気道のdysbiosisが病態へ関与している可能性が示唆されている。ここでは,リスク因子・治療のアルゴリズム・治療薬の選択や予防に関して概説されている。
(小山正平)