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(1)発生学
マウスの原腸形成と初期の器官形成についての単一細胞分子地図(A single-cell molecular map of mouse gastrulation and early organogenesis) |
哺乳類の器官形成における単一細胞レベルの転写の全体像(The single-cell transcriptional landscape of mammalian organogenesis) |
マウスの初期発生でシングルセルRNAシークエンスによる大規模な研究成果が2つ。
1つ目は,受精後6.5~8.5日の9つの連続する発生段階のマウス胚から採取した,11万6312個の単一細胞についての転写プロファイルの報告。この期間の胚の原腸形成の多能性細胞は,後に成体個体を作り出す多様な細胞系譜特異的前駆細胞へと分化するが,本論文では,多能性状態から主要なすべての胚細胞系譜への細胞分化の分子地図を構築し,臓側内胚葉や原条由来内胚葉の収斂に関与する複雑な事象を調べた(図1)。
2つ目の論文では,妊娠9.5〜13.5日の段階にある61個の胚から得た約200万個の細胞について解析しており,数百の細胞タイプと56の発生軌跡が特定され,これらをまとめると対応する数千のマーカー遺伝子が規定された。また,細胞タイプや発生軌跡内での遺伝子発現の動態を経時的に詳しく調べ,外胚葉性頂堤,四肢間葉,骨格筋に焦点を絞った解析も行っている(図2)。
(2)心血管生物学
一重項酸素分子が炎症における血管緊張と血圧を調節する(Singlet molecular oxygen regulates vascular tone and blood pressure in inflammation) |
一重項酸素分子(1O2)の果たす役割は,光合成植物,細菌,菌類ではよく知られているが,哺乳類では知られていない。化学的に生じた1O2はアミノ酸の1つトリプトファンをN-ホルミルキヌレニンと呼ばれる重要な代謝物前駆体へと酸化するが,トリプトファンからN-ホルミルキヌレニンへの酵素による酸化では,ジオキシゲナーゼファミリーの酵素が反応を触媒する。このジオキゲナーゼ酵素の1つである動脈のindoleamine 2,3-dioxygenase 1(IDO1,インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1)が,過酸化水素の存在下で1O2を生産すること,またそれに伴い,このジオキシゲナーゼ活性のこれまで知られていなかった酸化的活性化によって,L-トリプトファンが立体選択的に酸化されて三環のヒドロペルオキシドを生じることが報告された(図)。このトリプトファン由来のヒドロペルオキシドはin vivoでシグナル伝達分子として作用し,動脈弛緩や血圧低下などを引き起こす。1O2が哺乳類において,血管の緊張と血圧を調節する作用を持つアミノ酸由来のヒドロペルオキシドを形成することにより,炎症条件下で病態生理学的役割を果たしていることが明らかになった。
(3)癌生物学
好中球は血中循環腫瘍細胞に付き添って,細胞周期進行を可能にする(Neutrophils escort circulating tumour cells to enable cell cycle progression) |
血中循環腫瘍細胞(CTC)は,いくつかのタイプのがんにおける転移の前駆細胞であり,時折,白血球(WBC)などの非悪性細胞と結合して血流中に見つかることがある。本論文では,乳がん患者およびマウスモデルにおいて,個々のCTC結合WBC,および各CTC–WBCクラスター内の対応するがん細胞を単離して研究した(図)。シングルセルRNAシークエンスによる解析の結果,大部分のCTCは好中球と結合していることが分かった。好中球と結合しているCTCと単独のCTCのトランスクリプトームプロファイルの比較からは,細胞周期の進行を示す多数の遺伝子発現の差異が明らかになり,これがより効率的な転移形成につながることが判明した。さらに,CTC–好中球クラスターを定義する細胞–細胞ジャンクションやサイトカイン–受容体対が明らかになった。従って,好中球とCTCの間の結合は,血流中での細胞周期進行を促進して,CTCの転移能を拡大することがわかり,新たな治療標的となりうると考えられた(図)。
(1)免疫学
上皮細胞のERストレスがIgA抗体産生を引き起こす(Epithelial endoplasmic reticulum stress orchestrates a protective IgA response) |
腸管上皮細胞は様々な刺激をうける細胞であるが,本論文では上皮細胞のERストレスにより,T細胞非依存性にIgA産生を引き起こすことを報告している。マウスでは腸内細菌叢とは無関係に,こうした上皮細胞のERストレスが腹腔内のB1b細胞の増殖と活性化を引き起こしてIgAにつながること,ヒトでも同様の機構がありそうであることが述べられている(図)。
(1)呼吸管理
重症成人患者における気管挿管中のバッグマスク換気(Bag-mask ventilation during tracheal intubation of critically ill adults) |
想像に難くないが,気管挿管中の低酸素血症は,合併症でもっとも多く,心停止と死亡のリスクを上昇させる可能性がある。重症成人患者の気管挿管中に行うバッグマスク装置による陽圧換気(バッグマスク換気)が,誤嚥のリスクを上昇させることなく低酸素血症を予防するかどうかについては議論があった。そこで米国の7カ所の集中治療室で行われた多施設共同無作為化試験において,気管挿管を受ける成人を,麻酔導入から喉頭鏡検査までの間,バッグマスク装置による換気を受ける群と受けない群に無作為に割り付け,主要評価項目として,麻酔導入から気管挿管2分後までの間に認められた最低酸素飽和度を評価した。バッグマスク換気を受けた患者では,換気を受けなかった患者よりも酸素飽和度が高く,重度の低酸素血症の出現率が低かった(図)。術者が報告した誤嚥は,バッグマスク換気群では2.5%に発生し,非換気群では4.0%に発生し,統計学的には有意差を認めなかった(P=0.41)。
(2)発生学
1.5卵性双生児の遺伝的解析(Molecular support for heterogonesis resulting in sesquizygotic twinning) |
双子といえば100%遺伝的には同一の一卵性(Monozygotic twin)か,だいたい50%くらいの遺伝的同一性の二卵性(Dizygotic twin)の2つを考えるが,実は中間の「1.5卵性」(Sesquizygotic twin)という状態(遺伝的同一性は一卵性と二卵性の間で50%から100%の間となる)(Sesquizygosity)がある。BRIEF REPORTの本論文では実際の一絨毛膜性双胎児とその両親の解析をもとに証明している。子供たちは,それぞれ同じ母方アレルの組合せを受け継いでいる(すなわち,同じ卵子〈1つの卵子〉に由来する)ことと,それぞれがキメラ状態で,2つの異なる組合せの父方アレルを受け継いでいる(すなわち,2つの異なる精子の遺伝系統がそれぞれに存在する)ことが明らかになった(図)。さらに1つの卵子に2つの精子が受精した後には,紡錘体が3つ形成されるような“Heterogonesis”の状態を経て,一絨毛膜性双胎児となることが推察されている。約3分間の解説ビデオがわかりやすいのでぜひ御参照を。
(3)癌・分子生物学
腫瘍における選択的スプライシング(Alternative splicing in tumors — a path to immunogenicity?) |
CLINICAL IMPLICATIONS OF BASIC RESEARCHでは同じ1つのmRNA前駆体からスプライシングの違いによって複数の成熟mRNAができる現象である,選択的スプライシング(alternative splicing)によって癌のネオアンチゲンがいかにつくられるかについて,わかりやすく解説されている(図)。
(鈴木拓児)