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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 44

公開日:2019.4.24


今週のジャーナル


Nature Vol. 568, No.7752(2019年4月18日)日本語版 英語版

Science Vol. 364, Issue #6437(2019年4月19日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.16(2019年4月18日)日本語版 英語版






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心不全HFpEFの機序はnitrosative stressによるIRE1α-XBP1系の抑制/皮膚加齢におけるCOL17A1低下と幹細胞競合/SGLT阻害薬は糖尿病性腎症・心血管障害を低減する

•Nature

今週のNature Articleには,臨床に関連深い2論文が報告されている。


(1)心血管疾患 

ニトロソ化ストレスが,駆出率の保たれた心不全を引き起こす(Nitrosative stress drives heart failure with preserved ejection fraction

 1つは心不全の機序解明の論文で,米国Texas大学Southwestern Medical CenterからのHFpEF(heart failure with preserved ejection fraction:収縮機能が保たれた心不全(拡張不全),収縮能低下心不全はHFrEFと略す)に関する報告である。

現役時代,高齢者で肺炎様であるが抗菌薬の効果が不十分で,両側肺congestionと考えられ,循環器にconsultすると,心エコー上EFは正常だという返事で,押し問答になることが何度かあった。

 HFpEFとはEFは保持されていても,左室の拡張能が低下のため,左房圧,肺動脈圧が上昇する心不全である(日本心臓財団)。現在ではこのタイプは高齢者心不全の約半分を占め,治療法も確立されておらず,予後は悪い。本論文がNatureのArticleになる理由である。

 研究グループは,このHFpEFマウスモデルを"two-hit"法で作成した。それは臨床例から類推したという説明だが,high-fat diet(HFD)+L-NAME(N-nitroarginine methyl ester:NOS阻害薬)という条件である。ここではなぜNOS阻害のL-NAMEを使ったかははっきりと述べられていない。このモデルでは15週後に,LVEFはcontrol deitと変わらないが,肺重量が顕著に増加したcongestionの特徴を持つHFpEFモデルマウスが作成される。 News&Viewsにも解説がある()。

 HFpEFの心筋細胞のERにmisfolded proteinがみられるという最近の報告の下に,まずUPR(unfolded protein response)の関与形式を調べた。その結果IRE1α(inositol-requiring protein 1α)-sXBP1(spliced form of X-box-binding protein 1)の系の関与が明らかになった。IRE1 αはERの膜蛋白で,異常蛋白センサーとして働くendoribonucleaseで,XBP1 mRNAをER膜上でsplicingして,そのままribosomeでsXBP1蛋白が作られる(参考リンク)。sXBP1は核因子としてER内のchaperonなどの異常蛋白処理対応や炎症などに関連する遺伝子発現を亢進する()。

 しかしHFD/L-NAMEマウスでは,sXBP1発現が低下していた。その理由は,IRE1αがリン酸化されておらず,それは被リン酸化部近辺のIRE1αのcysteineがs-nitrosylationされているためである。実際反応産物のsXBP1のtransgenic mouseを用いると,HFD+L-NAMEでも肺水腫の程度はひどくない。

 実はIRE1αのニトロ化nitrosative stressの背景は複雑だが,L-NAMEによるNOS阻害程度はeNOS>iNOSであり,相対的にiNOSの高発現をきたし,これにより心筋のIRE1αがs-nitrosylationを受けたと説明している。

 研究グループは,HFpEFはsystemic inflammation,iNOS発現亢進によるnitrosative stressによるIRE1α-XBP1系の抑制がそのpathophysiologyだとして,このnitrosative stressのコントロールがHFpEF治療の創薬の方向だと述べている。現役時代の臨床上の疑問が解け,治療対応への夢を与える報告である。こうした論文に出会えることが,臨床での不完全燃焼の疑問を残した老医が,70歳を超えてtop journalに目を通す楽しみである。


(2)加齢,皮膚科 

幹細胞競合が皮膚の恒常性と老化をつかさどる(Stem cell competition orchestrates skin homeostasis and aging

 もう一報は,東京医科歯科大学西村栄美教授のグループからの報告である。

 彼女は一貫して皮膚の色素細胞,幹細胞の研究を続け,2016年には,筆者のaging問題でもある,hair follicleの幹細胞がCOL17A1の分解により減少することを,Science誌のArticleとして報告している。

 今回の報告は,そのより一般化された皮膚の表皮の細胞新陳代謝を,COL17A1が関与する幹細胞同士のcompetitionとして捉え報告している。News&Viewsにも解説()があり,また東京医科歯科大学のプレスリリースで日本語でも説明されている。

 この問題は,高齢者増加の昨今,皮膚エージングとしてよくTVコマーシャルにも出てくる。しかし単にコラーゲンを塗るだけでは済まないようだ。COL17A1〔BP180:bullous pemphigoid(水疱性類天疱瘡)から由来〕は,1992年にクローニングされたcollagenous transmembrane proteinsの1つである()。Wikipediaでその組織別発現分布を見て,皮膚よりも気道ではるかに高いのに驚いたが,呼吸領域での研究はまだないようだ()。その遺伝子異常は接合部型表皮水疱性を表現型とし,またその自己抗体により水疱性類天疱瘡を発症するという。

 さて論文に戻ると,Fig.2aの複雑な遺伝子改変マウス,K14-creERT2;R26RBrainbow2.1 miceのconstructにすべてが関わり,これにより表皮での幹細胞,その分化が視覚化して示される。Mouse tail skinでの解析であるが,幹細胞と基底膜を繋ぐヘミデスモソーム構成成分,COL17A1の発現がゲノムストレスや酸化ストレスで誘導される蛋白分解により変動し,それが幹細胞間の細胞競合を引き起こす。「COL17A1高発現細胞は水平方向に対称性分裂をして,基底膜上で増殖する(勝者幹細胞クローン)のに対し,加齢でCOL17A1が低下した幹細胞は,非対象性分裂(縦分裂)を連続しながら基底膜との繋留が減弱してゆく」という。

一方hCOL17A1 transgenic mouseでは25~30カ月でも基底膜上に幹細胞が水平方向分裂能を維持している。また最近のこうした論文でよく示されるように,COL17A1発現を増加する化合物Y27632やapocynin()を用いたin vitroデータがExtended Fig.9に示され,臨床応用の可能性も示されている。

 加齢皮膚では何が起こっているのか,何がkey roleを担っているのかがよく理解できる。


•Science

 今週号にはHayabusa2関連が3報掲載されている。2018年6月末,Ryugu上空到達,同9月ローバー投下,探索等の報告がまずまとめられたようだ。


(1)脳科学 

扁桃体内部の異なる機能を担う細胞集団は協調して適応的行動のための身体状態をモニターしている(Amygdala ensembles encode behavioral states

 脳科学の最近の発展には驚くばかりである。

 ここ数年,implanted miniaturized fluorescent microscopyを用いたマウスでの研究報告が続いている。この技術の最初の報告は,2011年,Nature Methodsに出されたものである(Nat Methods. 2011; 8: 871-8)。それが実際どんなものかは,取扱業者のサイトで動画でも簡単に見られる。

 神経科学研究は,電気刺激による研究が長く続いた後,21時世紀に入り藻類の光感受性イオンチャンネルをtransgenicする技術で,レーザー光照射でaction potentialを発するoptogeneticsが進んだ。一方,90年代に開発されたfMRIは,ヒトを対象に脳全体の神経核の活動を3次元で把握することにより,研究困難であった大脳辺縁系のヒトでの研究が進み,例えばMindfulness有効性などの科学的根拠となっている。

 新たなfluorescent microscopyは,神経細胞内のCa2+イオン流を蛍光で捕捉することにより,150μm視野での神経細胞の活動性をそのまま画像データとしてコンピューターに取り込み,マウスの行動,感覚,感情などと神経細胞Ca2+イオン活動性を解析するものである。

 この論文では,恐怖やストレスに関与する扁桃体(Amygdala)において,このminiaturized microscopyを用いて解析し,Basal amygdala state separatrixとしてexploratory phaseとnon-exploratory phaseで異なる神経細胞が活動し,state changeが行われると報告している()。

 いよいよ情動などの脳活動の神秘的な部分に脳研究が踏み込める時代に入ったのか?またデータ解析はゲノム研究同様,stochastic biologyの時代である。


(2)その他:Genome editing 

DISCOVER-Seq法を用いてCRISPRのオフターゲット部位を不遍的に検出する(Unbiased detection of CRISPR off-targets in vivo using DISCOVER-Seq

 CRISPR-Casによるgenome editingは,最近一般にも大きな話題となっている。しかしその大きな課題がoff-targetへのediting操作である。

 米国UC Berkleyの研究グループが,それをunbiasedに評価するDISCOVER-Seqという方法論を報告している。ポイントはCasのゲノム切断によるdouble strand breakを感知するMRE11(mitotic recombination 11)のゲノム接着部を,ChIP-Seqする方法である。Perspectivesにも関連論文2報とともに紹介されている()。詳細まで十分には理解できていないが,Fig.3ではDISCOVER scoreとしてoff-targetのサイトが頻度順に並べられている。

 4月の東京フォーラムの日本呼吸器学会学術講演会でも,患者iPS細胞の分化による繊毛細胞をCRISPR-Casで正常配列にgenome editing処理したcilia beatingの動画が印象的であった。Off-target問題をどう評価するかが,CRISPR-Cas技術を確立する上で避けて通れない課題である。



•NEJM

 印刷体の目次にはないが,メディアも注目する臨床試験結果がメール配信版でonlineとなっているので,取り上げたい。


(1)糖尿病,糖尿病性腎症 

Ⅱ型糖尿病とその腎症におけるカナグリフロジン使用の腎症へのアウトカム(Canagliflozin and renal outcomes in type 2 diabetes and nephropathy

 21世紀以降,新規糖尿病薬として市販されたDPP-4阻害薬,GLP-1受容体作動薬,SGLT2阻害薬の内,SGLT2阻害薬の血糖制御に伴う心血管疾患,あるいは腎機能維持への波及効果が注目されている。呼吸器のような専門外から見ても目を見張るような臨床試験成績である。Editorialにも取り上げられている。

 SGLT2〔sodium-glucose transport protein 2; SLC5A2 (solute carrier family 5); sodium-glucose cotransporter gene〕は,ヒトの尿細管に高発現を見る,Naイオンとの共輸送蛋白であり,尿細管におけるグルコース再吸収機能を持つ。その阻害薬は一般名gliflozinで,グルコースの再吸収を抑制し,尿糖としての排泄促進で,その結果として血糖値低下を企図したものである。

しかしReal worldで使われ始めると,心血管障害による死亡の低減(N Engl J Med. 2015; 373: 2117-28. N Engl J Med. 2017; 377: 2099. )が認められ注目されていた。

 今回のオーストラリアを中心とする4401例のSGLT2阻害薬(canagliflozin)の二重盲検試験では,主要評価項目を末期腎不全や心血管死の複合イベント発生率として,2014年3月より開始され,中間評価で有意差を達成したとして,median follow-upが2.62年で終了したものである。結果は主要評価項目でほぼ30%以上の有意差を示した()。ことにNNT(number needed to treat)が2桁であるのは凄いという。

 現在わが国でも糖尿病患者増加に伴う,糖尿病性腎症の増加,透析への移行は大きな医療経済上の問題であり,今後こうした状況への長期的な効果が期待される。

 一方,血糖コントロールによる心血管性イベントへの効果はどう理解すればいいのか?高血糖状態の細胞生理は,今なお充分研究が進んでいない状況であり,SGLT2阻害薬の臨床効果は,次なる研究方向を示唆するものかもしれない。


(TN)



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