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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 45(令和第1号!)

公開日:2019.5.8


今週のジャーナル


Nature Vol. 569, No.7754(2019年5月2日)日本語版 英語版

Science Vol. 364, Issue #6439(2019年5月3日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.17(2019年4月25日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.18(2019年5月2日)日本語版 英語版






Archive

高Indel変異癌はICIが効きやすい?/先制抗ウイルス治療でHCV陽性ドナーからの肺移植が可能?

•Nature

(1)免疫学・癌免疫 

脂肪酸輸送蛋白質2は癌で好中球を再プログラム化する(Fatty acid transport protein 2 reprograms neutrophils in cancer

 米国フィラデルフィアのウイスター研究所からの,多形核骨髄由来免疫抑制細胞(PMN-MDSC)についての論文である。腫瘍に対する免疫を負に調節して腫瘍の成長と転移を促進することが知られているMDSC(myeloid-derived suppressor cells)には,単球系のMO-MDSCsと好中球系のPMN-MDSCsがあることが報告されている。PMN-MDSCは,病的状態で活性化される好中球で,癌での免疫応答の調節に極めて重要である。本研究ではマウスとヒトのPMN-MDSCにおいて,脂肪酸輸送蛋白質2(FATP2)のみが発現上昇していることをみいだした。PMN-MDSCでのFATP2の過剰発現は,GM-CSFにより,STAT5転写因子の活性化を介して制御されていた。FATP2を欠失させると,PMN-MDSCの抑制活性が失われた。FATP2を介した抑制活性の主要な機構には,アラキドン酸の取り込みとプロスタグランジンE2(PGE2)の合成が関わっていた。FATP2を阻害するとPMN-MDSCの活性が失われ,腫瘍の進行を大幅に遅れさせ,チェックポイント阻害剤を併用した場合,さらに腫瘍の進行を停止させた。FATP2はPMN-MDSCの腫瘍抑制活性獲得に関わっており,これを標的とすることは,より有効性の高い癌治療法の開発につながるかもしれない。


(2)免疫学・腸管免疫 

区画化された腸からのリンパ節への排出が適応免疫応答を決定付ける(Compartmentalized gut lymph node drainage dictates adaptive immune responses

 腸の免疫系は,病原体に対しては炎症性応答をおこす一方で,食べ物や腸内細菌については寛容するという相反する難しい役割を担っているがその仕組みは不明である。米国ロックフェラー大学からの本研究では腸のどの部分の区画かによって,その所属リンパ節(gut-draining lymph node:gLN)が免疫学的に異なる特異性を持つことを明らかにしている(図1)。各々のリンパ節の細胞や樹状細胞の遺伝子発現解析および腸管部位特異的な感染実験などから,制御性T細胞(Treg)は十二指腸所属リンパ節に多く,炎症性T細胞は下部消化管所属リンパ節に多いことが明らかとなった。所属リンパ節ごとに免疫寛容か炎症反応かといった役割があり,臨床応用の観点からも重要な知見と考えられた。



•Science

(1)癌免疫 

ミスマッチ修復機構の欠損のある腫瘍でも遺伝子変化に幅があり,それが抗PD-1癌免疫療法の奏効と関連する(Genetic diversity of tumors with mismatch repair deficiency influences anti–PD-1 immunotherapy response

 DNA修復のミスマッチ修復機構の欠損〔mismatch repair deficiency(MMR-d)〕は細胞の癌化に関係する。例えば,リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌,hereditary nonpolyposis colon cancer:HNPCC)は,ミスマッチ修復遺伝子であるMLH1,MSH2,MSH6,PMS2の生殖細胞系列の変異が原因であることが知られている。また,ミスマッチ修復機構の欠損があるとマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)とよばれる,DNA修復の際にエラーの生じやすいマイクロサテライトの反復回数にばらつきを生じることが知られている。すなわち高MSIの癌では多くの遺伝子変異を有することと関連しており,抗PD-1治療が奏功する可能性が指摘されている。しかしながら,MMR-dの癌や高MSIの癌でも抗PD-1治療の効果にはばらつきがあり,その原因を調べたのが米国ジョンズホプキンス大学とメモリアル・スローンケタリング癌センターからの本研究である。CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を用いて同じ細胞株からMSIの程度の異なる癌細胞を作製し,マウスを用いて抗PD-1治療についても解析している(図1)。

 その結果,アミノ酸変異を伴う「ミスセンス変異」の単一塩基変異を有する腫瘍よりも,ある程度の長さのDNAが挿入されるか欠失するような「insertion-deletion(indel)」を有する腫瘍で抗PD-1治療によってより高い治療効果がみられることが判明した。さらに実際の患者臨床データでも高MSIの癌患者で抗PD-1治療を受けた患者をしらべてみると同様の結果が確認された。Tumor mutation burden(TMB)は,免疫チェックポイント阻害剤治療の効果に関連するといわれているが,その中でも高MSIである癌の中でも治療効果にばらつきがあり、これらには遺伝子変異にもばらつきがあり,indel変異を有する癌ではより高い治療効果がみられることがあきらかとなった。



•NEJM

 NEJMは令和(今週)と平成(先週)の2号から紹介する。

 まず今週号(Vol 380, No.18)からはアメリカ的なアメフト選手の脳症についての研究から。


(1)神経 

元全米フットボールリーグ選手におけるタウ陽電子放射断層撮影(Tau positron-emission tomography in former national football league players

 アメリカの国民的スポーツはアメリカンフットボールである。日本では昨年,某大学の悪質タックル問題が話題となった。実は頭部衝撃の激しさから多くの引退した元全米フットボールリーグ(NFL)選手が様々な精神神経症状を生じており,彼らは集団訴訟を起こしており,当初は認めていなかったNFLは最終的に和解に応じている。また,2015年にはNFL選手と慢性外傷性脳症(Chronic traumatic encephalopathy:CTE)との関連を発見した医師の実話に基づく映画「コンカッション」が上映されており近年注目度は高い。CTEは,反復性の頭部衝撃の既往との関連が示されている神経変性疾患である()。

 神経病理学的診断は,タウの蓄積を認めるがアミロイドβの沈着はほとんど認めない。CTEではタウの過剰なリン酸化がおきており,リン酸化されたタウの神経細胞への蓄積は,神経原線維変性を引き起こすことが知られている。本論文では,認知症状・神経精神症状を有する元全米フットボールリーグ(NFL)選手26例と,外傷性脳損傷の既往がない無症状の男性31例において,脳内のタウ蓄積とアミロイドβ沈着を測定するために,それぞれフロルタウシピル(flortaucipir)陽電子放射断層撮影(PET)とフロルベタピルPETを行った。症状を有する元NFL選手ではCTEの影響を受けている脳領域(両側上前頭葉,両側内側側頭葉,左頭頂葉)においてPETで測定されるタウ値が対照よりも高く,アミロイドβ値は高くなかった。PET検査の有効性を示唆するが,今後さらなる研究が必要である。


(2)REVIEW ARTICLE 

幹細胞研究と臨床応用(Stem-cell research and clinical application

 種々の幹細胞についてその応用などについての総説。


 前回ゴールデンウイークでTJHackお休みであった4月25日号(Vol 380, No.17)からは2つの論文を紹介する。

(3)免疫 

進行性多巣性白質脳症に対するペムブロリズマブ投与(Pembrolizumab treatment for progressive multifocal leukoencephalopathy

 進行性多巣性白質脳症(progressive multifocal leukoencephalopathy:PML)は,JCウイルスによって引き起こされる脳の日和見感染症であり,免疫機能を回復させられなければ通常致死的となる。JCウイルスは健常人の50%以上が腎臓に潜伏感染しているが,細胞性免疫不全の際には遺伝子再編成したウイルスが神経のグリア細胞に感染することでPMLを引き起こす。PD-1はウイルス感染におけるT細胞の疲弊に関与することは研究されているが,ペムブロリズマブを用いたPD-1阻害により,PML患者の抗JCウイルス免疫活性が再活性化されるかどうかは明らかでなかった。今回PMLを有する成人8例に,ペムブロリズマブ2mg/kg体重を4~6週ごとに投与する研究が報告された。ペムブロリズマブにより,8例全例で末梢血中および脳脊髄液(CSF)中のリンパ球におけるPD-1発現低下が誘導された。5例ではPMLの臨床的改善または安定化が得られ,CSF中のJCウイルス量の減少と,in vitroにおけるCD4陽性,CD8陽性細胞の抗JCウイルス活性の上昇も認められた。ほかの3例では,ウイルス量や抗ウイルス細胞性免疫応答の程度に意味のある変化は認められず,臨床的改善も得られなかった。本研究ではペムブロリズマブの投与を受けたPML患者8例のうち5例で臨床的改善または安定化が得られた。PML治療における免疫チェックポイント阻害薬はさらに研究を進める必要がある。


(4)肺移植 

C型肝炎ウイルス感染ドナーから非感染レシピエントへの心臓および肺の移植(Heart and lung transplants from hcv-infected donors to uninfected recipients

 C型肝炎ウイルス(HCV)感染を治療する直接作用型抗ウイルス薬の登場によって,通常は行われないHCV感染ドナーの心臓と肺をHCV非感染レシピエントに移植することが可能になってきている。そこで,本研究ではC型肝炎ウイルス血症を有するドナーの心臓と肺の,HCV非感染成人への移植に関して調べられた。ウイルス複製を防ぐため,全遺伝子型に有効な直接作用型抗ウイルス薬レジメンであるソホスブビル–ベルパタスビルを,臓器レシピエントに対し移植後数時間以内に先制的に開始し,4週間継続した。44例が登録され,36例が肺移植,8例が心臓移植を受けた。レシピエントの96%で移植後数時間以内にHCV感染の早期徴候が認められたにもかかわらず,6カ月間の追跡調査を完了したレシピエント35例全例にHCV感染は確立を防ぐことができた。



(鈴木拓児)



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