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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 46

公開日:2019.5.15


今週のジャーナル


Nature Vol. 569, No.7755(2019年5月9日)日本語版 英語版

Science Vol. 364, Issue #6440(2019年5月10日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.19(2019年5月9日)日本語版 英語版






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免疫チェックポイント阻害(ICI)に関する2つの報告-FerroptosisとCD80

•Nature

今週はNatureにもScienceにも,PD-1の関連する免疫抑制,あるいはその阻害による抗腫瘍活性に関して,重要な新規機序が報告されている。


(1)Oncology 

CD8+ T細胞は癌免疫療法の間に腫瘍のフェロトーシスを調節する(CD8+ T cells regulate tumour ferroptosis during cancer immunotherapy)

 Natureではミシガン大学の研究グループが,抗PD-1抗体によるICIでの細胞死には,通常考えられているperforin-granzyme系やFas-FasL系以外にFerroptosisが作動していると報告している。

 Ferroptosisとは,最近注目されるlipid ROS(reactive oxygen species)による細胞死の様式であり,薬剤耐性を示す癌においては,この機序を逃れているものがあると報告されている。

 このFerroptosis系ではcystine/cysteineやglutathioneも重要で,それらによる還元性でlipid ROSを抑制する(Frontiers in Pharmacology参照)。

 研究グループは,動物モデルでのICI処理で,lipid ROSの増加を確認し,その現象にIFN-γが関与することを示した。全体像は研究者らの施設による説明図(Rogel Cancer Center)がわかりやすい。CD8+ T細胞よりのIFN-γシグナルが,Ferroptopsisを逃れるcystine/cysteineの取り込み機構〔SystemXc-(glutamate-cystine antiporter)〕を構成するSLC3A2とSLC7A11の発現を抑制する。実際cystine/cysteineを枯渇させる系(cysteinaseを使う)をICIに併用すると,腫瘍増殖が抑制される(これは先に肺癌の系でも示されている。Nature. 2017; 551: 639-43)。

 ICIの臨床効果が不十分な症例がなお多い中,cystineを局所で減少させたり,あるいはGPX4(glutathione peroxidase 4)を阻害するなど,そのFerroptosisを促進する系の創薬への研究ドライブとなるだろう。


(2)神経科学 

カルシンテニン3β–S100b軸を介した熱産生脂肪組織の神経支配(Innervation of thermogenic adipose tissue via a calsyntenin 3β–S100b axis

 恒温動物の体温制御の機序は何か?筆者は以前より関心がある。

 21世紀に入り,BAT(brown adipose tissue)がしばしば話題になる。それは成人においてもBATが充分に存在することが,イメージングで示されたからである。しかし,発熱誘導への詳細な機序はなお不明である。

 Harvard大学のグループは,BATへの交感神経支配増減をめぐって新たに2つの物質,clstn3b(calsyntenin 3β)とS100bを同定し,その機序の一部を解明したことがArticleに報告され,News&Viewsにも紹介されている()。

 彼らは,BAT由来のtranscriptsを詳細に調べ,従来神経細胞で神経伸長に関するClstn3のintronの中に新たなexonを持つclstn3bを発見し,その発現がBAT特異であることを見出した(Fig.1)。clstn3bのKOを寒冷環境にさらすと体温低下をきたすが,体重はかえって重くなる。逆にclstn3b過剰発現では寒冷環境での体温維持能が充分にあり,体重は野生型より軽い。またclstn3bはBATへの交感神経分布を増加させた。

 このclstn3bKOで最も発現が低下したものがS100b遺伝子であると同定した。S100bは脳astrocytesに発現し,neurotrophicである。それがBATでも発現し,交感神経支配を増やし,BATでの発熱を増加させる。clstn3bはBATのERに存在し,chaperonとしてS100b発現分泌を補助し,BATへの交感神経支配を増加すると研究グループは考えている。しかしその詳細は今後の課題である。

 今回,恒温動物の体温制御としてのBATへの交感神経支配の機序の一部が明らかになった。1カ月前TJHackで,恒温動物である哺乳類では,心筋再生能を失い,それが甲状腺ホルモンと逆相関している報告の紹介があった。BATには甲状腺ホルモン産生酵素のDio2(type II iodothyroxine deiodinase)も高発現している。BATの謎解きはさらに続くようだ。


•Science


(1)Oncology 

PD-L1とCD80のシス結合によるPD-1の機能制限が至適なT細胞応答を可能にする(Restriction of PD-1 function by cis-PD-L1/CD80 interactions is required for optimal T cell responses

 ScienceにもPD-1/PD-L1機構に関する重要なCD80(以前のB7-1)の役割がArticleに報告されている。ポイントは腫瘍組織ではPD-1/PD-L1免疫抑制機構があっても,他の感染症などへの免疫機能は正常である。何が違うのかという点である。

 徳島大学の岡崎拓教授のグループからの報告で,4月18日Online版となった時点での,AMEDプレスリリースに要点が図とともに記されているので参照されたい。岡崎教授は2000年前後,京都大学本庶研でAID〔Activation-Induced(Cytidine)Deaminase:抗体多様化に関連する酵素〕とともにPD-1の自己免疫疾患との関連を研究した。

 徳島大学のグループはCD80の発現がPD-L1と同じ細胞上に隣り合って発現する(これをcis-interactionという)事実を,PD-1可溶性蛋白質(PD-1-EC)を用いることで見出した。

 PD-1はPD-L1の発現するマクロファージには結合するが,PD-L1がほぼ同様に発現する樹状細胞には結合しない。しかしCD80ノックアウトマウスの樹状細胞はPD-1-ECが結合した。すなわちCD80が発現しているとPD-L1と相互作用し,PD-1が結合できない事実を種々の実験系で明らかにした。

 本研究が明らかにしたCD80の機能は,1つにはもちろん自己免疫疾患への治療開発,他方抗PD-1抗体のAE(adverse events)としての糖尿病や急性肺障害発症への対応の手段を開くかもしれない。

 この論文は,西川伸一先生も彼のAASJで取り上げている。最後の方で,抗PD-1抗体と抗PD-L1抗体の臨床効果の違いに言及されている。鋭い指摘だと思う。 


(2)その他 

協調的調節アセンブリを用いた合成遺伝子回路における複雑な信号処理(Complex signal processing in synthetic gene circuits using cooperative regulatory assemblies

 5月に入って,NHKスペシャル人体:遺伝子IIではjunkといわれたnon-coding領域が遺伝子表現形への微妙な関与や,スイッチ機構を一般向けに説明した。しかし筆者の周囲からは多くの質問を受けた。一方の人気の宇宙科学番組「コズミック・フロント・ネクスト」に比べ,遺伝子科学の説明は困難だ。コズミック・フロントのように毎週少しずつ話題を変えながら長年に渡って説明を続け,理解を拡げないと,急に「運命は変えられる」では,一般視聴者は????となってしまう。

 その遺伝子発現のスイッチ機構に関して,酵母を用いた系であるが,面白い試みがなされて,Perspectivesにも取り上げられている()。示された図の通り,スイッチを入れたように遺伝子発現をnon linierに変動しうるモデル(circuit回路ともいっている)の紹介である。将来の農業,水産業などでの工業的応用は新たな段階に入るかもしれない。


•NEJM


(1)核酸医療 

ハンチントン病患者のハンチンチン遺伝子発現を標的にする(Targeting Huntingtin expression in patients with Huntington’s disease

 今週もメール配信版の紹介である。Huntington病に対する核酸医療のphase I,IIa臨床試験の結果が報告されている。Editorialにも取り上げられ,pathbreakingな臨床試験として紹介されている。

 医学生時代,舞踏病として不随意運動を伴う常染色体優性遺伝として学び,一体こんな病気の原因は何なんだと,悩ましかった。関連遺伝子は1993年にHuntintin(HTT)として同定された。3145アミノ酸,33万kDaの巨大分子で,全長にわたって蛋白質間相互作用が想定されている。病態はしかし,そのCAG repeatによるもので,現在ではトリプレット病(現在まで20種類弱)のひとつであることが判明した。このtriplet repeatは子孫ほど長くなる。その変異蛋白質は凝集や細胞内蓄積などtoxicである.

これに対して,KOマウスから始まり,治療モデルが各種検討されてきた。その1つがanti-sense oligonucleotideが病的mRNAと二重らせんを形成し,RNase Hによる分解を受け,モデル系ではHTT蛋白量を低減させた。

 今回はこうした核酸製剤IONIS-HTTRx(HTTRx)を用いる(Methodsにその配列が示してある)。詳細はLancet NeurologyにReviewされている()。46名の患者(実薬:Placebo=3:1)に,10~120 mgのHTTRxを髄注で投与した。AEは特になく,実際にCSF中の変異HTT蛋白量がdoes dependentに減少することが示された()。Editorialによるとphase IIIが始まったばかり(NCT03761849)であると記されている。日本人では西欧人の1/10の頻度だが,ベネズエラのMaracaibo湖畔ではepidemicレベルに多数の患者が見られ,たまたま今週のTime誌にも写真が載っていた。

 核酸医療は確実な実効性を伴い,21世紀実臨床に入ってきた。今後他のトリプレット病に関しても,同様な治療が開けるだろう。


(2)CLINICAL IMPLICATIONS OF BASIC RESEARCH

造血とアテローム性動脈硬化との関連(The link between hematopoiesis and atherosclerosis

 自覚のないsilent病であるatherosclerosisが基礎医学紹介に取り上げられている。最近のScience誌のAibp2-SREBP2-Notch軸の説明である()。しかし高脂血症以外の原因不明炎症因によるatherosclerosis研究は,なお今後の課題だと言う。


(TN)



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