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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 48

公開日:2019.5.29


今週のジャーナル


Nature Vol. 569, No.7757(2019年5月23日)日本語版 英語版

Science Vol. 364, Issue #6442(2019年5月24日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.21(2019年5月23日)日本語版 英語版






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シャルコー・ライデン結晶融解が喘息・鼻炎で抗炎症効果?/SSc随伴性肺線維症にもnintedanibは有効

 今週は呼吸器臨床として興味ある論文が出ているScience,NEJMから紹介する。


•Science

(1)免疫・呼吸器 

蛋白質結晶化は2型免疫を促進し抗体治療によって元に戻る(Protein crystallization promotes type 2 immunity and is reversible by antibody treatment

 生体内に存在する結晶化蛋白は,結果なのか? 原因なのか?

 鶏か卵か論争ではないが,呼吸器科医に馴染み深いCharcot-Leyden crystals(CLCs)が,難治喘息やNasal polypsにおける炎症起因に関与するという,エレガントな報告が,ベルギーやオランダのグループからResearch articleとして報告されている。

神経学および組織学研究者のCharcotは1853年に,内科のLeydenは1872年に好酸球炎症組織と結晶構造物存在の事実を報告した。しかしanecdotal evidence(日本から投稿すると時々reviewerからのコメント「偶然じゃない」の意味)といわれていたものである。今回の論文は彼等の発見をanecdotalからscientificにするものである。

 CLCsを形成するのはgalectin 10(Gal10)という蛋白で,bipyramidal(両錐型)結晶が伸びていく構造である()。グループの研究は,どうも最初はGal10が結晶化しないGal10 mutein(=mutant proteins, Wiktionary)の研究から始めたと思われる。その一つがTyr69Gluの変異蛋白である。論文はこのTyr69をepitopeとする蛍光化抗Gal10抗体で,慢性鼻炎や喘息患者検体中にGal10 CLCsが多数存在することを示した。

 ではGal10 CLCsはいかなる免疫反応を惹起するのか?

 それがneutrophilsやmonocytesを特徴とする細胞の呼び込みであり,IL 6,IL-1βを増加させる。いったい何故neutrophilsは誘導されるのか,筆者は長らく疑問であった点であるが,その理由の一端が示されている。

次になんとCLCsをどう融解するかが示される。

 これには抗Gal10(tyr69 epitope)抗体である,1D11,4E8,6F5などのmonoclonal抗体を用い,isotypeを対照にして,いかに結晶が融解していくかを示している(Moviesの中央の長い結晶が融解していくのはすごーい!動画)。

 では前臨床動物実験ではどうか?

 NRGマウス(免疫不全NODマウスに加えRag2-/-,Il2Rg-/-)を用いHDM(house dust mites)によるallegic mouse血球を外から注入した複雑な系で,肺の反応を調べている。

 そうするとHDM+CLCs+1D11Abの系では,細胞数,IgE,Muc5ac発現も抑えられている。

 この論文はPerspectivesにも紹介されている()。原因か結果かの議論とともに,もう少し広い相転移としての生体内結晶化蛋白の話が記載してあり,痛風,神経疾患(例えばアルツハイマー病)も紹介されている。

 全くの偶然だが,本号Scienceに他誌論文紹介としてアルツハイマー患者髄液中にgalectin-3が高値とある。

 相転移による結晶化蛋白の病態やその融解研究は,nanobody等今後興味深い臨床が展開する可能性がある。

 多くの喘息やアレルギー性鼻炎患者に接する呼吸器科医には是非一読を勧める。


(2)その他 

生殖系列選択がヒトミトコンドリアDNAの多様性を形作る(Germline selection shapes human mitochondrial DNA diversity

 ミトコンドリア病としてのミトコンドリア遺伝子変異は,ゲノム遺伝子とは独立した複製過程であり,その変異は母親の生殖細胞中で生起し,子供の細胞の中にはheteroplasmy(ヘテロプラスミー:細胞内における特異ミトコンドリアDNAの混在)である。イギリスのケンブリッジのグループから,1526例の母子での全ゲノムとミトコンドリアゲノムでこの変異とその消失を検討した基盤的データとなる論文もarticleに報告されている。これはAASJでも解説されている(リンク)。



•NEJM

 先週ATSで話題になったSSc随伴性肺線維症のNintedanib臨床試験の詳細な内容がメール版では入手可能である。


(1)肺線維症 


強皮症随伴性肺線維症へのニンテダニブ(Nintedanib for systemic sclerosis–associated interstitial lung disease

 IPFに対して,pirfenidoneと並んで日常的に使用されるtri-kinase inhibitorであるnintedanibは,ともにその有効性の機序がなお不明である。

 IPFに対して,膠原病随伴性肺線維症(collagen vascular disease associated-interstitial pneumonia: CVD-IP),ことに強皮症(systemic sclerosis:SSc)では,IPF類似の肺線維症をしばしばみる。

 今回の国際臨床試験では,576例(HRCT所見で少なくとも肺野の10%以上に線維化を認め,FVCが40%以上,女性の割合は3/4)のSSc患者(びまん性皮膚硬化症51.9%,mycophenolate服用下48.4%)にnintedanib(150mg,orally twice daily):プラセボ=1:1で52週間の投与を行った。

 その結果FVC低下がnintedanibで-52.4mlに対しプラセボで-93.3ml低下(p=0.04)と,ほぼIPF類似の進行抑制成績を示した() 。

 しかし,皮膚硬化の指標(modified Rodnan skin score,リンク)には有意差がなく,加えて患者評価SGRQ(St. George’s Respiratory Questionnaire)でも有意差を認めなかった。また副作用に関してはIPF患者同様の消化器関連症状(diarrhea,nausea,vomiting)が主体であった。

 この結果は,まず抗線維化薬の対象拡大として興味ある成績である。今回のSSc同様,対象患者数が多いのがRA lungである。RA lungも含むPF-ILD(progressive fibrosing- interstitial lung disease)に対する600例前後の第三相臨床試験(リンク)結果は,本年秋のERS2019で発表予定である。

 第2には,肺機能を評価するFVCで明瞭な差がありながら,なぜ皮膚硬化度評価や,SGRQでは差を認めなかったのかという点である。Discussionではその手技の習熟問題が述べてある。一つの可能性は,FVC測定という肺機能評価に対して,皮膚の膠原線維蓄積の改善は,もう少し時間軸の長い現象かもしれない。

 一方SGRQという患者側評価の呼吸困難感指標には論文ではコメントはない。これも単純な肺機能とのdiscrepancyは予想される。前述したPF-ILD臨床試験ではK-BILD(the King’s Brief Interstitial Lung Disease,リンク)が採用され,評価される予定である。

このATSでの報告はMedical Tribune誌にも報告されている(リンク)。


(2)その他 

喀痰中好酸球比率低値の軽症喘息に対するモメタゾンとチオトロピウムとの比較(Mometasone or tiotropium in mild asthma with a low sputum eosinophil level

 軽症喘息に対する吸入ステロイド(モメタゾン)と長期作動性抗コリン薬(チオトロピウム)の比較臨床試験では,喀痰中好酸球比率が低値の症例ではステロイド吸入では有意差がない()。



COPD急性増悪予防へのベンラリズマブ(Benralizumab for the prevention of COPD exacerbations

 また喘息に対して承認されたbenralizmab(抗IL-5Rα抗体:ファセンラ)のCOPD急性増悪減少へのAdd-on効果は否定的結果であった。



•Nature

(1)細胞生物学 

SR-B1はDOCK4を介して内皮細胞のLDLトランスサイトーシスを引き起こしてアテローム性動脈硬化を促進する(SR-B1 drives endothelial cell LDL transcytosis via DOCK4 to promote atherosclerosis

 高脂血症はいかにatherosclerosisと関連するか?

 この課題を長期に追求している米国テキサス大学のグループが,スカベンジャー受容体であるSR-B1(scavenger receptor class B type 1)と,SR-B1と共に血管内皮細胞の中をLDLがtranscytosisされるためのもう一方の役者として,cytokinesisに重要として知られていたDOCK4(dedicator of cytokinesis 4)を結びつけ,動脈壁のアテローム粥腫形成の一端を明らかにした。

 多様なノックアウト・マウスや,SR-B1変異作成を用いて,まるで映画の謎解きストーリーのような面白い論文である。

 研究者たちはまず,血管内皮細胞でのSR-B1をKOするとatherosclerosis形成が低下することに気がついた。LDL受容体としては他にもあるが,粥腫形成との強い関連性を多様な動物モデルで確認した。

 次にSR-B1分子のどの部分がLDLと結合するか?

 彼らはまずN末側にLDL結合部分を同定した。しかし,SR-B1分子にはinternalization signal(Tyr-X-X-θ配列)はないので,C末側に他の蛋白との結合部分を探索し,487IQAYSESL494の部分を決定した。

 さて,ここに結合するものは何か?LC-MS/MS等を用い33候補の中からDOCK4を同定した。実際に粥腫患者のpublic cohort検体を用いて,atherosclerosis部分でSR-B1 mRNA,DOCK4 mRNAの発現が共に増強している。

 DOCK4自体はGEF(guanine nucleotide exchange factor)として細胞運動に関与することが知られ,RHO GTPaseのRAC1(RAS-related C3 botulinus toxin substrate 1)も関与する事も示された。

 その全体像の理解にはFig4のschemaが分かりやすい。

 筆者は,高脂血症などないのに,偶然受けた超音波検査でatherosclerosisを指摘されショックを受けた。むしろここに示された血管内皮細胞におけるSR-B1/DOCK4系の高発現が関与するのかもしれないと,考えさせられた。某企業では全従業員のゲノム解析を行うというニュースである。予防医学として,早い時期にゲノム解析を全国民に徐々に広げる必要がある。ゲノム情報で反って医療費は削減されるのではなかろうか?


(2)その他:癌ゲノミクス


癌細胞株百科事典の次世代特性解析(Next-generation characterization of the Cancer Cell Line Encyclopedia

 米国におけるヒトゲノム・プロジェクトに次いで,ENCODE(the Encyclopedia of DNA Elements)プロジェクトでnon-coding領域の発現・調節構造の詳細な解明がなされ,一方でTCGA(the Cancer Genome Atlas)プロジェクトでヒト癌組織の全ゲノム配列情報がデータ・ベース化された。今回,各組織癌由来1072癌細胞株に関して,癌細胞でのENCODEというべきCCLE(the Cancer Cell Line Encyclopedia)がArticleとして報告されている。内容はRNA splicing,DNA methylation,histone H3 modification,microRNA発現などで,CRISPR-Cas9技術等を応用し,これらモデル細胞株の機能的data setを用いたさらなる癌研究や創薬展開を促すものである。内容はこれら手法による新たな癌細胞のdriver性などがいくつか示されている。


(TN)


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