" /> 中枢神経感染症の診断と治療にメタゲノムシークエンスデータが有用/組織破壊をもたらす線維芽細胞のサブセットの発見 |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 51

公開日:2019.6.19


今週のジャーナル


Nature Vol. 570, No.7760(2019年6月13日)日本語版 英語版

Science Vol. 364, Issue #6445(2019年6月14日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 380, No.24(2019年6月13日)日本語版 英語版






Archive

中枢神経感染症の診断と治療にメタゲノムシークエンスデータが有用/組織破壊をもたらす線維芽細胞のサブセットの発見

•Nature

1)微生物学 

Cas13によりもたらされる細胞休眠はCRISPR抵抗性バクテリオファージの増加を抑える(Cas13-induced cellular dormancy prevents the rise of CRISPR-resistant bacteriophage

 CRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeats)は,数十塩基対の短い反復配列を含み,原核生物における一種の獲得免疫系として働く遺伝子座位である。現在では遺伝子組換えの技術として汎用されているが,これまでの研究により複数のclass/typeが存在することが知られている(wikipediaでもかなり詳細に記載されている。特にtableを参照していただきたい。リンク)。今回の論文ではclass2 type IVのCas13の役割に関して報告されている。わかりやすい図解がNEWS&VIEWSに掲載されている。

 ロックフェラー大学のグループは,Cas13が他のCasとは異なり,ウイルスRNAを特異的な標的として分解するだけでなく,宿主のRNAをも分解することで,バクテリア(この場合は宿主)そのものを休眠状態へ誘導する。それにより,バクテリオファージの増殖を抑制するだけでなく,CRISPR耐性のウイルスに対しても非特異的に抑制するシステムとして機能している。

 進化の過程を考えたときに,細菌の時点でこんなにも巧妙な感染制御(免疫)システムがすでに獲得されていたというのは非常に驚きである。


2)免疫学 

異なる線維芽細胞のサブセットが関節炎における炎症と障害を制御する(Distinct fibroblast subsets drive inflammation and damage in arthritis

 慢性的な炎症が原因で組織の破壊を伴うような自己免疫疾患の代表として慢性関節リウマチがあり,複数の生物製剤の登場から,病態の主体となっているサイトカインや免疫細胞のプロファイルやサブセットが徐々に明らかとなっている(詳細はこちらのreviewを参照いただきたい)。一方で,関節病変の形成に重要と考えられる線維芽細胞に関して,そのサブセットの存在の有無については,詳細は明らかになっていなかった。

 今回,イギリスのバーミンガム大学のグループは,臨床検体およびモデルマウスを用いて,線維芽細胞にはthymus cell antigen 1(THY1, also known as CD90)の発現の有無により,存在部位と作用の異なる2種類の線維芽細胞が存在することを見出した。 わかりやすい図解がNEWS&VIEWSに掲載されている。もともと臨床検体の解析から,関節リウマチ患者の滑膜では,他の関節損傷を伴う疾患の患者由来の滑膜と比較してFAPα(fibroblast activation protein-α)の発現が高いことに気づいていた。彼らは,1)リウマチモデルマウスで,FAPα陽性の細胞をdepletionすると疾患活動性が改善すること,2)FAPα陽性の線維芽細胞をマスサイトメーターおよびシングルセルシークエンスを行ったところ,THY1陽性の炎症惹起に寄与する線維芽細胞(sub-lining層に存在)とTHY1陰性の組織破壊に寄与する線維芽細胞(lining層に存在)の2種類が存在すること,3)それぞれの細胞成分を輸注する実験を行うとTHY1陰性の組織破壊型細胞を輸注したときのみで関節破壊が生じることを証明している。

 シングルセルシークエンスを用いた多くの研究では,シークエンスされたデータと,これまで集積された個々の細胞集団のシークエンスデータとの対比によって判定される新たな細胞集団の同定(統計学的類似性)ということに焦点が置かれがちである。本研究はきちんと臨床病態への寄与をvivoで証明している点で非常に優れている。治療標的として大変期待できる。


•Science


レボドパ代謝に関わる,種をまたぐ腸内細菌の代謝経路の発見とその阻害(Discovery and inhibition of an interspecies gut bacterial pathway for Levodopa metabolism

 パーキンソン病の治療に使用されるL-dopaの代謝に特定の腸内細菌が影響することを明らかにした論文(Perspective )。

通常,L-dopaは投与量の56%程度は脳へ達することなく腸内で代謝され活性化型ドーパミンとしては機能できなることが知られている(最終的に脳内に達するのは数%程度)。その結果,効果が減少すると同時に末梢のドーパミンによる副作用増加をもたらことから,治療のアウトカムに大きく影響している可能性が示唆されてきた。しかしながら,患者間のヘテロジェネイティーが大きく,個々の患者での代謝機能の違いだけでは説明ができない状況であった。

 ハーバードとUCSFのグループは,L-dopaの脱炭酸反応を誘導する酵素としてpyridoxal phosphate(PLP)依存性酵素に着目し,腸内細菌のゲノム解析に基づきEnterococcus faecalisの持つtyrosine decarboxylase(TyrDC)に注目した。さらにL-dopaの脱炭酸反応によって誘導されるDopamineを代謝するmolybdenum cofactor–dependent dopamine dehydroxylase(Dadh)という酵素にも着目した(図解を参考にされたい)。解析の結果,パーキンソン病患者においては,1)Enterococcus faecalis の保有量,2)tryDCの活性,3)dadhのSNPs,がL-dopaを服用したときのdopamine産生とその分解に有意に相関することを見出した。さらに彼らは,これまでL-dopaの腸内代謝を抑制する目的使用されてきたCarbidopaについてはその効果は限定的で,TyrDCのダミーの基質として(S)-α-fluoromethyltyrosine(AFMT)を投与する方がL-dopaの腸内での脱炭酸化を抑制できることをマウスモデルで証明している。

 腸内細菌の中からEnterococcus faecalisに着目し,tyrosine decarboxylaseを中心としたL-dopa分解の制御という戦略は非常に期待でき,頻度の多い疾患であるが故に,治療戦略の大きな進展に繋がる可能性が期待される。


•NEJM


1)EDITORIALS 

ハンチントン病患者に対するハンチンチン発現を標的とした治療(Targeting Huntingtin expression in patients with Huntington’s disease

 こちらの論文は#46の際に,すでにメール配信版で紹介いただいているので,是非参照されたい。

 今回アンチセンスオリゴを開発したのは,IONISという製薬会社で,ハンチントン病に限らず複数の臨床試験中のアンチセンスオリゴを開発している(リンク)。

 マニアックな内容だが,さまざまなアンチセンスオリゴの作用機序による分類などが説明された論文もご参考まで。核酸医療の飛躍が今後も期待される。


2)ORIGINAL ARTICLES 

髄膜炎と脳炎の診断を目的とした臨床的メタゲノムシーケンシング(Clinical metagenomic sequencing for diagnosis of meningitis and encephalitis

 一般的な臨床検査では診断が難しいような中枢神経感染の診断にメタゲノムシークエンスが有効であるか検討した試験。1年間の多施設共同前向き研究で,入院患者の感染性髄膜炎と感染性脳炎の診断における髄液のメタゲノムの有用性を検討。8病院で小児・成人患者 204例が登録。57例(27.9%)/58件で神経系の感染症が診断された。58件の感染症のうち,通常の臨床検査では同定されなかった13件(22%)が,メタゲノムシークエンスによって同定された。残りの45件(78%)のうち,19件はメタゲノムシークエンスでも一致する診断が得られた。メタゲノムで同定されなかった26件のうち11件は血清学的検査でのみ診断され,7件はCSF以外の組織検体で診断され,8件はCSF中の病原体の力価が低かったためメタゲノムでは陰性であった。メタゲノム単独で診断された13件のうち 8件では臨床効果があった。

 メタゲノムシークエンスが診断精度を高めるため・治療方針の決定のために有用であることが示された。


(小山正平)


※500文字以内で書いてください