" /> UGDHリン酸化とSNAI1発現亢進が肺腺癌転移機序/自己免疫性膜性腎症へのリツキシマブの効果 |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 54

公開日:2019.7.16


今週のジャーナル


Nature Vol. 571, No.7763(2019年7月4日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6448(2019年7月5日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.1(2019年7月4日)日本語版 英語版






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UGDHリン酸化とSNAI1(Snailともいう)発現亢進が肺腺癌多発転移機序?/自己免疫性膜性腎症へのリツキシマブの効果

•Nature

 今週のトピックスは細胞数2000前後と限られた線虫の雌雄個体における神経細胞系の相互情報制御connectomeの把握で,表紙になっている。


1)腫瘍生物学 

UDPグルコースはSNAI1 mRNAの分解を促進し,肺癌転移を障害する(UDP-glucose accelerates SNAI1 mRNA decay and impairs lung cancer metastasis

 臨床医は疾患病態に関連する不思議な現象を数多く見ている。その不思議な現象を問題意識として維持することも大切である。

肺腺癌で,ことにEGFR変異陽性例に不思議な両側肺転移病態や多発脳転移が見られる。粟粒性転移と呼ばれることもある。

香港の中国科学院大学のグループが,こうした背景に共通する転移の機構を報告している。SNAI1(Snailと呼ばれるEMT関連遺伝子転写因子)の関与を明らかにしたが,その経路は遥か記憶の彼方,ヒアルロン酸合成へのウロン酸経路も関連する「目から鱗」の思いである。News&Viewsにも取り上げられ,そのに示される意外なEGFRリン酸化対象(UGDHのリン酸化)に驚く。metabolomeやkinome,およびその対象蛋白やその残基の同定は重要である。

 香港のグループは,まず肺腺癌細胞株A549に対する111種のsiRNAを用いて表現型変化を調べた。その結果UGDH(UDP-glucose 6-dehydrogenase)のsiRNAがA549細胞のcell migrationに大きく影響することを見出した。UGDHはウロン酸回路の入り口酵素である。しかしここでは代謝物でなく,EGFRリン酸化酵素によりUGDHのY473がリン酸化され,これがHuR〔human antigen R:ELAV(ELAV=embryonic lethal abnormal vision)-like protein 1〕と呼ばれるRNA結合蛋白に結合することが判明した。HuRは広く発現し,mRNAのAU rich領域と結合し,そのmRNAを安定化する(allosteric機序による千手観音のような機能か?)ことが知られている。実はEMTに関与するSNAI1 mRNAがUGDH発現を抑制すると消えることも彼らは確かめている。したがってHuR/pUGDHで,allosteric効果と思われるUDP-Glcが外れ,SNAI1 mRNAが結合してその安定性が亢進し,A549ではEMT様変化が惹起され,易転移性病態となったという鋭い解析である。

 臨床で気になる肺腺癌患者に見られる特異な転移背景の1つである。今回ほぼ同時に雑誌CELLにも肺癌転移の新規機序論文が出ている。しかし今後ICIによる癌免疫療法がさらに進歩すれば,臨床医はこうした転移症例を見ることは少なくなっていくのだろうか?


2)その他:化学生物学,抗結核薬 

大規模な化合物–遺伝的相互作用により得られた新規の複数クラスの結核菌阻害薬(Large-scale chemical–genetics yields new M. tuberculosis inhibitor classes

 新規抗結核薬のスクリーニングが,BostonのBroad Instituteを中心とするグループからArticleとして報告されている(Broad研究所の広報)。

 特色は包括的戦略で,野生株ではなく,474種の結核菌必須遺伝子を標的とした遺伝子改変株を作成し(),かつ100株~150株をプールで処理して,活性の高い化合物や,不偏的化合物のlibraryのスクリーニングを行っている。DNAジャイレース,細胞壁等を標的とする40以上の化合物とEfpAを標的とした野生株にも有効な阻害薬を見いだした。

 共著者にはU-MassのSasetti CMも入っている。Rubin EJの弟子で結核菌遺伝子発現解析が専門である。結核予防会在籍時代,米国の結核研究動向調査で訪問した。米国では結核研究費は年間100億円程度と聞いた。Sassettiの結核菌培養室にも防御着に着替えて入ったが,一般実験室同様の高価な計測機器を培養室内にも持つ,高度で充実した実験室であり,今回の仕事もあの実験室でなされたと思われる。

 しかし,TJHack #53でも述べてあるように,抗結核薬の有効性のKeyは,in vitroのみならず,肉芽腫のlipid dropletにも到達しうる性質が要求されることを付け加えておく。


•Science

1)細胞生理 

ヘム調節インヒビターは細胞質内の蛋白質ミスフォールドセンサーであり自然免疫シグナルを制御する(The heme-regulated inhibitor is a cytosolic sensor of protein misfolding that controls innate immune signaling

 トロントの研究グループから細胞内のストレス対応機構として,興味ある報告がArticleになされている。

 ハヤブサ2の小惑星リュウグウでの資料採取が,生命誕生との関連で話題になる中,一体ストレスフルな環境下で,細胞内蛋白合成機構はいかなる制御がなされているか?

 また老化を自覚し考える年齢になり,細胞老化がなぜ炎症性変化に繋がるのか? あるいはunfolded proteinやER内蛋白貯留が起こりやすい状況下で,signalosomeはどうなっているのかなども併せ,考えさせる論文である。

 mRNA核酸情報がribosomeで蛋白質に翻訳される段階(すなわち生命現象の根源的課題の1つ)に関係するのが,eIFs(eukaryotic initiation factors)で複数存在する。その1つ,eIF2αは,90年代末に4種の蛋白からリン酸化され,一時的に蛋白合成がストップすることが明らかになった。これらはintegrated stress response(IRS)に対応する細胞内シグナル伝達(signalosome)の帰結でもある。

 それらは,PKR(double-stranded RNA-activated kinase:インターフェロン感受性で,ウイルス感染におけるウイルス粒子産生停止に関与),PERK〔protein-kinase RNA-like ER kinase:unfolded proteinがERに蓄積する状況で,シャペロン発現の誘導に関与,unfolded protein response (UPR)ともいう〕,GCN2(general control non-derepressible 2:酵母以降長く保存されている,アミノ酸飢餓条件下でのuncharged tRNAを感受する),加えて赤芽球系細胞のヘモグロビン合成制御でよく知られたHRI(heme regulated inhibitor:heme産生とglobin産生間の制御)などである。

 この論文が取り上げるのはこのうちのHRIである。HRI自体が,実はunfolded proteinやαsynuclein蓄積などをsensingする重要な機能をもち,HRI/eIF2α/HSPB8 axisとして,先に知られていたPERK/eIF2α/HSPA5 axisにも匹敵する重要な機構であるという論旨である(図1)。

 その内容はPerspectivesにも報告されている()。

 興味ある点はIRS阻害薬として知られるIRSIBは,感染細胞でinflammatory cytokinesの産生を抑える効果の一方で,記憶向上への作用がPerpectivesの解説中に述べられている点である。

 われわれ臨床医としては,やや基礎的すぎると思われるであろうが,病気ではない老化に対応を迫られる21世紀,こうした基礎知見は臨床の側にあることを自覚すべきかもしれない。


2)その他:CRISPR関連

CRISPR関連トランスポザーゼによるRNA誘導性のDNA挿入(RNA-guided DNA insertion with CRISPR-associated transposases

 これは次週号のNatureにも関連論文が報告されるのでそちらでまとめる予定。Perspectivesにも紹介されている()。要するに多様な細菌の防御機構としてのCRISPR関連遺伝子のminingが進行し,今回はtransposaseによる比較的長い核酸配列を遺伝子導入することが可能になった。しかし技術的な安定性は,今後の課題である。


•NEJM

1)腎臓病学,免疫学 

膜性腎症の治療におけるリツキシマブとシクロスポリンとの比較(Rituximab or cyclosporine in the treatment of membranous nephropathy

 抗IgG抗体で染まる特異な糸球体病変を示す膜性腎症は,呼吸器とは別の領域といえ,強烈な印象を与える。当然B細胞系異常の関与が疑われ,現在の抗体医療の先駆けでもあるリツキシマブの効果は期待されるところである。実際pilot studyが2002年,Lancet誌(リンク)に報告されている。

 今回は,膜性腎症(尿蛋白5g/24h,定量Ccr 40m/m/1.73m2体表面積以上,アンジオテンシン阻害薬3カ月以上使用)に合致する130例を2群〔リツキシマブ群:1回1000mg,2回静注(14日間隔),シクロスポリン経口群:3.5 mg/kg weight/d,12カ月〕に割つけた。開始12カ月の時点で,リツキシマブ群39/65例(60%),シクロスポリン群34/65例(52%)に完全寛解または部分寛解をみた(非劣性p=0.004)。

 驚くべきはさらに追跡した24カ月時点の差である()。リツキシマブ群39/65例,一方シクロスポリン群13/65例が完全または部分寛解(95%CI 25~55,非劣性,優越性ともにp<0.001)であった。ことに抗ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)抗体が陽性例で,その効果が顕著であった。

 多様な病態で惹起される膜性腎症であるが,自己免疫疾患としての抗PLA2R抗体の同定は, 2009年に報告されていて,PLA2Rは糸球体podocyteに正常では見られるという。

 また米国では抗PLA2R抗体陽性例では,リツキシマブ使用が始まっているという。

 呼吸器疾患においても,IgG4病態は注目されている。膠原病随伴性肺疾患の中には,ことにpolymyositisと抗ARS抗体症候群など,関連自己抗体の存在が同定される症例がある。これらは,リツキシマブ治療の対象になるのかも知れない。

 今回のNEJM臨床試験報告に見られる,多数例のクリアカットな結果をいかに他病態で導き出すかが課題である。


(貫和敏博)


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