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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 56

公開日:2019.7.24


今週のジャーナル


Nature Vol. 571, No.7765(2019年7月18日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6450(2019年7月19日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.3(2019年7月18日)日本語版 英語版






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T細胞の分化や機能はミトコンドリア代謝経路で決まる?/免疫による痛みの増悪ー新たな治療標的ー

•Nature

1)免疫学 

異なるミトコンドリア代謝がT細胞の分化と機能を切り離す(Distinct modes of mitochondrial metabolism uncouple T cell differentiation and function
 ナイーブのCD4陽性T細胞が抗原およびcostimulatory moleculeによる刺激を受けて,活性化しエフェクターへと変化する際には,解糖系を中心とした細胞内の代謝システムが大きく変動することが知られるようになった(参考文献より: )。しかしながら,刺激を受けたCD4陽性T細胞が分化増殖する段階と,インターフェロンγ産生などのエフェクター機能を発揮する段階が同じ代謝機構によって生じているのかについては不明であった。イエール大学のFlavellラボからの報告であるが,彼らはこの両者は異なる代謝機構によって制御されていることを明らかにしている(わかりやすい模式図がExtended dataに掲載されている)。こちらのに記載があるようにミトコンドリアにおけるTCA回路および電子伝達系には,その経路に関わるI~IIIまでの3種類のcomplexが存在するが,これらを単独もしくは複数同時に薬物で阻害したり,遺伝子組換えによって機能欠損を起こしたりした状態で解析を行うことによって,特にTCAサイクル中のcomplex IとIIIを阻害した場合には,CD4陽性T細胞の分化・増殖が障害される一方で,complex IIを阻害した際(succinate コハク酸からfumarate フマル酸の経路を遮断した際)は,分化増殖は保たれるものの,エフェクター機能としてのIFNγ産生が有意に障害されることを見出した。またExtended dataにも記載があるように,CD4陽性T細胞の分化・増殖には,TCAサイクルの中でもリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルおよびミトコンドリアからのクエン酸排出(複数のクエン酸キャリアが関与)の経路が重要であり,それらによってhistone のアセチル化が誘導され,epigeneticな分化誘導が始まることを明らかにしている。
 まるで細胞分裂のサイクルのように,特定の代謝シグナルの変換スイッチによって,細胞の増殖が抑えられ,より機能を獲得した細胞群に変化するという知見は非常に興味深い。

2)遺伝学 
トランスクリプトームのジェノタイピング法により体細胞変異と細胞アイデンティティーを同時に特定する(Somatic mutations and cell identity linked by Genotyping of Transcriptomes
 コーネル大学のグループからの論文。NEWS and VIEWSでも取り上げられている()。通常のシングルセルRNAシークエンスと併行して,特定の遺伝子変異を検出できるようにprimerで標的配列を増幅させて,遺伝子変異の有無も同時に評価できるような技術を開発したという内容。シングルセルRNAシークエンスとデジタルPCRが合体したような革新技術といえる。彼らはこのシステムをGenotyping of Transcriptome(GoT)と名付けており,これを用いて骨髄増殖性の血液悪性患者由来のCD34陽性骨髄細胞を用いて,シングルセルRNAシークエンスと遺伝子変異の標的としてCALRCalreticulin)の遺伝子変異検索を行った()。従来のシングルセルRNAシークエンスのみでのCALRの変異の検出率は1.4%程度であったのに対して,この方法では88.7%まで診断率を高めることに成功している。今回の解析からCALRの変異は,特定のプロジェニターに集積が限られ,巨核球前駆細胞と造血幹・前駆細胞で認められた。また,変異に伴い,ERストレスに関わるようなIRE1の活性化が巨核球前駆細胞と造血幹・前駆細胞の両者に生じること,さらにNFkBの誘導が造血幹・前駆細胞で生じることを明らかにした。これらの結果は,骨髄増殖性の悪性血液疾患において,癌の体細胞変異は,特定の細胞集団に選択的に生じ,その細胞の特性に基づいてメッセージの発現に影響を与えることを示している。
 今回の手法を用いることで,他のさまざまな腫瘍でも,特定の体細胞変異が特定の細胞集団にしか生じない現象やその理由などが明らかになる可能性があり,今後の応用が期待される。

•Science

1)分子生物学 
白血球中のIRE1a–XBP1シグナルはプロスタグランジン生合成と疼痛を制御する(IRE1α–XBP1 signaling in leukocytes controls prostaglandin biosynthesis and pain
 先ほどの論文に引き続きもう一度ERストレス関連の論文。ERストレスについては,京都大学の森先生がノーベル賞の候補としていつも話題にとされているテーマであるが,この論文では,コーネル大学のグループが免疫細胞でも特に骨髄球系の細胞がERストレスに応じてIRE(Inositol-requiring enzyme)1α-XBP(X-box binding protein spliced)1シグナル経由によって産生するプロスタグランジンE2が細胞障害に伴う疼痛の増悪に寄与していることを明らかにしている。PERSPECTIVEにわかりやすい図解と要約が掲載されている。
 まずマウスの骨髄由来の樹状細胞を用いて,2種類の自然免疫活性化リガンド(LPSとZymosan)で刺激した。IRE1α〔コードする遺伝子はErn1(endoplasmic reticulum to nucleus signaling 1)〕のノックアウトと野生型を比較した際に,エイコサノイドの産生や代謝に関わる因子がノックアウトで有意に減少することを見出した。その指標としてCox2〔コードする遺伝子はPtgs(prostaglandin-endoperoxide synthase)2,mPGES(Microsomal prostaglandin E synthase)-1 (コードする遺伝子はPtges(Prostaglandin E Synthase)〕の発現が減少することに着目し,ERストレスに関わる経路としてIRE1α-XBP1の経路がこれら遺伝子の発現に必須であることを明らかにした。その発現誘導のメカニズムとしてXBP1がPTGS2およびPTGESのpromoter領域に結合することも,ヒトの単球由来の樹状細胞を用いた実験で証明している。最終的に,血球細胞のみでIRE1αやXBP1を欠損したマウスを用いて,腹腔内に酢酸を注入するモデルや手術侵襲モデルで疼痛を評価した際に,ノックアウトマウスで疼痛が軽減することを示した。またIRE1αの阻害薬によっても同様の改善傾向が確認された。
 以上の結果は,IRE1α-XBP1の経路を介したプロスタグランジンE2誘導が神経障害性疼痛を助長している可能性を示唆しており,術後疼痛やがん性疼痛などの新たな治療介入手段として期待される。

•NEJM


今週は呼吸器関連の記事がなかったので,高血圧関連の論文を簡単に。
1)循環器病学 
収縮期血圧・拡張期血圧と心血管イベントのリスク(Effect of systolic and diastolic blood pressure on cardiovascular outcomes
 テーマそのものはこれまでにも数多く探索されてきたかと思われるが,本試験の規模は130万人と非常に大きい。血圧コントールの閾値として,まだ確固としたエビデンスが乏しい140と90mmHg以上,130と80mmHg以上のどちらがより良く心血管疾患の発症リスクを反映するかという点を評価した試験。収縮期血圧と拡張期血圧と比べると,収縮期血圧の上昇のほうがイベント発症リスクへの影響が大きかった(ハザード比は 1.18 と 1.06)。140/90 mmHg 以上もしくは 130/80 mmHg以上という高血圧の閾値については,いずれも同様に心血管イベントのリスクに影響を及ぼした。
 人数は多いものの,観察期間が8年と短かいため,より長期的な観察を行った際には,少し異なる結果が得られるかもしれない。

2)REVIEW 
薬剤性肝障害(Drug-induced liver injury
 薬剤性肝障害の分類(3種類:表1)とさまざまな臨床像のタイプ(表2)について詳細な情報が記載されている。是非ご一読いただきたい。

(小山正平)

※500文字以内で書いてください