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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 57

公開日:2019.7.31


今週のジャーナル


Nature Vol. 571, No.7766(2019年7月25日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6451(2019年7月26日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.4(2019年7月25日)日本語版 英語版






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肺扁平上皮癌浸潤より早期に宿主免疫回避反応がみられる/Ceramide合成阻害は糖代謝異常の創薬となるか?

•Nature

 今週号はメディアでも報道された,ホモ・サピエンスの出アフリカが,21万年前(ギリシャ遺跡)に見られていた報告と,Outlookが「Brain」を取り上げていて,最新脳研究の面白い記事がある。


1)癌免疫学 

肺扁平上皮癌発生の初期では腫瘍浸潤よりも前に免疫回避が見られる(Immune evasion before tumour invasion in early lung squamous carcinogenesis

 癌免疫療法,ことにimmune checkpoint阻害薬(ICI)が話題である。

 一体,腫瘍形成のどの時期に,宿主免疫系が回避反応を始めるのか? こうした,少し前までは方法論的に困難であった事象へのchallengingな研究報告が増えている。


 ベルギーとフランスINSERMの研究者たちが,肺扁平上皮癌(SCC)患者77名から, 122臨床検体(気管支生検組織)を用いての,腫瘍形成の時期4期8stage〔Normal bronchial tissue (stage 0-2:normal tissue and hyperplasia), low-grade lesions (stage 3-5:metaplasia, mild dysplasia, moderate dysplasia), high-grade lesions (stages 6-7:severe dysplasia, carcinoma in situ[CIS]), invasive SCC (stage 8)〕に分けて(),遺伝子発現解析をしている。

 その結果,宿主の免疫反応回避(immune evade)は実際にinvasive cancerとなる前段階の,high-grade lesionsから始まっていることが示された(海外紹介サイトのがわかりやすい)。

 論文は昨年秋投稿され,約6カ月で受理されている。しかし,研究の背景を見ると,検体採取は2003年から2007年に気管支鏡検査室で迅速に凍結し,RNA抽出がなされたと記載されている。すなわち,15年以上に及ぶプロジェクトで,臨床研究の重さが伝わる。

 研究開始の時期は,遺伝子発現解析は通常microarrayによるもので,現在のRNA seqではない。Supplementにはmicroarray dataのnormalizationや,quality assessment,またimmune系,代謝系,EMT系に関連する遺伝子のnetwork analysisなど,この時期(2005~2015年)の方法論の展開を用いて解析したことが詳細に述べられている。


 同様の研究は,肺腺癌において,早期から自然免疫の変化を解析した論文が,2017年Cell誌に報告されている(Cell. 2017; 169: 750-65)。この報告ではむしろ現時点の技術,barcodingによるCy TOFやsc RNA seqも用いられている。その結果,TIM(tissue-infiltrated myeroid cell)が抗腫瘍活性を調整しているという内容で,多くのt-SNE図が示された論文である。


 臨床への大きなメッセージは,現行ICIが進行期や他の治療が無効となった症例に適応とされるが,発癌初期からの使用の可能性がディスカッションされている点である。常識的には,こうした現行最新技術による患者癌組織遺伝子発現や有効epitope解析データ収集の費用は膨大である。しかし,癌ICI抗体療法では全治療行程で1000万円超の医療費が必要ならば,その1~2%はそれら検査費用に充当することが,近い将来許容されるかもしれない。そうしたprecision medicineへの要求が今後考えられるのでないか。


2)その他:発生生物学 


哺乳類の器官発生横断的な遺伝子発現(Gene expression across mammalian organ development


哺乳類のさまざまな器官や種に対して横断的なlncRNAの発生動態(Developmental dynamics of lncRNAs across mammalian organs and species

 ドイツのハイデルベルク大学を中心とする欧米,さらに中国など30弱のグループが,少し前ならば誰もチャレンジしなかったような,哺乳動物進化と臓器形態形成の複雑な遺伝子解析を報告している。ヒト,サル,マウス,ラット,ウサギ,オポッサム,ニワトリの7生物種に対して,7つの器官(大脳,小脳,心臓,腎臓,肝臓,卵巣,精巣)の形態形成を,胎児期から幼少期,成人期まで通して,1900種類弱のデータベースにまとめ,これを解析したものである()。外胚葉,中胚葉,内胚葉各系統での主成分解析は見事に分かれている。

 関連論文がもう一報でている。それはlong non-cording RNA(lncRNA)に関しても,同様にまとめたものである()。

 2003年のヒトゲノム解読終了の後,エピゲノム構造,あるいは癌ゲノムに特化したプロジェクトが進んできたが,核酸配列解読技術革新による実験手技自動化と,barcording法によるデータのコンピューターへの直接集積により,こうした広範な領域(進化と形態形成の組み合わせ)が研究対象に入ってきた,驚くべき時代である。

 同時に,実験計測手技等の自動化により,必要な研究労力は,蓄積されたデータの解析へと,重心が移りつつあることが実感される。


•Science

1)代謝学,生活習慣病 


セラミドの二重結合を標的とすることでインスリン抵抗性と脂肪肝が改善する(Targeting a ceramide double bond improves insulin resistance and hepatic steatosis

 現代成人病の最大の問題は,糖尿病中心とする代謝性疾患であり,その病態を背景に,循環器系疾患,脳血管疾患が発症し,重篤な状況になる。

 この代謝性病態や,インシュリン抵抗性の原点に,セラミドceramideが存在するらしいことが,多方面から注目され始めている。Perspectivesにはこの状況を理解できるが示されている。


 米国ユタ大学を中心とするグループが,dihydroceramideからceramideへ転換する酵素DES1(dihydroceramide desaturase 1)に注目して報告している(Fig.1)。

 実験はconditional knockout mouse(ob/ob Degs1Rosa26/ERT2-Cre)と対照(ob/ob Degs1ft/ft)を用いて,DES1がなくなると,obesogenic diet下のマウス脂肪肝が改善し,インスリン抵抗性(GTT正常化)も改善されたというものである。この事実は,肝臓にAAV-Degs1-shRNAを使用する別の動物モデルでも示されるている。

最後には,これらマウスの肝臓におけるRNA seqのvolcano plotでCKOマウスでは,Degs1とSrebf1〔sterol regulatory element binding transcriptional factor1(triglyceride,sterol産生のマスター遺伝子)〕が最も抑制されていることが示され,ceramideがインシュリン抵抗性に関与することが示されている。


 Ceramideというと,脳のstorage疾患(Tay-Sachs病,Fabry病,Gaucher病等)の主要構成物質として,先日のウロン酸同様,記憶のかなたに消えつつあるが,どうも生活習慣・代謝病の新しい創薬は,このceramide合成にかかわるDES1阻害関連がbreakするかも知れない。

 このCeramide論文は、西川先生の「AASJ論文ウオッチ」7月30日にも、新鮮だったと紹介されている(リンク)。


2)その他:RESEARCH ARTICLE 


核小体は蛋白質の品質管理を担う相分離した区画として機能する(The nucleolus functions as a phase-separated protein quality control compartment

 核小体は,細胞形態の中でも特異な構造を示す。癌細胞などでは増殖に必要なのか,大きなギラギラするような核小体を見ると表記する病理医もいるぐらいだ。もともとはRNAで染まるので,ribonucleoprotein(RNP)に富むとされている。

 近年,細胞内の反応は,従来の液相での酵素反応ばかりでなく,局所的には各種相分離(phase separation)の領域で,特異な反応が進むという知見が集積されている。


 ドイツ各地のMax-Plank研究所のグループが,核小体では,特異なgranular components(GC)のもとに,misfolded proteinがしばらくstorageされ,HSP70存在下に,正しくfoldingされるという新たな機能をArticleに報告している()。

彼らの実験ではheat shockなどのストレスのもとに,NLS(nuclear localizing signal)が存在すれば,misfolded proteinは核内にローカライズされる。そしてHSP70 によって正常化され,reversibleに核外にでる。

 核小体のGCはnegatively charged proteins(RNAに結合するnucleophosminやnucleolinなど)により相分離されている。そこにdense fibrillar protein(DFP)やfibrillar center(FC)が形成され,HSP 70によるrefoldingが促進される。

 適切なストレスの記述がなかったので,残念ながら癌細胞では核小体のこうしたmisfolded proteinによる凝集防止への意味は分からない。癌細胞に特徴的な大きな核小体の機能はribosomeだけなのか?


•NEJM

1)Clinical Practice 


麻疹(Measles

 はしかが取り上げられている。症例提示から始まり,国際的な移動が日常の現代世界において,その臨床課題は何かが説かれている。Key clinical pointsの最後には,米国でのSNS発散から問題となっている予防接種拒絶に対して,“Clinicians play a critical role in managing parental concerns about vaccination and in maintaining trust in vaccines.“と記されている(Recommendation)。


2)Special Report 


コンゴ民主共和国で継続するエボラ流行,2018~19年(The Ongoing Ebola Epidemic in the Democratic Republic of Congo, 2018–2019

 これも来年のオリンピック開催を控え,注視が必要なコンゴ民主共和国における昨年来のEbola流行の現状(図1),地理的状況(図2),政治的問題が詳細に述べられている。東村山の感染症研究所施設の稼働に関して,住民の理解への働きかけのニュースが記憶に新しい。


(貫和敏博)


※500文字以内で書いてください