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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 58

公開日:2019.8.7


今週のジャーナル


Nature Vol. 572, No.7767(2019年8月1日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6452(2019年8月2日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.5(2019年8月1日)日本語版 英語版






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切らないCRYSPRが筋ジスを治す?/イヌの性器腫瘍は5000年を生きる?

•Nature

1)遺伝学:Letter 

修飾遺伝子の発現を誘導して変異に関係なく筋ジストロフィーを治療する(A mutation-independent approach for muscular dystrophy via upregulation of a modifier gene

 カナダのトロントにある子供病院(Hospital for Sick Children)からの報告である。先天性筋ジストロフィー1A型は,ラミニンα2鎖(3,085個のアミノ酸より成る)の遺伝子変異による先天性疾患である。その変異には,終止コドンが出現するナンセンス変異,異なるアミノ酸に変わるミスセンス変異,スプライス部位の変異,欠損変異と,350種類以上の遺伝子変異が知られている。本症患者は,患者によって異なる遺伝子変異を有しており,それぞれの変異を,患者毎に特異的なCRISPR-Cas9システムで修復することは困難である。そこで筆者らは,「ラミニンα2鎖と構造的に類似しているラミニンα1鎖(3,054個のアミノ酸より成る)の発現を増強させれば,ラミニンα2鎖の遺伝子変異の種類に関係なく,先天性筋ジストロフィー1A型の症状を緩和できるのではないか?」にいう仮説を立てた。しかしラミニンα1鎖の遺伝子は大きく,発現ベクターとして遺伝子自体を細胞へ導入することはやはり困難である。


 これに対し筆者らは,DNA二本鎖を切断して任意の遺伝子配列を削除・置換・挿入する遺伝子改変技術CRISPR-Cas9の変法であるCRISPR転写増強システムに着目した。CRISPR転写増強システムでは,核酸分解酵素活性を欠損させたdCas9(sgRNAでガイドされてもDNA二本鎖を切断できない)を用いて,このdCas9とVP16転写活性化因子との融合蛋白質を発現するAAV(adeno-associated viral)ベクターを構築した。遺伝子導入法としてAAVベクターを選択した理由としては,生体内(in vivo)遺伝子治療で現在最も汎用されているベクターであり,将来的に生体内遺伝子治療への発展を期待してのことを思われる。しかしながらAAVベクターでは,導入できる遺伝子長が最長5 kbと制限されてしまうため,dCas9をなるべく小型化する必要があり,本研究では黄色ブドウ球菌由来のdCas9を使用している。


 このdCas9-VP16融合蛋白質を発現するAAVベクター(図2)を,ラミニンα1鎖遺伝子上流3カ所に設定したガイドRNA(図1)を発現するAAVベクターと一緒に,筋ジストロフィーのモデルマウスへ経静脈的に投与したところ,ラミニンα1鎖の著名な発現上昇を認め,筋委縮と麻痺の症状が劇的に改善した(図3)。


 CRISPR転写増強システムではDNA二本鎖を切断する必要がなく,体内遺伝子治療にCRISPR-Cas9を用いたときに最も問題とされるoff-target(標的遺伝子以外へ予期せぬ作用を及ぼす)効果への懸念は少ない。今回取り上げられた先天性筋ジストロフィー1A型のように,機能欠失(loss-of-function)型の遺伝子変異で,その機能を補完できる蛋白質が明らかな場合には,遺伝子治療として有望の手法と思われる。


 なお,筆者らがビデオ制作会社に依頼して作製したと思われる紹介動画が,YouTubeにアップロードされている。3分弱で,研究の背景から結果の重要性までわかりやすく解説している。

•Science

1)腫瘍:Research Articles 

古代より伝播を繰り返してきた腫瘍の体細胞性進化と世界的な拡がり(Somatic evolution and global expansion of an ancient transmissible cancer lineage

 犬の性器腫瘍であるcanine transmissible venereal tumor (CTVT)は,性交で腫瘍細胞が直接伝播することによって,犬から犬へと拡がる。CTVTにはMHCクラスIが欠如しており,そのため腫瘍細胞自体が直接伝播できると考えられている。通常腫瘍細胞は宿主と同じ期間だけしか生存できないが,CTVTの腫瘍細胞は,マクロファージを由来として出現して以来,宿主を変えながら生存し続け,世界中に拡がっている。このようにCTVTは,極めて特異な腫瘍である。


 そこで筆者らは,「CTVTの腫瘍細胞のゲノムには,世紀と大陸を超えて進化してきた経緯が刻み込まれている」と考え,世界中から546のCTVTを集め,エクソーム解析を行った()。その結果,CTVTの腫瘍細胞は4000から8500年前のアジアで最初に出現し,1900年前に世界中に広がってきたことがわかった。さらにCTVTの腫瘍細胞において,ドライバー遺伝子変異はわずか5遺伝子(CDKN2A,MYC,SETD2,PTEN,RB1)で,DNAの変異率は低く,染色体の安定性は保たれていた。このようなCTVTの性状によって,重要遺伝子に有害な変異が蓄積することが避けられ,CTVTは数千年に亘って増殖し続けてきたと考えられた。


 関連するperspectives「Cancer cell evolution through the ages(年余にわたる癌細胞の進化)」では,「ヒトの腫瘍細胞とは時間的スケールが全く異なるイヌ腫瘍細胞の知見ではあるが,ヒトでもCTVTのように穏やかな増殖性を示す腫瘍(例えば多くの前立腺癌)があり,臨床的に腫瘍細胞の挙動を理解する上で重要な知見である。」と取り上げられている。


なお,同号のperspectives「Targeting transmissible cancers in animals(動物内で伝播する腫瘍に対して)」では,CTVTに加えて,タスマニアデビルの顔面から顔面に伝播するdevil facial tumor disease (DFTD)について概説されている。

•NEJM

1)先進医療:Review Article 

遺伝子治療(Gene therapy

 2000年に入った頃,「遺伝子治療」は,国内外で先進医療として多くの期待を集めていた。しかし,その大きな期待に答えれるような臨床効果は得られず,逆に,遺伝子導入に用いたベクターに対する過剰な免疫応答や,染色体への組み込みによる細胞癌化,といった問題が臨床研究で次々と明らかとなり,人々の「遺伝子治療」に対する興味は急激に萎んでいってしまった。ちょうどその頃の2006年,iPS細胞が発明されたことから,特に本邦では,先進医療というともっぱらiPS細胞が取り上げられるようになり,今日に至っている。しかし欧米では,遺伝子治療に対する研究開発は地道に続けられてきており,2016年以降,欧州のEMAや米国のFDAによって6件の遺伝子治療関連製品が認可され,800件以上の臨床開発が現在進められている。この総説では,「基本原理」,「生体外(ex vivo)遺伝子治療(図1)」,「生体内(in vivo)遺伝子治療(図2)」,「今後の展望」という章立てで,主要な「遺伝子治療」がどのようなコンセプトで開発され,またどのように問題点を克服しながら治療法としての認可に至ったのか,が分かりやすく概説されている。


2)腫瘍:Clinical Implications of Basic Research 

PD-1阻害による抗腫瘍効果の予測(Predicting tumor response to PD-1 blockade

 当トップジャーナル・ハックの45号(令和第1号!)で取り上げた本年5月3日発行のScience誌の論文「ミスマッチ修復機構の欠損のある腫瘍でも遺伝子変化に幅があり,それが抗PD-1癌免疫療法の奏効と関連する(Genetic diversity of tumors with mismatch repair deficiency influences anti–PD-1 immunotherapy response:リンク)」を,図解入りでとてもわかりやすく紹介している。


 DNA修復のミスマッチ修復機構の欠損により腫瘍細胞のマイクロサテライト不安定性(MSI)は増すものの,さらに単一塩基変異ではなく,ある程度の長さのDNAの挿入や欠損の変異(indel)が増えると,PD-1阻害による抗腫瘍効果が増強される。1つの腫瘍内には様々な遺伝子変異を有する腫瘍細胞クローンが混在しており,PD-1阻害治療では,活性化された免疫能で攻撃されやすい細胞群だけが減り,攻撃されにくい細胞群はそのまま残ってしまう。このことが「癌化学療法などの異なる治療を,癌免疫治療と併用する理論的根拠である」と結ばれている。


(TK)


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