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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 63

公開日:2019.9.18


今週のジャーナル


Nature Vol. 573, No.7773(2019年9月12日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6458(2019年9月13日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.11(2019年9月12日)日本語版 英語版






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抗がん剤の効果はoff targetが多い? PreclinicalではCRISPR-Casによるtarget deletionで確認が必要!

 TJHackではTop Journalの論文で,呼吸器や臨床に関連する論文を中心に紹介している。

 しかし,それ以外の内容はあまり取り上げてはいない。

 さて最近,こうした基礎研究の日本の将来が危惧されている。

 もともと各国はそれぞれ研究拠点大学を持っている。米国のHoward Hughes Medical Institute,ドイツのMax-Planck-Institut,日本の理研(Riken)などである。それらは確かに機能している。

 数十年に渡り,こうした各国の状況を見ていると,最近やはり中国の研究が目につく。今回紹介するPiezo 2の3次元立体構造解析や,先日のAGI(artificial general intelligence)(リンク)などArticleを報告する清華大学である。


 先週,野口悠紀雄氏の『大学を「21世紀型」に移行せよ』という日経BPインタビュー記事がメール配信されて来た。氏は2040年には中国資本に支配される日本への危惧を述べている。その中にUSニューズ&ワールド・レポートの大学ランキングで工学系ではMITを抜いたという清華大学が紹介されている。なぜ,清華大学なのか?

それは文化大革命時代,紅衛兵の拠点となり,偉い先生がいなくなり,その後,米国留学組が研究展開できるようになったからだという。「かえる飛び(leap frog)」現象が起きたと野口氏はいう。日本では明治維新期,これと同じような現象が起きた。

 「21世紀型」に対して,遅れている危機感を持つ必要性を野口氏は述べる。しかしあの維新期,江戸幕府程度の危機感では,不十分であったのは歴史の事実である。

一方,中国の若手は米国留学し,米国の競争原理の下で教育を受けた。その意味では競争原理教育システムが重要である(個人的には,米国はencourageの上手な教育だと思う)。

現在,米国は中国への危機感をあらわにしている。しかし一方で現在全盛のGAFAは,平成の30年間に米国企業が達成したものである(これは大学ではなく,日本の企業が立ち遅れた面が大きい。それは企業理念の追求で,大学からの起業でもあった)。

 MGCで盛り上がる2020東京オリンピックまであと1年。しかしメダルばかりでなく,その後に来る日本の将来は?

今回は少し,巨視的なintroductionで始めた。


•Nature

1)構造生物学 

哺乳類触覚チャネルPIEZO2の構造とメカノゲーティング(Structure and mechanogating of the mammalian tactile channel PIEZO2

力が誘発するPIEZO1のコンホメーション変化(Force-induced conformational changes in PIEZO1

 まさか2週連続とは予想しなかったが,先週に続き,Piezo 1,2が1つは結晶解析として,また構造とmechano-sensingの力学的解析として報告されている。

 そもそもPiezo遺伝子のクロニングは,2010年,イオンチャネル候補遺伝子で未同定のものを,siRNAを用いて,電位が消失する検索から同定されたものである(リンク)。筆者はそのorthologが広範な生物系に見られる事実と,肺での発現が大きいことから関心を持っている()。

 今回は,清華大学グループによるPiezo 2のsingle-particle Cryo-EM(液滴レベルの操作で,結晶解析にも劣らない解析結果が示せるCryo-EMの新展開:リンク)による3次元立体構造の報告であり,昨年のPiezo 1(リンク)に続くものである。

 3量体として,まるでプロペラのブレード1枚が,それぞれ38回のTM(transmembrane:膜貫通構造)で形成されている。その3枚ブレードの中央部がCapとporeを形成し,全体が600nm2のbowl構造として,細胞膜に存在する。News&Viewsに“A mechanism for touch”として背景解説と図の説明がなされている()。かなりの細胞膜上の面積を占める,複雑な膜蛋白多量体構造として,mechanosensingの観点から興味引かれる。

 一方コーネル大学のグループは,先に報告されたPiezo 1の3D構造から,実際にいかなるmechano- sensingの力が関与するのかを,AFM(atomic force microscope)で予想したものである。しかし,いかなる方向(細胞膜に垂直か?表面張力方向か?)の力が関与するか,または近傍蛋白分子との関連など,今後の課題である。

いずれにしても,清華大学のグループがこの分子に着目している理由は何か?次の展開が期待される。


2)その他,社会科学 

世界規模でのオンライン憎悪生態の隠れた復元力と適応動態(Hidden resilience and adaptive dynamics of the global online hate ecology

 最近話題のSNS上でのonline hateの社会学が報告されている。News&Viewsにも取り上げられている。先週も同様の論文がでている。


•Science

今週の特集は高山帯の生物圏,進化など。


1)抗がん剤 

今週の論文は,In depthとして他誌紹介(リンク)から,臨床医として関心をひかれる論文を取り上げる。


臨床試験下の抗がん剤の作用機序はオフ・ターゲット毒性による(Off-target toxicity is a common mechanism of action of cancer drugs undergoing clinical trials

 Cytotoxic系抗がん剤等で,患者が副作用で苦しむのに効果が十分でない症例は,臨床医なら1度ならず苦い思いをしたのではないか?

 本当に効いているのか?効いていてもoff targetなのか?

 こうした臨床医の思いを確認するような論文がScience Translational Medicine 9月号に報告されている。

さすがに影響が大きくScienceの他誌紹介,またNatureのResearch Highlight(リンク)でも紹介されている。


 Cold Spring Harbour研究所のグループからの論文である。

 お話は,もともとMELK(maternal embryonic leucine zipper kinase)の特異阻害薬OTS 167が有効と考えられていた細胞株で,CRISPR-CasでMELKを不活化した細胞株を作成した。ところがMELKはdriver geneではなく,細胞は増殖を続け,なお且つOTS 167は有効であった。この意味するところはMELKはターゲットではなく,OTS167はoff targetに有効だということである。

 そこでグループはHDAC6,MAPK14,PAK4,PBK等のターゲットを多様な癌細胞(株)で同様に不活化して調べたところ,やはりoff target効果が明らかになった。

 一方,PBK(Lymphokine-activated killer T-cell-originated protein kinase)の特異阻害薬と目されたOTS 964はその抵抗株10株のwhole genome解析で,実はCDK11B(cyclin dependent kinase 11B)の関連残基に変異が見出され,むしろOTS 964はCDK11Bへのtargeting drugであることが判明した。CDK11Bは多数の癌腫でdriver geneとなっており,新たな分子診断・標的となりうる。

 こうした問題は,阻害効果の不十分なRNAi実験に起因するようであり,CRISPR-Cas系使用により,確実なターゲット同定(これにもoff target問題はあるとは言え)がpreclinical段階で必要であると訴えている。

 この論文も煩雑な遺伝子knockout手技がCRISPRで簡素化された故の,新たな展開である。


2)その他 


オープンアクセス型の大手学術誌が軒並み失速(Open-access megajournals lose momentum

 In depthで,PLOS ONEなど,一時の論文掲載数が減少傾向にあると報告されている()。



•NEJM

1)COPD 

COPD増悪予防のためのベンラリズマブ(Benralizumab for the prevention of COPD exacerbations

 抗IL5Rα抗体は重症喘息での喘息増悪には有効であるが,残念ながらCOPDでの増悪抑制には効果を認めなかった。


2)Brief Report 

CRISPR-edited stem cells in a patient with HIV and acute lymphocytic leukemia

 メール便では配信されている。今回はin vivoでなく幹細胞でのCRISPER-Cas操作でCCR5のないものを移入している。Leukemiaは改善したが,HIVに対しては効果不十分であり,幹細胞使用の限界が議論されている。


(貫和敏博)


※500文字以内で書いてください