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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 64

公開日:2019.9.25


今週のジャーナル


Nature Vol. 573, No.7774(2019年9月19日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6459(2019年9月20日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.12(2019年9月19日)日本語版 英語版






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CAR-Tで心筋線維症を治す?/線虫を使ったオーファン抗オピオイド機構の解析

•Nature

1)免疫療法:Letter 

CAR-T細胞で心筋繊維化を標的化する(Targeting cardiac fibrosis with engineered T cells

 米国フィラデルフィアのペンシルベニア大学からの報告である。キメラ抗原受容体 (CAR)-T療法は,1患者当たり3350万円と過去最高の薬価として話題になり,新たな癌免疫療法として期待されている。患者自身のT細胞を取り出し,特定の抗原を特異的に認識するキメラ抗原受容体 (CAR)を発現するように遺伝子改変した後に,再び患者の体内に戻す治療法である(フリーアクセスの2017年Cell誌総説)。現在CAR-T療法は,B細胞性の血液癌で多く見られる抗原CD19を標的として,白血病やリンパ腫に対し認可されている。当然固形腫瘍に対してもCAR-T療法は試みられているものの,まだ目立った臨床効果を認められていない。その最大の理由として,CD19のような単一で,かつ抗腫瘍効果が持続するような優れた標的分子が,固形癌には見つかっていない点が挙げられている。

 今回筆者らは,CAR-T療法は悪性疾患に対する治療,という発想を転換し,心筋の傷害や心疾患によって生じる心筋線維化に対して,CAR-T療法の可能性を示している(なお,CAR-T療法の悪性疾患以外への応用については,HIV感染症に対する応用を以前紹介している。TJハックNo.59)。固形癌でCAR-T療法がうまくいっていないことからもわかるように,CAR-T療法の成否は,標的分子の選択にかかっている。そこで今回筆者らは,まず,心機能の低下に至る過剰の心筋線維化を防ぐために,心臓の線維芽細胞に着目した。そして,238のヒト左室検体のRNA発現解析から,心臓の活性化された線維芽細胞のみで発現上昇している分子として,FAP(fibroblast activation protein)を見つけ出した。このFAPを標的としたCAR-T療法を,心筋線維化モデルマウスで行ったところ,心筋線維化の抑制が確認された。

 驚くべきことに,FAPに対するCAR-T療法は,胸膜中皮腫患者に対して第I相臨床試験が既に開始されており,目立った有害事象は報告されていない(リンク)。


2)腫瘍生物学:Letter 

E-カドヘリンは転移形成に必要である(E-cadherin is required for metastasis in multiple models of breast cancer

 米国ジョンズ・ホプキンス大学のグループからの報告で,乳癌の転移機構を解析している。News&Viewsに概略がわかりやすく説明されている(リンク)。E-カドヘリンの発現を欠損させた乳癌細胞では,TGF-βシグナルによって活性酸素(ROS)と細胞死に係る遺伝子発現のレベルが上昇し,遊走能は向上するものの,細胞生存は低下してしまう。結果的に,E-カドヘリンの発現を欠損させた乳癌細胞は,肺へ転移しにくくなった,と示されている。



•Science

1)神経科学:Research Article 

遺伝学的行動スクリーニングによるオーファン抗オピオイドシステムの同定(Genetic behavioral screen identifies an orphan anti-opioid system

 オピオイドの重篤な副作用として,習慣性と呼吸抑制が知られている。これらの副作用はオピオイド受容体の刺激によるものではあるが,その神経伝達経路は鎮痛効果の経路と異なる。そこで,米国スクリプス研究所の筆者らは,このような神経伝達経路を明らかにするために,哺乳類より単純な神経系を持つ線虫C. elegansを用いた。オピオイドは主にμオピオイド受容体を介して作用する。しかし線虫はμオピオイド受容体を発現せず,オピオイドに反応しない。そこで筆者らは,線虫にヒトμオピオイド受容体遺伝子を発現させた上で,無作為変異体を作製し,オピオイドに対する反応(線虫の運動が減弱する)が低下する変異体をスクリーニングした。こうして,オピオイドの作用を抑制する分子として,μオピオイド受容体と同様のG蛋白質共役受容体であるGPR139を同定した。GPR139がオピオイドの作用を抑制するメカニズムとしては,①μオピオイド受容体との二量体形成,②μオピオイド受容体の細胞表面への輸送を障害,③βアレスチン(G蛋白質共役受容体を不活化する細胞質蛋白質)を介したμオピオイド受容体の不活化,が考えられた(Perspectivesの参照)。さらに本論文で筆者らは,GPR139の遺伝子欠損マウスを用いて解析を進め,GPR139のアゴニストがオピオイドの鎮痛効果や習慣性を低減させることも見い出している。GPR139がオピオイドの呼吸抑制作用にも関連しているかは示されていないが,オピオイドの副作用低減につながる分子が,線虫でのスクリーニングを介して同定されたことは興味深い。


•NEJM

1)感染症:Original Article 

サイトメガロウイルス再活性化に対する先制治療(Maribavir for preemptive treatment of cytomegalovirus reactivation

 サイトメガロウイルスは通常幼小児期に不顕性感染した後に潜伏感染し,免疫能が低下すると再活性化して,肺炎などを発症する。成人に達するまでに9割以上が既感染者となるとされていたが,生活習慣の変化のために,既感染率は近年減少している。最近のわが国のデータでは,サイトメガロウイルスの既感染率は7割程度とされている。既感染率が下がってきてはいるものの,特に移植医療では,サイトメガロウイルス感染症の管理は,慢性期の感染症対策として重要である。

 一般にサイトメガロウイルス感染症の治療には,ガンシクロビル(デノシン,バリキサ)が用いられているが,その副作用として骨髄抑制がしばしば問題となる。本論文で取り上げたマリバビルは,ウイルスDNA鎖の伸長を停止させるガンシクロビルとは異なり,増殖したウイルスが感染細胞の核から放出される過程を阻害する。マリバビルの副作用として味覚障害が知られているものの,骨髄抑制や腎毒性はなく,ガンシクロビルに代わる抗ウイルス薬として期待されている。

 移植患者においては,サイトメガロウイルス感染症,特にサイトメガロウイルス肺炎は一旦発症してしまうと致命率が高く,さまざまな対策が取られてきた。その対策は大きく「予防治療」と「先制治療」に分けられる。先制治療は,ウイルスの再活性化をモニタリングして,発症する前に,ウイルスがある一定以上に陽性化した時点で抗ウイルス薬を開始する。本論文で取り上げたマリバビルは,残念ながら「予防治療」での効果が証明されず,「先制治療」での検証が待たれていた(リンク)。

 本論文は,「先制治療」でのマリバビルの有用性を,ガンシクロビルと同等という形で示した第II相試験である。161例がランダム化され,マリバビルは400mg,800mg,1200mgそれぞれ1日2回の3用量が設定されている。そして最低用量の400mg1日2回のマリバビルで,ガンシクロビルとの同等性が示された。しかしマリバビル群の40%の症例で味覚異常があり,マリバビル群の23%の症例が有害事象によって治療中止となっている(ちなみにガンシクロビル群の治療中止は12%)。


(TK)


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