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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 65

公開日:2019.10.2


今週のジャーナル


Nature Vol. 573, No.7775(2019年9月26日)日本語版 英語版

Science Vol. 365, Issue #6460(2019年9月27日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.13(2019年9月26日)日本語版 英語版






Archive

p53の腫瘍抑制にα-ケトグルタル酸が関与/宿主表現型を変えるマイクロバイオーム

•Nature

1)腫瘍生物学 

α-ケトグルタル酸は腫瘍抑制の際にp53と細胞運命を結びつける(α-Ketoglutarate links p53 to cell fate during tumour suppression

 1979年に発見された癌抑制遺伝子TP53とその蛋白質産物であるp53は,その変異が多くの癌で発現していることから,癌伸展および抑制に大きな役割を担っていると考えられ研究が進められてきた。そのp53は,転写因子であり細胞ストレスに対して細胞応答する蛋白質の発現を促進し,細胞周期の休止,DNA修復,代謝経路の変更,抗酸化効果,抗血管新生,老化,アポトーシスなど細胞の代謝経路を調節することが知られている。しかし,それらの機能がどのような機序で調節されているかは十分に解明されておらず,癌の進展を抑制するp53依存的代謝変化についてもほとんどわかっていない。


 著者らはニューヨークにあるメモリアルスローンケタリングがんセンターのグループで,p53と腫瘍抑制に関わる研究を専門にしている。本論文ではKRAS変異型の膵管腺癌マウスモデルに由来する癌細胞においてp53機能を回復させると,α-ケトグルタル酸(αKG)の蓄積が引き起こされたことを明らかにしている。それはp53が,癌細胞の代謝を再構築して前悪性状態の細胞運命に有利なクロマチンの変化や遺伝子発現の変化を強制的に起こしていたのである(リンク)。


 αKGはクロマチン修飾酵素の一部に対して必須の基質としても働く代謝物である。p53は前悪性状態の分化に特徴的な転写プログラムを誘導するが,細胞透過性のαKGの添加はその効果を部分的に再現することができたのである。αKG依存性のクロマチン修飾である5-ヒドロキシメチルシトシン(5hmc)のレベル上昇は,p53によって誘導される腫瘍細胞分化と同時に生じていた。一方5hmcのレベル低下は,前悪性状態からTrp53変異に関連する脱分化した悪性病変への移行を示していたのである。著者らは,p53欠損膵管腺癌細胞を用いて,トリカルボン酸回路の酵素であるオキソグルタル酸デヒドロゲナーゼの阻害によりαKGを強制的に蓄積させることで,5hmcのレベルが上昇し,腫瘍細胞の分化,腫瘍細胞の適応度低下が特異的に誘導することを確認した。逆にコハク酸(αKG依存性ジオキシゲナーゼの競合的阻害因子)の細胞内レベルを上昇させると,p53による腫瘍抑制が鈍化することも確認したのである。


 以上の結果から,αKGはp53を介した腫瘍抑制エフェクターであることが明らかとなり,αKGの蓄積が腫瘍細胞分化を促進させ腫瘍進展を拮抗することができるのを示したのである。これはp53に関連した腫瘍抑制メカニズムのひとつであり,p53, αKG, 5hmc代謝経路は新たな治療ターゲットとなる可能性を示唆する成果であったと思われる。


•Science

1)生物学 

出現する宿主表現型の源としての微生物叢(Microbiomes as sources of emergent host phenotypes

 動物に関連した微生物コミュニティーは,複雑な宿主習性と同様に代謝や免疫機能を調整する宿主生理学においても強力な影響を及ぼしている。恒常性の維持や健康促進するための宿主と微生物叢との相互作用の重要性は,動物とそれらの微生物叢がどのように共進化してきたのか,そしてこれらの関係は動物がそれらの環境と相互に作用するのにどのように影響しているのか,進化の過程においても興味深い。

 宿主の神経生物学的形態が微生物叢にとってどのような潜在的な役割を果たすのか,特に動物習性に焦点をおいて,微生物叢に影響されて出現する宿主の表現型が特集されている。そのダイジェストを以下に紹介したい。


 強制的な相利共生を越えて,ある動物とその進化した動物において特定の微生物がそれらのライフサイクルと活動性を担っているものもある。

 鞭毛虫の一種はAlgoriphagus spp.と共生することで多細胞形成し,異なる生活様式形態をもつもの同士を供給しあい適応度を高める発展的な役割をもつ(Fig.6)。あるイカはVibrio fischeritoと共生することで反照明生物発光迷彩の能力を有し,外敵からの防御機構の役割となる(Fig.3)。シロアリの一種においては中腸と後腸においてTreponema spp.との共生することで木の炭水化物を代謝する能力を高めている。ヒトの微生物叢でも同様の機構があり,海藻などの藻類の炭水化物を消化するのporphyranaseやagarase酵素に対する遺伝子を腸内細菌Bacteroides plebeiusは遺伝学的に豊富に有している。そしてマイクロバイオームは動物の習性や神経生物学的な表現型にも影響をしていることがわかっている。葉切り蟻に共生するAcromyrmex echinatiorの変化により蟻同士の攻撃性や共同生活などの習性が変わる報告や,母体での免疫応答変化や高脂肪食に曝露された子供において腸内マイクロバイオームの変化は社会的行動異常の一因になる(リンク )。また微生物によって生じる分子によっては宿主組織に移行し神経に直接感知されることようである。


 このように多くの機序を有するが,大きなポイントは以下の3点である。1)宿主関連の微生物叢の機能的活動は,体内の宿主因子だけでなく外部の影響によっても宿主表現型が形成されてきている。2)宿主免疫応答,食事,そして行動は,動物『マイクロバイオーム』を形成するが,逆にそれらが形成されることにもなるのである。それらは宿主に代謝機能や防御能力などの社会的な反応を含む無数の表現型を与えている。3)細菌叢-神経生物学相互作用は動物行動を変えることができ,それは動物の適応性を維持するために必要な要素になっている。


•NEJM

 本稿ではCOPDの病因および臨床面の最新情報が掲載されている。どちらもコンパクトにまとまっていて読みやすい内容であり,呼吸器内科医としては是非とも一読していただきたい。


1)COPD最新情報

COPDの病因についての最新情報(Update on the pathogenesis of chronic obstructive pulmonary disease

 本邦でもCOPD診断と治療のためのガイドライン2018が刊行されているが,この総説では喫煙に関連したCOPDにおいて病理・病因論,肺組織の修復やリモデリング,遺伝子・エピジェネティック調整,疾患進行の機序,肺・細胞老化などのテーマ別に非常にわかりやすくまとまっており,重要なポイントが理解しやすい内容である。

 出生から死亡に至るまで,発育過程や成人以降の加齢における肺機能低下にはいくつかのパターンがあり,Supranormal, Pseudonormalという名称を使用していること(リンク),また喘息にはみとめられないCOPDに関連する22カ所の遺伝子異常を染色体別に表示されている(リンク)。

 臨床的な問題点としては,COPDの診断は肺機能検査により定義されているため,肺機能が正常な呼吸器症状を有する喫煙者や胸部CTにて肺気腫が明らかな症例などは現時点ではCOPDと診断されていないことを取り上げている。つまり,これらの症例においての治療は,今後エビデンスを求められる分野になっていくであろう。



COPDの臨床面についての最新情報(Update on clinical aspects of chronic obstructive pulmonary disease)

 わが国におけるCOPDの患者数は平成26年で26万人以上となり,65歳あるいは75歳以上の高齢者数がその多くを占めている。死亡者数は減少しており死因の10位に位置しているが,全世界としてCOPD死亡者は320万人となり2020年までには440万人まで達してしまうとされてる。しかし全世界でのCOPD罹患者は中国とインドで50%以上を占めるという圧倒的なデータは注目すべきことである(リンク)。

 この総説では,COPDの診断および診療指針は,肺機能検査所見と急性増悪の有無を主体にフローチャート化おり,この中にはGOLD 3, 4の低肺機能例COPDに対してはDLco, CT, BMI, 6分間歩行, BODE index, 血液ガスなど合併症も含め精査することも含まれている。またCOPD確定診断例における薬物治療指針もフローチャート化したアルゴリズムには末梢血好酸球数や吸入ステロイド薬の反応性などACO(喘息とCOPDのオーバーラップ)も念頭においた具体的な方針が導入されている。これら内容で参考文献が75報というのは,より重要な情報を絞って整理されているのがわかる内容である。


(石井晴之)


※500文字以内で書いてください