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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 67

公開日:2019.10.16


今週のジャーナル


Nature Vol. 574, No.7777(2019年10月10日)日本語版 英語版

Science Vol. 366, Issue #6462(2019年10月11日)日本語版 英語版

NEJM Vol. 381, No.15(2019年10月10日)日本語版 英語版






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膵管癌に真菌が関与?樹状細胞が潜在型TGF-βを活性化してメモリーT細胞を形成

•Nature

1)腫瘍生物学 

菌類マイコバイオームはMBLの活性化を介して膵臓の発癌を促進する(The fungal mycobiome promotes pancreatic oncogenesis via activation of MBL

 呼吸器とは関係ないが,癌のメカニズムとして興味深い論文なので紹介する。

 近年のマイクロバイオーム(微生物叢)研究はアレルギー疾患や癌などの様々な疾患との関連を明らかにしてきているが,これらは「細菌」についての研究が中心である。ニューヨーク大学からの本研究では,「真菌」が腸管腔から膵臓に移動し,これが膵管腺癌(PDA)の発症に関係していることを報告している。ヒトやマウスモデルのPDA腫瘍では,正常な膵臓組織と比較して,真菌類が約3,000倍増加していて,PDA 腫瘍の「マイコバイオーム組成」は,腸や正常膵臓の組成とは異なっていた。そしてマウスとヒトのどちらでも,PDA腫瘍に浸潤した菌類群集は,皮膚に常在する「マラセチア属(Malassezia)」(Wiki)が顕著に豊富であった。そこでマウスの緩徐進行性PDAモデルや侵襲性PDAモデルにおいて,抗真菌薬でマイコバイオームを除去したところ腫瘍増殖は抑えられ,逆にそこにマラセチア属の種を再定着させると発癌が増強した。しかし他のカンジダ属(Candida),サッカロミケス属(Saccharomyces)あるいはコウジカビ属(Aspergillus)の種を再定着させても腫瘍形成には影響しなかった。また,マンノース結合レクチン(MBL)が結合すること(菌類細胞壁のグリカンにMBLが結合し,補体カスケードを活性化する)が発癌の進行に必要であり,腫瘍外のMBLやC3を欠損させたり,腫瘍細胞でのC3aRノックダウンすることにより腫瘍の増殖を防ぐことができることを示している。さらに,Mbl(別名Mbl2)あるいはC3の欠損マウスでは,上記のようなマイコバイオームの再プログラム化によってもPDAの進行を変化させなかった。本研究についてはわかりやすい図とともにNews and Viewsに取り上げられている(リンク)。

 病原性真菌類がMBLの活性化を介して補体カスケードを駆動し,PDAを促進することを示している論文であり,AASJでも紹介されている(リンク)。



•Science

1)免疫学 

樹状細胞がTGF-βを活性化することによってCD8+組織内在メモリーT細胞を形成する(Migratory DCs activate TGF-β to precondition naïve CD8+ T cells for tissue-resident memory fate

 免疫系の重要な機能の一つに「記憶」がある。T細胞ではナイーブT細胞からメモリーT細胞がつくられることにより,2回目の抗原刺激に対してスムースな対応ができる仕組みがあることは良く知られている(リンク)。このメモリーT細胞には血管やリンパ管を介して循環して働く細胞(circulating memory T cell)と,局所に留まって活躍する組織内在メモリーT細胞(tissue-resident memory T cell)に大きく分けられる。生体のバリア機構である皮膚などには特別なCD8+組織内在メモリーT細胞(eTRM cells)が存在している。これまでの研究からeTRM cellの発生にはTGF-βが必要なことがしられていたが,その詳細な機構については不明であった。米国ボストンMGHからの本論文では,このeTRM cellの発生における新たな機構について報告している。

 TGF-βはさまざまな細胞から産生されるが,通常は「潜在型複合体」として不活性型として存在し,latent TGF-β binging protein(LTBP)を介して,細胞外マトリックス上に貯蔵されている。そしてTGF-βはインテグリンαVβ6との結合のような特定の刺激によってのみ放出されて活性化することが知られている。本論文では樹状細胞でだけαVインテグリンが欠損したコンディショナルノックアウトマウスCd11cCre × Itgavfl/fl mice( “αV-ΔDC”)を作製し,皮膚のワクチン接種におけるeTRM cellの発生について詳細に解析している。その結果,樹状細胞がαVインテグリンを介してTGF-βを活性化することを示し,ナイーブT細胞はリンパ節において,αVインテグリンを発現する樹状細胞とMHC class Iを介して相互作用することが,eTRM cellの発生に大切であること()を報告している。本論文はPERSPECTIVESでも紹介されている(リンク)。



•NEJM

こちらも呼吸器関連ではないが,心筋梗塞についての報告を紹介する。


1)心疾患 

心筋梗塞に対する多枝 PCI による完全血行再建(Complete revascularization with multivessel PCI for myocardial infarction

 ST 上昇型心筋梗塞(ST-segment elevation myocardial infarction:STEMI)の患者は多枝冠動脈疾患を有していることが多く,急性イベントを引き起こした病変から離れた部位に別の病変が存在する。責任病変の経皮的冠動脈インターベンション(PCI)により,心血管死または心筋梗塞のリスクが低下する。しかしながら非責任病変に PCI を行うことで,これらのイベントのリスクがさらに低下するかどうか,薬物療法のみで管理するべきかどうかはこれまで不明であった。本試験ではSTEMI と多枝冠動脈疾患を有する4041人の患者を無作為に分けて調べた結果,非責任病変にもPCIを行う「完全血行再建」は,責任病変のみにPCIを行いそれ以上の血行再建は行わず薬物療法を行う群に比べて,心血管死または心筋梗塞のリスクのほか,心血管死,心筋梗塞,虚血による血行再建のリスクを減らすことに関して優越性を示した。

 なお,NEJM QUICK TAKE「ST 上昇型心筋梗塞における死亡または新規心筋梗塞のリスクを減らす(Reducing the Risk of Death or New MI in STEMI)」では今回の研究知見が2分22秒の短い動画にまとめられている(動画)。


(鈴木拓児)



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