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1)癌:Article
MHC-IIネオアンチゲンは腫瘍免疫と免疫療法に対する応答を形作る(MHC-II neoantigens shape tumour immunity and response to immunotherapy) |
オブジーボが先駆けとなった免疫チェックポイント阻害薬は,近年の癌治療に革新的進歩をもたらした。しかし免疫チェックポイント阻害薬の治療を受けた癌患者のうち,革新的効果がもたらされる患者の割合は決して高くはない。その高額な薬剤費にもかかわらず,免疫チェックポイント阻害薬の効果が認められない癌患者も多くいる。残念ながら,免疫チェックポイント阻害薬の効果を,その投与前から正確に予想する指標はいまだに見つかっていない。
そこで今回,米国セントルイスのワシントン大学の筆者らは,免疫チェックポイント阻害薬によって活性化される免疫細胞のうち,最終的に癌細胞を攻撃することになるCD8+ T細胞でなく,その後方で免疫反応の増幅に関わっているCD4+ T細胞に着目した。そして,「MHCクラスⅡ上に提示されてCD4+ T細胞を効果的に刺激しうる抗原を,癌細胞が変異遺伝子産物として持っているかどうか」が,免疫チェックポイント阻害薬の効果を規定していることを示している(概説は同号のNews & Views「Teamwork by different T-cell types boosts tumour destruction by immunotherapy:T細胞のチームワークが免疫療法を促進する」を参照,図)。
この研究の中で筆者らは,まず,癌細胞が特異的に持っている変異遺伝子産物「ネオ抗原」の中から,MHCクラスⅡ上に提示されて効果的にCD4+ T細胞を刺激するネオ抗原をスクリーニングする手法「hmMHC」を開発した。この手法では,ネオ抗原とMHCクラスⅡとの結合親和性,ネオ抗原とその野生型遺伝子産物とのMHCクラスⅡに対する結合比,ネオ抗原の転写産物量などを基に,スクリーニングを行っている。
このようなスクリーニング手法を活用して,今後「CD4+ T細胞を効果的に刺激するネオ抗原」のデータベースがヒト癌細胞で充実してくるようであれば,免疫チェックポイント阻害薬を投与する前に患者の癌細胞で「CD4+ T細胞を効果的に刺激するネオ抗原」の有無を調べると,免疫チェックポイント阻害薬の効果を予測できるようになることが期待される。
1)感染免疫:Research Article
麻疹ウイルス感染によって他の病原体からの防御を担う既得抗体が消失する(Measles virus infection diminishes preexisting antibodies that offer protection from other pathogens) |
麻疹による免疫抑制は,「麻疹の前後でツベルクリン反応が陰転化した」という1908年の報告までさかのぼる。その後の研究で,リンパ球減少が麻疹ウイルスの体内からの消失後2〜4週間後まで続くこともわかった。さらに,麻疹ウイルスの受容体CD150がメモリーリンパ球や形質細胞に強発現していること,疾病罹患率や死亡率の上昇が麻疹ウイルス感染後5年間も続くことも知られるようになり,麻疹ウイルスによって「免疫学的メモリー喪失」になると考えられてきた。しかし,麻疹ウイルス感染後の「免疫学的メモリー喪失」を証明した報告はこれまでなかった。
そこで今回,米国ボストンのBrigham and Women's Hospitalの筆者らは,最近オランダで発生した麻疹の大流行時に感染前後の血漿検体を採取し,そのウイルス抗体量を測定することによって,麻疹ウイルス感染後の「免疫学的メモリー喪失」の存在を証明した。血漿検体は,麻疹の感染前後平均10週の間隔を開けて,77人の子供(ワクチン未接種)から採取している。この検体を用いて,「VirScan」と呼ばれる方法で,400種類以上の病原性ウイルスに対する抗体量を調べた。VirScanでは,「ウイルス由来の抗原エピトープをファージに発現させ,測定する抗体で免疫沈降させた後に,沈降したファージのDNAをシークエンシングする(概略図)」ことによって,反応した抗体の抗原エピトープを同定することができる。その結果,麻疹の感染前後で,個々人の抗体レパートリーは中央値で40%減少することが示された。さらに,麻疹感染で失われた抗体レパートリーは,その後,病原微生物に再曝露することによって回復してくることも示されている。
1)呼吸器:Original Article
進行性間質性肺疾患に対するニンテダニブ(Nintedanib in progressive fibrosing interstitial lung diseases) |
本「トップジャーナル・ハック!」のNo. 66ですでに紹介した論文が,本号の冊子版で掲載されている。
2)その他:Original Article
1型糖尿病におけるクローズドループコントロールの6カ月間の無作為化多施設共同試験(Six-month randomized, multicenter trial of closed-loop control in type 1 diabetes) |
無作為化多施設共同試験:1 型糖尿病に対し「インスリン送達を自動化するクローズドループシステム」が,センサー付きインスリンポンプより,血糖値を目標範囲内に制御した時間の割合が多かった。
再発または難治性のFLT3変異陽性急性骨髄性白血病に対するギルテリチニブと化学療法との比較(Gilteritinib or chemotherapy for relapsed or refractory FLT3-mutated AML) |
無作為化多施設共同試験:救援化学療法に反応性の乏しい「FMS 様チロシンキナーゼ 3 遺伝子(FLT3)に変異を有する,再発または難治性の急性骨髄性白血病(AML)」に対し,経口の選択的 FLT3 阻害薬ギルテリチニブが,救援化学療法に比し有意に生存期間を延長した。
3)Review Article
統合失調症(Schizophrenia) |
統合失調症は精神医学的症候群で,幻覚や妄想や解体した会話の精神症状,陰性症状,失認によって特徴付けられる。世界人口の約1%が罹患し,障害の世界的上位10個の原因の中に挙げられている。この総説では,「初期症状」,「神経生物学的因子や遺伝学的因子」,「診断」,「急性精神病症状の治療」,「治療反応不良時の対応」,「再発予防のための治療薬」,「大麻との関連」,「機能向上策」,「治療薬の副作用」,「結語」といった章立てで,疾患全体を解説している。
(TK)