" /> Obama大統領BRAIN Initiative 6年後:驚異の顕微形態的電気生理学技術/毛包幹細胞とリンパ管連携/Shattuck lectureと中村哲先生(貫和敏博) |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 75

公開日:2019.12.13


今週のジャーナル


Nature Vol. 576, No.7785(2019年12月5日)日本語版 英語版

Science Vol. 366, Issue #6470(2019年12月6日)英語版

NEJM Vol. 381, No.23(2019年12月5日)日本語版 英語版







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Obama大統領BRAIN Initiative 6年後:驚異の顕微形態的電気生理学技術/毛包幹細胞とリンパ管連携/Shattuck lectureと中村哲先生

 近頃驚いていること。AI Translatorの能力向上。
 今年の夏,かなりの呼吸器専門的な内容を急いで英文化する必要があり,試しにGoogle翻訳を使用して,その精度に驚いた。関心を持ってその背景に探ったところ,本年の日経エレクトロニクス9月号に特集されている()。実際には今から3年前,AI技術の応用で,その翻訳能力が大きく向上したという。
 これはありがたいことである。時代は変わった!
 気づくと,確かに英文Twitterには和訳へのクリック・プロンプトがいつの間にか付いている。実はGoogle chrome上で開いたwebページでは,右クリックで英語→日本語訳を設定すれば,和訳が瞬時に見られる。医学・生物学領域の英語Wikipediaは,いうまでもなく充実している。これを右クリックで英文和訳を設定すると,スクロールする側から和訳が表示される。ということは「斜め読み」が可能となる(残念ながら「斜め読み」は英文ニュース程度なら可能だが,専門用語の多い学術論文では難しい)。
 試しにNature論文を和訳させると,Abstractを「抽象」などと訳されていて,ガクッとなるが,内容そのものは結構理解できる。
 読者はもうとっくに御存知か? まだならば是非試してみてください。
 もはや和訳英訳に潰す時間は意味がない。TJHackも,取り上げた論文の研究背景や意義を解説しないと,読んではもらえない時代だと自覚する。


•Nature


1)News & Views 

神経発達:運動回路の出現を可視化(Cell-tracking pipeline reveals how motor circuits are built

Single-cell reconstruction of emerging population activity in an entire developing circuit

 臨床としては,GenomeAsia100Kを取り上げるべきであるが,国立国際医療センターのプレス・リリースに詳しい。今週はNews&Viewsが紹介するCell論文(リンク)を取り上げたい。


 この論文を取り上げる理由は,最近のTop Journalを見ていると,一時代前とは違った凄まじい脳研究の展開に驚かされる。こうした脳研究の動きは,21世紀初頭Genome Projectsおよびその後の染色体構造解析やCancer Genomeが終了しつつあった2013年,オバマ大統領のBRAIN Initiative(Wiki)に始まった。それは脳研究の革新的な技術開発とその支援を目的としての研究費である。

 具体的には2014年にアウトラインが決まり,2016~20年で技術開発とその検証,2020~25年でこれらを基礎に脳に関する根本的な新しい発見を目指すというものである。その成果の一部は,昨年Science誌12月14日号が特集している。


 この論文に筆者が興味を持ったのは,CircuitととしてのCentral Pattern Generator(リンクイラスト)とlocomotion(左右くねり前進運動)を知っていたからである。こうしたCPG Circuit(呼吸リズムもその1つという)は一体いかに形成されるのか? 昨年,介在神経と運動神経が神経管から新生し移動を開始すると同時にPairが形成され,軸索に沿って移動するという論文は目にした。しかしこの神経細胞システムで実際にlocomotionの基盤となるCPGがいかに形成されるかは,想像するだけでも技術面の課題が多く,夢のような研究である。

 Zebrafishの受精胚を用いたこの論文はVirginia州,AshburnのJanelia Research Campusグループのものである。Zebrafishの胚は透明であるので,生きたまま細胞系研究が可能である。免疫細胞の研究,たとえば抗酸菌による肉芽腫形成解析などは数年前からなされている。本研究グループはzebrafishの系での神経細胞研究(脊椎動物での神経系の進化保存性は高い)の顕微鏡画像解析ではトップレベルのグループであると紹介してある。

 今回彼らの報告した系は,①個々の神経細胞移動を追跡しうる連続撮影(受精後6~22時間)とその解析系を確立したこと,②Ca2+センサー合成蛋白GCaMP6f(Wiki)の発色により,形態像連続記録により電極を刺すことなく運動神経(MN)活動を記録する,謂わば形態的電気生理解析を確立したこと, ③そしてCPG形成には,MN自身の電気活動から始まり,次々に介在神経も含むグループを形成し,加えて脊髄における左右交差により対側神経細胞グループとの間での相互制御回路を形成する過程を追跡し得たことである。

 論文そのものは,大量のデータとその解析であり,門外漢が詳細を理解できるわけではないが,Janeliaからの動画ビデオに要領よくまとめられているので,必見である。

 現在呼吸器領域は比較的のんびりとした研究展開であるが,BRAIN Intiativeが実働している米国では,俄に信じられない研究展開がなされている。その事実を知るのもいいことだろう。こうした世界の巨大サイエンスの潮流に対応する日本の戦略はどうあるべきなのか? メディアに取り上げられたiPS細胞研究を巡る中央官僚の研究管理体制はどうなのだろう? もう一点は,統合科学として前面にでて重要になる統計学的処理プログラム技術である。後者は産業界においても人材教育不備で大幅に立ち遅れているのでないか?


•Science


1)再生医療 

隣接する幹細胞によって促進されるリンパ毛細管の再構築は毛包組織の再生を調整する(Stem cell–driven lymphatic remodeling coordinates tissue regeneration

 毛髪は組織再生のモデルとしてよく研究されている。しかしHFSCs (hair follicular stem cells)の生理は,いまだ十分に理解されてはいない。例えば抗癌薬で脱毛がみられたのに,その後元気な毛髪が再生することは臨床的によく知られている。この現象は何を見ているのだろうか?

 Rockefeller大学のHoward Hughes研究施設グループから幹細胞とリンパ管形成の相互性に関して,大変興味ある研究がArticleとして報告されている。

 リンパ管にはLYVE1(lymphatic vessel endotherial hyaluronan acid receptor1)が発現し,細胞マーカーとなる。この抗体を使って,HF(hair follicule,毛包)周辺のリンパ管を見事に示すことから論文は始まる。この論文はPerspectivesでも取り上げられ,その模式図が参考になる。

 ではこのリンパ管組織をDTX(diphtheria toxin,ジブテリア毒)の条件下発現により破壊すれば何が起こるか? その結果がHFSCsのregenerationドライブであった。すなわちリンパ管とHFSCsには何らかの連携が存在する。

 ここから先は先端scRNAseqになる。実はHFには毛周期がある。成長期(anagen),退行期(catagen),休止期(telogen)である,このanagenとtelogenで発現差がある遺伝子を検討すると,telogenではANGPTL7(angiopoietin-like 7),anagenではANGPTL4とNtn4(netrin-4)であった。

 その機構はHFSCsよりのANGPTL7がリンパ管をHFに近づけ,SC queiscenceを維持する。逆にANGPTL4が発現するとリンパ管はHFを離れるので,HFSCsが増殖する(Fig.6に模式図)。Angiopoietinに関しては1,2,3と類似遺伝子があり,ANGPTLと呼ばれる類似遺伝子は2,3,4,5,6,7遺伝子が存在する。ANGPTL7,4に関しては,その受容体がまだ未同定と記されている。これらに関連する化合物は当然,創薬の対象になるだろう。こうしたSCとリンパ管の関連は他臓器再生ではどうか? 大変興味ある点だ。

 因みに実はANGPTL4は,Wikipedia発現プロファイルで肺や肝臓で高発現している()。


•NEJM

1)SPECIAL REPORT 

Shattuck 講演:ケアの未来(Shattuck lecture: The future of care
医学の歴史:ウィリアム・オスラー卿(1849~1919 年)― 歴史の利用と医療という類まれな善行(History of medicine: Sir William Osler (1849–1919) — The uses of history and the singular beneficence of medicine

 今回のHackingは,Schattuck lectureを読んでみよう。

 米国医学はつねにダイナミックに変化している。今回のレクチャーではThe Future of the Careというタイトルで医師のBurn-out(燃え尽き)も取り上げられている。

 Bostonに留学した先生方から,このレクチャーの話は聞いたことがない。1951年のNEJMに歴史背景が記してあるようだが,あいにく医学図書館は改修中である。しかしほぼ100年近い歴史があり,Harvard大学にはSchattuckの胸像も残されている。

毎年,Schattuck lectureはマサチューセッツ州医師会のCMEであり,Dr. Drazenのビデオ紹介にも医師Burn-outが言及されている(リンク)。今回NEJMに取り上げられたDr. Noseworthy JはMayo Clinicのトップを務めた人である。

 このレクチャーの内容は,現在の日本の医師の問題でもある。

 なぜBurn-outしてしまうのか?

 彼の流れるような名英文を読んでみよう。Balancing Humanity and Business,Opportunity and Response,Action Items,Leadership for Changeなどの節に内容は分かれている。医療保険制度の締め付けと医療現場の問題,電子カルテ使用と患者との向き合いの問題,我々が感じているストレスは日米共通である。

 最後は,“The patient-physician relationship is essential to healing and it brings meaning and purpose to our profession and our lives.”と結んである。このRelationをどうPreserveするのか?

 今週号には,実は没後100年のSir William Osler(1849~1919年)も取り上げられている。Osler先生こそ,この患者と医師の関係の原点に戻れと叫んだ人である。医師集団をギルド(専門職業集団,Guild)と捕らえ,その4つの特徴をNoble ancestry,Remarkable solidarity,Progressive character,Singular beneficenceであると述べた。この追悼記事の最後には,このギルドとしての医師の生き方が,現在にまで続くこと,SARSに殉じた医師や,昨年のノーベル平和賞での医師グループの貢献も取りあげられている。

 翻って日本では,言うまでもなくアフガニスタンに殉じた中村哲医師は,そうしたギルドを構成する医師の1人である。深い深い敬意と共に,心より御冥福を祈ります。


(貫和敏博)