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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 76

公開日:2019.12.18


今週のジャーナル


Nature Vol. 576, No.7786(2019年12月12日)日本語版 英語版

Science Vol. 366, Issue #6471(2019年12月13日)英語版

NEJM Vol. 381, No.24(2019年12月12日)日本語版 英語版







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胎児性脳腫瘍ETMR:発がん機構の全体像/マイクロバイオーム:細菌から放出される小分子を解析する段階に突入

•Nature


1)がん遺伝学:Article 

診断時と再発時のETMRの分子的全体像(The molecular landscape of ETMR at diagnosis and relapse

 ETMR(多層性ロゼットを有する胎児性腫瘍,Embryonal tumours with multilayered rosettes)は,0〜14歳に発症する胎児性脳腫瘍の1つで,極めて予後不良である。19番染色体長腕13.41に位置する「C19MC」と呼ばれるmiRNAクラスターの増幅が見つかった最初の腫瘍として,ETMRは知られている:C19MCは胎盤や胚で発現している54個のmiRNAをコードするmiRNAクラスターである。多くのETMRでは,このC19MCが胎性塩素チャンネル蛋白TTYH1 のプロモーター下流に融合し,その融合遺伝子が増幅することによって,DNAメチル基転移酵素DNMT3B6の初期神経特異的なアイソフォームが蓄積している。このような機序により,ETMRは初期神経性前駆細胞を由来に発生すると考えられている。

 今回ドイツ・ハイデルベルグのHopp Children’s Cancer Centerからの報告では,タイトルに「molecular landscape(分子的全体像)」とある通り,C19MCの増幅以外の発がん分子機構をETMRで見い出した。ETMRの90%ではC19MCの増幅が認められるものの,残り10%のETMRではC19MCの増幅が認められない。そこで今回筆者らは,193例のETMR検体(うち23例はC19MCの増幅なし)を用いて,そのDNAメチレーションのプロファイルとmRNAの発現プロファイルを検討した。その結果,髄芽腫などの胎児性脳腫瘍の検体との比較で,C19MCの増幅の有無に関係なく,ETMR検体は一群のクラスターを形成した。しかし,そのETMRのクラスターの中で,C19MCの増幅のないETMRは1つのサブグループを形成し,C19MCの増幅のあるETMRとは分子病態の異なることが示唆された(概略は,論文中の図6を参照)。

 そして筆者らは,このC19MCの増幅のないETMRに注目して解析を進めた。その結果,C19MCの増幅のないETMR16症例のうち,8症例でmiRNAの産生に関わるRNaseⅢファミリー蛋白質Dicer1の体性変異と生殖系LOH(ヘテロ接合性欠失)を有していることがわかった。

 さらに本論文では,全ゲノムシークエンスの結果からETMRのゲノム不安定性に着目し,トポイソメラーゼⅠ阻害薬とPARP阻害薬の併用による治療の可能性を示している。

 なお,C19MCの増幅しているETMRについては,その詳細な分子病態の解析がカナダ・トロントのHospital for Sick Childrenからちょうど本年7月に報告されている(Cancer Cell 36:51-67.e7, 2019 )。



•Science

1)細菌学:Research Article 


1)クロストリジウム遺伝子操作を用いたマイクロバイオーム由来分子の宿主内枯渇(Depletion of microbiome-derived molecules in the host using Clostridium genetics


2)ヒトマイクロバイオームの化学物質レパートリーを利用するメタゲノム手法(A metagenomic strategy for harnessing the chemical repertoire of the human microbiome

 100兆個程の細菌が1人の人間に寄生していて,細菌周囲の環境に対応してさまざまな小分子を放出している。これまで「どのような細菌がヒトの細菌叢を形成し,それがどのように変化するか」という視点の研究は数多く行われているものの,「ヒトの細菌叢の中で細菌が放出する小分子」についてはよくわかっていなかった。今回Science誌には,この点に着目して2つの報告が掲載されている。

 この2つの報告は,いずれもヒトの細菌叢の中で細菌から放出される小分子を取り上げて,細菌ゲノム由来の大量のDNAシークエンスをメタゲノム解析している。相違点として,前者の論文1)では宿主に働きかける小分子を,後者の論文2)では(抗菌薬になりそうな)細菌に働きかける小分子を,それぞれ取り上げている。

 論文1)は米国スタンフォード大学からの報告である(研究全体の概略)。メタゲノム解析から小分子の代謝経路をクロストリジウム菌で予想し,その代謝経路の責任遺伝子を欠損させた変異株をCRISPR-Cas9で作製した。その代謝経路のクロストリジウム菌変異株をマウスに生着させてみたところ,クロストリジウム菌の産生する分枝鎖短鎖脂肪酸が宿主のIgA産生に関与していることがわかった。

 一方,論文2)は米国プリンストン大学からの報告である(研究全体の概略)。細菌のゲノム上には,小分子の産生に関与する遺伝子群をコードするクラスター「biosynthetic gene clusters(BGCs)」が知られている。筆者らはヒトマイクロバイオームのメタゲノムデータからBGCsを見つけ出すアルゴリズム「MetaBGCs」を開発した。これを用いて3203のメタゲノムデータを解析したところ,Ⅱ型ポリケチド(Wiki)をコードすると思われる13種類のBGCsを同定した。実際そのⅡ型ポリケチド合成してみたところ,抗菌活性を有するⅡ型ポリケチドを2つ見つけることに成功した。ヒトマイクロバイオームを新たな創薬手法に生かそうという斬新な発想を示した論文である。


•NEJM


1)呼吸器:Original Article 

COPD の急性増悪の予防のためのメトプロロール(Metoprolol for the prevention of acute exacerbations of COPD

 β遮断薬は心不全患者の予後を改善することが知られている。また後ろ向き観察研究では,β遮断薬がCOPD患者の死亡や増悪を減らすことが示されている。しかし後ろ向き観察研究でβ遮断薬を服用していたのは,そもそも循環器疾患を合併しているCOPD患者であり,そのような患者にはβ遮断薬が(気道を狭窄する方向に多少作用しても)有用かもしれないと推測された。果たして循環器疾患を合併していないCOPD患者にも,β遮断薬が有効かどうかは不明であった。

 そこで今回,β遮断薬の適応となるような循環器疾患を合併していないCOPD患者を対象に,プラセボ対照試験が行われた。中等症以上で増悪歴の有するCOPD患者532例を,β遮断薬群(徐放性メトプロロール,268例)とプラセボ群(264例)に無作為に割り付けし,主要評価項目を「COPD増悪が最初に発生するまでの期間」とした。

 試験は結局,主要評価項目に関する無益性と安全性の懸念のため早期に中止され,主要評価項目は両群に有意差を認めなかった。しかし,入院を要するようなCOPD増悪は,β遮断薬群でハザード比1.91と多かった()。

 結論として,循環器疾患を合併していないCOPD患者に対し,COPDの増悪予防を目的にやはりβ遮断薬を処方すべきではない。またβ遮断薬の適応のある循環器疾患を合併していても,重症の増悪歴を有するようなCOPD患者には,β遮断薬の適応をより慎重に判断する必要があると思われる。


2)Review Article 

ペニシリンアレルギー(Penicillin allergy

 ペニシリンは最も頻度の多い薬物アレルギーで,病歴で「ペニシリンアレルギー」と記される患者は25%にも上るとされている。この総説では,疫学,病態メカニズム,診断,検査,遺伝的リスク,自然経過,減感作療法を含めた臨床的対応,といった章立てで,ペニシリンアレルギー全般について解説している。


(TK)