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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 77

公開日:2019.12.26


今週のジャーナル


Nature Vol. 576, No.7787(2019年12月19日)日本語版 英語版

Science Vol. 366, Issue #6472(2019年12月20日)英語版

NEJM Vol. 381, No.25(2019年12月19日)日本語版 英語版







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腫瘍内の幹細胞様T細胞??/電子タバコvapingの肺傷害

 今週のScienceにはハワイ・キラウェア火山についてのresearch articlesが3連発しておりましたので,無視できず簡単に1報のみ紹介(後述)してみました。

 ちなみに,世界最大級のカルデラ(東西約17km,南北約25km,面積約350km2)はわが国の九州中部の熊本県阿蘇地方に位置するものであり,今も噴煙を上げ続けている中岳を始めとする中央火口丘群(主に阿蘇五岳など)になります。カルデラ形成は,噴火活動により地下の大量のマグマが地上に放出され,その影響で地下に大きな空間ができ,それを埋める陥没で起きたものとされています。カルデラ形成には,陥没以外にも爆発カルデラ,侵食カルデラの形成があるようです。



•Nature


1)創薬 


グラム陰性菌を選択的に殺菌する新たな抗生物質(A new antibiotic selectively kills Gram-negative pathogens

 ボストンになるノースイースタン大学生物学教室からの研究で,抗微生物薬活性を示す薬剤などの開発を行っているグループである。

 新規抗生物質は,薬剤抵抗性グラム陰性病原菌に対しての必要性は高まってきている。これらの微生物は薬剤を著しく制限するバリアを持つため,ほとんどの化合物には抵抗性である。そのため,グラム陰性細菌に作用する抗生物質のクラスは1960年代を最後に開発されていない。筆者らは,有用な化合物は,抗生物質に対してヒトと類似した要求を持つ細菌中に見つかる可能性を考え,昆虫病原性線虫のマイクロバイオームの共生細菌であるPhotorhabdus属細菌に着目した。本研究では,Photorhabdus単離株のスクリーニングから得られた,ダロバクチン(darobactin)と命名した新たな抗生物質を報告している。ダロバクチンは実験室条件下ではほとんど産生されないサイレントオペロンにコードされていて,リボソームで合成される。ダロバクチンは,大環状架橋を2つもつ珍しい構造をとっており,この架橋は翻訳後に形成される。この化合物は,in vitroと感染の動物モデルの両方で重要なグラム陰性病原菌に対する活性を示す(図1)。また大腸菌3株すべてにおいて必須外膜蛋白であるBamAをコードする遺伝子に2~3の変異が存在することが示され,これらのBamAの複数の遺伝子変異がダロバクチン耐性を付与することも示していた(図2)。本研究では,動物の共生細菌に新たな抗生物質開発への可能性があることを明らかにしたものである。


2)免疫学 

腫瘍内ニッチは幹細胞様CD8T細胞の維持と分化を行う(An intra-tumoral niche maintains and differentiates stem-like CD8 T-cells

 アトランタにあるエモリー大学泌尿器科学からの研究で,主に腫瘍内のPD-1とCD8 T細胞の研究や免疫チェックポイント阻害薬に関連した研究を多数報告しているグループである。

 腫瘍浸潤リンパ球は,いくつかの腫瘍タイプにおける生存寄与や,免疫療法の治療反応性と関連している。しかし,CD8 T細胞浸潤が高度な腫瘍もあれば,そうでない腫瘍もある理由は明らかになっていない。本研究では,ヒトのがんに対してCD8 T細胞応答を維持するための必要条件について調べている。泌尿器系の腫瘍(腎・前立腺・膀胱)を対象に研究しており,腫瘍内のCD8 T細胞が,最終分化した細胞と幹細胞様の細胞という異なる集団から構成されていることがわかった(図2)。分化した細胞では,より多くのチェックポイント分子や,グランザイムおよびパーフォリンを高レベルに発現していた。対照的に,TCF1+幹様CD8 T細胞は,CD28,CD226,CD2などの共刺激分子と同等にIL7RやIL2RA(CD25)などの生存に関与する遺伝子を高いレベルで持っていた。また増殖に際して,幹細胞様CD8 T細胞は,エフェクター分子を発現する最終分化により近い娘細胞を生み出していた。多くのT細胞が腫瘍に浸潤するには,このエフェクター分化過程が起こることが非常に重要である。そして,これらの幹細胞様T細胞が,腫瘍内の抗原提示細胞密度の高いニッチに存在し,このような構造を形成しない腫瘍は,T細胞の大規模な浸潤を受けないことを明らかにしている。進行がんの患者では,これらの免疫ニッチが見られないため,ニッチの崩壊が免疫逃避の重要な機構である可能性が示唆される。

 本研究から,ヒト癌におけるT細胞応答の低下は,チェックポイント発現している疲弊したCD8 T細胞の蓄積または腫瘍によるPD-L1の過剰発現によって引き起こされるのではない,つまり腫瘍内にて継続的に最終分化したCD8T細胞を産生するために抗原提示細胞ニッチによって十分刺激されるようになる幹細胞様T細胞の不足によって起きるのだとしている。さらに,手術後に急速に進行する腫瘍においては,これらのニッチ不足は,腫瘍が免疫ニッチの形成や継続的維持を妨げている可能性が考えられると説明している。確かに本研究の成果は,腫瘍における免疫回避の新しいメカニズムとして興味深い内容である()。

•Science


1)ワクチン開発 

広範囲な中和抗体応答の開始のため一般化HIVワクチン設計戦略(A generalized HIV vaccine design strategy for priming of broadly neutralizing antibody responses

 HIVは毎年180万人に新たに感染しており,HIVワクチンの開発は世界的な健康優先事項となっている。認可されているワクチンは抗体誘導で防御作用するが,HIVやインフルエンザウイルスなどのRNAウイルスは,従来のワクチン戦略から回避してきている。これらのウイルスの表面蛋白質上にあるエピトープに結合する広く中和する抗体(bnAbs)の発見は,bnAbsを誘発するワクチン設計戦略に影響を与えた。抗体はB細胞によって産生され,bnAbのような非常に効果的な抗体は,bnAb前駆体B細胞が元のナイーブB細胞(または生殖細胞系)状態から変異および成熟すると親和性を高める変異を獲得する。いくつかの新しいワクチン戦略の中で,生殖細胞を標的とするワクチン設計は,まずbnAb前駆体B細胞を刺激し,次に一連の合理的に設計された追加免疫抗原でB細胞親和性成熟へと導くことによりbnAbsを誘導することを目的としている。この戦略の重要な理論的根拠は,bnAbsの生殖細胞復帰型(すべての認識可能なアミノ酸変異を有する生殖細胞に復帰した前駆体)は通常,HIVエンベロープ(Env)に対して検出可能な親和性がないことである。そのため,ワクチンがbnAb誘導を開始するためには,bnAb前駆体にかなりの親和性を持つ生殖細胞を標的とするプライミング免疫系を設計する必要があり,またヒト抗体は非常に多様であるため,生殖細胞を標的とする免疫系は多様なワクチンレシピエントを成功させるためにも多様なbnAb前駆体に親和性を持たなければならない。

 本研究においては,HIV Envの保存された部位に結合するHCDR3に強く依存するbnAb BG18を使用して,抗原のbnAb構造認識を可能にする鍵となる遺伝的特徴によって導かれる超深部ヒト抗体配列データベースで潜在的なbnAb前駆体のプールを識別する方法が示されている。そして,これらの潜在的なbnAb前駆体の代表的なものを設計ターゲットとして使用し,多様な潜在的なbnAb前駆体に結合するHIV Env免疫系のエンジニアリングをガイドする。最終的に,以下の3つ〔(i)健康なヒトドナーの血液からまれな潜在的bnAb前駆体ナイーブB細胞を選択する能力,(ii)bnAb前駆体への結合モード,および(iii)マウスモデルで生理的に関連する親和性を持つ希少bnAb前駆体B細胞をプライミングする能力〕に対応する免疫系を評価することにより,免疫系デザインの重要な前臨床検証を提供している(リンク)。

 この研究成果は,HCDR3依存性抗体の前駆体を刺激する生殖細胞を標的とした免疫系の開発と前臨床検証のための一般化可能な手法として有意義なものと考えられる。


2)火山活動 

2018年キラウェア火山でのマグマ溜まり崩壊とカルデラ崩壊の始まり(Magma reservoir failure and the onset of caldera collapse at Kilauea Volcano in 2018

 カルデラ形成イベントを含む火山噴火のリアルタイム監視は稀少である。アンダーソンらは,いくつかのタイプの地球物理学的観測を使用して,2018年の噴火中にハワイのKīlauea火山の上部で発生したカルデラ崩壊を追跡した。Ganseckiらは,ほぼリアルタイムの溶岩組成分析を使用して,マグマが高粘度で動きの遅い溶岩から低粘度で動きの速い溶岩に移行した時期を判断し,パトリックらは,さまざまな地球物理学的ツールを使用して,山頂のプロセスを遠くの割れ目から出てくる溶岩速度を調べた。この3つの研究はカルデラ崩壊モデルを改善し,リアルタイムのハザード応答を改善するのに役立つかもしれない(リンク)。

 今回の調査では,噴火が3か月以上続くと,新しいカルデラの面積は〜5km2に拡大し,その体積は0.8km3に増加するようです。阿蘇は約27万年前,約14万年前,約12万年前,約9万年前の4回噴火があったようですが,本研究のカルデラ崩壊のデータから考えても,阿蘇山の噴火はものすごい大規模なものであったことがよくわかります。阿蘇の世界最大のカルデラ,必見の価値あります。


•NEJM


1)Special Report:タバコ

電子タバコ,またはvaping,製品使用に関連する肺傷害のサーベイランス(Syndromic surveillance for e-cigarette, or vaping, product use–associated lung injury

 電子タバコの使用が急速に増加している米国からの報告。Vapingは禁煙に役立つことが示されていますが,重度のvaping関連の肺傷害や死亡例がみられている。,最初の電子タバコ(eタバコ)またはvapingの製品使用関連肺損傷(EVALI)の症例は,2019年8月1日に疾病管理予防センター(CDC)によって報告され,今月までに2506名が入院治療を要しているという。EVALIの患者のほとんどは男性および青年期の少年(67%),35歳未満(78%)であり,テトラヒドロカンナビノール(THC)を含む電子タバコ製品の使用(80%)である。このEVALIが新しい臨床症候群であるのか,それとも検出されずに以前に発生したのかについては疑問があり,またCDCに報告された症例数が9月15週に認められた214人(発生の見かけのピーク)から11月24週に認められた26人(最も多い)に88%減少したかどうかも不明であり,本研究による調査を行っている。

 この研究では,EVALIに関連する救急外来(ED)受診が増加し始めた時期とED受診率を評価するために,NSSPデータのクエリを応用し,発生を視覚化するために,Google検索からのデータとCDCに報告されたEVALIケースで,ED受診の時系列をオーバーレイしている。2017年1月1日から2019年12月7日までの間に発生した急性肺障害の発生率と同様に,電子タバコ(または蒸気)製品への曝露を評価した報告である。

 EVALIによるED受診率は,2017年1月の最初の週から2019年8月11日の週まで,特に10歳から19歳の患者の間で徐々に増加したことが明らかになった(図1)。すべての年齢層にわたって,2019年8月11日から2019年9月8日までの間,毎週100万人あたり平均26回のED受診が急激に増加していた(図2)。ED受診率は,9月29日の週にピークに減少しているが,2019年6月以前のどの時点よりも高い数値ではある。

 過去30日間の電子タバコの使用を報告している米国の高校生の割合は,2017年の11.7%から2019年の27.5%に増加している。そして新世代の電子タバコにはニコチン塩が使用されていて,より少ない刺激でより多くのニコチンを吸入してしまう。ニコチン塩は,より頻繁で強い吸入により肺への悪影響のリスクを高めたり,ニコチン中毒や香料などの他の潜在的な毒性物質による影響など,健康影響のリスクを高める可能性がある。これらの製品におけるカンナビノイド(CBD)オイルの使用の増加もあり,ED受診率の増加はTHCによる急性中毒,合成カンナビノイドによっても促進される可能性が懸念される。

 日本では電子タバコ(ニコチンを含有するリキッド)は市販されていないが,国外で問題となっている電子タバコの規制はなく個人輸入が可能である。この現状からするとわが国においても若者の急性肺傷害の原因としてEVALIを認識しておく必要は十分にある。


(石井晴之)


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