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1)腫瘍学
KRAS G12C変異の立体構造特異的阻害薬に対する急速かつ不均一な抵抗性の獲得〔Rapid non-uniform adaptation to conformation-specific KRAS(G12C)inhibition〕 |
KRAS(G12C)は肺腺癌の最も一般的な活性化変化の1つで,KRAS G12Cの特異的阻害薬は第I相臨床試験中であり,肺癌患者ではほぼ半数で部分的な反応を示しておりその可能性が期待されている。こちらの阻害薬については以前のTJH #72でも取り上げている。これまで阻害は困難と考えられた標的への期待の新薬登場ではあり,企業サイドは良い面を強調するが,薬剤耐性は回避できない。今回はその克服への解析論文である。
KRAS G12C変異の特異的阻害薬は,発がんに関わる変異蛋白が不活性化型(GDPと結合している状態)の立体構造を取るときに結合して阻害する(図:今回のグループが以前報告している論文より抜粋)。しかしながら,この特異的阻害薬への抵抗性の獲得メカニズムに関してはこれまで明らかではなかった。
米国のメモリアルスローンケタリング癌センターのグループは,今回臨床試験中のKRAS阻害薬を投与したマウス肺癌モデルおよびヒト肺癌細胞株を使って一細胞解析を行い,阻害薬によって誘導される,腫瘍の不均一な治療抵抗性に関わる回避機構のメカニズムを報告している。治療後間もなく,一部の癌細胞ではKRAS活性が低下し,増殖の止まった静止状態に入るが,その時点で2つのsubpopulationに分かれる。そのうちのminor population(20%程度のrapidly adapting cellsと記載されている)では,治療後72時間後にはすでにGTPと結合した新たな活性化型KRAS G12Cの発現が生じている。CRISPR–Cas9 スクリーニングを用いて,この発現をバイパスしているサバイバルシグナルを解析したところ,EGFRおよびAURKA(aurora kinase A)のシグナルの関連分子が高発現していることが明らかになった。これらのシグナルによって新たに産生されるKRAS G12C変異は活性化型のため,KRAS阻害薬が作用できない。この耐性化に寄与するrapidly adaptingのsubpopulationは,EGFRやAURKAを標的とした阻害薬を同時に使用することで減らすことが出来ることも確認している。今回の報告をわかりやすくまとめた図が提示されている。
本研究から,現在のKRAS G12C変異の特異的阻害薬の使用によって,癌細胞にはかなり早い段階から,阻害薬が作用できない活性型KRASが誘導され,薬剤に適応してしまうことがわかった。
長期の奏功を維持するためには,これらのバイパスシグナルの標的化も含めたアプローチが必要になる可能性が高い。
1)免疫学
VISTAはナイーブT細胞の休止状態および末梢性免疫寛容に関わるチェックポイント調整因子である(VISTA is a checkpoint regulator for naïve T cell quiescence and peripheral tolerance) |
T細胞の休止と免疫寛容は,免疫系が過剰に活性化して健常な組織を攻撃するのを抑制するのに重要な働きをしている。T細胞にブレーキをかける負のチェックポイント調整因子は,通常自己抗原に対するT細胞応答を制限して自己免疫などの病態を回避するために機能している。実際にチェックポイント阻害薬で誘導される免疫関連有害事象や,慢性関節リウマチに対して使用されるCTLA4融合蛋白なども,そのメカニズムに基づくものである。
米国ダートマス大学のグループは,今回T細胞に発現している負のチェックポイント調整因子のうち,活性化していないナイーブの状態のT細胞でも発現が認められるVISTA(V-type immunoglobulin domain-containing suppressor of T cell activation)に着目し,ナイーブT細胞の休止状態および末梢性免疫寛容にどのように関与しているのか,その機能を評価している。わかりやすいサマリーがperspective(図)およびアブストラクト(図)に掲載されている。こちらの論文はAASJの西川先生のサイトでも紹介されている(リンク)。
VISTAの遺伝子欠損マウス由来のナイーブCD4陽性T細胞を1細胞シークエンスにて評価したところ,正常マウスと比較して無刺激の状態にもかかわらずCD4陽性T細胞がメモリ様の表現型へ変化していることを見出した。また,そのgene signatureはSLEや慢性関節リウマチの患者のプロファイルと類似していた。一方,VISTAを刺激する抗体をマウスに投与すると,急性GVHDのモデルにおいては,ドナー由来の宿主抗原反応性のT細胞が減少することで,病勢および生存の改善を認めた。以上から,VISTAは,これまで癌免疫療法などで標的とされているような,T細胞が活性化して発現誘導される負のチェックポイント調整因子とは異なり,ナイーブのT細胞で発現し,非常に早期の段階で,末梢性免疫寛容を形成するうえで重要な働きをしていることが明らかになった。
VISTAを標的とした治療により,自己免疫疾患の発症早期の段階で自己抗原反応性のT細胞を制御できる可能性が期待される。
1)自己免疫性疾患
活動性の全身性エリテマトーデスに対するアニフロルマブの試験(Trial of anifrolumab in active systemic lupus erythematosus) |
全身性エリテマトーデス(SLE)はインターフェロノパチーの1つとして,その疾患病態に1型インターフェロンが重要な役割を果たしているという内容で,これまで数多くの報告がされている(図)。しかしながら病因がへテロな患者群であるという背景や疾患活動性の客観的な評価が難しいことなどから,大規模な臨床試験で抗インターフェロン治療の有効性を証明するには高いハードルがあった。I型インターフェロン受容体サブユニット1に対するヒトモノクローナル抗体アニフロルマブ(anifrolumab)は,以前行われたSLEに対する第III相試験で主要エンドポイントに有意な影響を及ぼさなかった。
今回の国際共同第3相試験では,その試験の副次的エンドポイントの1つを主要エンドポイントとして用いて評価した。この試験の主要エンドポイントは52週の時点での奏効と定め,英国諸島ループス評価グループ(BILAG)による複合ループス評価(BICLA)を用いて定義された(詳細はこちらを参照)。180例がアニフロルマブ(4週ごとに48週間静注),182例がプラセボの投与を受けた。奏効を得た患者の割合はアニフロルマブ群で47.8%,プラセボ群で31.5%(P=0.001)であった(図)。インターフェロン遺伝子シグネチャーが高かった患者における奏効割合はアニフロルマブ群で48.0%,プラセボ群で30.7%,インターフェロン遺伝子シグネチャーが低かった患者ではそれぞれ46.7%,35.5%であった。副作用として,アニフロルマブの投与を受けた患者の7.2%が帯状疱疹,12.2%が気管支炎を発症した。
SLE患者を対象としたプライマリーエンドポイントの異なる以前の第III相試験の結果とは対照的に,アニフロルマブの1回/4週間×48週間治療は,52週の時点で奏効を認めた割合がプラセボよりも有意に高かった。帯状疱疹の頻度はアニフロルマブ群のほうがプラセボ群よりも高かった。
プライマリーエンドポイントの設定が今後のSLEに対する臨床試験でも課題になると考えられる。
(小山正平)