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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 87

公開日:2020.3.11


今週のジャーナル

Nature Vol. 579, No.7797(2020年3月5日)日本語版 英語版

Science Vol. 367, Issue #6482(2020年3月6日)英語版

NEJM Vol. 382, No.10(2020年3月5日)日本語版 英語版





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組織特異2型自然リンパ球ILC2の理解はICI治療に応用できる?/ヒトnoncanonical ORFとbicistronic蛋白/フォイパンはコロナに効くの?

 本日は3月11日。9年前,揺れる医局で必死に大型コピー機を押さえていた。しかし,その時点で津波がかくも巨大とは想像せず,車載TVで惨状に声を失ったのは翌朝である。まず犠牲者の皆様方に祈りたい。

 さて,コロナウイルス感染は日本も大変な状況であるが,目を世界に向ければEU,イラン,米国とより過酷な状況である。米国ではPCRはほとんど実施されてこなかったようだ。WHOのPandemic宣言はいつ出るのか? その時各国はどんな対応をとるのか? そもそもコロナウイルス感染とはどう理解すればいいのか? 

 この問題は,今回はNEJM速報とともに,懐かしい「フォイパン」の名前がSNS上に出回っているので,そのCell論文も取り上げてみる。


•Nature

1)がん 

ILC2は組織特異的ながん免疫を活性化してPD-1阻害を増幅する(ILC2s amplify PD-1 blockade by activating tissue-specific cancer immunity

 癌が免疫治療で治る時代となり,免疫現象はかなり理解できてきたと思っていると,「イヤイヤまだまだ」だという論文が報告されている。

 米国Sloan Kettering Cancer Centerからの論文で,ILC2s(Group2 innate lymphoid cells)のがん免疫への関与が,膵管癌(pancreatic ductal adenocarcinoma :PDAC)を対象として,実はTILC2(tissue:T,組織常在の意味)には臓器特異シグナルが存在し,がん組織に樹状細胞を呼び寄せ,T細胞を教育し,しかもPD-1の発現にも関与するという,新しい展開である。

著者らはPDACに関しては,先行するNature論文(リンク)がある。

 ILC2s理解には予備知識も必要である。呼吸器では肺線維症との関連が注目されている(リンク)。実は2018年,ILC2sにはtissue-specific phenotypeが存在するという論文(リンク)が出ている。その中に臓器におけるTILC2sの多様なsignal物質も図示してある(リンク)。

 著者らは膵臓癌組織中のILC2s活性化因子としてIL33を同定し(Extended Fig.2a),前回の論文の長期生存PDAC患者において,組織IL33 highの方がIL33 lowより予後が良いことを示した。これはPDACモデルマウスにおいてもIL33-/-ではTILC2s(CD25+,CD127+)が少ないことでも示している。

 次にユニークなorthotopic PDACマウス(Matrigel中のPDAC細胞をマウス膵尾部に注入して形成)で同様にIL33-/-マウスでは癌が腫大することを見いだし,対照としてのsubcutaneous PDACモデルではIL33有無による腫瘍サイズに差がないことを示している。これはリコンビナントIL33(rIL33)投与でも同様の結果である。

 ではPDACのTILC2sは何を介して腫瘍をコントロールしているのか? rIL33存在下に増えるのは樹状細胞(CD103+)であり,TILC2sはCCL5を介してDCを呼び込む。

 ここまでくれば,現在注目のICI(抗PD-1抗体など)治療との関連が注目される。彼らはVehicle,antiPD-1,rIL33,antiPD-1+rIL33の4つの系でのPDACマウス治療の結果を示している。最後のcombination(antiPD-1+rIL33)が最も抗腫瘍効果がある。

 話が複雑になるが,Rag-/-マウスでT細胞を,あるいはCd4Cre/+Icosfl-DTR/+マウスでTILC2sを欠落したモデル系でこれらの裏実験を示している。全体像はExtended Fig.10f(リンク)に示されている。

 周知のように,膵臓癌へのICI治療は,MSI-high,MMR(-)症例の有効データを基礎にPembrolizumabの使用が認められた。Discussionで著者らが強調しているのは,TILC2sも考慮した治療戦略である。膵臓癌は最も予後の悪い癌であるが,今後新たな展開が見られることを期待したい。さらには他臓器癌においてもTILC2sの組織特異シグナルを組み合わせれば,より良い治療成績向上が可能かもしれない。

 がん免疫治療の奥はさらに深くなる。


•Science

1)分子生物学 

非標準的なヒトORFの広範な機能的翻訳(Pervasive functional translation of noncanonical human open reading frames

 Top Journalから論文を選ぶにあたって,呼吸器,あるいは広く臨床に関連する論文を原則としている。しかし,驚くような基礎研究を目にし,その意味の深さに驚くと,どうしても取り上げたくなる。今回のScienceはそうした論文である。

ヒトゲノム計画は終了し,その核酸情報でtranscriptionされるもの,translationされるもののORF(open reading frame:ほとんどがAUGから)はほぼ把握されている。しかし, 一部これらの正規なORF(canonical ORF)以外の蛋白質(100アミノ酸以下でpeptidesともいわれている)が時々報告されている。

 今回米国UCSFのWeissman JSらのグループは,こうしたnon-canonicalな蛋白(peptides)合成がどのくらい存在するのかを,ヒトiPS細胞とHFF(human foreskin fibroblasts)を用い,Ribosomal profiling(リボゾームに付着している全mRNAをシーケンス),MS(質量分析)解析,HLA peptidomics,また予想されるORFをCRISPR/Cas9で破壊するCRISPR screen analysisなどの方法を統合して報告している。彼らは先行する報告(リンク)を基礎に今回のヒトでのmicroproteinsの探索を行っている。

 まずRibosomal profilingにより既annotationが9490種,既annotationであるがisoformやtruncation,extensionのあるものが約2500,lncRNA(long non cording RNA:そのRNAの3次元立体構造が何らかの機能を持つ)シーケンス内に新たに見出された蛋白は818,従来のcodingにframeを違えたものも含め282種,3’側に見出されたもの13,5’upstream側の別のORF(uORF: upstream open reading frame)が2,342種見いだされた。ゲノムの蛋白質の予想総数から比べても結構な数の未知蛋白質である。

 では実際にいかなる機能を予想できるのか? 

 グループはその一部に関して新規GFP(mNeonGreen)の最小16 aa peptide(mNG11)(リンク)をtag付けし,細胞局在とともに,相手蛋白を同定し,論文中に例を示している。例えばlncRNA,RP11_496A15.2はミトコンドリアに局在し,相手はcytochrome C oxidaseとprohibitinとの複合体である。

 一方,uORFとしては,従来細菌以外は稀と考えられたbicistronic(1つの遺伝子に2つの蛋白質をコード)となるが,その際2蛋白の関連として,uORFとmain CDS蛋白は相互に無関係independentな場合とdependentの場合があるという。例えば,MIEF-1遺伝子(Wiki)ではuORF蛋白もMIEF-1もともにミトコンドリアに局在し,このuORFをKOするとミトコンドリアのfuseに関連して,長いミトコンドリアが形成されると報告している。

 いずれにしてもBig scienceというべきデータ量の論文である。Weissmanのグループの共著者はたかだか10名前後であり,この膨大な仕事をどうこなしたのか考えてしまう。しかし大量データは下請け業者に依頼し,グループはそのデータ解析やGFP taggingによる局在解析,相手蛋白の解析などに絞れば,これだけ大量の仕事が可能なのかもしれない。

Stochastic biologyへの移行は待ったなしの時代になっている。


•NEJM

1)コロナ感染症 

中国におけるCOVID-19の臨床的特徴(Clinical characteristics of coronavirus disease 2019 in China

 中国でCOVID-19制圧に陣頭指揮をとる鍾南山先生とは,JRS(日本呼吸器学会)やAPSR(Asian Pacific Society of Respirology)で二度ほど話したことがある。しっかりしたphysician scientistと感じられた。しかしNEJMのこの論文は,2020年1月29日現在の,PCR陽性1,099例の解析であるが,いったいどう抽出されたのか,記載がハッキリしない。それでは一体tableをどう読むのか? 例えばせめて武漢中心部の1~2病院の連続例データならまだ疫学的な理解はできるが。

 今回鍾南山先生は,早くも1月末段階でコロナ感染が終息に向かうとの発言が目立つ。そして2月末からは実際に中国の報告症例数は減少している。しかし一方,SNS上では,「政府は嘘ばかりだ」と叫ぶ動画がUPされている。何を信じればいいのか? 

 一方,欧米やイランの状況は本当に深刻である


Cell誌:関連論文

SARS-CoV-2の宿主細胞の侵入はACE2及びTMPRSS2に依存し,現行プロテアーゼ阻害薬でブロックされる(SARS-CoV-2 cell entry depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is blocked by a clinically proven protease inhibitor

 そんな中,Cell誌のin press論文がSNS上を飛び交う。内容はなんと懐かしい「フォイパン」〔camostat methylate(Wiki)〕が有効である可能性(リンク)と,罹患患者血清でウイルス感染阻止効果があるというGöttingen大学のグループからの報告である。

 SARSの受容体はACE2であり(リンク),それが重症化とも関連する(リンク)。ウィルスが細胞内に侵入する時,表面蛋白が蛋白分解酵素で修飾される必要がある。インフルエンザの場合はfurinなどが蛋白分解酵素に相当する。こうした研究動向は,国立感染研の竹田誠先生の総説(リンク)に詳しい。歴史的にはセンダイウイルスの頃より研究されていた。

 それではコロナウイルスではどうか? 

 それが受容体ACE2とTMPRSS2(Transmembrane protease, serine 2:その発現は前立腺と肺に高い,Wiki)であり(解説図),後者が蛋白分解酵素として報告されている(リンク)。

 このTMPRSS2阻害薬はGöttingen大学のグループも引用している日本からの論文(リンク)でNafamostat(フサン:Wiki)が,protease inhibitorとして有効と記載してある。結構着実な展開のある研究領域であることが理解できる。今回は,あるいは経口の錠剤としてoff label仕様の候補として「フォイパン(すでにgeneric薬が多数存在)」が示されたものらしい(Cell論文としてはqualityに問題あり)。

 一方で吸入喘息薬〔シクレソニド(オルベスコ)〕もコロナ感染治療に名前が挙がっている。患者数,死亡数が急速に増加する中,臨戦的臨床試験プロトコールでの臨床効果の確認が待たれる。


(貫和敏博)


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