" /> ピロトーシスによる抗腫瘍効果がICIと共に治療標的へ/COVID-19は季節性をもつのか |
呼吸臨床
VIEW
---
  PRINT
OUT

「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 89

公開日:2020.3.25


今週のジャーナル

Nature Vol. 579, No.7799(2020年3月19日)日本語版 英語版

Science Vol. 367, Issue #6484(2020年3月20日)英語版

NEJM Vol. 382, No.12(2020年3月19日)日本語版 英語版





Archive

ピロトーシスによる抗腫瘍効果がICIと共に治療標的へ/COVID-19は季節性をもつのか

•Nature

1)腫瘍免疫学 

ガスダーミンEは抗腫瘍免疫を活性化して腫瘍増殖を抑制する(Gasdermin E suppresses tumour growth by activating anti-tumour immunity
生体直交系から明らかにされたピロトーシスの抗腫瘍免疫機能(A bioorthogonal system reveals antitumour immune function of pyroptosis

 ピロトーシスは炎症型のプログラム細胞死で自然免疫応答の1つであり,インフラマソームのタンパク質であるガスダーミンDのカスパーゼによる切断によって引き起こされる(リンク)機序が明らかにされている。ガスダーミン蛋白質の切断によって形成される,ポア形成性アミノ末端断片のガスダーミンファミリーが特定されている。

 今回はハーバードの小児科グループから,加齢関連の家族性難聴で変異(リンク)がみられるガスダーミンE: Gasdermin E(GSDME)の抗腫瘍免疫に関連した研究成果が報告されている。このGSDMEはカスパーゼ3によって切断され,GSDME発現細胞では非炎症性アポトーシスからピロトーシスへの転換が起こる()。GSDMEの発現は多くのがんで抑制されており,GSDMEレベルの低下は乳癌による生存率低下と関連している。

 がん関連GSDME変異22例のうち,20例でGSDME機能の低下をみとめていた。そしてマウスにおいて,GSDMEを発現する腫瘍でGsdmeをノックアウトすると腫瘍増殖が亢進したが,Gsdmeが抑制された腫瘍でGSDMEを異所性に発現させると腫瘍増殖が阻害された。この腫瘍抑制には細胞傷害性リンパ球の関与があり,パーフォリン欠損マウスや細胞傷害性リンパ球の枯渇化したマウスではみられなかった。GSDMEの発現は,腫瘍関連マクロファージによる腫瘍細胞に対する貪食能を増強し,腫瘍に浸潤するナチュラルキラー細胞やCD8陽性Tリンパ球数の増加や機能亢進を引き起こしていた。細胞傷害性リンパ球のグランザイムBも,カスパーゼ3と同じ部位でGSDMEを直接切断することにより,標的細胞でカスパーゼ非依存的にピロトーシスを活性化する。切断やポア形成できないGSDMEタンパク質には腫瘍抑制機能がないため,腫瘍GSDMEはピロトーシスを活性化して抗腫瘍免疫を高めている()。


 さらに,同誌ではピロトーシス誘導性炎症がどのように抗腫瘍免疫に影響を及ぼしているのかを説明する,ひとつの生体直交型化学系(リンク)を確立したという北京大学グループの報告(リンク)も掲載されている。脱シリル化を基盤とする,フェニルアラニントリフルオロ酸に基づく系で,免疫チェックポイント阻害と相乗的に作用し得る化学生物学的手法であると説明している。


•Science

1)FEATURE: Sick time

数十もの病気は季節と共に衰退していく,コロナはどうでしょうか?(Dozens of diseases wax and wane with the seasons. Will COVID-19?

 ウイルス感染症と季節性との関連はあるが,必ずしも全てのウイルスに,また全ての環境に適合するわけではない。ただ季節という因子が整理されているので紹介する()。

 現在,世界中で40万人以上(3月25日現在)が感染しているCOVID-19は,季節と共に衰退していくのだろうか? 厚労省専門家会議において季節の影響があれば,今後数週間でCOVID-19が衰退していく可能性,いや期待をもつという意見もでていたが,なんの根拠もない。

一部のウイルス感染症では,緯度に応じて異なる季節ピークはあるが,多くの感染症では季節的なサイクルはない。米国疾病対策予防センターのナンシー・メッソニエ氏は,まだ米国で感染拡大が起きる前の2月12日の記者会見で,「私はその仮説(COVID-19が季節の変化に影響する)を解釈しすぎることを警告します」と,そう述べていた。

 よく知られているウイルス感染症で季節性疾患の場合でも,それらがなぜ衰弱するのかわかってはいない。たとえば,インフルエンザは,湿度,温度,人々の距離が近づいていること,食事やビタミンDレベルの変化(日光に浴びることに関連)などの要因により,冬に流行する可能性がある。人間の免疫システムは季節によって変化し,私たちの体が経験する光の量に基づいて,さまざまな感染症に対してより耐性または感受性を増す可能性がある。赤道地域を除き,RSウイルスは冬の病気とされるが,チキンポックスウイルスは春を好む。ロタウイルスは,米国南西部では12月または1月にピークに達し,北東部では4月と5月にピークとなる。性器ヘルペスは春と夏に全国で急増し,破傷風は真夏を好む。百日咳は6月から10月にかけて発生率が高く,梅毒は中国の冬は多く,7月には腸チフスが急増する。C型肝炎は,インドでは冬にピークに達し,エジプト,中国,メキシコでは春または夏にピークを迎える。乾季は,ナイジェリアのギニアワーム病とラッサ熱,およびブラジルのA型肝炎に関連する。そして,アフリカの睡眠病,チクングニア,デング熱,など,雨季に繁殖する昆虫によって広がる病気について理解しやすい。

 また,エンベロープを備えたウイルスはより脆弱であると言われている。そのため,環境に弱く,エンベロープをもつウイルスは非常に明確な季節性をもつ。RSウイルスとヒトメタニューモウイルスの両方は,インフルエンザのようなエンベロープを持ち,冬の間はピークに達する。感冒の原因として最も知られているライノウイルスは,エンベロープを欠いており,1年のうち84.7%の呼吸器サンプルでライノウイルスがみつかり,子供が夏休みと春休みから学校に戻ったときにピークになる。アデノウイルスもエンベロープを欠いており,同様の季節性のないパターンである。インフルエンザとRSウイルスは両方とも,24時間にわたる相対湿度の変化が平均よりも低い場合(25%の差)に安定していて,湿度が急激に変化すると,脂質エンベロープに脆弱性が生じる。インフルエンザウイルスにとって最も重要なのは,相対湿度ではなく,絶対湿度(所定量の空気中の水蒸気の総量)で,絶対湿度の低下は,相対湿度や温度よりもインフルエンザの流行の始まりに大きく関連している。しかし,絶対湿度の低下が一部のウイルスを有利にする理由は不明である。

 絶対湿度と相対湿度が上昇する春と夏に,エンベロープのあるSARS-CoV-2は壊れやすいと証明できるのか? このウイルスは,温かく湿気の多い気候で明確に伝染する可能性をもち,すでにシンガポールでも240例以上の感染者が存在している。中国全土の19の省に分布するCOVID-19を調査では,寒くて乾燥している地域だけではなく熱帯地域にまで感染者は存在していた。また平均気温が5°Cから11°Cで相対湿度が47%から70%と,かなり幅広い環境変化でも感染者がいたことも注目すべきである。今のところ,湿度の上昇,長い日照時間,または予想外の季節的な影響がCOVID-19を衰退させられるか,もしくは季節的な影響なしでパンデミックに立ち向かわなければならないかどうか,まだ誰もわからない。


•NEJM

1)Original Article : 人工呼吸管理 

人工呼吸管理中の重症患者における無鎮静と浅い鎮静との比較(Nonsedation or light sedation in critically ill, mechanically ventilated patients

 人工呼吸管理中の重症患者において,予後を改善させるために,浅い鎮静で管理することが望ましいとされてきた。そして浅い鎮静の持続よりも鎮静中断を設けた治療が,人工呼吸器装着期間やICU在室期間を短縮させることが報告されてきた。そのため,本研究では人工呼吸導入後から無鎮静での治療計画(無鎮静群)の有用性について検証している。

 多施設共同無作為比較試験で,挿管管理の24時間以内に無鎮静群と浅い鎮静群(鎮静中断を設けている)に1:1で割り付けている。主要評価項目は90日死亡率で,副次評価項目は重大な血栓塞栓イベント数,昏睡またはせん妄状態でなかった日数,重症度別の急性腎障害,28日間でのICU滞在日数や人工呼吸器非装着日数などとしている。

 710例が無作為化され,700例が修正intention-to-treat解析の対象(無鎮静群349例,浅い鎮静群351例)となった。対象者の約40%は肺炎・ARDS症例であった。90日死亡率は無賃星群42.4%, 浅い鎮静群37%で有意差はない。ICU滞在日数や人工呼吸器非装着日数には2群間に差はなく,昏睡またはせん妄状態でなかったに日数も差がなかった。重大な血栓塞栓イベントは無鎮静群1例(0.3%),浅い鎮静群10例(2.8%)であった。

 本研究では無鎮静群で90日以内の死亡率には有意差はみられていない。実際に無鎮静群でもモルヒネの一時的な静注が用いられており平均0.0073mg/kg/body使用されていた。この投与量は浅い鎮静群でのモルヒネ追加使用量と差はない。また有意差はないが無鎮静群では1時間以内に再挿管を要する自己抜管例が4例みとめていた。近年の標準的治療方針になっている浅い鎮静(鎮静中断も設けた)による管理が望ましいという理解でよいであろう。


(石井晴之)


※500文字以内で書いてください