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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 91

公開日:2020.4.8


今週のジャーナル

Nature Vol. 580, No.7801(2020年4月2日)日本語版 英語版

Science Vol. 368, Issue #6486(2020年4月3日)英語版

NEJM Vol. 382, No.14(2020年4月2日)日本語版 英語版





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COVID-19の猛威継続,3Dスフェロイド培養におけるCRISPRがん遺伝子スクリーニング

•Nature

 今週号のNatureでは冒頭のEditorialsの2つの記事の1つやNewsの7つの記事のうち6つが,現在世界中で大問題となっている「COVID-19関連の話題」になっている。そのタイトルを読むだけで臨床だけでなく政治や研究に対する様々な影響やメッセージについて知ることができるので列挙する。

1)Editorials
▶︎各国の指導者たちは,全てを投げ打ち一丸となってCOVID-19と闘っている科学者たちの姿勢を見習うべきだ(Researchers: show world leaders how to behave in a crisis. Scientists are teaming up to fight COVID-19. Presidents and prime ministers should, too

2)News

▶︎COVID-19の拡大で,他の病気の研究や治療薬の臨床試験が中断の憂き目に(Coronavirus shuts down trials of drugs for multiple other diseases


▶︎健常ボランティアへのSARS-CoV-2接種によるワクチン開発を提言している米国ラトガース大学のNir Eyalに話を訊いた(Should scientists infect healthy people with the coronavirus to test vaccines?


▶︎ダイヤモンド・プリンセス号で得られたデータから,SARS-CoV-2の挙動に関する貴重な知見が(What the cruise-ship outbreaks reveal about COVID-19


▶︎COVID-19による都市封鎖の影響で,実験動物をどうするか,研究者たちが苦慮を(Cull, release or bring them home: Coronavirus crisis forces hard decisions for labs with animals


3)がん

がんスフェロイドでのCRISPRスクリーニングで見つかった3D増殖特異的な脆弱性(CRISPR screens in cancer spheroids identify 3D growth-specific vulnerabilities

 全遺伝子を網羅するようなゲノム規模のCRISPR(clustered regularly interspaced short palindromic repeat,Wiki )ゲノム編集技術(Wiki)によるスクリーニングによって多くのドライバー遺伝子が調べられている。米国ブロード研究所(Broad Institute)と英国サンガー研究所(Wellcome Sanger Institute)が中心となってDepMap(the Cancer Dependency Map)という,がん細胞の増殖成長のために依存している遺伝子のデータベースが公表されている(リンク)。
 今回の米国スタンフォード大学からの研究では,がん細胞の培養方法において,通常の細胞培養(2D単層)と3次元(3D)でのスフェロイド培養でのCRISPRスクリーニングの結果に違いがあることを初めに示している(図1cがわかりやすい)。ちなみにこのCRISPRスクリーニングでは,21,000の遺伝子を各々10個ずつの鋳型となるsgRNA(single-guide RNA,Wiki)(計~210,000 sgRNA)によって発現低下させた際の細胞の表現型をみて調べ上げている(ネガティブコントロールとして13,500 sgRNAを使用)。その結果,肺癌細胞株の3DでのCRISPR表現型はin vivoの腫瘍の表現型をより正確に再現し,2D状態と3D状態の間で感受性の異なる遺伝子は,肺がんで変異している遺伝子に集中的に見られることが明らかとなった。すなわち,3Dおよびin vivoでのがん増殖には必須だが,2Dでの増殖には必須ではないドライバー遺伝子が明らかになった。
 さらに,本研究ではカルボキシペプチダーゼD(carboxypeptidase D)が,インスリン様増殖因子1受容体(insulin-like growth factor 1 receptor)α鎖からのC末端RKRRモチーフの除去(この除去は受容体の活性に必須)を担っていることを見いだした。このカルボキシペプチダーゼDの発現は肺がん患者の臨床転帰と相関しており,カルボキシペプチダーゼDを喪失させると腫瘍増殖が低下した。これらの結果は,がんの2Dモデルと3Dモデルの間の重要な違いを明らかにしており,3Dモデルであるスフェロイド培養においてCRISPRスクリーニングを行うことによって,がんの脆弱性を調べることの有用性を示している。

•Science

1)がん

システインの欠乏はマウスの膵臓癌モデルにフェロトーシスを引き起こす(Cysteine depletion induces pancreatic tumor ferroptosis in mice

 特定のアミノ酸を標的にした癌治療の研究については,以前に「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 73でグルタミン阻害による抗腫瘍効果について報告しているが,今回はシステインを標的とした抗腫瘍効果の研究である。
 アポトーシス(apoptosis)以外にも,ネクロトーシス(necroptosis),パイロトーシス(pyroptosis),フェロトーシス(ferroptosis)など,さまざまな異なる形態の細胞死が報告され,非アポトーシス性細胞死(non-apoptotic cell death)と呼ばれており,癌の病態研究や治療の標的としても重要である。フェロトーシスは,鉄が関与する細胞死で,脂質活性酸素種(Reactive oxygen species:ROS)の産生蓄積の結果として生じる(図1)。生体内の主要な抗酸化作用をもつグルタチオン(glutathione:GSH)は,グルタミン酸,システイン,グリシンが,この順番でペプチド結合したものである。癌細胞においては発癌シグナルによって亢進する脂質ROSとシステイン由来のグルタチオンやコエンザイムAなどとのバランスによって均衡が保たれている。
 米国ニューヨークのコロンビア大学からの本研究では,膵管癌では酸化システインであるシスチン(システインがジスルフィド結合で2個結合したもの)のトランスポータであるシスチン/グルタミン酸トランスポーターのsystem xc-(遺伝子はSlc7a11)(図1)によってシステインを細胞内に取り込むことが細胞の生存に必要であることが明らかとなった。膵癌モデルマウスにおいて,Slc7a11の遺伝子欠損させたり,シスチンやシステインを分解する薬剤〔cyst(e)inase〕の投与によって,膵管癌をフェロトーシスに陥らせることに成功している。すなわち,膵管癌のような細胞死のフェロトーシスから生き残るのにシステイン代謝物に依存しているタイプの癌においては,シスチンのトランスポーターやシステイン自体が治療標的となりうることを示しており,今後の研究の発展に期待したい。

•NEJM

1)感染症

米国の入院患者における多剤耐性菌感染症,2012~17 年(Multidrug-resistant bacterial infections in U.S. hospitalized patients, 2012–2017

 米国CDCによる米国の入院患者における多剤耐性菌感染症の大規模なデータが発表された。米国の890 の病院で 2012~17 年に入院した患者のデータを用いて,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),バンコマイシン耐性腸球菌(VRE),基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生を示唆する腸内細菌科細菌の広域セファロスポリン耐性,カルバペネム耐性腸内細菌科細菌,カルバペネム耐性アシネトバクター属菌,MDR 緑膿菌について症例数を推計している。
 入院件数は4,160 万件で米国の年間入院件数の 20%超に相当し,全体的な臨床培養実施率は 1,000 患者日あたり 292 件であり,研究期間中は一定であった。2017 年に入院患者における上記の病原菌による感染は 622,390 件と推定され,517,818 件(83%)は市中で発生し,104,572 件(17%)は院内で発生した。MRSA 感染症(52%)と ESBL 感染症(32%)が大部分を占めている。6年間で,MRSA ,VRE,カルバペネム耐性アシネトバクター属菌感染症,MDR 緑膿菌による感染症は -20.5%~-39.2%の範囲で低下していた。カルバペネム耐性腸内細菌科細菌感染症の発生率に有意な変化は認められなかったが,ESBL 感染症の発生率は 53.3%上昇していた(図1)。医療関連の抗菌薬耐性は依然として大きな問題となっており更なる対策が必要である。


(鈴木拓児)


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