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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 92

公開日:2020.4.15


今週のジャーナル

Nature Vol. 580, No.7802(2020年4月9日)日本語版 英語版

Science Vol. 368, Issue #6487(2020年4月10日)英語版

NEJM Vol. 382, No.15(2020年4月9日)日本語版 英語版





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COVID19重症例に対するレムデシビルの効果は?/リキッドバイオプシーによる肺癌の早期診断へ一歩前進

•Nature

1)腫瘍遺伝学 

ゲノム特性を集約して非侵襲的に肺癌を早期に検出する(Integrating genomic features for non-invasive early lung cancer detection

 肺癌の早期診断について,画像診断の観点からは,ハイリスク群に対して毎年の低線量CTが米国では推奨されているが(リンク),偽陽性やコンプライアンスの低さなどの課題があり,血液を用いた評価法が期待されている。これまでリキッドバイオプシーによる検査は,EGFR変異の検出や小細胞肺癌の化学療法耐性化評価のように進行肺癌に対して行われてきたが,早期発見の目的では使用されてこなかった。


 スタンフォード大学を中心とした今回のグループは,以前に報告しているリキッドバイオプシーの手法 cancer personalized profiling by deep sequencing (CAPP-Seq)を主に3つの点で改良し,より高い感度・特異度を得ることに成功した。この3つの改良点は,Figure 1aに示されている(①ライブラリー調整の段階で対立する2本の遺伝子ともにバーコードを付けて読み間違いを減らした,②抗酸化物質を用いてプローブを標的遺伝子にキャプチャーさせる効率を上げた,③①のバーコードを用いたシークエンスで解析エラーを減らした,というもの)。シークエンスは肺癌で変異が認められやすい255遺伝子に対して行われた(Table1)。この改良版CAPP-Seqでは,肺癌患者のそれぞれの病期(Stage I, II, III)において42%, 67%, 88%の割合で変異の検出が可能であった。画像的には,限局性すりガラス陰影を呈する症例は陽性率が低く,壊死を伴う陰影を呈する症例では陽性率が高かった。


 リキッドバイオプシーによる早期発見においてもう一つハードルとなるのが,加齢に伴い認められるクローン性造血である(以前のTJH No.90でも取り上げているので是非ご参照いただきたい)。健常な高齢者でも造血器腫瘍と同じような遺伝子変異を有するクローン性造血が認められることが明らかとなり,非腫瘍性の造血細胞からも変異陽性のcfDNA(cell free DNA)が放出されることになるため,肺癌由来かクローン性造血由来かの判断が困難であった。


 著者たちは,さらに診断率を改善させるため,同一患者の血球で認められる変異(クローン性造血に伴う変異)を考慮した方法として機械学習を用いた解析Lung-CLiP(Figure 3a )を取り入れた。その結果,組織確定症例のコホートで行われたリキッドバイオプシーの結果と,感度・特異度ともに遜色ない結果を得ることが可能となった。また特異度をやや抑えて80%とした場合,肺癌患者のそれぞれの病期(Stage I, II, III)における変異の検出率は63%, 69%, 75% まで改善した。さらに,Lung-CLiPの陽性率はFDG-PETの取り込みがある腫瘍容量(metabolic tumor volume)に強く相関することが分かり,臨床的な有用性が裏付けられたとも考えられる。

 リキッドバイオプシーによる肺癌検診が実現可能なレベルに迫っているのかもしれない。


•Science

 COVID19関連の記事は特集でまとめられており,新しい記事が随時追加されている(リンク)。


1)細菌学・免疫学 

樹状細胞から分泌されるへプシジンが腸内細菌叢への鉄イオン曝露を阻害し,粘膜修復を促進する(Dendritic cell–derived hepcidin sequesters iron from the microbiota to promote mucosal healing

 全身の鉄バランスは,肝臓・消化管・赤血球・マクロファージの間のやり取りによって維持されているが(),消化器疾患においては潰瘍などからの出血や炎症性疾患などによって鉄バランスの破綻がしばしば経験される。へプシジン(hepcidin)は鉄バランスのマスターレギュレーターとして機能することが知られており,肝臓から産生されるへプシジンの役割がこれまで主に研究されてきた()。

 コーネル大学のグループは,へプシジンが肝臓だけでなく,腸内細菌叢からの刺激によって,腸管粘膜固有層の2型樹状細胞(conventional DC2)からも分泌されることを明らかにした。マウスにDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)を投与して腸炎のモデルを作成したところ,粘膜固有層の2型樹状細胞がペプシジンを分泌し,その結果,鉄トランスポーターであるフェロポーチンの発現がマクロファージや好中球で低下することが分かった。フェロポーチンは,赤血球を貪食したマクロファージや好中球が,ヘムに結合していない遊離型の鉄イオンを細胞外に放出する際の通り道となっており,樹状細胞由来のへプシジンが作用することで,腸管内へ放出される遊離型の鉄イオンが減少する。その結果,腸内細菌叢の腸管内へ浸潤が抑制されると同時に,細菌叢のバランスが変化し,粘膜修復を促すBifidobacterium(ビフィズス菌)の割合が相対的に増加する。以上のメカニズムによって樹状細胞由来のへプシジンが腸管粘膜の修復を促進していることを明らかにしている。研究内容の要約がPERSPECTIVEでも紹介されている()。

 へプシジンやその類似化合物が,腸管炎症性疾患の治療や糞便移植との併用薬として応用できる可能性が期待される。




•NEJM

1)感染症学 

COVID19の重症例に対するレムデシビルの特殊使用試験(Compassionate use of remdesivir for patients with severe Covid-19

 レムデシビルは,ヌクレオチドアナログのプロドラッグで,エボラ出血熱及びマールブルグウイルス感染症の治療薬としてギリアド・サイエンシズが開発した抗ウイルス薬である。この試験に関連するスライドを国立国際医療研究センターの大曲先生が公開している(リンク)。

 2020年1月25日から3月7日の間に,酸素飽和度が94%以下(room airか酸素投与下で)の患者に対して,レムデシビルを10日間(初日200mg,以降100mg)点滴で投与された。61名が1回以上の投与を受けたが,8名は解析が完了できず,53名分のデータが報告されている。患者の内訳はアメリカ22名,ヨーロッパ・カナダ22名,日本9名。53名のうち30名が人工呼吸器装着(57%),4名がECMO装着(8%)していた。観察期間の中央値は18日間で,36名(68%)は酸素化の改善を認めた。人工呼吸器を装着していた30名のうち17名(57%)が抜管した。25名(47%)が退院,7名(13%)が死亡した。

 個々の患者の臨床経過についてはFigure2に記載があり,70歳以上の高齢,人工呼吸器装着例では改善率が低いことが示されている()。

 COVID19重症例を対象とした治療効果の検討であり,現在進行中のランダム化試験の結果が待たれる。


(小山正平)


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