" /> 地球温暖化による生態系の破滅は地域全体で突然一気に起こる/抗腫瘍効果と抗炎症効果の二兎を追うBET阻害薬 |
呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 94

公開日:2020.4.29


今週のジャーナル

Nature Vol. 580, No.7804(2020年4月23日)日本語版 英語版

Science Vol. 368, Issue #6489(2020年4月24日)英語版

NEJM Vol. 382, No.17(2020年4月23日)日本語版 英語版





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地球温暖化による生態系の破滅は地域全体で突然一気に起こる/抗腫瘍効果と抗炎症効果の二兎を追うBET阻害薬

•Nature

1)生態学:Article 

気候変動による突然の生態系崩壊の予測されるタイミング(The projected timing of abrupt ecological disruption from climate change

 地球温暖化によって気温は年々徐々に上昇している。本論文では「生態系においては,この気候変動に順応できない生物種が一つずつ徐々に減っていくわけではなく,その地域に生息している生物種すべてが一気に生存の危機に曝され,その地域の生物学的多様性は突然失われる」と予測している(図1参照)。

 気候変動が生態系に及ぼす影響は,これまで多くの研究によって調べられてきた。しかしその多くは,様々な生物種の地理的分布が将来のある時点でどのように変化しているか,という視点であり,これからの時間軸に沿った連続的な視点に欠けていた。そこで今回University College Londonのグループは,30,000種類の生物種の生息域地理データと,1850年から2005年にかけて各生物種が経験した年間平均気温の最高値から,それぞれの地域において生物種が今後いつ未経験の気温に曝されるのかを予測した。地球上を10キロ四方の地域に分けて解析したところ,赤道付近の生態系が気候変動の影響を最も劇的に受けることがわかった。最も気温上昇が高いシナリオで今後推移したとすると,アマゾンでは2040年代の数年間で一気にすべての生物種が危機に瀕する,という予測である。

 ちなみに,このNature誌に掲載されている論文のタイトルをいくつかググってみたところ,本論文のヒット数は飛び抜けて多く(ヒット数の少ない論文の100倍以上),社会的な関心を集めている論文と思われる。


•Science

1)腫瘍学:Research Article 

BET蛋白質の2つのブロモドメインを選択的に標的とすることにより腫瘍や炎症を抑制する(Selective targeting of BD1 and BD2 of the BET proteins in cancer and immunoinflammation

 BET蛋白質は,そのブロモドメインを介してヒストンN末端のアセチル化リジンに結合し,転写調節の蛋白複合体と協調して転写伸長を促している(Perspectiveの概略図参照)。そこでBET蛋白質は,エピジェネティックなクロマチン情報を「read(解読)」して,転写調節につなぐ「reader」とも呼ばれている。本論文では,BET蛋白質のブロモドメインが2つ(BD1とBD2)タンデムに並んでいることに着目し,それぞれのブロモドメインを標的とする化合物を合成した。その結果,BD1阻害薬は抗腫瘍効果を,BD2阻害薬は抗炎症効果を発揮することがわかった。なおBET蛋白質は4つの蛋白質からなるファミリーで,胚細胞に発現するBRDT,遍在的に発現するBRD2・BRD3・BRD4からなる。

 BET蛋白質は「クロマチン情報を転写伸長につなぐ」という普遍的な細胞機能を担っているものの,すべての遺伝子の転写伸長に関与しているわけではない。BET蛋白質は,ハウスキーピング遺伝子ではなく,各細胞系譜で細胞の特性を左右するような遺伝子群(文献)や,炎症性機序で誘導される遺伝子群(サイトカインなど,文献)の転写伸長に関与している。前者の細胞系譜に関わる遺伝子群の中には,がん遺伝子c-MYCも含まれ,BET阻害薬の臨床応用が主にがん治療の分野で試みられている。ただしこれまで用いられてきたBET阻害薬は,BD1とBD2,両方のブロモドメインを抑える汎BET阻害薬であることから,BD1とBD2の生物学的機能にどのような違いがあるのか,はよくわかっていなかった。

 そこで今回,豪州メルボルンのPeter MacCallum Cancer Centreのグループは,BD1とBD2,それぞれのアセチル化リジン結合能を阻害する化合物を合成することに成功した。その結果,「各細胞系譜で細胞の特性を左右するような遺伝子群」の転写伸長にはBD1が,「炎症性機序で誘導される遺伝子群」の転写伸長にはBD1とBD2の両方が必要であることがわかった。すなわち,がんモデルではBD1阻害薬は汎BET阻害薬と同様の抗腫瘍効果を示した。一方,炎症や自己免疫疾患モデルでは,BD2阻害薬が圧倒的な抗炎症効果を示した(図4参照)。

 エピジェネティクスを臨床応用する薬剤として,また抗腫瘍効果と抗炎症効果の二兎を選択的に追える薬剤として,BET阻害薬の期待が高まる報告である。


•NEJM

1)循環器:Original Article 

癌患者の静脈血栓塞栓症に対するアピキサバン(Apixaban for the treatment of venous thromboembolism associated with cancer

 がん関連血栓塞栓症では,静脈血栓塞栓症の再発や出血のリスクが高いことが知られている。今回のCaravaggio試験では,がん関連血栓塞栓症に対する,直接型経口抗凝固薬(DOAC)のアピキサバン(商品名:エリキュース)の効果と安全性を無作為化非盲検非劣性試験で検討した。対照薬は低分子ヘパリンであるダルテパリンの皮下投与である。その結果,静脈血栓塞栓症の再発において,アピキサバンの経口投与はダルテパリンの皮下投与に対する有意な非劣性を示し(ハザード比 0.63,95%CI 0.37-1.07),大出血のリスクを上昇させることはなかった(ハザード比 0.82,95% CI 0.40-1.69)。

 同様の研究は,エドキサバン(商品名:リクシアナ)やリバーロキサバン(商品名:イグザレルト)でも行われている。いずれのDOACでも,静脈血栓塞栓症の再発抑制が示されている。一方,大出血のリスクについては,エドキサバンでもリバーロキサバンでも,対照薬のダルテパリンより上昇することが示されている。ただし,今回のCaravaggio試験には,エドキサバンやリバーロキサバンの試験では入っていた脳腫瘍や脳転移の症例が含まれていない。がん関連血栓塞栓症にアピキサバンを用いた場合に,エドキサバンやリバーロキサバンに比して,大出血のリスクが低いかどうかは,今回のCaravaggio試験だけでは判断が難しいと思われる。


2)呼吸器:Original Articles

電子たばこ関連肺傷害に関連する入院と死亡(Hospitalizations and deaths associated with EVALI

 2020 年1月7日まで米国疾病管理予防センター(CDC)に登録された電子たばこ関連肺傷害(EVALI)の入院症例 2,558 例(うち死亡例は60例)の報告である。致死的症例と非致死的症例に白人が占める割合は,それぞれ 80%と61%と高かった。また,35 歳以上が占める割合は,致死的症例では73%だったのに対し,非致死的症例では22%であった。致死的症例では非致死的症例よりも高い割合で喘息,心疾患,精神疾患を有していた。まとめてみると「基礎疾患を有する白人の中高年」が重症EVALIの典型的な患者像と思われる。


(TK)


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