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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 95

公開日:2020.5.13


今週のジャーナル

Nature Vol. 581, No.7806(2020年5月7日)日本語版 英語版

Science Vol. 368, Issue #6491(2020年5月8日)英語版

NEJM Vol. 382, No.19(2020年5月7日)日本語版 英語版





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世界規模でのワクチン接種の意義とは/COVID-19に対するカレトラ®の結論

 連休明けから確実にCOVID-19感染者数の減少がみられています。外出自粛効果はもちろんですが,気候の変化もあるのでしょうか。5月に入って東京都では1日の平均気温や平均湿度が急激に上昇しています(リンク)。本年3月25日投稿(No. 89) に掲載したCOVID-19は季節性をもつか,という記事を今再び見ると1ヶ月半前のことだが感慨深い。
 今週もCOVID-19関連記事は満載だが,COVID-19感染拡大防御に重要となる治療薬やワクチン開発が待たれる。4月28日NatureにもCOVID-19に対するワクチン開発に向けての記事(リンク)が紹介されており,今回はワクチン関連の記事に注目してみた。

•Nature

1)疫学 
低・中所得国での小児へのワクチンと抗菌薬の使用(Childhood vaccines and antibiotic use in low- and middle-income countries
 米国カルフォルニア州立大学バークレー校の疫学研究者らによる報告である。彼らは全米の肺炎球菌,溶連菌,また流行性耳下腺炎など多岐にわたる感染症調査を行い,COVID-19における感染防御などについても研究報告がある。
(バークレー校のキャンパス内で当教室員と撮影)

 ワクチンの効果は感染症発症予防だけではなく,感染症治療で抗菌薬の使用頻度が高まることによる薬剤耐性への寄与も考えられている。先進国ではこれらの問題をクローズアップしているが,感染症発症やそれに伴う抗菌薬消費量が多い低・中所得国(low-and middle-income countries:LMIC)での影響を,本研究で明らかにしている。
 ワクチンはWHOの予防接種拡大計画で接種履行されているが,LMICの5歳以下の小児における抗菌薬消費量を大きく減少させることができるのだろうか? LMICでは24〜59カ月までの小児で急性呼吸器感染症(acute respiratory infection:ARI)発症は,毎年100人あたり89.5〜194.8エピソード(そのうち30〜69%で抗菌薬使用)あり,また0〜23歳までの小児で下痢症状は,毎年100人あたり297.5〜658.4エピソード(そのうち7.7〜37.7%が抗菌薬使用)と推定される。これらの推定値は,77カ国の944,173人の子供からなる人口統計調査と複数指標クラスター調査の分析,およびすべてのLMICの405の健康,栄養,および人口指標に基づいて算出した,複数の大規模家族研究の解析である。
 研究結果として,肺炎球菌結合型ワクチンは19.7% (95%CI:3.4−43.4%)を,弱毒生ロタウイルスワクチンは11.4% (95%CI:4−18.6%)の防御している効果があると結論づけている。これは,現在の予防接種率で考えると,LMICの5歳以下の小児では肺炎球菌結合型ワクチンは毎年2,380万例を,そして弱毒生ロタウイルスワクチンは毎年1,360万例に対して抗菌薬の使用を防ぐことになる。ARIと下痢の発生率の推定値は,GDP(Gross Domestic Product)による国別で評価すると大きな差があり,最貧国で最も高く裕福な国ほど低い傾向がある()。
 このように,LMICにおいて4,000万例もの抗菌薬使用を防げる可能性があり,抗菌薬体制と闘う世界戦略の中で,これらのワクチン接種の優先順位が高いことを示唆する結果であった。

•Science

1)総説:ワクチン 
新生児の免疫力を高めるためのワクチン戦略(Vaccination strategies to enhance immunity in neonates
 新生児は特に感染症に罹患しやすく,多くのワクチンの反応性にもかかわらず発症することが危惧されている。日本においては,子供のVaccine Preventable Diseaseは明示さられており,2カ月児にワクチンデビューとして,不活化ワクチンであるB型肝炎ウイルス,ヒブ(ヘモフィルス・インフルエンザ菌b型感染症),小児用肺炎球菌,そして生ワクチンであるロタウイルス(任意)が予防接種スケジュールとして提示されている(リンク)。
 サハラ以南のアフリカでは生後1カ月以内に黄色ブドウ球菌感染やクレブシエラ菌感染が多いが,その2菌種を含め接種できているワクチン接種はされてなく,南アフリカや東南アジアにおいても生後早期の新生児における重症感染症への対応ができていないのが現状である(Fig.1)。
 生後5〜6カ月までは母親からの免疫により感染防御されていると考えられているが,母親から胎児に移行する免疫力が生後の重症感染症に対して十分に備わっていない状況では複合的なワクチン接種により免疫力を高める必要がある。特に低・中所得国では5歳以下での死亡の半数は新生時期であり,その原因の大部分は感染症である。
 これらの問題を解決させるために,妊娠中に女性にワクチン接種して胎児に垂直に転送される母体免疫の抗体を高め,かつ出生後の新生児期にワクチン接種による自然免疫活性化による非特異的な免疫誘発そして病原体特異的免疫も誘発させる,というワクチン戦略で新生児期の免疫防御機構を高めて感染症予防を高めていく治療研究を進めることが説明されている(Fig.2)。

•NEJM

1)感染症 
成人Covid-19重症例におけるロピナビル・リトナビルの臨床試験(A trial of Lopinavir-Ritonavir in adult hospitalized with severe Covid-19
 わが国において,Covid-19感染症の治療が大きく取り上げるようになったのは,2020年2月のダイヤモンドプリンセス号からの重症者搬送からである。そして2月中旬から主要都市部での経路不明市中感染の重症者も増加し,中国武漢での有効報告があったLopinavir-Ritonavir(カレトラ®)を本邦でも急に使用し始めた。しかし,私の施設も含めて期待していたほどの効果はみられなかった。
 本論文は,Covid-19に対するカレトラによる治療が有効性を示さなかったとして3月18日にオンライン版で報告されている。重症Covid-19(室内気SpO2 94%以下,もしくはPaO2/FiO2<300)に対して1:1の割付で行われた無作為化比較非盲検試験であり,主要評価項目は,臨床的改善までの期間と,7項目の順列尺度での2ポイント改善または退院までの期間,であった。
 99例がカレトラ群,100例が標準治療群で,主要評価項目には有意差なく,28日死亡率や治療後のウイルスRNA検出においても両群で有意差はなし。カレトラ群では消化器系有害事象は多く,13例で早期中止となっており,カレトラの有効性は示せる結果とはいえない。この臨床試験では両群とも約9割が酸素投与されていたが,NPPV(非侵襲的人工呼吸器)もしくはHFNC(高流量鼻カニューラ)による酸素療法は15%前後で人工心肺ECMO使用はカレトラ群の1例のみという対象者である。つまり中等症も含まれていたが,集中治療室期間の延長,また死亡率の改善はみられず,咽頭からのウイルス量も標準治療群より有意な減少はみられていない。発症12日以内にカレトラ服用した例はわずかに臨床効果が得られており早期に投与すれば有効性が得られる可能性はあるとしているが,Covid-19診療している多くの日本人臨床医は期待できる薬剤とは思っていないであろう。

・COVID-19に対する薬剤治療の考え方第2版(日本感染症学会)(リンク)においてカレトラは,ファビピラビル,レムデシビル,シクレソニド,に次ぐ4番目として記載はある。

・Nature本号に貫和先生お薦めのCOVID-19関連NEWSがあります。ウイルスがどのように動作するのか,次に何をするのか,などわかりやすく説明されています。ウイルスはヒトに持続的に適応できるよう時間と共に変化していくため,のちに致命的ではなくなり上気道炎という軽症で感染が拡大するようになるであろうと推測している。現在,COVID-19の再感染者の重症化はあまり話題にならず,これまでのパンデミックを起こした病原体が時間経過で消息していったことからも納得できる内容である。

(石井晴之)

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