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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 98

公開日:2020.6.3


今週のジャーナル

Nature Vol. 581, No.7809(2020年5月28日)日本語版 英語版

Science Vol. 368, Issue #6494(2020年5月29日)英語版

NEJM Vol. 382, No.22(2020年5月28日)日本語版 英語版







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無症状・軽症のCOVID-19においても上気道からの盛んなウイルス排出が証明されたグランザイムAによる新たなピロトーシス誘導のメカニズム

•Nature

1)疫学・感染症学 

入院したCOVID-19患者のウイルス学的評価(Virological assessment of hospitalized patients with COVID-2019

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では,先週No.97でも取り上げたように,主に肺や血管内皮を病態の主座として重症化する一群が報告されている一方で,軽い上気道症状や嗅覚・味覚障害を主訴として,病状としては軽症で保たれる一群が報告されているのは,皆様も実感されているところである。今回ドイツの研究グループから,上気道組織でウイルスが活発に増殖していた,症状としては軽症の9症例について,ウイルス量,血清抗体価などを含む臨床経過に関して報告されている。ウイルス排出に関しては,咽頭・鼻腔・喀痰・便においてウイルスのRNAコピー数が評価され,抗体価については,血清のIgM・IgGおよびPRNT(50%と90%のウイルスプラーク減少中和テスト:端的には,どれ位中和できるかのスコア)が評価されている。


 ウイルスの排出は,症状の出現から1週間目に非常に盛んに認められ,4~5日にピークに達していた。5日までに回収したすべてのスワブから検出されたウイルスRNAの平均は6.76×105コピーで,最大値は7.11×108コピーに及んだ。感染性をもつウイルスは,気道から採取された検体から容易に単離できたが,糞便検体からは,ウイルスRNAの濃度は高いにもかかわらず感染性を維持したウイルスは単離できなかった。また血液や尿からも感染性のウイルスは単離されなかった()。喀痰のウイルスRNAは,症状が消失してからも持続した。セロコンバージョン(茶色)は,患者の50%で7日目以降に起こり,14日目までにはすべての患者で確認された。しかしながら,セロコンバージョンが生じてからもウイルス量が急激に低下することはなかった()。


 今回の軽症の上気道感染()としての臨床症状を呈したCOVID-19の9例の検討から,この様な症例は,発症1週間までにかなり大量のウイルスが上気道で複製されることがわかった。症状が消失しても,ウイルス排出が継続していることも注意すべき点である。ウイルスの封じ込めが難しいという現実と,軽症患者から容易にクラスターが発生することの科学的背景が示されたと言える。


2)その他 
 今週は,ゲノムデータを集約したデータベースGenome Aggregation Database(gnom AD)に,約14万人規模のヒトの遺伝的バリアントの情報が公開された。合計で4つの解析論文が報告されている。


•Science

1)免疫学 

細胞傷害性T細胞から産生されるグランザイムAが標的となるがん細胞のガスダーミンBの分割を介してピロトーシスを誘導する(Granzyme A from cytotoxic lymphocytes cleaves GSDMB to trigger pyroptosis in target cells

 抗腫瘍活性のメインプレイヤーとして機能する分泌因子(パーフォリン,グランザイム)や免疫原性の高い細胞死(ピロトーシス)に関してはこれまでにもNo.89No.97でも取り上げてきた。

 今回の論文は,ナチュラルキラー細胞および細胞傷害性T細胞が,飛び道具として放出するグランザイムA,パーフォリン,IFNγが協調してがん細胞を殺す際に,細胞死の形態としてアポトーシスだけでなく,ピロトーシスがガスダーミンBの切断を介して誘導されることを示したものである。


 ナチュラルキラー細胞および細胞傷害性T細胞が,がん細胞を認識して破壊する際に,細胞傷害活性のKeyとなるのが,パーフォリン,グランザイム,IFNγといった分泌因子である。免疫療法が複数のがんに対して標準的に使用されるようになった昨今,immunogenic cell deathが抗原を認識するT細胞の強力な誘導に重要であることが示されている。Pyroptosisは,このimmunogenic cell deathの1つのスタイルともいえる(最近になり複数の総説が出ているが,例えばCell Death & Disease)。

 
 今回,中国のグループから,パーフォリンによってがん細胞にポアが形成されて,細胞内に侵入するグランザイムのうち,唯一グランザイムAが,同じく細胞質内に存在するガスダーミンBを244番目のアミノ酸リシンの部分で切断し,活性化型のN末端側ガスダーミンBが,がん細胞にピロトーシスを誘導するという新しいメカニズムを発見した。定常状態でのがん細胞内のガスダーミンB発現は多くの場合抑制されているが,検討された約半数の細胞株ではIFNγによってガスダーミンBが誘導されることを明らかにしている。ガスダーミンBがグランザイムAで切断されない様に遺伝子組み換えを行ったマウスモデルを用いた実験では,抗PD-1抗体の感受性が有意に低下することを示した。わかりやすい図解がPERSPECTIVE論文紹介にも取り上げられている。


 Pyroptosisの機序として,これまでガスダーミンDやEがCaspaseによって切断されることが示されてきたが,今回ガスダーミンBはグランザイムAによって切断されることが示された。どのような治療がこれらの機序に有効かわかれば,今後は理論に基づいた併用治療の選択が可能になるかもしれない。

•NEJM

1)疫学・感染症学 

高度な介護が提供できる施設における症状出現前のSARS-CoV-2感染と伝播(Presymptomatic SARS-CoV-2 infections and transmission in a skilled nursing facility

 ある高度な介護提供可能な施設において最初のCOVID19の症例が診断された際,入居者の感染を確認するための症状に基づくスクリーニングが,感染の伝播の観点から有益なものであるかを評価した論文。米国CDCを中心としたグループからの報告である。


 3月3日に1例目の陽性症例が診断され,3月13日と19/20日の2回有病率の評価が行われた。調査参加に同意した入居者から,鼻腔・喉からスワブを採取し,リアルタイム逆転写PCR(rRT-PCR),ウイルス培養などが行われた。各タイムポイントでの施設の対応がFigure 4に記載されている。3月5日の時点で,有症状の入居者に対してのみ推奨されるpersonal protective equipment(PPE)が適用された(PPEの適切な使用方法については,今週号で動画として取り上げられている(リンク)。その後,8日に感染者が見つかったUnit1全体でPPEが適用された。その後,13日に施設全体の感染確認が行われ,施設全体での対応にPPEが使用されるようになったのは15日からであった。最終的に,入居者89人中57人がSARS-CoV-2陽性と診断された。今回の調査に参加した入居者76人については,48人が陽性で,このうち27人(56%)は検査の時点で無症状だった。さらにこの27人のうち24人に,その後1週間以内で症状が出現した。この症状が出現する前の24人の検体では,rRT-PCR曲線と閾値が交差するサイクル数の中央値は23.1で,17人でウイルスの増幅を認めた(Figure 2:培養陽性例には23.1以上のサイクルが必要な症例も症状に限らず散見されている。PCR陽性の判断の難しい部分でもある()。最終的に4月3日の時点で,感染した入居者57人のうち,11人が入院,15人が死亡した。検査の時点で陽性であった入居者の半数以上は,検査の時点では無症状であったことから,初期の段階で,有症状の入居者のみを対象とした対策は不十分であったと考えられた。


(小山正平)


※500文字以内で書いてください