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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 103

公開日:2020.7.8


今週のジャーナル

Nature Vol. 583, No.7814(2020年7月2日)日本語版 英語版

Science Vol. 369, Issue #6499(2020年7月3日)英語版

NEJM Vol. 383, No.1(2020年7月2日)日本語版 英語版







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老化細胞標識uPARを標的とするsenolytic CAR-T療法,肺線維症への応用は?/Covid-19で報告される川崎病様症例とは何か?

 Covid-19 pandemicは,人々の往来増加で,各国同様,日本でも陽性者数が増加している。第2波への対応はどこまで急がれているのか?結局一般医療現場に感染患者対応を押し付けるようでは,政策とは言えない。隔離仮設施設および検査機器充実がないと,一般病院で院内クラスタ発生を防ぎ切れない事は,第1波の教訓ではないのか? 一方,国際的にも米国政府の大混乱,ブラジル,そしてインドの急激な患者数増加も大変危惧される。


•Nature

1)免疫学

老化細胞を除去するCAR T細胞は老化関連病変を改善する(Senolytic CAR T cells reverse senescence-associated pathologies

 今週の報告で臨床として重要なのは,ゲノム解析に関する3報である。なかでも1万8,000例弱におけるゲノムの構造多様性(structural variation)は,通常のWGS技術では不十分な点の解明で,大変興味深い。


 それとは別に,抗腫瘍という概念で昨年実地臨床に入ったCAR-T(chimeric-antigen receptor T cells)療法が,老化細胞除去として報告されている。これは加齢性慢性疾患としての肝硬変や肺線維症など臨床応用の可能性もあり,取り上げたい。この論文はNews&Viewsにも取り上げられ()また西川先生のAASJにも紹介されている。

 報告は米国のSloan Kettering研究所からで,last authorはLowe SWである。Loweは90年代,p53の研究でtop journalを書いていた研究者である。p53は多数の癌で異常が見られる最も有名な腫瘍抑制遺伝子であるが,同時にp53はsenescenceも促進する。こうした意味で本研究は突然現れたものでなく,PNASのDr. Loweのプロファイルにある通り,p53,apoptosis,senescenceが彼のテーマである。しかし論文中で,senolytic(老化細胞除去)手段としてのCAR-Tの採用は少し唐突感がある。

 論文はCAR-Tの攻撃対象としてのsenescence-associatedの膜分子の探索から始まる(Extended Fig.1)。多様なsenescence系としてTIS(therapy induced senescence),OIS(oncogene-induced senescence),RIS(replication induced senescence)の発現スクリーニングデータと膜蛋白,また正常組織では発現されないという点から,PLAUR遺伝子(urokinase-type plasminogen activator receptor:uPAR)(Wiki)が選ばれた。

 実際にuPARの選択が正しいかはKP(Kras変異陽性+p53陰性)モデルlung cancer細胞にsenescence誘発(CDK4/6阻害,MEK阻害)などで確認している。またこの膜蛋白は蛋白分解され,suPAR(soluble uPAR)となるが,これらはCDKのbiomarker(リンク)とか呼吸器ではIPFに関して(リンク)も,SASP(senescence-associated soluble protein)として重要との報告がある。

 さてこうした前提で,以降はuPAR対応CAR-Tでの実験となる。抗体(R&D社:MAB531-100)の配列を組み込んだCAR-Tの作成はG3世代(Wiki)が用いられたようである。まずin vitroにおけるuPAR発現細胞への成績で,特異性や実際の細胞障害へのgranzyme BやINFγ産生も調べられている。

 そしてin vivoでのsenolytic効果の検討となる。

 まずKPマウス肺腺癌モデルの系で先行論文同様senescence誘導系(CDK4/6阻害+MEK阻害)にuPAR CAR-Tを併用して生存延長を見ている。

 次に本来の目的である慢性臓器線維症のモデルとして,CCl4誘発性肝線維化の系で,線維化領域の減少,SASPの一つであるSA-β-gal(senescence-associated β-galactosidase)の減少などが示されている(Extended Fig. 6)。さらにはreviewerからの指示か?NASHのモデル系を作成し,uPAR CAR-Tで線維化抑制の同様のデータが示されている(これらは従来HGFで同様の効果が示された(リンク)。

 実臨床でのCAR-TはCRS(cytokine-release syndrome)が問題である。こうした課題にはCAR-Tの量を変化させた経過データーも示されている(Extended Fig. 8)。

 以上がPOCとしてのuPAR CAR-T動物実験である。組織細胞新陳代謝としての老化細胞除去のコンセプトは,今後加齢社会に入りおそらく最も重要となるだろう。一方でCAR-Tによる細胞除去はCRS以外にも長期的に不自然な状況をきたすのではないか? 実臨床への展開の前に100週齢位のマウスにuPAR CAR-Tを長期間使えば何が起こるのか(いかなる細胞系が除去されるか? 再生とのバランスは? 生体全システムとしてはどうか?)? そのsenolytic療法の臨床使用への興味ある点である。


•Science

1)腫瘍学

がんスクリーニングと介入ガイドのためのPET-CTと組み合わせた血液検査の実現可能性(Feasibility of blood testing combined with PET-CT to screen for cancer and guide intervention

 2年前,Top Journal Hackを始めるにあたり,21世紀以降,Nature,Scienceには結構臨床系論文が多いことを指摘した。今回ScienceのResearch Articleに取り上げられた基本的に非侵襲のがん検診のFeasibility studyは本来ならNEJMとかJCOなどに報告されるものだ。Science論文としての新規性には多少不満が残る。本論文はAASJにも紹介され,西川先生の個人的経験も踏まえ面白い内容である。

 本研究は,米国Johns Hopkins大学のグループからである。Geisinger Health Systemという保険に加入する女性(65~75歳)約10,000名を2017年9月から2019年5月にリクルートした(10,000名は,この研究で20名のがん陽性者を検出に必要な数とある)。Blood test(PCR baseの16種がん特異変異検出+CEA等約10種の血清マーカー)はbaselineとconfirmationで2回行い,研究のoutlineはFig.2に示してある。baselineで490名,confirmationでは134名に絞りこまれ,129名が,PET-CTなどに進んだ。画像陽性は64例であるが,26例が最終診断され,結果は一覧表(Table.1)に示され,12例は手術を受けている。PET-CT陽性であるが癌と確定されなかった例はFig.4に結末が示されている。

 発見されたがんとその臓器分布は,Fig.3で一覧できる。それを見ると,このDETECT-Aと命名されたシステム,殊にblood screeningでの有利な臓器が予想される。肺,卵巣,大腸系などである。逆に女性に多い乳癌はSOC(standard of care)の方で見つかっているのが印象的である。一方,現在Liquid biopsy技術は塩基配列も読み始めているので,さらなる診断効率は期待される。この論文では最後から2番目のVogelsteinがcompanion診断試薬として米国のCLIA(Clinical Laboratory Improvement Amendments)に関わっている点もScience掲載に関連するのかも知れない。

 一方,多数例におけるfeasibilityとしては意義があるが,疾患screeningとしてはがん家族歴が必要といつも思うところだ。家族性背景の強い疾患,癌,DM,自己免疫性疾患など,現在日本でも進むGenome Mega Bankに並行して,日本共通家族歴デジタル情報システムをも確立すべきであると考える。


2)その他

ヒストンH3-H4四量体は銅還元酵素だ(The histone H3-H4 tetramer is a copper reductase enzyme

 Histoneには酵素活性があるという報告で,有核細胞への進化や酸素環境を想起させる興味深い論文である。同じくAASJで取り上げられているので,参考にされたい。


•NEJM

米国の小児および青年におけるマルチシステム炎症性症候群(MIS)(Multisystem inflammatory syndrome in U.S. children and adolescents

ニューヨーク州の小児におけるマルチシステム炎症性症候群(MIS-C)(Multisystem inflammatory syndrome in children in New York State

 Covid-19では,日本では急性進行肺炎症状が主として報道されるが,海外からはtroponin高値例が多いとか,血栓症状が多いというニュースが飛び込んできて,いわゆる呼吸器中心のインフルエンザ感染とは違う印象を受ける。

 そうした中,5月中旬から,川崎病様症例が見出されるという海外報告が続き,これは何が起こってるのか? と関心を持っていた。

 今回,NEJMのCovid-19関連論文としてMIS-C(multisystem inflammatory syndrome in children)が2編報告されているので取り上げたい。

 なおこのMIS-Cに関してはEditorialでも議論されている。その書き出しが「群盲象を評する」である(あるいは使用禁止用語かと思われたが,Wikiでは古来より各国で知られている譬え話のようである)。Covid-19では身体内に何が起こってるのか? 異常に多数報告されるCovid-19関連論文状況は,まさに「群盲」かもしれない。このEditorial内容は要を得ており,一読を薦めたい。

 呼吸器領域では川崎富作先生の発見した川崎病を経験することはまずない。こうした門外漢には,やや臨床を離れた包括的なWikiの記載がわかりやすい。主要症状6項目中5項目を満たせば診断できるが,非典型例も多いとある。随伴症状も結構重要であるらしい。

 何よりも川崎病は,東アジアの国々の病気として知られている。日本では増加傾向にあり,2018年では年間約1万7,000人という。しかし一方のCovid-19によるMIS-Cは日本では見られないという。川崎病の原因追求として中国大陸の農業との関連が記載されている。一方,日本の症例でのGWASによる関連遺伝子も報告されている(リンク)。

 こうした日本における川崎病に比べ,Covid-19感染後のMIS-Cはどんな特徴があるのか?

 NEJM報告のうち,よりに限局された地域でかつCovid-19患者数の多いニューヨーク州の報告を取り上げる。本年3月1日から5月10日の期間に191例が集められMIS-Cと確認された(PCRあるいは抗体陽性)は95例+疑い4例として解析されている。男女差やethnic差はなさそうである。

 発症年齢で分けると,0~5yrは31%,6~12yrは42%,13~20yrは26%であったが,この3つの年齢層で臨床症状の分布が異なる点が指摘されている(Fig.1)。特徴的なものは,川崎病の基準に合うものは12歳以下に多く,逆に心臓循環系症状は13歳以上で高頻度である。検査成績はTable 3で一覧できるが,hypotensionは6歳以上に見られ,血液生化学ではBNP高値は90%以上,troponin高値は13歳以上で50から80%となっている。

 こうした病態はそもそもSARS-CoV-2のいかなる感染病理を反映するのか? Editorialでは,今回のCovid-19で明らかになったMIS-Cは川崎病とは類似するものの異なる病態でないかと述べている。しかし21歳以下ではCovid-19感染が322人/10万人の中で,MIS-C頻度はさらに少なく2人/10万人である事実は,免疫系の遺伝子異常も想定している。

 他方日本においても最近,ウイルス陰性化後倦怠感が2ヶ月前後続き,肢端皮疹などを見る成人例が10%前後と報道されている。こうした感染後遺症成人例は米国にも見られるようであり,小児例との連続性に関して,さらなる臨床解析が必要であるだろう。

 そもそも川崎病そのものがelusiveで謎だらけとされる。Editorialには,SARSに対するanti-spike IgGが,host macrophageによる炎症反応誘発に関与し,それはFcγRのblockadeで改善されるとの中国広州からの報告が引用されている(リンク)。今回Covid-19感染を背景とする多数例で,この不思議な病像が解明されることを期待する。


(貫和敏博)


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