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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 106

公開日:2020.7.30


今週のジャーナル

Nature Vol. 583, No.7817(2020年7月23日)日本語版 英語版

Science Vol. 369, Issue #6502(2020年7月24日)英語版

NEJM Vol. 383, No.4(2020年7月23日)日本語版 英語版







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IL18デコイ受容体は次の免疫チェックポイント?/Rab32が細胞内でイタコン酸を運搬しサルモネラを攻撃する/バロキサビルのインフルエンザ家庭内接触者に対する予防投与

 今週のScienceの表紙は原爆ドームをバックにした広島の灯篭流しの風景である(リンク)。これは,今週号のScienceで被爆者の健康調査に関する記事を掲載しているためである(リンク)。これに関連して,Editorialの中でクリントン政権時の国務長官オルブライト氏(アメリカで女性初の国務長官)が,「Avoiding another Hiroshima」の論を展開している。彼女はその記事の中で,核兵器の歴史を交えながら,各国協調による核兵器削減・根絶を訴えている。2016年,オバマ前大統領はその広島に現職アメリカ大統領として初めて訪問した。私自身は,オバマ前大統領が被爆者の方と抱擁する感動的シーンを目にすると同時に,核発射ボタンを搭載した鞄が大統領の傍らにあったことを見せつけられ,現実の国際社会のアイロニーを感じざるを得なかった。少し話がそれるが,オルブライト氏はかつてワシントンDCのジョージタウン大学で教鞭を取っており,前外務大臣,現防衛大臣の河野太郎衆議院議員の恩師であることは,色々な縁を感じる(リンク)。

•Nature

1)腫瘍学 
IL-18デコイ受容体であるIL-18BPは分泌型の免疫チェックポイントであり,IL-18免疫療法の障壁となっている(IL-18BP is a secreted immune checkpoint and barrier to IL-18 immunotherapy
 免疫チェックポイント阻害薬の登場により,次の目標の1つとして,治療標的となる新たな免疫チェックポイントの探索,免疫チェックポイント阻害薬の耐性機構の解明,そして,免疫チェックポイント阻害薬の相乗効果を生む因子の探索が競って行われているであろう。本論文はそのような文脈の中から,米国Yale大学の若きPIが率いるグループが報告した成果であり,IL-18のデコイ(おとり)受容体が分泌型の免疫チェックポイントであることを示し,改変して作成したIL-18の新しい治療の可能性を詳細に示している()。

 IL-18はIL-1サイトカインファミリーの一員であり,NLRP3およびNLRP1インフラマゾームの下流で炎症を引きおこす。その受容体サブユニットIL-18Rα(IL18R1によってコード)とIL-18Rβ(IL18RAPによってコード)はヘテロ二量体を形成し,その下流でMYD88シグナリングを活性化する。IL-18は,もともとインターフェロン-γ誘導因子(IGIF)と呼ばれていたが,自然リンパ球や抗原を経験したT細胞を刺激することがわかってきており,実際に,組換えIL-18(rIL-18)が治療として試みられている。rIL-18は,マウス腫瘍モデルにおいて,免疫チェックポイント阻害やCAR-T細胞と相乗効果を発揮することが確認されている(リンク)。一方,IL-18に極めて高い親和性で結合する分泌型アンタゴニストであるIL-18結合蛋白質(IL-18BP)と呼ばれるデコイ受容体がIL-18の作用を負に制御している。このような背景もあり,rIL-18の有効性の低さが臨床上問題となっていた(リンク)。筆者らの研究グループは,腫瘍微小環境(TME)で産生されるIL-18BPが「分泌型免疫チェックポイント」として作用し,効果的なrIL-18免疫療法を制限しているのではないかと仮説を立てて研究を進めている。

 筆者らはまず,マウスモデルを用いて,脾臓に比べて腫瘍組織のCD4陽性T細胞とCD8陽性T細胞にIL-18Rαが顕著に多く発現していることを観察している。IL-18Rαの発現は,そのほとんどが,抗原を経験したCD44陽性T細胞であった()。IL18bp(IL-18 binding protein)の転写およびIL-18bpの蛋白は腫瘍組織で多く認められ,IL-18投与によりIFN-γ依存的にさらに増加した。
 上記のマウスでの観察結果を踏まえて,著者らは,Cancer Genome Atlas(TCGA)データベース(リンク)を用いて,ヒト組織でのIL18BPを評価している。IL18BPは多くの腫瘍組織で発現しており,特に活性化CD8T細胞〔CD3E+, CD8A+, PDCD1+(PD-1をコード)〕の発現と関連していることが判明した。
 次に,Il18bpノックアウトマウスを作成し,コントロールマウスではIL-18の治療を行っても腫瘍の増大は抑えられなかったが,Il18bpノックアウトマウスでは,IL-18の治療により,腫瘍の増大が抑制されていた。つまり,Il18bpがIL-18の治療の阻害因子であることを示している()。
 次に,研究グループは,IL-18受容体を介したシグナル伝達能力は完全に保持しながら,IL-18BPによる阻害を受けないデコイ耐性のIL-18バリアント(DR-18)を作製している()。
 大腸癌とメラノーマのマウスモデルを用いて,このDR-18に抗腫瘍効果を検討している。IL-18では腫瘍増大の抑制効果が見られなかったのに対し,DR-18では腫瘍増大を顕著に抑制しており,さらに,DR-18の腫瘍抑制効果は抗PD-1抗体単独と同等かそれ以上であり,DR-18と抗PD-1抗体を併用することで相乗効果が得られ,ほとんどのマウスで腫瘍が完全に退縮している()。
 さらに,DR-18は腫瘍内のステムセル様のT細胞を増加させ,NK細胞の抗腫瘍効果を高めていることを示している()。IL-18BPに耐性を示すヒト型のDR-18の開発にも成功しており(),今後の本格的な治療薬開発が期待される。

2)その他 
シングルセルレベルでのトレーシングによりTCF15の造血における役割を解明(Single-cell lineage tracing unveils a role for TCF15 in haematopoiesis

•Science

1)細菌学/免疫学 
イタコン酸は,サルモネラ菌に対するRab GTPaseの細胞自律的な宿主防御経路のエフェクターである(Itaconate is an effector of a Rab GTPase cell-autonomous host defense pathway against Salmonella
 近年,免疫細胞における代謝機構の研究が目覚ましい。「Immunometabolism(免疫代謝)」の分野においては,2013年から2019年にかけて年間論文数が10倍以上に増えたとのことである(リンク)。この分野には様々な新規プレーヤーが登場しているが,喘息において重要な役割を果たすアラキドン酸代謝は,ある意味,この分野の古参プレーヤーであると言えよう。最近では,TCA回路の中間代謝産物から生合成されるイタコン酸は,マクロファージの多彩な免疫機能の調節にも深く関与すると共に,抗菌活性を有することが報告され,注目を浴びている(AASJリンク)。生化学の授業で頭を抱えながら暗記したTCA回路が,免疫の分野でも新しいプレーヤーとして登場してくるとは,学生時代にはゆめにも思わなかった。本論文は,そのイタコン酸が細胞内の小胞輸送を制御するRab(リンク)との相互作用に関する内容である。なお,本論文も前述のNatureと同様に米国Yale大学からの報告である。

 GTPaseであるRab32は,サルモネラ菌などの液胞内に存在する病原体の複製を抑制し,宿主防御機構を担っていることが知られていた(リンク)。しかし,Rab32が,具体的に細菌の複製をどうのように制御するかはこれまで不明であった。サルモネラ菌に感染するとRab32はイタコン酸を合成するIRG1と相互作用し,サルモネラ菌を含む液胞へのイタコン酸の伝達を促進している。
 イタコン酸はTCA回路の中間代謝産物から生合成される。TCA回路はミトコンドリアで行われるため,イタコン酸もミトコンドリアで生合成されるが,その後,Rabという細胞内輸送機構を介して,液胞という感染免疫の場へ適切に運搬される宿主防御機構には実に驚かされる。

•NEJM

1)呼吸器 
バロキサビルのインフルエンザ家庭内接触者に対する予防投与(Baloxavir marboxil for prophylaxis against influenza in household contacts
 抗インフルエンザ薬バロキサビル(商品名:ゾフルーザ)は,日本国内では2018年2月に承認されている。1回のみの内服投与というその簡便性から,地域の開業医の先生を中心に,その使用が急速に広がったが,その一方で,バロキサビル未投与患者から,すでにバロキサビル耐性変異ウイルスが検出されており,この抗ウイルス薬の耐性誘導が公衆衛生の観点から懸念されている(リンク)。

 本論文は,そのバロキサビルを使用したインフルエンザ患者の家庭内接触者を対象にした曝露後予防効果に関する多施設共同二重盲検無作為化プラセボ対照試験の日本からの報告である。参加者は,バロキサビル単回投与群またはプラセボ投与群に1:1の比率で割り付けられた。投与後10日の間にインフルエンザウイルスに感染し,発熱かつ呼吸器症状を発現した被験者の割合を主要評価項目としている。インフルエンザを発症した患者の割合は,バロキサビル投与患者で1.9%(7/374),プラセボ投与患者では13.6%(51/375)であり,バロキサビルは同一世帯内感染を有意に減少させていた(プラセボに対して86%減少,p<0.0001)。有害事象の発現率は両群で同程度であった(バロキサビル群22.2%,プラセボ群20.5%)。また,感受性低下株のインフルエンザに関しても評価しており,バロキサビル群では,I38T/MとE23Kの変異がそれぞれ10人(2.7%)および5人(1.3%)で検出されていた。やはり予防投与として使用した際の本薬剤による耐性誘導は今後も懸念されるであろう。

2)その他 
結核感染・発病予防のためのビタミンD補充療法(Vitamin D supplements for prevention of tuberculosis infection and disease
 モンゴルで行われたランダム化比較試験。ビタミンDが欠乏する学童にビタミンDの補充を行っても,プラセボに比べて結核感染症,結核疾患,急性呼吸器感染症のリスクを低下させなかった。多くの呼吸器疾患で,ビタミンDの欠乏は発症のリスクファクターと報告されているが,一方で,ビタミンD補充による介入は相次いでnegative studyとなっている。

(南宮湖)

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