•Nature
1)感染症:Article
COVID-19のパンデミックに対する大規模な感染防止政策の効果(The effect of large-scale anti-contagion policies on the COVID-19 pandemic) |
緊急事態宣言が今後また出るのか?出ないのか? Go Toトラベルキャンペーンの是非など日本社会を賑わしている問題について,科学的示唆を与える報告である。
カリフォルニア大学バークレー校の公共政策の大学院からの報告で,中国,韓国,イタリア,イラン,フランス,米国に行われた1,700の施策について,感染拡大に与えた効果を実験的に調べている。経済成長に対する政策の効果を測定するのに用いられる計量経済学的方法で解析している。そのデータとして最も注目すべきは
図2である。施策を取らなければ,1日当り30〜60%の感染拡大が予想されるのに対し(図2a),各国の施策の総体評価を行っている(図2b)。国別の効果が最も高く評価されているのは韓国の施策で,続いてイラン,イタリア,米国,中国,フランスの施策という順番である。さらに図2cでは,各個別の施策についても評価している。個々の施策の効果は,これら6カ国の中でも当然ばらついている。それぞれの国で効果が高く評価されている施策は,中国では緊急事態宣言,韓国では宗教施設や福祉施設の閉鎖,イタリアでは旅行禁止,イランでは旅行禁止と自宅就労と学校閉鎖,フランスではイベントや集会の禁止,米国ではソーシャルデイスタンス,とそれぞれのお国柄を反映していると思われる。総じて,緊急事態の宣言はそれなりの効果がありそう,学校閉鎖は効果が低そう,旅行禁止は効果が大きそう,と示唆はされるものの,本邦の施策の効果はやはり本邦独自の検証が必要であろう。
•Science
1)免疫学:Reports
BAFが,自然免疫応答を起こさないように,核内DNAに対するcGASを制御する(BAF restricts cGAS on nuclear DNA to prevent innate immune activation) |
ウイルス感染に対する自然免疫機構として,通常は細胞質内に存在しない核酸を病原体関連分子パターン(
PAMP)として認識するパターン認識受容体(
PRR)が備わっている。この細胞質内核酸を認識するPRRは,RNAとDNAで異なる。RNAはRIG-1やMDA5などのRIG-1様受容体に認識され,DNAは主にcGAS(
cGMP-AMP synthase)によって認識されている(ただしcGASの発現には細胞特性があり,cGASが細胞質内DNAを認識する「細胞種に依らない普遍的なPRR」かどうかは諸説あり)。細胞質内のcGASはDNAと結合すると,セカンドメッセンジャーとしてcGMP-AMP(
cGAMP)を生成する。このcGAMPが小胞体上のSTINGを二量体化し,リン酸化酵素であるTBK1の活性化を介して1型インターフェロン産生を誘導する。
このように自然免疫応答の細胞質内DNAのセンサーとしてcGASは働いており,「宿主細胞のDNAにcGASが反応しないのは,核膜によって細胞質内のcGASと核内DNAが仕切られているため」と当初理解されていた。しかし最近,核膜は強固な構造物ではなく,細胞の増殖・分裂時だけでなく,細胞が分化・遊走する際にも,核膜は一旦分解されまた再構築されることがわかってきた(
Nat Rev Mol Cell Biol. 2017; 18: 229-45)。すなわち核膜以外にも,「cGASの核内DNAの認識を妨げる機構」がどうしても必要ということになる。
今回スイス連邦工科大学ローザンヌ校のグループは,「cGASの核内DNAの認識を妨げる機構」として,BAF(
barrier-to-autointegration factor 1)レトロウイルスが核内DNAに組み込まれるのを防ぐクロマチン結合蛋白としてそもそも発見されたが,その内在的な機能はわかっていなかった)を同定した。実験系は極めてシンプルで,
HeLa細胞において,有糸分裂の終了時に核膜の再構成を促す分子をsiRNAで発現阻害した上で,インターフェンロンに反応する遺伝子の発現をモニターしている(
図1)。この実験系で,BAFの発現が低下すると,インターフェロンによる反応が惹起されることを見い出した。核膜が消失した際に,「クロマチン結合蛋白であるBAFは,cGASが宿主DNAに結合することを妨げることによって,自然免疫応答の誘導を防いでいる」と考えられた。
これまで「クロマチン結合蛋白」と何となく機能が理解されていたBAFに,自然免疫の重要な因子として光を当てた点において,興味深い報告である。
•NEJM
1)腫瘍学:Original Article
人口ベースの肺癌死亡率の低下(The effect of advances in lung-cancer treatment on population mortality) |
米国人口の28%をカバーする米国の患者登録システム(
SEER)のデータを解析した報告である。SEERを管理しているアメリカ国立がん研究所のサーベイランス研究プログラムが論文としてまとめている。近年の非小細胞肺癌患者の予後の延長は,日本の肺癌診療でも感じるところではあるが,非小細胞肺癌と小細胞肺癌に分けて,人口レベルの発生率,死亡率,生存率を示している点は,貴重である。
この解析によると,男性の非小細胞肺癌の発生率は,2008年から2016年にかけて年3.1%低下しているのに対し,死亡率は2013年から2016年にかけて年6.3%低下している。生存率も,2001年の26%から,2014年の35%と改善している。女性の非小細胞肺癌患者でも同様の傾向で,人種差は認められなかった。これらの非小細胞肺癌の予後の改善に分子標的治療の進歩が挙げられている。一方,薬物治療の進歩が限定的な小細胞肺癌については,死亡率の低下は発生率の低下に起因していることが示されている。
(TK)