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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 110

公開日:2020.9.2


今週のジャーナル

Nature Vol. 584, No.7822(2020年8月27日)日本語版 英語版

Science Vol. 369, Issue #6507(2020年8月28日)英語版

NEJM Vol. 383, No.9(2020年8月27日)日本語版 英語版







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cDC1は腫瘍免疫応答においてマルチタスクをこなしている/非薬物介入による新型コロナウイルス対策をSerial intervalから検討する/RET融合遺伝子陽性非小細胞肺癌におけるSelpercatinibの有効性

•Nature

1)腫瘍免疫学:Article 
cDC1はCD4+ T細胞をプライミングし,ライセンシングを受けることで抗腫瘍免疫を誘導する(cDC1 prime and are licensed by CD4+ T cells to induce anti-tumour immunity
 免疫チェックポイント阻害薬により腫瘍治療には大きな進歩が見られている。腫瘍免疫における癌細胞の排除にはCD4陽性,CD8陽性T細胞(細胞障害性T細胞:CTL)の両者が樹状細胞を介して刺激を受け(プライミング相),局所で抗腫瘍効果を発揮する事(エフェクター相)が重要である。非小細胞肺癌診療で用いられるPD-1経路の阻害薬は,エフェクター相での機序が良く知られるが,これらのプライミング相にも影響を与えている。この抗腫瘍免疫を担う細胞群の関連を解明することは,より効果的な臨床面での効果を理解する本質に近づき,さらなる抗腫瘍治療の進展をもたらすと考えられる。
 樹状細胞は分化の過程を司る転写因子群により分類され(ref),今回の報告で登場するタレントはcDC1(主役),cDC2(脇役)と分類された樹状細胞とCD4T細胞,CD8T細胞である。特にcDC1はケモカイン受容体であるXCR1を発現し,死細胞を取り込む能力やCTLへの分化を誘導する能力(クロスプレゼンテーション)が高いという機能特性を有し,細胞障害性免疫応答に重要な役割を果たす。過去の報告では,ウイルス排除の機構として局所で外来抗原を認識したcDC2がMHCクラスⅡを介して抗原提示を行いCD4T細胞をプライミングし,プライミングされたCD4T細胞は所属リンパ節にてcDC1を抗原特異的に刺激し(ライセンシング),そのDCがMHCクラスⅠを通して抗原提示を行いCD8T細胞の活性化,増殖を促し,異物の排除が行われるという過程が考えられていた(文献12)。この過程は感染症に関連して解明されてきた機序であり,登場するDC集団が複数になることから,共通抗原認識の面からの理解にブラックボックスが存在している。
 米国ワシントン大学免疫病理学のグループは,今回の報告でcDC1特異的に遺伝子発現をコントロールできるXcr1Creマウスを作成し,cDC1がMHCクラスⅡを介して直接的にCD4T細胞のプライミングを行うだけでなく,同様にcDC1がCD4T細胞によるライセンシングを通してCD8T細胞のエフェクター作用を発揮させる事を証明している。
 報告ではまず直接的に細胞障害には関わらないCD4陽性細胞の抗腫瘍応答への関与を検討している。抗CD4抗体によりCD4T細胞を除去するマウスモデルにおいて,初回腫瘍接種前にCD4除去を行った場合でも,腫瘍接種により免疫が確立してからCD4除去を行った場合でも,二次接種後の腫瘍拒絶率が低下することを示した(Fig1)。さらにcDC1を先天的に欠損したマウスでは同様のモデルで腫瘍認識CD4T細胞が増殖しないことを示し(Fig2a,b),腫瘍免疫の確立にはCD4陽性T細胞がプライミングの段階から必要であることを明示している。次にcDC1がCD4T細胞のプライミングと,CD8T細胞の分化・増殖の両者に関わることをCre-loxシステムによるcDC1上で特異的にMHCクラスⅡを欠損するXcr1Cre/MHCⅡfloxマウスを作成したのちに解析した。選択的MHCクラスⅡ欠損cDC1マウスでは免疫による腫瘍拒絶反応は減弱し(Fig3a),CD4T細胞の増殖抑制,また後期相におけるCD8T細胞の増殖抑制を起こすこと(Fig3b,c),また初回免疫時のCD8T細胞プライミングには影響しない事が示された。これらの関連を介在する分子として著者らはXcrCre/CD40floxマウスを用いることによりCD40を示している(Fig4)。

 これらの結果はcDC1が腫瘍抗原のプロセシングからCD4T細胞のプライミング,プライミングされたCD4T細胞によるライセンシングを経てのCD8T細胞の増殖,分化,活性化を一手に担っていることが証明され,共通な抗原を認識する異なる担当細胞間の協調を理解しやすくなったと言えるが,本当の意味で介在するcDC1がidenticalな集団であるのかについては検討を深めていく必要があるだろう。

•Science

1)感染症:Reports 
新型コロナウイルスの発症間隔は非薬物介入により短縮した(Serial interval of SARS-CoV-2 was shortened over time by nonpharmaceutical interventions
 Serial interval(発症間隔)は感染源の発症から 2次感染者の発症までの期間を意味する用語である。公衆衛生学的に集団の中での感染症を管理する上で重要な考え方であるが,恥ずかしながら一介の呼吸器内科医である私は理解できていないことを本報告にて理解した。勝手な思い込みではあるが,呼吸器内科医でも一部の感染症を得意とする医師のみが理解している考え方ではないだろうか。大まかには潜伏期との関係で考えると良さそうだ。潜伏期>Serial intervalの代表的な感染症としては季節性のインフルエンザが挙げられる。これらの感染症では疾患の発症前から他人への感染性が認められる。また潜伏期<Serial intervalの代表的な感染症はSARSが挙げられる。後者では,感染抑制策としては発症したものを隔離すれば再生産は抑制されるはずであり対応は比較的容易である。SARS-CoV-2においては前者であることを一つの理由として蔓延を防ぐことが難しくなっている。これらの解説は災害看護学会のサイトに詳しい。
 流行当初から現在にいたるまで複数のSerial intervalの報告がなされており,3.1日から7.5日までと幅広い。これは解析に用いたデータが感染流行の異なるステージの単一時点から得られたものを用いている事が理由と考えられる。
 香港大学のグループは,武漢を有する湖北省以外の中国の感染データを用いた解析結果を報告している。一時点からのデータではなく,流行のそれぞれの時期より経時的に解析が行われた。流行の極期である1月23日から30日までの1週間を基準としてその前後2週間で比較すると,感染拡大期の1月9日から22日までの2週間での実際のSerial intervalは7.8日,ピーク期の23日から29日までが5.2日,その後収束期の30日から2月13日までが2.6日と次第に短縮していく事が観察された(Fig1A,B)。1週間毎のウインドウによる解析からは徐々に短縮していく様子が見て取れる(Fig2A)。Serial intervalは当然のことながら様々な外的要因にて影響を受ける。性別・年齢・同居か否かでの違いはなく発端者の隔離が早めであったか遅めであったかによるところが最も大きな要因であった。シミュレーションでは隔離が1日早くなるとSerial intervalは0.7日短縮するそうである。発症例の隔離は本邦でも取られている施策であるが,それによりSerial intervalが受ける影響がFigS1に示されておりイメージしやすい。

 今回の解析が何を意味するかであるが,最終的には潜伏期>Serial intervalとなっており,SARS-CoV2の感染性からは当然予測される帰結であった。これは当初は発症後のスプレッダーが存在しており,それが発症者の隔離政策により確実に管理された事を示していると考えられる。少なくとも発症者の隔離は公衆衛生学的には必要な施策であろう。

 国の対策がどのように決定されているのかは知るよしもないが,少なくとも専門家の入る分科会ではこのような感染症疫学に基づいた知見,あるいはシミュレーションを踏まえた上で決定されていると信じたい。私達は医師としてCOVID-19診療だけでなく,現在とられている施策が合理的であることをわかりやすく説明せねばならない機会も多々ある。今回の報告にあるような知識は知っているべきかと感じた。

•NEJM

1)腫瘍:Original Article 
RET融合遺伝子陽性非小細胞肺癌におけるSelpercatinibの有効性(Efficacy of selpercatinib in RET fusion–positive non–small-cell lung cancer
 日進月歩で書き変わる肺癌診療ガイドラインにまた一つ追加されるのであろうか。RET融合遺伝子は1980年代に見出されたがん遺伝子である。1990年代になり甲状腺がんの1/3よりRET融合遺伝子が検出され,チェルノブイリ原子力発電所事故後に多発した小児甲状腺がんにおいても高率に同融合遺伝子が検出されることが明らかになっていた。2012年に本邦の国立がん研究センターより肺腺癌の1-2%にKIF5B-RET融合遺伝子が生じており,同遺伝子のマウス線維芽細胞内への導入によりがん化が起こりRET融合遺伝子はドライバー遺伝子であることが報告された(文献3) 。ALK阻害薬で後塵を拝した反省からか,2013年にLC-SCRUM-Japanが立ち上がると,そこでのスクリーニングによるRET融合遺伝子陽性肺腺癌の集積から,マルチTKIであるバンデタニブの治験が開始されその効果が2016年に報告されている(文献4) 。しかしながら現時点では肺癌診療には還元されていない。

 そのような背景の中で,特異的RET-TKIであるSelpercatinib(LOXO-292)のRET融合遺伝子陽性非小細胞肺癌に対する第1,2相試験の結果が米国スローンケータリング癌センターとテキサス大学を中心とするグループより報告された。報告では結果が一目瞭然のが見られる。プラチナベースの化学療法歴のある105例と初回治療の39例が組み入れられた。二次治療以降で使用された105例では客観的奏功が64%,奏功期間中央値が17.5カ月と長期に渡り安定した効果が認められた。初回治療の39例では客観的奏功が85%,6カ月後でも90%が奏功を維持していた。有害事象としてはG3以上の高血圧(14%),肝逸脱酵素の上昇(10〜12%),低ナトリウム血症(6%),リンパ球減少(6%)であった。本薬剤は中枢神経移行が良好とされ,脳転移を伴う11症例のうち10例で奏功期間が6カ月以上であった。
 こういった有効性は,今までの数々の分子標的薬(EGFR-TKI,ALK阻害薬,ROS1阻害薬等)とほぼ同様であり,この解析をもって米国FDAでは本年5月にRET融合遺伝子陽性非小細胞肺癌の適応承認が行われた。

 ちなみに同号ではback to backでRET融合遺伝子陽性甲状腺癌におけるSelpercatinibの有効性も報告されている。ALKomaというように分子メカニズムにより腫瘍を理解して臨床での対処を考えていく事も言われる中で,改めて腫瘍診療のスピード感のある進歩を認識した。

(坂上拓郎)

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