•Nature
1)癌
癌・加齢:加齢に伴うメチルマロン酸の蓄積は腫瘍の進行を促進する(Age-induced accumulation of methylmalonic acid promotes tumour progression)
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多くの癌で高齢であること(老化)は1つのリスク因子であり,特に65歳を過ぎると大幅に上昇するといわれている。長期間の様々な発癌物質への曝露が一因とされているが,特有の代謝などのそれ以外の原因も示唆されており,その詳細ははっきりとしていなかった。今回,米国ニューヨークのコーネル大学からの研究では,血清で検出される加齢に伴う代謝の変化が,腫瘍の進展や悪性度にかかわることを報告しており,News & Viewsでもとりあげられている(
リンク)。
本論文では,30歳以下と60歳以上の各々30人ずつの健常者の血清を比較すると,高齢者の血清には,A549細胞などの肺癌をはじめとした癌細胞株の増殖力を高め,転移や悪性化と関連する細胞間接着機能の低下したEMT(epithelial mesenchymal transition,上皮間葉転換)の特徴を引き起こすことが示されている。さらにそのメカニズムを追求し,メタボローム解析によって,プロピオン酸代謝の代謝副産物である
メチルマロン酸(MMA)のレベルが高齢者血清では上昇しており,腫瘍進展に寄与していること明らかになった。MMAの腫瘍進展への機序としては,脂質分子と共に細胞内に取り込まれ,TGF-βの発現や転写因子であるSOX4の発現を誘導することにより,細胞をより悪性な性質に転写リプログラミングすることが示され(
図),MMAが治療標的として期待されることが示唆された。一般に肺癌をはじめとした癌患者は高齢者に多いが,その高齢者で増える血清中の代謝産物が癌の悪性化・進展に実際に関連する点で大変興味深い。なお,本論文はAASJでも紹介されている(
リンク)。
•Science
1)遺伝子
ヒト組織全体の遺伝子発現に対する性差の影響(The impact of sex on gene expression across human tissues) |
今週号のScience誌の表紙は,本誌で特集が組まれているGTEx(Genotype-Tissue Expression)プロジェクトについて,ヒトの個々人の遺伝子多型が遺伝子発現に影響を与える様子をヒートマップを用いたイラストで表現している。
GTExは2010年に始まった欧米を中心とした複数の研究機関からなる国際コンソーシアムによる,ヒトの臓器・組織ごと,遺伝子型ごとの遺伝子発現を網羅的に調べた総額1億5千万ドルに及ぶプロジェクトであり,今回はバージョン8で最終報告とされている。最新の情報は
GTExPotalサイトでみることができる。
解説記事によると,838人のドナーから49の組織について,合計15,201のRNAサンプルが解析されており,本誌以外にも論文発表がなされている。
本論文は本誌の5つのGTEx特集論文の1つで,米国シカゴ大学やイギリス,スペインなど欧米からの共同研究で,男女間の遺伝子発現の違いについての詳細な内容である(
図)。その結果,すべての遺伝子の合計37%が,少なくとも1つの組織で性差のある発現をしていることが判明した。特定の組織だけでなく,薬物やホルモンの反応性や,胚発生や組織形態形成,受精や生殖機能や精子形成,脂質代謝,癌そして免疫反応といった様々な機能に関わる遺伝子発現で差がみられていた。さらにsex-biased cis-eQTL(sb-eQTL)解析にGWASデータとの統合解析などから,どちらかの単一の性でのみ遺伝子発現が調節されている58の遺伝子形質関連を同定している(
図)。本研究の膨大なデータは,疾患や治療を考えるうえでも大切なヒトの遺伝子発現およびその調節における男女差の重要なデータを提供している。
•NEJM
1)呼吸管理
高流量酸素投与下でのキャップ装着テストまたは気道吸引の頻度に基づく気管切開カニューレ抜去(High-flow oxygen with capping or suctioning for tracheostomy decannulation)
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人工呼吸器を装着した患者の約15%が気管切開の処置をうけてカニューレが挿入されている。スペインのトレド,マドリード,バルセロナの5カ所の集中治療室(ICU)からの本試験では,人工呼吸器離脱後の患者の気管切開カニューレの抜去の判断を,「キャップ装着テスト(capping trial)」に基づいて決めるか,患者の気道分泌について「気道吸引の頻度」に基づいて決めるか,について330例について非盲検試験で調べたものである。本試験デザインとその結果についてはリンクの
Visual Abstractがわかりやすい。
コントロールの「キャップ装着テスト群」では,内径7mmのカニューレでカフの空気を抜いてキャップを装着し,間欠的な高流量酸素投与で4時間ごとに1回以下の吸引ですめば,12時間経過時に抜管可能と判断され,抜管困難であれば12時間後以降翌日に再評価を行うことを繰り返した。これに対して介入群は,持続的な高流量酸素投与で8時間ごとに2回以下の気道吸引ですめば,24時間経過時に抜管可能と判断された。主要評価項目は抜管までの期間で,副次的評価項目は,抜管失敗,人工呼吸器離脱失敗,呼吸器感染症,敗血症,多臓器不全,ICU在室期間,入院期間,ICU内死亡,院内死亡であった。
結果は明らかで,抜管までの期間は介入群のほうが対照群よりも短かった(中央値6日対13日)。また,介入群のほうが対照群よりも肺炎・気管気管支炎の発生率が低く,入院期間が短かった。その他の副次的評価項目は2群で同程度であった。以上から,持続的な高流量酸素投与下で気道吸引の頻度に基づいて抜管を判断した場合は,間欠的な高流量酸素投与下で24時間のキャップ装着テストに基づいて判断した場合よりも気管切開カニューレの抜管までの期間が短縮することが示された。
(鈴木拓児)