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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 113

公開日:2020.9.23


今週のジャーナル

Nature Vol. 585, No.7825(2020年9月17日)日本語版 英語版

Science Vol. 369, Issue #6510(2020年9月18日)英語版

NEJM Vol. 383, No.12(2020年9月17日)日本語版 英語版







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腫瘍の形や浸潤は機械的因子によっても調整される/腸内細菌と免疫チェックポイントの効果をつなぐ鍵「イノシン」

•Nature

1)腫瘍学 
多層性の上皮が腫瘍の構造や機能を機械的に調整する(Mechanics of a multilayer epithelium instruct tumour architecture and function
 皮膚癌の中でも,基底細胞癌と扁平上皮癌は,臨床的に異なる進展経過をたどることが知られている。基底細胞癌は,表皮から周囲の間質に向けて進展するものの,深く皮下組織へ浸潤・転移などを起こすことは少ない。一方,扁平上皮癌は,間質の中に折りたたまれるような侵襲的な進展の形態をとり,皮下組織への浸潤・転移に至ることが多い。これらの違いがどのような背景によって生じているのかは不明であった。
 今回,米国のロックフェラー大学とプリンストン大学のグループは,マウス胚由来の皮膚細胞を用いた構造解析および数学的手法を用いて,この2種類の皮膚癌で異なる進展形式が生じる理由を評価した。その機序として,腫瘍前駆細胞の上側(表皮側)と下側(皮下組織側)から加わる機械的力の違いが関連することを明らかにした。一目でわかるまとめのスライドがNEWS AND VIEWSで紹介されているので参照頂きたい()。
 著者らは,臨床的に基底細胞癌を再現するものとしてソニックヘッジホッグシグナル経路の構成要素であるSmoothenedSmoM2)を導入したモデルと,扁平上皮癌を再現するものとしてHarvey rat sarcoma viral oncogene homologHras)変異を導入したモデルを比較したところ,前者では細胞外マトリックスやIV型コラーゲンなど基底膜形成を促す遺伝子発現が亢進するのに対し,後者では表皮への分化や角化に関わる遺伝子発現が亢進することがわかった。前者(基底細胞癌)では,基底膜のリモデリングが促進され,tumour budと呼ばれるような袋状の構造が形成される(底が厚く,しなやかな膜で維持されるため,基底膜が破けにくい),一方で後者(扁平上皮癌)では表皮角化の亢進によりtumour foldと呼ばれるような食い込むような構造が作られるのに対し,基底膜のリモデリングは促進されないため,過度の張力から基底膜が破けやすくなる。この2種類の腫瘍で層による硬さの違いを示したFigure 3dを見て頂くと,扁平上皮癌の表層でいわゆる癌浸潤を形成するような硬い層ができていることが分かる。さらに基底膜のバリアとしての役割を証明するため,基底細胞癌モデルにおいて,基底膜を構成するのに重要なLaminin subunit beta-1(Lamb1)やCollagen alpha-1(IV)chain(Col4a1)などを欠損させると,基底細胞癌であっても浸潤性の性質が誘導されることを確認している。
 多層性の構造をもつ皮膚においては,遺伝子変異がどの層に強く表現型を誘導するかによって,基底膜への影響を介して,進展形態や悪性度に影響が出るという点は,大変に興味深い。また,以前No.93で紹介した,癌細胞において細胞レベルで生じる染色体破砕(Chromothripsis)についても機械的な力の影響が関与している生物学的現象として同様に興味深い。


•Science

1)微生物学・癌免疫 
腸内細菌叢由来のイノシンは免疫チェックポイント阻害薬の効果を修飾する(Microbiome-derived inosine modulates response to checkpoint inhibitor immunotherapy
 腸内細菌叢と免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の奏功との論文はこれまでにも頻繁に報告され,以前のTJHでも取り上げている(No.33)。こちらの論文では,特定の腸内細菌によって放出されるイノシンが,ICIの治療感受性に関わることを,マウスモデルを用いて示している。PERSPECTIVEでも紹介されている図解で示されているように(),イノシンがCD4陽性T細胞上のアデノシン2A受容体に作用して,Th1活性化,IFNγ産生を誘導するという内容。
 カナダのカルガリー大学のグループは,4種類の担癌モデルマウスを用いた系を使用して,3つの腸内細菌叢(Bifidobacterium pseudolongum, Lactobacillus johnsonii, Olsenella species)が免疫チェックポイント阻害治療の奏功改善に寄与することを確認した。さらにマウス血清の代謝産物に関して,液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いて網羅解析を行った結果,奏功しやすくなる背景には,血清中イノシンの増加が関与していることを明らかにした。次に,イノシンによる抗腫瘍免疫の活性化機序として,その作用点であるアデノシン2A受容体に着目して評価を行っている。アデノシン2A受容体の阻害薬,アデノシン2A受容体のノックアウトマウスを用いた実験の結果,イノシン投与が主にTh1型CD4陽性T細胞の活性化およびIFNγ産生を介して抗腫瘍免疫を誘導していることを明らかにしている。さらに,腸内細菌叢のない無菌マウスに対してイノシンを投与するだけで,抗腫瘍効果が認められることも最終的に確認している。
 マウスモデルを用いた解析系であり,臨床との関連についてさらに解析は必要であるが,なぜ腸内細菌叢が腸以外の部位の癌に対するICIの効果に影響を与えるのか,1つのメカニズムを提唱するとともに,腸内細菌そのものでなく,その代謝産物の投与によって抗腫瘍効果を高められる可能性があることが示唆される。臨床検体での評価が待たれる。


•NEJM

1)呼吸器病学 
慢性閉塞性肺疾患に対する夜間酸素投与の無作為化試験(Randomized trial of nocturnal oxygen in chronic obstructive pulmonary disease
 患者の募集と参加の継続が困難であったことから,募集が早期に中止された試験であるが,呼吸器科関連として紹介させて頂く。
 慢性閉塞性肺疾患COPDの患者で,慢性的な日中の重度低酸素を伴う症例については,長期酸素療法によって生存が改善することが知られているが,夜間のみの低酸素血症に対する酸素療法の有効性は明らかでなかった。カナダを中心とした臨床グループ(INOX ClinicalTrials 28施設参加)が,夜間低酸素を認めるが日中の酸素化が保たれており長期酸素療法の適応がないCOPD患者に対して,夜間のみの酸素療法を3〜4年間施行した際,死亡およびCOPD進行に伴う長期酸素療法の適応への移行をアウトカムとしてRCTを行った。夜間SpO2モニターで30%以上がSpO2<90%未満であった患者を,夜間酸素投与群とプラセボ群に割り付けた。600例の症例設定であったが,243例が無作為化された時点で継続困難と判断され募集が中止となった。追跡3年の時点で,夜間酸素投与群に割り付けられた患者の39.0%(123例中48例)とプラセボ群に割り付けられた患者の42.0%(119例中50例)が,死亡もしくは長期酸素療法の適応に移行した。結果的には,検出力が不十分であり,COPD患者に対する夜間酸素投与が,生存または長期酸素療法を必要とする状態への移行にどのように影響をもたらすのかについて,結論付けはできなかった(, )。

(小山正平)

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