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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 124

公開日:2020.12.9


今週のジャーナル

Nature Vol. 588, No.7836(2020年12月3日)日本語版 英語版

Science Vol. 370, Issue #6521(2020年12月4日)英語版

NEJM Vol. 383, No. 23(2020年12月3日)日本語版 英語版







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LTβRシグナル伝達は新たな慢性気道炎症の治療ターゲットへ/呼吸器ウイルス感染とNLRPインフラマソーム



西新宿方面を望む:石井晴之


 今週は呼吸器系の気道炎症に関連した論文を紹介したい。喫煙関連慢性閉塞性肺疾患におけるLymphotoxin β受容体シグナル伝達からのNF-κB活性化に注目し,慢性気道炎症抑制や再生を解析したNature論文,そして呼吸器ウイルス感染による気道上皮炎症はウイルスのプロテアーゼがインフラマソームを活性化させることが関連しているScience論文,どちらも綿密な実験計画から成り立っており興味深い内容である。呼吸器系の炎症性疾患に対する新たな治療ターゲットとして期待されるものであろう。


•Nature

1)免疫学

LTβRシグナル伝達の阻害は,肺におけるWNT誘発性再生を活性化する(Inhibition of LTβR signalling activates WNT-induced regeneration in lung

 本研究は,これまでもcystic fibrosisを含めた末梢気道の慢性炎症や線維化メカニズムの研究を行っているドイツ・ノイへルベルグにある肺研究総合呼吸器センターの研究グルーグループからの報告である。肺における慢性炎症性疾患にLTβRシグナル伝達が関与しているのか,喫煙関連慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者およびタバコ曝露させたマウスの肺上皮細胞を用いて解析している。若年マウスおよび高齢マウスにおけるLTβRシグナル伝達の治療阻害は,喫煙関連の誘導性気管支関連リンパ組織を破壊して肺組織の再生誘発や気道線維化や全身性消耗にも効果がみられることを確認している。それはLTβRシグナル伝達を遮断することで,NF-κBの上皮非正規的活性化を減衰させ,気道におけるTGFβシグナル伝達が減少し,肺胞上皮前駆細胞におけるWNT/βカテニンシグナル伝達を活性化することによって再生を誘発させることを明らかにしている論文である。

 LT(lymphotoxin)は1968年にリンパ球によって産生される細胞傷害性分子として報告されている。そして1975年には細胞傷害性活性を通じて生体内でさまざまな腫瘍タイプで効率的な壊死を引き起こす「腫瘍壊死因子TNF」が報告された。その後,アミノ酸配列の決定によりTNFとLTの密接な関係が明らかになり,LTがTNFβに名称変更され,この2つのサイトカインはTNFスーパーファミリー(TNFSF)と定義される遺伝子スーパーファミリーのプロトタイプメンバーとされた。1977年からはTNFβに相同な3番目のリガンドが主要組織適合遺伝子複合体遺伝子座内で同定されLTβになり,TNFβはLTαまたはTNFSF1Bと呼ばれるようになった。LTα,LTβ,LTβR,他のTNFSFメンバーは,NF-κBシグナル伝達,先天性および適応免疫応答の主要な調節因子,細胞生存またはアポトーシス,細胞ストレス応答,リンパ器官の発達と維持を活性化する。NF-κBの活性化をもたらしているのは,①標準経路とされるTNFRおよびLTβRシグナル伝達経路と,②膜結合LTα1β2ヘテロ三量体によって活性化され,NF-κB誘導キナーゼ(NIK)の活性化をもたらす非標準経路とがある。LTβRやCD40などのTNFRファミリーメンバーのサブセットの刺激は,非標準NF-κB経路を活性化してNF-kB伝達シグナルを活性化させる(Oncogen, 2010, 関連論文リンク)。
 LTβRを介したシグナル伝達が腫瘍の血管新生に関与しており,活性化された宿主リンパ球による線維肉腫細胞上のLTβRの活性化は,組織化された腫瘍組織での新規血管新生促進経路への刺激となる。またLTβRシグナル伝達阻害により腫瘍の血管新生が妨げられ,腫瘍増殖を抑制することもわかっている。
炎症におけるLTの主要な役割は,恒常性ケモカイン(CXCL13,CCL19,CCL21など)の発現を調節し,CCL5,CCL2,CXCL10等さまざまな炎症性および抗炎症性ケモカインを誘導する。またリンパ系新生,自己免疫疾患および炎症性疾患の発症にもLTは関与しており,LTβRシグナル伝達が高内皮細静脈の分化および機能の恒常性制御に必要とされている。B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス,Helicobacter pyloriなど,ヒト感染症においてLTによる三次リンパ器官の発達が観察されており,さらに原発性胃炎,慢性ライム病,シェーグレン症候群,慢性閉塞性肺疾患,関節リウマチなどでも,三次リンパ器官が頻繁に出現している。これらにはLTまたはその標的遺伝子の発現上昇がみられている。
 本研究では,肺における慢性炎症性疾患にLTβRシグナル伝達が関与しているのか,喫煙関連慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者およびタバコ曝露させたマウスの肺上皮細胞を用いて解析している。若年マウスおよび高齢マウスにおけるLTβRシグナル伝達の治療阻害は,喫煙関連の誘導性気管支関連リンパ組織を破壊して肺組織の再生誘発や気道線維化や全身性消耗を回復させた。そのLTβRシグナル伝達を遮断することで,NF-κBの上皮非正規的活性化を減衰させ,気道におけるTGFβシグナル伝達が減少し,肺胞上皮前駆細胞におけるWNT/βカテニンシグナル伝達を活性化することによって再生を誘発させることを確認した報告である。
 まずCOPD患者および6カ月間タバコの煙に慢性的に曝露されたマウスの肺組織において,共にLTA,TNFSF14,TNF,および下流のCCL2,CXCL8およびCXCL13の発現増加,そしてLTβRおよびTNF受容体シグナル伝達経路においてIKK依存性標準およびNIK依存性非正規NF-κBシグナル伝達の活性化を確認している。タバコ曝露マウスの肺組織で形成されたiBALTが,LTβR-Ig融合タンパク質を用いたLTβRシグナル伝達阻害で減少していることも確認している。そしてLTβR阻害の細胞および分子の影響を決定するため,バルク転写およびプロテオミクス分析と共に単細胞RNAシーケンシング(scRNA-seq)を調べている。マウス肺組織全体から単細胞転写体を24個の細胞の同一性にグループ化し,タバコの煙曝露とLTβR-Ig治療後の細胞型特異的変化(リンク)が観察され,LaおよびLtbの発現は主にBおよびT細胞に局在し,Tnfsf14(代替LTβRリガンド)はT細胞および顆粒球に局在し,一方Tnfは肺内のすべてのロイコサイトによって発現していた(図1f)。TnfではなくLtbの発現は,LTβR-Ig治療後に減少しており,その際に有意に減少した肺胞上皮2(AT2)細胞におけるNIK依存非正準NF-κBシグナル伝達の肯定的な調節を強く誘導していた(図1g)。また,タバコ曝露によるマウスの治療的LTβR-Ig治療に対する全身反応消耗性変化の分析や,WNT/βカテニン標的遺伝子TCF4およびAXIN2の発現がタバコの煙曝露後およびLTβR-Ig処置によるAT2細胞に大きく影響していることを明らかにしている。本研究は,終末期COPD患者の肺サンプルであるという制限はあるが,肺内の慢性炎症性変化とNF-κBシグナル伝達との三次リンパ組織構造まで評価し再生機序まで明らかにしていることは驚くべき内容である。不可逆性の慢性炎症性肺疾患の治療ターゲットとして期待できる分野かもしれない。


•Science

1)ウイルス生物学

エンテロウイルス3Cプロテアーゼは,気道上皮のヒトNLRP1インフラマソームを活性化する(Enteroviral 3C protease activates the human NLRP1 inflammasome in airway epithelia

 シンガポールの科学技術研究庁の研究センターからで,近年小児および成人にも重症肺炎となる症例が増加してきているヒトライノウイルス感染による炎症反応誘導のメカニズムを明らかにした報告である。
 ウイルスはヒト細胞に感染すると,自己複製のために様々なタンパク質を合成する。その中にはポリタンパク質があり,ポリペプチド鎖の中に複数のさまざまな酵素類が存在している。それらの酵素の1つ,プロテアーゼはペプチド結合の切断を通じてさまざまなタンパク質のN末端やC末端を正しく形成する重要な働きをしている。またインフラマソームは,炎症やアポトーシスに関与するタンパク質の複合体で,炎症性CaspaseやIL-1ファミリーのサイトカインを活性化する。NLRP1(NALP1)inflammasome,NLRP3(NALP3)inflammasome,IPAF(NLRC4)inflammasome,AIM2inflammasomeの4種類が報告されており,バクテリア生菌,微生物由来毒素,生体異物,PAMPs(病原体関連分子パターン),DAMPs(ダメージ関連分子パターン)などさまざまな刺激により活性化される(インフラマソームシグナル伝達)。ノッド様受容体(NLR)は,感染の細胞内センサーとして機能し病原体に関連する分子パターンを認識すると,炎症性サイトカインとピロプトーシスを誘発するインフラムマソームと呼ばれるシグナル伝達複合体に組み立てられる。
 本研究では,「ヒトライノウイルス(HRV)感染時に,HRV3CプロテアーゼはNLRP1から自己抑制性N末端断片を切断し,その後分解される。放出されるNLRP1 C末端フラグメントは,次いでインフラマソーム形成を開始する」という,ヒトNLRP1がエンテロウイルスを感知し,活性化させることを明らかにした。つまり,NLRP1が気道上皮で高発現し,一般的な風邪を引き起こすエンテロウイルスの一種であるヒトライノウイルス(HRV)によって活性化されていた。
 自然免疫系は,感染症や傷害を検出するためにさまざまなセンサータンパク質を使用している。ヌクレオチド結合オリゴマー化ドメイン,ロイシンリッチリピート,およびピリンドメイン含有タンパク質(NLRP)は,宿主の自然免疫応答の開始に関与する細胞質センサーのファミリーである。活性化すると,NLRPは,炎症素子として知られている多タンパク質免疫エフェクター複合体を形成する。炎症性の組み立ては,カスパーゼ-1活性化,インターロイキン-1β(IL-1β)およびIL-18などの炎症促進性サイトカインの分泌,およびガスダーミンD依存性ピロプトーシスをもたらす(リンク)。これらのプロセスは,微生物感染および傷害に対する下流の免疫応答を調整する。遺伝データは,抗菌防御におけるヒトNLRPにとって重要な役割を担っている。不調なNLRP駆動の炎症シグナル伝達は,いくつかの自己免疫疾患および自己炎症性疾患の病因に寄与する。感染時に,3Cプロテアーゼ(HRV-3Cpro)として知られているHRV成分は,特にアミノ酸Q130とG131の間でNLRP1を切断する。この切断は,自己阻害性N末端フラグメント(アミノ酸131〜1212)をN末端グリシンデグロン経路によって認識し,その後プロテアソームによってクリアする原因となる。この一連の事象は,解放されたNLRP1 C末端フラグメント(アミノ酸1213〜1474)によって媒介される炎症性活性化において最高潮に達し,カスパーゼ-1活性化,炎症性細胞死,およびIL-18などの炎症性サイトカインの分泌を感染した気道上皮細胞から生じていた。また,NEDD8-カリン阻害剤MLN4924によるN末端グリシンデグロン経路の薬理学的阻害は,HRV感染原発性ヒト気管支上皮細胞におけるNLRP1 inflammasomeの活性化を効果的に阻止することを示していた。またCRISPR-Cas9を介した一次NHBEにおけるNLRP1,ASC,またはプロカスパーゼ-1の欠失は,HRV16感染またはタラボスタット治療によって引き起こされたIL-18切断を完全に排除したことからも,NLRP1がHRVの内因性インフラマソームセンサーであることを確認している。そしてHRV16に感染したNLRP1ノックアウトNHBEが,IL-18を成熟p17型に切断することも,ASCを高分子量オリゴマーに組立てられなかったことからも実証している(Science inflammasome enterovirus)。
 本研究結果は,ヒトおよびげっ歯類におけるNLRP1のタンパク質分解媒介活性化のための統一されたメカニズムを説明している。また,ヒトの自然免疫における最近説明されたN末端グリシンデグロン経路の役割を明らかにした。HRV感染と炎症性IL-1サイトカインの両方が喘息および慢性閉塞性肺疾患の急性増悪に関連しているので,NLRP1の炎症性経路は,気道上皮を含む炎症性疾患の治療における治療ターゲットになる可能性が考えられる。

•NEJM

1)腫瘍学

高頻度マイクロサテライト不安定性進行大腸癌に対するペンブロリズマブ(Pembrolizumab in MSI-H–dMMR advanced colorectal cancer — A new standard of care

 進行大腸癌症例に対しての治療方針はある程度決まっており,進行性肺癌に比して治療薬の選択幅もかなり小さい分野である。そのため,本研究は,治療歴のある高頻度マイクロサテライト不安定性(MSIH)またはミスマッチ修復欠損(dMMR)腫瘍において,プログラム死 1(PD-1)の阻害は臨床的利益をもたらすことを明らかにした大きな成果と考えられる。
 第3相非盲検試験で,治療歴のない転移性MSI-H–dMMR大腸癌患者307例をペムブロリズマブ200mg(3週ごと)投与群と,化学療法(5-フルオロウラシルベースのレジメンを単独,またはベバシズマブもしくはセツキシマブと併用を2週ごと)群に1:1で無作為に割り付け行われた。どちらの群も70%以上は西欧・北アメリカ人の対象者で,原発巣は約7割が右側結腸であった。主要エンドポイントは無増悪生存期間(PFS)と全生存期間(OS)の2つである。
 2回目の中間解析を行った追跡期間(無作為化からデータカットオフまで)中央値32.4カ月(範囲24.0~48.3)の時点で,ペムブロリズマブ群は化学療法群よりも明らかにPFSを延長させる結果であった(中央値16.5カ月対8.2カ月,ハザード比0.60,95%信頼区間[CI]0.45~0.80,p=0.0002,リンク)。また追跡期間24カ月の時点における制限付き平均生存期間の推定値は,ペムブロリズマブ群で13.7カ月(範囲12.0~15.4),化学療法群では10.8カ月(範囲9.4~12.2)であり,データカットオフ時点での死亡数は,ペムブロリズマブ群の56例と化学療法群の69例であった。固形癌治療効果判定基準(RECIST)バージョン1.1で評価した全奏効(CRまたはPR)は,ペムブロリズマブ群43.8%と化学療法群33.1%であったが,24カ月時点まで奏効が持続していた割合はペムブロリズマブ群で83%に対し化学療法群では35%であった。グレード3以上の治療関連有害事象の発現率はペムブロリズマブ群22%に対し,化学療法群では66%(死亡1例を含む)であった。また本試験においては肺臓炎の発症はペムブロリズマブ群において6例(4%)で,grade3以上はいなかった。これは進行性肺癌における抗PD-1抗体療法の肺臓炎発症率とほぼ同等である。ちなみに本試験では転移巣データの記載ないため肺病変との関連は不明である。
これらの結果により,MSI-H–dMMR結腸直腸癌患者のファーストライン治療の新しい標準としてペンブロリズマブが確立されFDAでも承認されている。MSI-H–dMMR結腸直腸癌の場合,化学療法と比較して,免疫療法に関連する反応の持続性,より優れた安全性プロファイル,および改善された生活の質により,ペンブロリズマブが好ましい選択になることを実証したデータである。
(KEYNOTE-177試験:ClinicalTrials.gov 登録番号 NCT02563002)


2)画像診断

緑色尿(Green urine

 臨床医としては知っておいて損はない情報ではないでしょうか。緑色尿は,投薬(プロポフォール,インドメタシン,アミトリプチリン,シメチジン,およびメチレンブルーなど),閉塞性黄疸,そしてpseudomonas属の感染が原因と考えられている。

 ちなみに紫色尿は有名で,便秘と尿路感染症が原因になっている。糞便中のトリプトファンが,便秘で増殖した腸内細菌に分解されインドールになり,体内に吸収されインジカンとなって尿排泄される。その尿中インジカンが尿路細菌(Providencia stuartii, Klebsiella pneumoniae, E.coli, Morganella morganii, Enterobacter aerogenes, Proteus mirabiisなど)によりインジゴ(青色),インジルビン(赤色)に分解され,それらは水溶性ではなく混じり合って紫色になる。どちらも知らないと驚くので,臨床医としては理解しておきたい。

(石井晴之)


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