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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 129

公開日:2021.1.20


今週のジャーナル

Nature Vol. 589, No.7841(2021年1月14日)日本語版 英語版

Science Vol. 371, Issue #6526(2021年1月15日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 2(2021年1月14日)日本語版 英語版







Archive

動脈硬化病態への抗体誘導解析から治療へ?/老化防止(senolysis)の鍵は,リソソームpH調節GLS1の阻害?肺線維症は?/心筋ミオシンを標的とした心不全治療のエビデンス

•Nature

1)免疫学 
ALDH4A1はアテローム性動脈硬化症の自己抗原として防御抗体の標的となる(ALDH4A1 is an atherosclerosis auto-antigen targeted by protective antibodies
 今週もCOVID-19に関する重要な論文が報告されているが,今回はCOVID-19を離れて,動脈硬化症が自己抗体を誘導し,それが病態の修飾に寄与している可能性を示す興味深い論文を紹介する。
 感染症,自己免疫疾患,アレルギーや悪性腫瘍だけでなく,動脈硬化や肥満などの生活習慣病においてもその病態形成には慢性的な炎症の持続が関与しており,組織の局在するマクロファージなどの自然免疫系細胞がその主役としてクローズアップされることが多かった。本研究は,スペインの心臓血管研究所からの報告で,動脈硬化で生じるプラークで炎症が持続することにより,B細胞の活性化および自己抗体の誘導が生じることを示している。
 主にLDL受容体欠損マウスに高脂肪食を投与し動脈硬化を発症するマウスモデルを用いた検討が行われている。高脂肪食と通常の餌を与えたLDL受容体欠損マウスについて,脾臓の形態やB細胞のプロファイルを比較すると,胚中心におけるB細胞増殖,濾胞ヘルパーT細胞,メモリーB細胞,形質細胞などが高脂肪食を与えた場合に有意に増加していることがわかった。胚中心で増殖しているB細胞が認識する抗原を調べるため,1700のB細胞について抗体をコードする遺伝子に関しシングルセルシークエンスを行ったところ,クラススイッチに関しては動脈硬化マウスでIgG2aへのスイッチが誘導される一方,IgG3へのスイッチが抑制されていた。また抗体遺伝子の体細胞突然変異に関しては,動脈硬化マウスで有意に蓄積が高まっていた。以上から,動脈硬化で発現する抗原に対してB細胞応答が誘導されていることが明らかになった。
 次に,動脈硬化マウスで増幅されるB細胞をもとに同じエピトープを認識するように作成された56種類の抗体とコントロールマウスのB細胞から同様に作成した25種類の抗体を用いて,動脈硬化巣を染色すると,動脈硬化マウス由来の抗体の32%,コントロールマウス由来の8%は,動脈硬化組織と反応することが示された。この結果から,動脈硬化病変に由来する自己抗原が抗体誘導に関わっていることがわかった。この56種類の抗体の中から,動脈硬化への反応性が強いA12という抗体を選択し,その抗体が認識している抗原を同定するため,大動脈組織からの蛋白抽出物とA12を用いて免疫沈降および質量分析を行い,抗原抗体反応をしている標的蛋白としてaldehyde dehydrogenase 4 family member A1 (ALDH4A1)というミトコンドリア内で機能する脱水素酵素を明らかにした。ALDH4A1に対する抗体は,正常の大動脈組織に対しても反応することから,動脈硬化に特異的なネオ抗原を認識しているわけではなく,大動脈にもともと存在する自己抗原を認識することが示された。さらに血漿ALDH4A1濃度を測定したところ,動脈硬化モデルマウスおよび動脈硬化を有する患者からの血液では,いずれのコントロールよりも有意に高値を示すことがわかった。最後に,動脈硬化マウスモデルにA12抗体を投与したところ,血中ALDH4A1を抑えるだけでなく,コレステロールやLDLのレベルを低下させ,プラークの形成を抑制することを示した。
 動脈硬化によって自己抗体が誘導され,それが動脈硬化の抑制をもたらすという大変興味深い結果であるとともに,生活習慣病への免疫学的治療の可能性を示す大きな発見と考える。実際にどのような自己抗体があるときに予後が改善するのか,正常の大動脈の細胞内蛋白に対する抗体がALDH4A1の中和だけでなく病変でどのように作用し,病態修飾に関わっているのかなど,今後も研究の進展が期待される。

•Science

1)老化・代謝 
グルタミン代謝阻害による老化細胞の除去が老化に伴う様々な機能障害を改善する(Senolysis by glutaminolysis inhibition ameliorates various age-associated disorders
 老化に関わる液性因子の関与は,2005年にパラバイオーシスのモデルを使用した実験で報告されているが(日本語のわかりやすい総説があるので参照いただきたい:リンク),その大元となるような細胞内グルタミン代謝による老化細胞の維持と除去のバランスが老化制御のKeyになるかも知れない,という東京大学からの興味深い報告について紹介する。この研究は,Perspectivesにも取り上げられており,わかりやすい図解で紹介されている。また,発表を行った東京大学でもプレスリリースが参照可能である。AASJでも取り上げられている。
 マウス個体から老化細胞を除去すること(Senolysis)で加齢に伴うさまざまな症状の改善や健康寿命の亢進,さらに動脈硬化症などの加齢関連疾患の病態が改善することが報告されているが,生体内の老化細胞には多様性があり,効率的にSenolysisを誘導する手段はいまだに存在しない。本研究グループは,純度の高い老化細胞の培養系を樹立し(リンク),その細胞とレンチウイルスshRNAライブラリースクリーニングを用いて,老化細胞の生存に必須となる遺伝子のスクリーニングを行ったところ,グルタミン代謝に関与するglutaminase 1(GLS1)が候補遺伝子として同定された。GLS1の発現に関して老化との関連を評価したところ,GLS1アイソフォームの1つであるkidney-type glutaminase(KGA)がヒト皮膚細胞で老化に伴い発現が上昇することを示している。さらにGLS1の阻害薬であるBPTES〔bis-2-(5-phenylacetamido-1,3,4-thiadiazol-2-yl)ethyl sulfide〕で正常細胞と老化細胞を処理すると,老化細胞特異的に細胞死が誘導されることがわかった。KGA発現は細胞内pHの低下により促進されることがすでに報告されていたことから,細胞内のpH調節に関わるリソソームの動態について解析を行ったところ,老化細胞においてはさまざまな遺伝子の過剰発現によるタンパク質凝集体の形成によってリソソーム膜に損傷が生じ,pHが低下することがきっかけとなってKGAが上昇することがわかった。そこで老化細胞をGLS1阻害薬で処理するとpH低下がさらに顕著になり,老化細胞は細胞死を起こすことも示された。GLS1阻害薬を加えない状態で,どのように老化細胞がpH低下でも生存しているのか評価したところ,GLS1発現により代謝産物として産生されるアンモニアがpHの調整を行うことで,老化細胞がpH低下に適応していることがわかった。GLS1阻害薬の有効性を評価するために,老化マウスもしくは肥満モデルマウスを用いて,腎臓・肺・肝臓などを評価したところ,硬化性病変・線維化・動脈硬化の改善を認めた。グルタミン代謝の阻害薬はすでにがん治療などへの応用が試みられており,老化抑制だけでなく線維化抑制などを含め今後の臨床応用が期待される。

•NEJM

 1月13日付けで,COVID-19に対するアデノウイルスワクチン(Johnson & Johnson社)のPhase1-2a試験の結果,安全性や免疫原性の確認ができたという報告や,びまん性肺疾患に伴うIII群の肺高血圧に対するトレプロスチニル吸入による6分間歩行を用いた運動耐容能の改善作用に関する報告がオンラインになっているが,今週号としては心不全の新たな治療薬に関する治験について紹介する。

1)循環器科 
収縮期心不全に対するオメカムチブメカルビルによる心筋ミオシンの活性化(Cardiac myosin activation with omecamtiv mecarbil in systolic heart failure
 こちらの試験はGALACTIC-HFという名前で,アムジェンなどを含む複数の企業の参画に基づいている。もともとオメカムチブメカルビルという薬剤については,その作用機序として,選択的に心筋ミオシンを活性化し,心筋収縮力を改善することが2011年のサイエンスに報告された(日本語のわかりやすい総説を添付する:リンク )。
 症候を伴う慢性心不全で,EFが35%以下の患者8,256例を対象として,標準的な心不全治療に上乗せする形で,オメカムチブメカルビルを投与する群とプラセボ群でRCTが行われた。オメカムチブメカルビルは25mg,37.5mg,50mgのいずれかの容量で投与し,プライマリーエンドポイントは心不全増悪による入院もしくは救急受診,もしく心血管死とした。
 観察期間の中央値21.8カ月までに,プライマリーエンドポイントのうち,心不全増悪のイベントが生じた割合は,オメカムチブメカルビル投与群で37.0%,それに対してプラセボ群で39.1%であった。ハザード比は0.92で,95%信頼区間は0.86~0.99,P値は0.03であった。一方,心血管死に関しては,治療群19.6%とプラセボ群19.4%で有意差は認めなかった。投与後24週の時点で,治療群ではプラセボ群と比較して,脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の中央値のベースラインからの変化量は10%低かった。
 有意差は限定的ではあるものの,EFが減少した心不全患者に対して,オメカムチブメカルビルは心不全増悪イベントの発生を抑制することが示された。プライマリーエンドポイントの差はごくわずかであるが(),これまでにない作用機序の薬剤であるため,併用治療などの1つの選択肢として期待できる可能性がある。

(小山正平)

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