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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 131

公開日:2021.2.3


今週のジャーナル

Nature Vol. 589, No.7843(2021年1月28日)日本語版 英語版

Science Vol. 371, Issue #6528(2021年1月29日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 4(2021年1月28日)日本語版 英語版







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COVID-19の嗅覚障害-revisited/オックスフォード大・アストラゼネカ社製COVID-19ワクチンに期待できること-MAITの機能?/間質性肺疾患合併肺高血圧症の新たな吸入療法-PG-I2誘導体

•Nature

1)感染症:Article 
SARS-CoV-2を感染させたK18-hACE2マウスの嗅覚障害(COVID-19 treatments and pathogenesis including anosmia in K18-hACE2 mice
 マウスACE2と新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白質は適合していないため,マウスは新型コロナウイルスに感染しにくい。そこで今回,米国アイオワ大学の著者らは,サイトケラチン18プロモーターでヒトACE2を上皮細胞に発現させたトランスジェニックマウスK18-hACE2を用いて,新型ウイルス感染症(COVID-19)の嗅覚障害の病態を解析した。筆者らは,このK18-hACE2マウスに,2003年に流行したSARSコロナウイルスを感染させ,重症の脳炎と軽症の肺炎を発症することを2006年に報告している。なお,K18-hACE2マウスのCOVID-19については,肺炎病態を主に解析した論文が,すでに昨年8月,米国セントルイスのワシントン大学医学部からNature Immunology誌に報告されている。そのため今回は,K18-hACE2マウスのCOVID-19について,嗅覚障害に焦点を当てた報告となっている。
 K18-hACE2マウスに致死量のSARS-CoV-2を経鼻的に接種したところ,肺でのウイルス量は接種2日後をピークに漸減したものの,脳でのウイルス量は接種2日後,4日後,6日後と漸増した。COVID-19では,まず呼吸器に感染し,次の時相で脳に感染が広がることが確認された。続いて,嗅上皮(嗅覚の感覚受容細胞である嗅細胞,支持細胞,基底細胞よりなる)を調べてみると,ウイルスは支持細胞に感染していた(図1i,j)。嗅覚障害は,この支持細胞に感染したSARS-CoV-2が隣接する嗅細胞へ直接感染拡大したためではなく,支持細胞の感染で惹起された炎症環境による組織破壊が原因と考えられた。
 これを裏付けるために,筆者らはヒト回復期患者血漿による嗅覚障害の予防効果を調べてみた。「嗅覚障害が嗅細胞への直接的なSARS-CoV-2感染ではない」とすると,ヒト回復期患者血漿では嗅覚障害を予防できないと想定される。そこでK18-hACE2マウスにSARS-CoV-2を接種する12時間前にヒト回復期患者血漿を投与してみた。ヒト回復期患者血漿の投与により,感染K18-hACE2マウスの肺内や脳内のウイルス量は減少し,死亡率は改善したものの,嗅覚障害は改善しなかった(図2)。なお,嗅覚障害を調べるために,オスマウスがメスマウスの鱗屑に向かう時間を計測したり,床敷に隠した餌を見つける時間や成功率を計測するなど,呼吸器科医には見慣れない実験系を行っている。
 なお,嗅上皮感染とNeuropilin-1に関してはTJH#121でも紹介している。

•Science

1)免疫学:Reports 
MAIT細胞の活性化がアデノウイルスベクターワクチンの免疫原性を増強する(MAIT cell activation augments adenovirus vector vaccine immunogenicity
 新型コロナウイルス感染症に対するワクチンは,比較的単純なmRNAワクチンであるファイザー社製とモデルナ社製,アデノウイルスベクターで細胞導入するオックスフォード大/アストラゼネカ社製の3種類が,日本でも近々接種予定とされている。2種類のmRNAワクチンが,ファイザー社製とモデルナ社製それぞれ95%94%と,高いワクチン効果を示しているのに対し,アデノウイルスベクターワクチンであるオックスフォード大/アストラゼネカ社製は70%とやや見劣りする結果となっている。またウイルスベクターを用いている点も安全性の懸念を高め,オックスフォード大/アストラゼネカ社製は,今のところmRNAワクチンに比べるとやや分が悪そうである。
 今回英国オックスフォード大の筆者らは,オックスフォード大/アストラゼネカ社製のCOVID-19ワクチンと同じ,チンパンジーアデノウイルスベクター(ChAdOx1)を用いて,その免疫誘導の機序を解析した。オックスフォード大として自分達のCOVID-19ワクチンを売り込もうというきな臭さは感じられるものの,ヒト最大のT細胞亜集団であるにもかかわらず,その機能が十分解明されていないMAIT(mucosal-associated invariant T)細胞を取り上げることによって,学術的な意義を高めている。
 MAIT細胞は自然免疫型T細胞の1つで,肝では全α/β型T細胞の20〜50%,末梢血や腸管では1〜10%を占め,ヒト最大のT細胞亜集団である。MAIT細胞はインバリアントT細胞受容体(TCR)を有し,細菌やカビのリボフラビン(ビタミンB2)合成の中間代謝産物を認識して活性化する(獲得免疫の性状)。さらにMAIT細胞は,インフルエンザなどのウイルス感染症では,TCR非依存的にIL-18などによって活性化しIFN-γを産生するようになる(自然免疫の性状)。このようにMAIT細胞は,自然免疫と獲得免疫,両方の性状を有する細胞として注目されている(2020年Immunity誌に総説あり)。しかし,MAIT細胞の生理機能,特にワクチンによる免疫誘導との関わりはこれまでよくわかっていなかった。
そこで筆者らは,ヒトPBMCを用いて,通常のアデノウイルス感染症を引き起こしているアデノウイルス5型のベクター(Ad5)とChAdOx1,いずれがよりMAIT細胞を活性化するのかを調べた(図1)。その結果,ChAdOx1の方が,Ad5より,有意にMAIT細胞を活性化することがわかった。
そして,このChAdOx1によるMAIT細胞の活性化はTCR非依存性で,単球の産生するIL-18(図2),形質細胞様樹状細胞(pDC)の産生するIFN-α(図2),IFN-αによって単球から産生誘導されたTNF(図3)によってMAIT細胞は活性化されていた。
 最後に図4では,ヒトでもChAdOx1ワクチン(COVID-19ワクチンではなく髄膜炎菌ワクチンを用いている)がMAIT細胞を活性化すること,MAIT細胞欠損マウス(Mr1-/-)では,野生型マウスに比し,ChAdOx1のCOVID-19ワクチンによる免疫誘導能(CD8+ T細胞の活性化で評価)が低下してしまうことが示されている。
 本論文で,MAIT細胞が自然免疫と獲得免疫をつなぐ重要な細胞であることが示唆され,ChAdOx1のオックスフォード大/アストラゼネカ社製COVID-19ワクチンでは,MAIT細胞を活性化するという「斬新なアジュバント効果」を期待できることが示された。ただし,活性化されたMAIT細胞が,どのようにして抗原特異的なT細胞応答を誘導するのかはまだ不明である(当該PERSPECTIVESの図を参照)。

•NEJM

1)呼吸器病学:Original Article 
間質性肺疾患合併肺高血圧症に対するトレプロスチニル吸入(Inhaled treprostinil in pulmonary hypertension due to interstitial lung disease
 Inova Heart and Vascular Institute(米国バージニア州)からの報告で,オンライン版で発表された際に,「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No.129で簡単に紹介されている。
 間質性肺疾患合併肺高血圧症に対する肺高血圧治療薬の効果は,プラセボ対照多施設二重盲検試験で,ボセンタンリオシグアトについて調べられている。そしてこれらの薬剤には,効果がない,あるいはむしろ有害事象が多い,という結果が示されたことから,間質性肺疾患合併肺高血圧症に対し肺高血圧治療薬の使用は一般的に推奨されない。そのため現状のガイドラインでは,間質性肺疾患合併肺高血圧症に対して,低酸素血症に酸素療法,右心不全症状に利尿薬,間質性肺疾患にステロイド療法や免疫抑制剤や抗線維化療法といった治療が試みられ,肺高血圧症自体については肺移植を考慮するということになる。
 このような現状に対し本報告では,肺高血圧治療薬トレプロスチニル吸入が間質性肺疾患合併肺高血圧症に有効,とプラセボ対照多施設二重盲検試験で示している。トレプロスチニルは,持田製薬からトレプロスト®の製品名で発売されているプロスタグランジンI2(プロスタサイクリン)誘導体で,肺および全身の動脈血管床に対する直接的な血管拡張と血小板凝集抑制の薬理学的作用が期待される。現在本邦でのトレプロスチニルの適応は,肺動脈性肺高血圧症のみで,持続静脈内注射または持続皮下注射での投与となっている。
 今回,間質性肺疾患合併肺高血圧症326例が登録され,163例ずつがトレプロスチニル群(用量漸増で最大72μgを1日4回吸入)とプラセボ群にそれぞれ割り付けられた。16週の治療期間で,主要評価項目は6分間歩行距離である。6分間歩行距離は,プラセボ群に比し,トレプロスチニル群で31メートルの延長が認められた。
 その他,副次的評価項目として,トレプロスチニル群でNT-proBNP(ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント)が低下し,入院などの臨床的悪化も減少した。しかし,トレプロスチニル群とプラセボ群で,酸素化に有意差は認められなかった。なお有害事象としては,咳嗽,頭痛,息切れ,めまい,悪心,易疲労感,下痢が認められたものの,いずれも中等症以下であった。
 これまで,肺動脈性肺高血圧症の要因を疑って肺高血圧治療薬を投与してみるか(当該のeditorialでは「just try something」と表現されている),保存的治療に終始するか,臨床的にほぼ2択であった間質性肺疾患合併肺高血圧症の治療に,比較的導入管理しやすい吸入療法が加わる可能性が示された。

(TK)

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