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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 138

公開日:2021.3.24


今週のジャーナル

Nature Vol. 591, No.7850(2021年3月18日)日本語版 英語版

Science Vol. 371, Issue #6535(2021年3月19日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 11(2021年3月18日)日本語版 英語版







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ヒト化マウスを用いた抗SARS-CoV-2経口内服薬開発/IL-10の相反する作用を分離/週1回肥満治療薬の第三相臨床治験

•Nature

SARS-CoV-2感染はEIDD-2801で治療も予防もできる(ヒト化マウスモデルでの検討)(SARS-CoV-2 infection is effectively treated and prevented by EIDD-2801

1)SARS-CoV-2 
 米国ノースカロライナ大学のグループからの報告で,このグループはSARS-CoV,MERS-CoVの研究にパンデミック以前から取り組んできた背景があって2019年にNat Biotechnol誌に肺組織を免疫不全マウスの皮下に移植するモデルを用いて,MERS-CoV,Zikaウイルス,RSウイルス,サイトメガロウイスといったヒト病原体ウイルスの感染モデルを報告している(リンク)。今回はそのモデルをSARS-CoV-2感染モデルにも応用して肺炎様の病態を呈することや,それだけではおそらくトップジャーナルのレベルには届かなかった可能性があるが,コウモリ由来のコロナウイルス(WIV1-CoVとSHC014-CoV)が中間宿主を介さなくてもヒト由来肺組織に感染しうることの証明,新型コロナウイルスへの薬効が期待されている経口投与可能な抗ウイルス薬であるEIDD-2801のin vivo実験に応用して治療や予防に薬効が期待できるという知見を得ている。以下順番に見ていく。

 ヒトコロナウイルスは一般的にマウスでは増殖しないため,ウイルスを適応させたり,マウス側のウイルス受容体遺伝子を改変したり,ヒトACE2遺伝子をマウスに遺伝子発現させる「ヒト化」の手法でマウスでの感染モデルが開発されてきた。しかし,ヒト肺は気道や肺胞の上皮細胞だけでなく線維芽細胞や血管内皮,軟骨細胞といった多種類の細胞から構成されており,マウスの細胞とも異なる点が多い。研究者たちは新興コロナウイルスのヒトでの病態をマウスにおいて再現したいと考え,SARS-CoV,MERS-CoV,SARS-CoV-2をそれぞれヒト肺組織を皮下移植したマウス(human Lung-only Mouse: 以下,LoM)に接種し,2日後にはいずれも高いウイルス力価を呈することを確認した(Fig.1)。さらにSARS-CoVと類似性の高いコウモリ由来のコロナウイルス(WIV1-CoV,SHC014-CoV)についてin vitroではヒト由来細胞に感染することが報告されていたが,このLoMでもウイルス接種後2日後には皮下のヒト肺組織でウイルスが増殖して高力価を呈することから,中間宿主なしでも人に直接感染しうると述べている。次に,SARS-CoV-2が感染した細胞を調べ,II型肺胞と繊毛上皮細胞,間葉細胞のごく一部にはウイルス抗原が同定されるが,I型肺胞上皮細胞やクラブ細胞,血管内皮細胞には感染細胞がいなかったとしている。次にCOVID-19患者の肺ではdiffuse alveolar damage(DAD)が報告されてきたが,これを患者由来肺組織で確認しつつ,LoMのヒト肺組織でのSARS-CoV-2感染後の病理像と比較している。LoMのヒト肺組織ではウイルス感染部位に沿って蛋白質の浸出液が肺胞腔に貯留し,II型肺胞上皮細胞が基底膜から剥離したり,多核細胞が捉えられている。また,フィブリンが認められるもののARDSに特徴的なヒアリン膜は認めず,閉塞した血管内にはフィブリン塞栓を認めたと述べている。皮下に移植した肺組織なので,ネクローシスを起こしたりII型上皮細胞がちゃんと維持されているのかなどは気になるところだが,研究者たちはウイルス接種後2日の時点で感染していないII型肺胞上皮細胞の構造はラメラ体が保持されていたことを示し,感染したII型肺胞上皮細胞ではミトコンドリアの腫大やマトリクスやクリステの消失,ERの異常,ウイルス粒子の存在といった構造異常を認めたとしている(Fig.2)。血管内皮細胞にはSARS-CoV-2は感染せず,細胞の構造も保たれていたが,毛細血管内にはウイルス粒子が細胞デブリなどに囲まれて認められた。全体的にはCOVID-19患者における肺の病態をよく再現できたとしている。次にSARS-CoV-2摂取後の2日目,6日目,14日目のLoMからヒト由来肺組織を取り出しRNA-seqを実施し,インターフェロンによって誘導される遺伝子や炎症性サイトカインの遺伝子(IL6,IL8,CXCL10,TNF,RANTES),抗ウイルス性に反応したと考えられるIFNB1,IFNL1,2,3などの遺伝子群の発現上昇やパスウェイ解析も行った。

 最後にLoMを用いて治療薬候補化合物の薬効評価への応用例が示されている。プロドラッグとして経口抗ウイルス薬として開発が進められているβ-d-N4-hydroxycytidine(NHC)という核酸アナログ(EIDD-2801)が取り挙げられた。この候補薬はウイルスRNAのポリメラーゼに選択的に競合的に働く基質であり,ウイルスRNAに取り込まれるとウイルスが増殖できなくなる。従来の注射剤として開発されてきた治療薬に比べて経口投与という点も大きいため,これをSARS-CoV-2をLoMに接種後24時間後もしくは48時間後に投与をはじめ,12時間おきに再投与したところ,いずれの場合も2日間投与しただけでウイルス増殖が大きく抑制された(Fig.4)。次に予防的な効果について検討し,ウイルスを接種する12時間前に化合物を投与し,その後12時間おきに再投与してウイルス接種後48時間後の抑制効果を調べたところ,ウイルス増殖がよく抑制されることが見いだされ,病理組織学的にも整合性ある結果を得ることができた。ちなみにEIDD-2801はもともとインフルエンザウイルスの治療薬としてエモリー大学の大学発ベンチャー企業で開発されたもので,変異原性があるのではという論争が起きていたが,SARS-CoV-2への有効性が期待されて,現在はメルク社も参画して,Phase II/IIIの臨床治験が進められている(リンク)。2020年12月にはNat Microbiol誌にフェレットを用いた非臨床試験でフェレット間での感染伝播を抑制することが報告されており,今後のさらなる治験結果を期待したい。

•Science

構造解析からインターロイキン10の抗炎症と炎症惹起作用を分離する(Structure-based decoupling of the pro- and anti-inflammatory functions of interleukin-10
1)IL-10 
 IL-10は単球やマクロファージに作用して炎症を抑制する効果が早くから注目され,クローン病や関節リウマチを対象にかつて組換え蛋白質を用いた治験が行われたが,CD8陽性T細胞などを活性化してインターフェロンγの産生を誘導し炎症を誘発してしまう問題があって2000年代初頭に失敗に終わっている。今回の研究はスタンフォード大学からの報告でIL-10の作用機序をクライオ電顕で解明を試み,アミノ酸配列を置換した様々なIL-10変異体を設計し,炎症抑制効果は温存しながら,炎症誘発作用は持たない変異型IL-10を開発できることをin vitroin vivoの実験により証明したと報告している。

 IL-10はダイマーとなって分泌され,それぞれに高親和性のIL-10Rαと低親和性のIL-10Rβの二量体が組み合わさることでリガンド-受容体を含めて6量体を形成し,細胞内に主にSTAT3,一部はSTAT1にリン酸化を促進することで多様なシグナル伝達をもたらしている。作用メカニズムの解明が難しかったのは,IL-10への親和性が低いIL-10Rβが複合体に含まれるため,試験管内での再構築が難しくてこの部分の構造解析ができなかったからだと述べられている。今回,研究者たちは酵母を使って細胞膜表面にIL-10Rβに結合すると推定される部位に様々なアミノ酸変異を導入した変異型IL-10単量体を発現させ,IL-10Rβの細胞外ドメインと強く結合する変異体をスクリーニングした(Fig 1)。その結果,5段階のスクリーニングを経てIL-10Rβに強く結合するIL-10変異体「super-10」を得た。この「super-10」は野生型IL-10と比べて4カ所のアミノ酸が置換された変異体で,IL-10RαがなくてもIL-10Rβによく結合し,IL-10RαとIL-10Rβとを混ぜることで各2量体ずつが合わさった6量体が安定化し,クライオ電顕での構造解析が可能なレベルにまで純化することができた。この複合体はIL-10とIL-10Rα,IL-10とIL-10Rβ,IL-10RαとIL-10Rβの3カ所で接した形を取っていて,図がわかりやすい(Fig.2)。
 
 次に研究者たちはIL-10とIL-10Rβの親和性を低くした変異体を探し,25番目のAspをAla(D25A)もしくはLys(D25K)に置換した変異体で,野生型IL-10に比べてB細胞由来のDaudi細胞を刺激したときに,STAT3リン酸化反応が著明に減弱することを見出した(Fig.S6)。また,単球由来のTHP-1細胞を刺激してみると,これらの変異体はE96Kを除いてSTAT3リン酸化反応を維持しており,特にD25A/E96A(以下「10-DE」)とD25Kの変異体ではTHP-1細胞とDaudi細胞でのSTAT3リン酸化活性の違いが最も顕著だった。細胞によって反応が異なることからT細胞由来のJurkat細胞や,NK細胞由来のYT-1細胞についても調べてみたところ,「10-DE」とD25K変異体ではDaudi細胞とJurkat細胞ではSTAT3リン酸化が起きず,YT-1細胞では50%弱,THP-1細胞では十分なSTAT3リン酸化が起きていた。一方で「super-10」変異体ではDaudi細胞とJurkat細胞でも野生型IL-10よりも強いSTAT3リン酸化を示していた。また,このリン酸化の違いは細胞表面のIL-10RαとIL-10Rβの発現量の違い(特にIL-10Rβ)による可能性が示唆されたことから,IL-10Rβの発現量とIL-10変異体のIL-10Rβへの親和性からSTAT3リン酸化の強弱が決まると仮説をたて(Fig.3C),ヒト末梢血単核球を細胞系統ごとに調べて,単球ではどのIL-10変異体もよく反応するが,「10-DE」とD25K変異体ではT細胞,B細胞,NK細胞で反応が弱いことを確認した。また,T細胞,B細胞についてはSTAT1リン酸化も確認し,「super-10」変異体では野生型IL-10よりも強いリン酸化を認めたものの,「10-DE」とD25K変異体ではリン酸化がほぼ起きなかった。
 
 さらにIL-10の抗炎症作用と炎症惹起作用の違いは,免疫細胞によって異なる反応が起きるからではないかと考えて,抗炎症作用は単球やマクロファージに対する抑制作用により,炎症惹起作用はCD8陽性T細胞によるIFN-γ産生によると考えた。そこで,IL-10変異体の性質によって制御が可能かを試みることにした。まず,抗炎症作用については,ヒト末梢血単核球を各細胞系統が混在した状態でLPS刺激する実験を行い,IL-10変異体を添加したところ,「10-DE」とD25K変異体では,IL-1β,IL-6,IL-8,TNF-αといった炎症性サイトカインは野生型や「super-10」を添加した時と同様に抑制された。細胞系統を調べると特にマクロファージにおけるIL-6,IL-8,TNF-α産生が抑制されていた。さらに「10-DE」変異体を用いて,in vivoでの検討も行い,LPS刺激による敗血症モデルマウスに「10-DE」変異体を単回投与したところ,野生型IL-10と同程度の生存率が得られただけでなく,全身性炎症の指標となるIL-6,TNF-α,ハプトグロビンの上昇も抑制されることを確認した(Fig.4)。次に炎症惹起作用について,原因と考えられているCD8陽性T細胞について,TCR刺激で活性化したCD8陽性T細胞を,野生型IL-10,「super-10」,「10-DE」変異体をそれぞれ添加して24時間培養した状態でRNA-seqを実施し比較した。その結果,IL-10により変動する炎症性サイトカインやケモカインについて「super-10」は概ね野生型IL-10と同様の変化を呈した一方で,「10-DE」は弱い変化に抑えられていた(Fig. 5)。
 Th1 CD4陽性T細胞についても調べ,野生型IL-10,「super-10」の添加ではIFN-γの産生が増える一方で「10-DE」では産生を抑制した。これらの結果からIL-10変異体によってマクロファージを選択的に活性化することができ,IL-10の抗炎症作用と炎症惹起作用を分けることに成功したとしている。

 2017年のノーベル化学賞の対象となったクライオ電顕の技術を使うことで,IL-10の複雑な作用機序が解明され,IL-10の変異体を用いることで,標的細胞の選択が可能となり,IL-10の抗炎症作用だけを期待できる分子を設計できたことは,過去にうまくいかなかったIL-10の治験をもう一度見直すきっかけになるかもしれない。なお,IL-10については現在はペグ化した製剤が,炎症抑制作用よりもCD8陽性T細胞による炎症惹起作用を狙って,免疫チェックポイント阻害薬との併用に有効ではないかと考えられて治験も行われており(リンク),今回の報告では炎症惹起作用を選択的に引き起こす方法への言及はなかったが,今後,同様の手法を用いることでIL-10の作用メカニズムを選択的に働かせることが可能になって,より効果的で副作用の少ない治療薬の開発が期待できるかもしれない。

•NEJM

肥満・過体重の成人でのセマグルチド週1回投与治験(Once-weekly semaglutide in adults with overweight or obesity
1)やせ薬 
 「やせ薬」はこれまでもあったが今回は二重盲検のPhase III試験で,これまでにない体重減少効果が報告されている。最初に述べておくと,GLP-1の類似体であるセマグルチドは日本国内では2021年3月現在,保険診療下に処方できるのは2型糖尿病の時のみであり,それも最初は週1回0.25mg皮下注から増量し維持容量として週1回0.5mg,4週間以上たっても効果不十分な場合には週1回1mg皮下注まで増量できる,と添付文書に書かれている。今回の治験で用いられた容量は週1回2.4mgであり,糖尿病患者は除外されているとはいえ,治験参加者は体格など日本における肥満・過体重とは状況も異なり,今後この治験結果が日本にどのように反映されていくかはまだわからないことにも注意いただきたい。ただ,一呼吸器内科医としては睡眠時無呼吸症候群を診察することも少なからずあり,肥満を伴う患者さんには10%の体重減量を目標に食事運動療法を勧めることがあるが,実際に目標を達成するのは患者さんにとって大変なことで,心苦しい思いをしている臨床医は多いと思う。将来,保険診療で処方できるかどうかはともかく,有効で比較的安全な「やせ薬」が科学的根拠を伴って世に出てくることは個人的にも歓迎したいので,取り挙げることにした。

 ノボノルディスク社が開発したセマグルチドは成人2型糖尿病の治療や,2型糖尿病や心血管系疾患患者における心血管系イベントのリスクを減らすことでこれまでも週1回1mg皮下注までの投与が承認されてきた。Phase 2治験でも2型糖尿病や成人肥満の患者で体重を減らす効果が報告されている。今回は肥満や過体重の成人を対象としており,治験のための研究費もノボノルディスク社が負担した。対象患者はBMI30以上もしくは,BMI27以上かつ過体重に伴う糖尿病以外の合併症をもつ成人を対象とした。2018年6月から11月にかけて1961名をリクルートして2:1でランダムに治療群(セマグルチドを週1回2.4mg皮下注)とプラセボ群に割り付けた。処方は68週間かけて行われ,その後7週間は処方なしの観察期間として設定された。食事運動療法といった基本的な生活スタイルを改善する指導的介入はいずれの群でも実施された。主要評価項目としては体重減少率と少なくとも5%の体重減少が達成された割合と設定した。主要エスティマンド(治験目的達成のため治験薬の効果を正確に記載すること)としては途中での治療中止や他の治療手段が介入した場合も考慮して効果を分析した。副次的評価項目としては10%,15%の体重減少の達成割合やウエスト周囲径,血圧,健康関連QOL調査票(SF-36v2やIWQOL-Lite-CT)のスコアが使用され,BMI40以下の一部の治験参加者(140名)ではDXA法で体脂肪も測定した。セマグルチドの投与方法は最初の4週間は週1回0.25mg,その後4週ごとに増量して16週までには週1回2.4mgに到達するが,後述する副作用が問題となる場合には必ずしも2.4mgに到達しなくてもよいとされた。

 結果は94.3%の参加者が治験を完了し,92.1%が68週目の体重評価を終えて,81.1%は予定通り治験薬が注射された。治験参加者は74.1%が女性で75.1%は白人だった。中間値として年齢は46歳,体重は105.3㎏,BMIは37.9,ウエスト周囲径は114.7cmだった。そして43.7%は糖尿病予備軍であり,BMI30以上が90%以上を占めていた。セマグルチドの体重減少効果は,2種類のエスティマンドで解析し,その1つは治療中止や他の治療手段の影響の有無にかかわらず効果を分析,もう1つは治験薬や偽薬が予定通り内服されたものとして効果を分析した。体重減少割合は68週目でプラセボ群では−2.4%だったのにたいして,セマグルチドでは−14.9%(副次的評価項目の体重変化としてはプラセボ群で−2.6kgに対してセマグルチド群では−15.3kg)であり,5%,10%,15%以上の体重減少を達成できた割合はセマグルチド群ではそれぞれ86.4%,69.1%,50.5%だった(プラセボ群では31.5%,12%,4.9%)(Fig. 1)。実際の心血管系イベントをどれくらい予防できるかのデータはまだないが(SELECT試験として治験中:リンク),リスク因子を下げることは副次的評価項目として調べた各項目(ウエスト周囲径,BMI,血圧,HbA1C,空腹時血糖値,CRP,空腹時脂肪数値)やDXA法による体脂肪測定でも期待される効果が得られていた。また,健康関連QOL調査票についても2種類とも有意な改善が認められていた。

 安全性については過去の治験からも予想された範囲だったが,主には嘔気,下痢,嘔吐,便秘といった消化器系症状がプラセボ群の47.9%に対して74.2%で報告されたが,ほとんどが軽症~中等症で,治療を一次中断するだけで改善する一過性の症状だった。重度の消化器症状はセマグルチド群の1.4%に認められ(プラセボ群では0%),肝胆系異常はセマグルチドで1.3%(プラセボ群では0.2%),セマグルチド群の7.0%の治験参加者が有害事象のために治療を中断した(プラセボ群では3.1%)。セマグルチド群とプラセボ群で1名ずつ死亡例があったが,独立した外部調査委員会で検討し,治験薬投与とは無関係であると結論付けた。胆石といった胆のう疾患はセマグルチド群の2.6%に認め(プラセボ群では1.2%),軽症の急性膵炎が3症例で報告されたが,治験期間中に回復した。

 これまでに承認された抗肥満薬では体重減少率4.0〜10.9%にとどまったことや,スリーブ状胃切除術などの外科的な減量手術では1〜2年後に20〜30%の体重減少が報告されてきたことに対して,今回の治験で確認された14.9%の体重減少,特にセマグルチド群の1/3の治験参加者では20%を超える体重減少も達成できたことは減量手術に迫る可能性があり,画期的な効果と述べられている。また,同様のGLP-1類似薬としてリラグルチド(同じくノボ・ノルディスク社)も体重減少に有効性が証明されているが,そちらは1日1回3.0mg皮下注で56週間の治験でプラセボ群との差は4.5%だったのに対して,今回の治験ではプラセボ群との差は12.4%だったことも強調されている。今後の抗肥満治療薬として期待できる結果と言える。

今週の写真:論文アクセプトを祈って,梅の花が咲く北野天満宮にお参りしてきました。

(後藤慎平)

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