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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 139

公開日:2021.3.31


今週のジャーナル

Nature Vol. 591, No.7851(2021年3月25日)日本語版 英語版

Science Vol. 371, Issue #6536(2021年3月26日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 12(2021年3月25日)日本語版 英語版







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癌細胞の解糖能と免疫療法の効果との関係/T細胞を程よく活性化する分子機構/COVID-19患者はいつまで隔離すべきか/アトピー性皮膚炎の全体像

•Nature                   

1)免疫学:Article 
CTLA-4遮断は解糖能の低い腫瘍においてTreg安定性の低下を促す(CTLA-4 blockade drives loss of Treg stability in glycolysis-low tumours
 抗CTLA-4抗体(イピリムマブ)と抗PD-1抗体の併用療法が,進行期肺癌治療に導入され,その効果と安全性が注目されている。抗CTLA-4抗体の抗腫瘍メカニズムについては,様々な細胞分子メカニズムがこれまで報告されており,重要な研究トピックの1つとなっている。米国ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターからの本報告では,抗CTLA-4抗体の効果と腫瘍の解糖能との関連を明らかにし,抗CTLA-4抗体が抗腫瘍効果を発揮するためには,腫瘍微小環境のグルコースが重要であることを示している(図4のkを参照)。解糖能の低い腫瘍(グルコースが豊富な腫瘍微小環境)においては,制御性T細胞(Treg)は安定化してエフェクターT細胞を抑制している。このような腫瘍微小環境において,抗CTLA-4抗体でTregのCTLA-4シグナルを遮断すると,Tregは不安定化してエフェクターT細胞を通じて抗腫瘍効果が誘導される。
腫瘍に浸潤している免疫細胞では,解糖系遺伝子の発現は広く抑制されている(図1)。抗CTLA-4抗体の投与によって,解糖能の低い(グルコースが豊富な)腫瘍(図1a,c)では免疫細胞の解糖系遺伝子の発現は上昇するものの,解糖能の高い(グルコースが乏しい)腫瘍(図1b)では免疫細胞の解糖系遺伝子の発現上昇は認められなかった。すなわち,抗CTLA-4抗体の抗腫瘍効果は,解糖能の低い(グルコースが豊富な)腫瘍でより大きいことが示唆された。
 「抗CTLA-4抗体の抗腫瘍効果が,解糖能の低い(グルコースが豊富な)腫瘍でより大きい」メカニズムを明らかにするために,筆者らはマウス乳癌モデルの実験を行った(図2)。その結果,解糖能の高い(グルコースが乏しい)腫瘍に比し,解糖能の低い(グルコースが豊富な)腫瘍では,抗CTLA-4抗体によって,長期継続する抗腫瘍免疫の記憶(メモリー)が誘導されることがわかった(図2c,d)。その理由として,解糖能の低い(グルコースが豊富な)腫瘍では,Tregも含めたT細胞の腫瘍浸潤が顕著であることが考えられた(図2e)。
そして,解糖能の低い(グルコースが豊富な)腫瘍に浸潤してきたTregは,抗CTLA-4抗体の投与によって不安定化し,IFNγを産生するようになる(図3)。このTregが産生するIFNγによって,同じく腫瘍に浸潤してきたエフェクターCD8+ T細胞は活性化され,抗腫瘍効果を発揮するようになる。
 癌の免疫療法の効果が,腫瘍細胞の解糖能に起因する腫瘍微小環境によって異なることを示した論文である。腫瘍の解糖系状態は,日常臨床で行っているFDG-PET検査で評価することが可能と思われ,今後そのような臨床研究につながるものと期待される。

•Science

1)免疫学:RESEARCH ARTICLE 
WAVE2はT細胞の恒常性を維持し自己免疫を防ぐために,mTORの活性化を阻害している(WAVE2 suppresses mTOR activation to maintain T cell homeostasis and prevent autoimmunitym
 「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No.104で紹介したように,「細胞骨格の制御分子であるHEM1(hematopoietic protein 1)が,mTOR(mammalian target of rapamycin)を介して,過度の免疫応答を制御しながら感染防御にも役立っている」と2020年に立て続けて報告された(Science/Sci Immunol/ J Exp Med)。そしてこの話題は,今年1月のFront Immunol誌の総説にも取り上げられている。
そもそもHEM1は,遺伝性免疫疾患Wiskott-Aldrich症候群の原因遺伝子WASPのファミリー分子であるWAVE2と複合体(WRC/WAVE-regulatory complex)を形成し,アクチンの重合と分枝形成に関与している。HEM1が欠損した患者では,T細胞と抗原提示細胞間の免疫シナプスが細胞骨格として適切に形成されず,過度の免疫応答と易感染性が引き起こされていた。当然WAVE2が欠損しても,同様のことが起こると推測されるものの,ヒトでWAVE2欠損の報告はなく,詳しい解析は行われていなかった。
 そこで今回,カナダ・トロントのマウント・サイナイ病院の研究グループは,T細胞で特異的にWAVE2を欠損させたコンディショナル欠損マウス(WAVE2 cKOマウス)を作製して,詳細に解析した(PERSPECTIVESの図参照)。その結果,やはりWAVE2 cKOマウスでは,重度の自己免疫を呈して,過度の炎症反応のために早期に死亡することがわかった。さらに,WAVE2はT細胞内でmTORと結合することによって,mTORがRAPTOR(mTORと結合しmTOR複合体1を構成する)やRICTOR((mTORと結合しmTOR複合体2を構成する)と過度に結合することを妨げていることも明らかになった(SUMMARYの図参照)。
 昨年のHEM1欠損患者の報告から,HEM1-WAVE2-mTORというT細胞を程よく活性化する分子機構が,急激に明らかになりつつある。今後これらの知見が,どのように発展していくのか注目したい。

•NEJM

1)COVID-19:CLINICAL DECISIONS 
先生,わたしはいつまで隔離されるんですか?(Doctor, How long should I isolate?
 新型コロナウイルス感染症の第4波が囁かれている昨今,患者数の増加,専用病床数のひっ迫,変異ウイルスの拡大が組み合わさって,COVID-19患者をいつまで隔離しないといけないのか,は重要な問題である。
本邦における退院などの基準は,2月25日に一部改訂された「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律における新型コロナウイルス感染症患者及び無症状病原体保有者の退院の取扱い」(リンク)である。それによると,退院基準の原則は「発症日から 10 日間(ただし人工呼吸器を使用した際は15日間)経過し,症状軽快後 72 時間経過」である。これに加え,変異型が疑われる場合には,参照すべき文書(リンク)が変わり,「37.5 度以上の発熱が 24 時間なく,呼吸器症状が改善傾向で,24 時間以上明けたPCR検査で2回陰性を確認」が退院基準となっている。わが国らしい,と言ってしまえばそれまでだが,2つの文書に分かれて正直わかりづらい退院基準となっている。
このような状況の中で,海外の状況は大変興味のあるところである。
 本稿の提示症例は,これまで健康だった24歳女性で,入院後一時低酸素血症でICUに入室したものの人工呼吸器は使用されず,現在入院1週間目(発症2週間後)で症状は改善してきている。同居家族に腎移植後で免疫抑制剤を服用している高齢者(65歳超)がいることから,退院を勧められた本人は,PCR検査の再検を希望した。その再検査の結果は陽性だった。
この患者に対し,隔離を続けるべきか? 低感染リスクと保証し退院させるか? が本稿のテーマである。
本邦の基準だと,変異ウイルスなら入院継続,変異ウイルスでなければ退院可能となる。しかし本稿では,変異ウイルスか否かという観点はまったく論じられていない。
 隔離を続けるべき根拠としては,CDCが,重症者(WHOやCDCの基準では本症例は「重症」と判定)と免疫不全者は,発症20日目まで隔離期間の延長を提案していることと,同居家族に免疫不全者がいることを挙げている。
 一方,低感染リスクと保証し退院させる根拠としては,発症後8日あるいは9日以内に感染性のあるウイルスは検出されなくなること,本症例がICUに入室したものの人工呼吸器は使用されていないので「重症」ではなく「中等症」と判断されることを挙げている。さらに,仮に人工呼吸器を使用されたような「重症」であっても,発症15日後に感染性ウイルスが検出される確率は5%というCDCの報告が紹介されている。
なお,この両者の意見の中で共通して,隔離するか否かの基準にPCR検査を用いることは明確に否定されている。PCR陽性がウイルスの感染性を示すものではない,という科学的根拠に基づくものであり,「隔離の解除・継続の判断にPCR検査は不要」は世界標準のコンセンサスと思われる。この点において,本邦の変異ウイルス患者の退院基準はややガラパゴス化していることが懸念される。

2)皮膚疾患:REVIEW ARTICLE
アトピー性皮膚炎(Atopic dermatitis
 アトピー性皮膚炎は,IgEによる過敏反応(喘息など)をしばしば随伴することから,atopos(「場所を選ばない」を意味するギリシャ語)に由来して1930年代に命名された。最近ではアトピー性皮膚炎に代わって,アトピー性湿疹(atopic eczema),神経皮膚炎(neurodermatitis),アトピー型皮膚炎(atopiform dermatitis),またよく単に湿疹(eczema)とも呼ばれている。アトピー性皮膚炎は通常小児期に発症する慢性疾患で,その病状は年齢・人種・民族などによって異なっている。その病態として,免疫機能の異常が挙げられており,その免疫病態を標的とした治療が導入されている。
 本稿では,疫学,臨床的特徴,診断,併存症,病態,治療という章立てで,アトピー性皮膚炎の全体像が,白人アトピー患者で注目されているフィラグリン遺伝子の多型も含め、最新の知見を交えてまとめられている。

(TK)

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