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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 140

公開日:2021.4.7


今週のジャーナル

Nature Vol. 592, No.7852(2021年4月1日)日本語版 英語版

Science Vol. 372, Issue #6537(2021年4月2日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 13(2021年4月1日)日本語版 英語版







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オルガノイド移植による新たな治療戦略/抗体のナノケージ組立て可能に/ソタテルセプト併用によるPAHへの期待

•Nature

1)オルガノイド移植 

短腸症候群の治療法候補としてのオルガノイド移植(An organoid-based organ-repurposing approach to treat short bowel syndrome

 本研究は,これまで潰瘍性大腸炎など下部消化管上皮細胞のオルガノイド研究を多数報告されている慶應義塾大学坂口光洋記念講座オルガノイド医学の佐藤俊朗先生らによるものである。潰瘍性大腸炎における大腸上皮細胞ではIL-17への感受性低下する遺伝子変異の存在,また変異の数や種類などの報告などしている。

 今回は,外科的切除後などにみられる小腸の短縮による吸収不良状態の難治性疾患である短腸症候群(SBS)を対象に,ヒト回腸由来のオルガノイドによる治療法をラットモデルで検証している。小腸オルガノイドはヒトES細胞やiPS細胞を用いてマウスモデルによる研究が2014年にシンシナティ小児病院メディカルセンターから報告(Nat Med. 2014; 20: 1310-4)されて以来,研究が進んでいる。しかし,小腸オルガノイドは小腸上皮組織を効率的に増殖させられるが,リンパ管系を含めた小腸全体の再構築は困難であることが課題であった。そこで本研究は,小腸自体の再構築ではなく大腸上皮に小腸機能を持たせるという目的でSBSの治療法に結びつける内容にしているのは素晴らしい。
 研究では,まずヒト回腸オルガノイドがマウス大腸内でも回腸機能を維持していること,また絨毛構造を形成していることを確認している。絨毛形成には内腔の機械的な流れが不可欠であり,上皮が常に内腔の腸液の流れにさらされている回盲部に小腸化大腸(small intestinalized colon:SIC)を再配置させ,ラットのSICモデルを作製した。この小腸化は絨毛構造だけではなく,完全な血管系,神経支配,そしてリンパ管などの小腸臓器構造を備えている。そして,この吸収機能も有しているSICは,ラットのSBSモデルにおいて腸管不全を著明に改善させることを確認している(Fig. 4)。この図からもわかるように,ヒト大腸オルガノイドを移植してもSBSラットの予後は改善せず,小腸機能の重要性は明らかである。小腸は栄養吸収のための主要な臓器であり,その再生を目的とした回腸オルガノイドによるSICは,SBSにおける根治的機能改善につながる新たな治療法への期待されるものである。オルガノイドを移植に用いた再生医療,今後さらに応用されてくる医療分野になると同時に,再生医療の発展には必ず倫理的検討も慎重に行わなければいけないであろう。
 本研究成果はAMEDホームページにおいてもプレスリリースされている(リンク)。

•Science

1)モジュラーナノケージ 

設定されたタンパク質で,抗体をモジュラーナノケージに組立てられる(Designed proteins assemble antibodies into modular nanocages

 今週号の表紙にもなっている抗体のナノスケールの構造体を組立て可能にした論文を紹介する。抗体はターゲットとなる標的に結合し生物学的な研究や医学の中心的役割を担っている。抗体をポリマーに融合する,あるいは抗体フラグメント同士を遺伝的に結合することによって生成される抗体のクラスターは,シグナル伝達を強化することができる。しかし,指定されたタンパク質が正確に設定された構造体へと生成していく過程は明らかにはされていなかった。

 本研究では,二面体および多面体構造の2回対称軸上の抗体やFc融合を配置するアプローチの規則性を明らかにしてモジュラーナノケージを組立てられたことを発表している。図2に,その精製過程がわかりやすく明示されている。まず,抗体ケージ(AbC)形成は抗体定常ドメイン結合モジュールを,らせん状スペーサードメインを介して環状オリゴマーに厳密に融合することで作成され,二量体抗体と環状オリゴマーの対称軸が異なる二面体または多面体構造を生成していく(例:四面体,八面体,または二十面体)。そして,接続されたビルディングブロック間の接合領域は,設計された構造に折りたたむように最適化される。これらのナノスケール構造体であるナノケージ形成を促進するために,抗体の二重軸とホモオリゴマーの対称軸が構造の中心で指定された角度(D2二面角,T32四面体,O32またはO42八面体,およびI32またはI52二十面体ナノケージを生成するために必要な交差角度は,それぞれ90.0°,54.7°,35.3°,45.0°,20.9°,および31.7°)で交差するようにヘリックスが融合される。そして新しく形成されたビルディングブロック結合部周辺のアミノ酸の同一性と配置を最適化し,堅固な融合形状を維持する。最終的にD2二面体(3つの設計),T32四面体(2つの設計),O42八面体(1つの設計),およびI52二十面体(2つの設計)の構造物と,それらの中の2,6,12,または30の抗体がそれぞれ含まれ組み立てられていた。
 またAbCは細胞シグナル伝達にも影響があり,デスレセプターを標的とする抗体で形成されたAbCは,腫瘍細胞株のアポトーシスの誘導,またアンジオポエチン経路シグナル伝達・CD40シグナル伝達・T細胞増殖のすべて,AbCでFc融合または抗体を組立てることにより強化することがわかった。そしてAbCの形成は,SARS-CoV-2偽ウイルスのinvitroウイルス中和も促進していた。
 AbCは,抗体を共有結合で修飾することなく,抗体を対応する設計タンパク質と混合するだけで,2,6,12,または30の抗体で形成される。受容体結合またはウイルス中和抗体をAbCに組込むことで,さまざまな細胞系で生物学的活性が増強される。共有結合による修飾を必要とせず,抗体を均質で秩序だったナノケージに組み立てるための迅速で堅牢なアプローチは,研究や医学において幅広く応用されていく手法になっていくかもしれない。


•NEJM

1)肺高血圧症 

肺動脈性肺高血圧症治療としてのソタテルセプトの効果(Sotatercept for the treatment of pulmonary arterial hypertension

 肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,肺血管平滑筋および内皮細胞における骨形成タンパク質(BMP)受容体タイプII(BMPR-II)–Smad1 / 5/8経路の調節不全に関連しており,増殖性と抗増殖性のシグナル伝達経路間のバランスが崩れていることが知られている(図3)。つまり,抗増殖性低下がおきているためにBMPR-II–Smad1 / 5/8経路のダウンレギュレーションにより,アクチビンA,成長分化因子8(GDF8),GDF11などのアクチビンリガンドの産生が増加し,アクチビン受容体タイプIIA(ActRIIA)–Smad 2/3の経路のアップレギュレーションによる増殖性変化が高まっている。またリン酸化Smad(pSmad)2/3活性の増加は,内因性BMPアンタゴニストであるグレムリン-1およびノギンの発現を促進しているので,グレムリン-1とノギンはBMP–Smad 1/5/8シグナル伝達を減少させるために,抗増殖性変化はより一層低下している。そのため,抗増殖性シグナル伝達はかなり低下しており,増殖性アクチビン-Smad 2/3シグナル伝達にシフトしているために肺血管のリモデリングへと進んでしまう。今回の臨床試験で使用されているソタテルセプトは,過剰なActRIIAリガンドを隔離させActRIIA–Smad 2/3シグナル伝達を減少させることで,抗増殖性と増殖性のバランスを修正する作用をもつ。これまでの治療法に併用することで臨床効果が期待されている薬剤である。

 米Acceleron Pharma社によるTGFβを標的とする組換え融合蛋白質ソタテルセプト(ACE-011)による臨床試験である。24週間の多施設共同試験で,PAHに対する基礎治療を受けている成人106例に対して,ソタテルセプト0.3mg/kg群,0.7mg/kg群,プラセボ群に無作為に割り付けた。ソタテルセプトは3週毎の皮下注射で投与とし,主要評価項目は24週時点での肺血管抵抗のベースラインからの変化量としている。対象者の9割が白人で,87%が女性,平均年齢48歳,BMI平均値は27.1,そして罹患期間は7.7年であった。また58%が特発性PAHと最も多い基礎疾患であった。主要評価項目である24週時点での肺血管抵抗のベースラインからの変化量は,ソタテルセプト0.3mg群とプラセボ群の最小二乗平均差は-145.8dyn・sec・cm-5(95%信頼区間 [CI]:-241.0~-50.6,P=0.003),そしてソタテルセプト0.7mg群とプラセボ群の最小二乗平均差は-239.5dyn・sec・cm-5(95%CI:-329.3~-149.7,P<0.001)と有意にソタテルセプト併用による肺血管抵抗の低下がみとめられた(図4)。また24週時点での6分間歩行距離のベースラインからの変化量は,ソタテルセプト0.3mg群とプラセボ群の最小二乗平均差は29.4m(95%CI:3.8~55.0),ソタテルセプト0.7mg群とプラセボ群の最小二乗平均差は21.4m(95%CI:-2.8~45.7)と歩行距離の延長もみられた。ソタテルセプトは脳性ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端フラグメント(NT-proBNP)の低下とも関連していた。有害事象としては,血小板減少とヘモグロビン増加の頻度が高かったこと,そしてソタテルセプト0.7mg群で心停止による死亡が1例みられた。本試験により,ソタテルセプトの併用により基礎治療を受けているPAHの肺血管抵抗低下や6MWTなどにも効果がみられたことは大きい。しかし24週間という短期間の成績であり,長期予後への治療効果や長期併用による有害事象が不明であることは念頭におかなければならない。

今週の写真:八丈島は,東京都ではあるが新型コロナウイルス感染者は現在まで10例である。八丈町立病院にも感染症病床は数床あるが,医療スタッフは永年的に不足しており島内でのクラスターが発生したら大変である。八丈島の八重根低堤からの太平洋に沈む夕陽,のんびり眺められる日々であってほしい。


(石井晴之)



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