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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 142

公開日:2021.4.23


今週のジャーナル

Nature Vol. 592, No.7854(2021年4月15日)日本語版 英語版

Science Vol. 372, Issue #6539(2021年4月16日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 15(2021年4月15日)日本語版 英語版







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南アフリカでのSARS-CoV-2変異株の正体/個体内の多様なウイルスはどのように伝播していくのか?/人工呼吸器管理中の鎮静薬の選択

 このコロナ禍も1年を過ぎてしまった。世間の関心は徐々に変遷しつつあり,最近は,ワクチン・変異株・後遺症が関心の的となっている。自治体によっては,高齢者を対象にしたワクチンの住民接種が始まっているようだ。今回のScienceの論文は,筆者にとっては難解であったが,どうも,個体内のウイルス量が少ない時に,変異株が個体間で伝播しているようだ。彼らのデータをそのまま外挿すると,今後,ワクチン接種が広がると,確率論的には,より変異株が生じやすくなるということであろうか。このあたりは,パニックを起こすことなく,注意深く,今後も起こっている事象を観察していきたい。


•Nature

1)ウイルス学 

懸念されるSARS-CoV-2の変異株の南アフリカでの検出(Detection of a SARS-CoV-2 variant of concern in South Africa

 このパンデミックで,ウイルスのゲノム情報をサーベイランスデータとして公開し,オンラインで色々な研究チームが互いに協力し合うことで,様々なウイルス株の系統の出現と拡大をリアルタイムで追跡することが可能となった。このコロナ禍により我々のような非専門家にとっても,データの可視化が一気に身近なものになった。

 このようなサーベイランスシステムを用いて,南アフリカのグループは,今話題になっている南アフリカ変異株(501Y.V2)について,様々な角度から視覚的に記述している。この501Y.V2は,感染力を増強するN501Y変異と免疫逃避との関連が指摘されているE484Kの双方を保持しており,この変異株の出現にスポットを当てて,Figure1では,南アフリカ全体,そして,さらに細かい地域ごとの感染者数の推移と共に詳細に示している。そして,Figure2では,全世界のデータベースからの5,329株と南アフリカからの2,756株を用いて,時間軸に沿った系統樹が提示されている。その中で,現在,501Y.V2と言われている南アフリカ変異株のクラスターが2020年夏頃から分岐していることが見て取れる。さらにその501Y.V2が南アフリカのどの地域から発生してきているかが系統樹上と共に図示されている。また,この変異株が,どの時期に,どの都市間で移動しているのか,南アフリカの地図上で,わかりやすく色分けされ,記述されている。このような図を見ると,人の移動を制限することがこのウイルスの伝播にいかに重要かがよく理解できる。

 Figure3では,ゲノム全長での塩基変異数・アミノ酸の置換数と,機能的に重要とされるスパイク領域の塩基変異数・アミノ酸の置換数がそれぞれ示されている。B.1.1.54,B.1.1.56,C.1(南アフリカでの流行の第1波の際に拡大した3系統の変異株)に比較して501Y.V2は,塩基変異数・アミノ酸の置換数が共に増加しており,さらに,この変異に関するスパイクタンパクの立体構造が図示されている。

 本論文において,大きな科学的なブレイクスルーがあるわけではないが,現在,世界で話題の的となっている変異株のゲノム疫学を,迅速に正確に詳細に報告しているところに意義があると思われる。Main Figureもさることながら,Extended Dataに多くの情報が詰め込まれている。本邦からもゲノム疫学に関する迅速かつ詳細な報告が国際誌に多く掲載されることを望むばかりである。


•Science

1)ウイルス学  

SARS-CoV-2の宿主内での多様性と伝播(SARS-CoV-2 within-host diversity and transmission

 変異株の疫学は重要である。その一方,生物学的な問いとして,変異株が具体的にどこで発生し,具体的にどのように伝播していくかということも生物学的な問いとして興味深い。集団レベルでウイルスの宿主内多様性がどの程度存在し,その多様性がどのように伝播して,集団内で適応(adaptation)や拡散のパターンを理解することは変異株の本体を知る上でも重要である。このような問いに,英国オックスフォード大学のグループが報告している。

 SARS-CoV-2の一塩基多型(SNP:single nucleotide polymorphisms)を解析することで,ウイルスの拡散を追跡することが可能になっている。これにより,前述のNatureの論文で取り上げたように,様々な変異株の起源・伝播の同定につながっている。

 著者らは,臨床サンプル1313例のディープシーケンスを行い,ある一定のマイナーアレル頻度(MAF)以上の宿主内一塩基変異(iSNV:intrahost single nucleotide variants)の数を評価することで,宿主内の多様性を評価している(Figure1)。この評価系により,ウイルス量の多いサンプルでは宿主内の多様性はむしろ低下していることが判明してきた。そして,ワクチンや治療法のエスケープ変異が宿主内に出現するのは,少なくともウイルス量が多い感染初期には比較的まれであるようだ。一方,伝播を促進する変異株や免疫逃避変異株はまれにしか発生しないが,もし一度,伝播が成功した場合には急速に広がる可能性があると著者たちは報告している。


•NEJM

1)集中治療 

敗血症で人工呼吸管理中の成人の鎮静に使用するデクスメデトミジンとプロポフォールとの比較(Dexmedetomidine or propofol for sedation in mechanically ventilated adults with sepsis

 人工呼吸管理中の成人に対してデクスメデトミジンまたはプロポフォールによる浅い鎮静を行うことが推奨されている。両者の鎮静薬の差が転帰にどのように影響を与えるかは不明である。本研究は米国のスタディーグループによるトライアル(MENDS2 study)の結果である。

多施設共同二重盲検試験で,敗血症で人工呼吸管理を受けている成人を,デクスメデトミジン(0.2~1.5μg/kg 体重/時)投与群と,プロポフォール(5~50μg/kg/分)投与群に無作為に割り付けた。それぞれの投与量は,担当医によって定められたRASSを目標として,看護師が調節した.主要評価項目は,介入期間中14日間の,せん妄または昏睡がない生存期間とした。副次的評価項目は,28日時点での人工呼吸器非装着日数,90日死亡,6カ月時点での「電話による認知機能スクリーニング質問票」の年齢で補正した合計スコアとした。

 無作為化された432例の内,422例が投与割付の解析対象となった。214例が0.27μg/kg/hr(中央値)のデクスメデトミジンの投与を受け,208例が10.21μg/kg/min(中央値)のプロポフォールの投与を受けた。投与を受けた期間の中央値は3.0日,RASSスコアの中央値は-2.0であった。デクスメデトミジンとプロポフォールの両群間で,せん妄または昏睡がない生存期間に差は認めず(10.7日vs. 10.8日,オッズ比:0.96,95%CI:0.74~1.26),また,人工呼吸器非装着日数(23.7日vs. 24.0日,オッズ比:0.98,95%CI:0.63~1.51),90日死亡(38%対39%,ハザード比:1.06,95%CI:0.74~1.52),6カ月時点での「電話による認知機能スクリーニング質問票」のスコア(40.9対41.4,オッズ比:0.94,95%CI:0.66~1.33)にも差は認められなかった。安全性評価項目は2群で同様であった。

 敗血症で人工呼吸管理を受け,推奨されている浅い鎮静を目標に治療中の成人において,デクスメデトミジン投与群とプロポフォール投与群では患者の転帰に差は認められなかった。



今週の写真:ひまわり畑



(南宮湖)


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