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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 144

公開日:2021.5.12


今週のジャーナル

Nature Vol. 592, No.7856(2021年4月29日)日本語版 英語版

Science Vol. 372, Issue #6542(2021年5月7日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 18(2021年5月6日)日本語版 英語版







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新しい肺癌抑制遺伝子AMBRA1/スロバキアでの全国的な新型コロナウイルス抗原検査による感染抑制効果/結核の4カ月間治療の新しいレジメン

 ゴールデンウイークで先週はお休みでしたので,2週間分の3誌の論文の中から興味深いものを御紹介したいと思います。

•Nature

1)癌 

・CRL4AMBRA1はD型サイクリンのマスター調節因子である(CRL4AMBRA1 is a master regulator of D-type cyclins

・E3リガーゼアダプターであるAMBRA1はサイクリンDの安定性を調節する(The AMBRA1 E3 ligase adaptor regulates the stability of cyclin D
・AMBRA1はサイクリンDを調節してS期への進入とゲノムの完全性を守る(AMBRA1 regulates cyclin D to guard S-phase entry and genomic integrity
 Nature誌からは4月29日号に細胞周期で重要な「サイクリンDとその調節分子であるAMBRA1」について癌との関連も含めた成果の論文が3つ(米国ニューヨーク大学,スタンフォード大学,デンマークがんセンター)掲載されているので紹介したい。
 細胞の増殖は細胞周期が回転することにより進むが,その中心的役割を果たす分子がサイクリン(Cyclin)とサイクリン依存性キナーゼ(cyclin dependent kinase:CDK)であり両者は複合体を形成して働く。G1→S→G2→M期という各細胞周期において複数あるサイクリン(A,B,D,E)とCDK(1,2,4,6)は組み合わせをかえて機能している。サイクリンDはCDK4またはCDK6と複合体を形成し,このサイクリンD-CDK4/6が網膜芽細胞腫(RB)腫瘍抑制因子をリン酸化して不活化することで,G1期からS期への移行を進め細胞分裂が促進される。CDK4/6阻害薬のパルボシクリブやアベマシクリブはすでに乳癌の治療薬として使用されている(リンク)。これまで,サイクリンDについては成長因子や様々な刺激で誘導されることは知られてきているが,その分解機構については完全には解明されていなかった。また,AMBRA1(autophagy and beclin 1 regulator 1)はオートファジー性腫瘍抑制タンパク質として細胞増殖の制御に関わるとされてきたが(),その基盤となる分子機構はほとんど解明されていなかった。
 今回の3つのグループからの研究成果として,スクリーニングの結果としてAMBRA1がサイクリンD分解の主な調節因子であること,すなわちAMBRA1がG1期からS期への移行の上流で働くマスター調節因子であることが判明した。AMBRA1はサイクリンDをキュリン4 E3リガーゼ複合体の基質受容体として,そのユビキチン化とプロテアソームによる分解を介してその量を調節していることが示された()。
 肺癌においては,マウス肺腺癌モデルでAMBRA1を欠失させると増殖を促進し(),臨床データではAMBRA1のレベル低下は肺腺癌患者の生存期間の短縮と相関していた()。また,肺癌以外のマウスモデルでも腫瘍抑制因子として働き,AMBRA1 mRNAレベルが低いことは他の癌患者での生存率の低さを示す予測因子となっていた()。さらに,サイクリンDの癌ホットスポットに生じた変異は,サイクリンDがAMBRA1と結合するのを妨げて,サイクリンDを安定化した。AMBRA1が失われると,サイクリンDとCDK2の複合体形成が促進されるため,CDK4/6阻害薬に対する感受性が低下することも報告された()。
 AMBRA1は,G1期からS期への移行を制御することによってDNA複製の間のゲノムの完全性維持を助けており,これが発生異常と腫瘍増殖に対抗している。さらに,CHK1キナーゼがAMBRA1が欠損した腫瘍での治療標的候補であることも示された()。
 以上の様に,今回の一連の研究成果から,AMBRA1–サイクリンD経路が極めて重要な細胞周期調節機構であり,胚発生と腫瘍発生でのゲノム安定性に深く関わっていることが明らかになった()。News & Viewsでもわかりやすく紹介されている。

•Science

1)感染症 
スロバキアにおける全国レベルのSARS-CoV-2迅速抗原検査の影響(The impact of population-wide rapid antigen testing on SARS-CoV-2 prevalence in Slovakia
 日本では新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のウイルス検査件数が乏しいといわれて1年以上が経っている。検査をすることで感染予防になるわけではないが,無症状の感染者の検出には役に立つ。感染力のある無自覚な無症状感染者の行動を完全に制御できないことを考えると,正しく検査を行い,その結果に基づいて有効な行動規制をすることは感染拡大を防ぐという点では意味があるであろう。Science誌の5月7日号から紹介するのはロンドン大学衛生熱帯医学大学院とスロバキア政府からの研究で,2020年10月から数回行われた「スロバキアにおける国家的な大規模新型コロナウイルス抗原検査」の効果についての論文である。
 ニュースでも報道されたように(日本経済新聞CNN.co.jp),スロバキアでは昨年に全国規模の新型コロナウイルス感染症の検査を計画し,人口の2/3に相当する360万人以上の抗原検査を行い,約1%が陽性と判明して隔離に入った。果たして,その効果はどうであったのか?
 COVID-19対策としてスロバキアでは国民の行動制限に加えて,2020年10月23日~25日に最も感染の多い地域(4つの郡)で最初にパイロット的に全市民のSARS-CoV-2抗原検査を行った。正しく素早く検査するために多くの医療関係者と軍関係者を動員して鼻咽頭から検体を採取し,15分ほどで結果の出る抗原検出キット(SD-Biosensor Standard Q rapid antigen tests)を用いて一斉に検査している。続いて10月31日と11月1日の2日間に全国的に検査を行い(ラウンド1),さらに流行地域では11月7日と8日に再度検査を行った(ラウンド2)(図1)。検査が陰性の人間以外は自宅などに待機しなければならない。すなわち検査を受けない人あるいは検査で陽性の人およびその濃厚接触者は10日間の隔離待機が必要になる。結果は国民の約65%にあたる合計527万6,832件の検査が行われ,10歳から65歳までの人口と65歳以上で働いている人の合計(感染源となりうる人々)でみると約85%近くの人が検査をうけたことになるというから驚きである。そして陽性は50,466件であった。陽性者とその濃厚接触者は10日間隔離待機となった。当然のことながら抗原検査の精度が問題となるが,流行の低い地域での検査陽性者の少なさから偽陽性の少なさが計算され,今回の検査の特異度は99.85%と考えられることから検査の偽陽性は問題になる値ではないと主張している。
 全国的な検査による感染状況の変化は明らかであった(図2)。2回以上の検査を行った地域における1週間の感染者数の変化をみると,COVID-19の流行は58%減少したことになった。さらに1日4.4%ずつ流行が拡大していることを鑑みると実は70%近い感染の減少があったと計算された(図3)。もちろん検査によって感染者が減ったのではなく,全国的な検査を短期間に行い,検査によって陽性になった人とその家族や接触者をしっかりと隔離待機させたことが流行を抑えることに影響している。なお本研究はPERSPECTIVEでも取り上げられている。

•NEJM

1)結核 
結核に対するモキシフロキサシン併用または非併用のリファペンチンの 4 カ月レジメン(Four-month rifapentine regimens with or without moxifloxacin for tuberculosis
 NEJM誌からは5月6日号の新しい結核診療レジメンに関する論文を紹介する。現在の結核の標準治療は少なくとも6カ月間という長い期間を要する。治療期間の短縮は,治療アドヒアランス改善・薬物有害反応の減少・医療費軽減といった効果が期待される。
 これまでもフルオロキノロンなどを用いた治療期間の短縮が試みられてきたが,標準治療に対して非劣勢を示せなかったという歴史がある(リンク1リンク2リンク3)。本研究では,リファンピンの誘導体で半減期がより長く抗結核菌活性の強い「リファペンチン(rifapentine)」(リンク)を用いた国際研究で,13カ国の34施設の新規肺結核患者(薬剤感受性肺結核患者)を対象とした非盲検第 3 相無作為化比較試験である。
 米国Centers for Disease Control and Prevention’s(CDC)がNIH(National Institute of Allergy and Infectious Diseases:NIAID)のthe AIDS Clinical Trials Group(ACTG)とともに主導したThe Tuberculosis Trials Consortium Study 31/AIDS Clinical Trials Group A5349(Study 31/A5349)という研究で,この成果については2020年10月に公開されている。
 リファペンチンを用いる 2つの「4 カ月レジメン」として,リファペンチン・イソニアジド・ピラジナミド・エタンブトール(リファペンチン群),あるいはリファペンチン・イソニアジド・ピラジナミド・モキシロフロキサシン(リファペンチン–モキシフロキサシン群)が試験された。対照群としては,リファンピン・イソニアジド・ピラジナミド・エタンブトールを用いる標準的な 6 カ月レジメンで,非劣性マージンを 6.6 パーセントポイントとして比較し,12 カ月の時点での結核なしでの生存を主要有効性転帰とした。
 2,516例が無作為化され,2,343例で薬剤耐性のない結核菌培養陽性であり(微生物学的適格集団),そのうち 194 例はヒト免疫不全ウイルス(HIV)との重複感染で,1,703 例に胸部 X 線写真で空洞性病変が認められた。最終的に2,234例が評価可能集団として解析された(対照群 726 例,リファペンチン–モキシフロキサシン群 756 例,リファペンチン群 752 例)。
 モキシフロキサシン併用のリファペンチン(リファペンチン–モキシフロキサシン群)は,微生物学的適格集団で対照群に対して非劣性を示し〔転帰不良の割合:15.5% 対 14.6%,差 1.0 パーセントポイント,95%信頼区間(CI) -2.6~4.5〕,評価可能集団でも非劣性を示した(11.6% 対 9.6%,差 2.0 パーセントポイント,95% CI -1.1~5.1)。モキシフロキサシン非併用のリファペンチン(リファペンチン群)は,いずれの集団においても対照に対して非劣性を示さなかった(微生物学的適格集団における転帰不良の割合:17.7% 対 14.6%,差 3.0 パーセントポイント,95% CI -0.6~6.6,評価可能集団における転帰不良の割合: 14.2% 対 9.6%,差 4.4 パーセントポイント,95% CI 1.2~7.7)。グレード 3 以上の有害事象は対照群の19.3%,リファペンチン–モキシフロキサシン群の18.8%,リファペンチン群の14.3%に発現した。以上から新規結核治療におけるモキシフロキサシンを含むリファペンチンの 4 カ月レジメンの有効性は,標準的な 6 カ月レジメンに対して非劣性であることが示された。本研究については,EDITORIALでも紹介されている。また,今回の知見についてのわかりやすい動画(QUICK TAKE)を見ることができる(リンク)。

今週の写真:千葉市昭和の森公園の鯉のぼり
「鯉のぼり」は中国の故事で,黄河の急流にある竜門と呼ばれる滝を多くの魚が登ろうと試みたが鯉のみが登り切り,竜になることができたことにちなんで「鯉の滝登り」が立身出世の象徴となったそうです(Wikipediaより)。子供の日は過ぎましたが,皐幟(さつきのぼり)とも言うそうですので近隣の公園の写真を掲載いたします。

(鈴木拓児)

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