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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 145

公開日:2021.5.19


今週のジャーナル

Nature Vol. 593, No.7858(2021年5月13日)日本語版 英語版

Science Vol. 372, Issue #6543(2021年5月14日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 19(2021年5月13日)日本語版 英語版







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髄膜リンパ管を介したβアミロイドのクリアランスを利用したアルツハイマー治療戦略/チェルノブイリ原発事故から35年―ゲノム解析から明らかになった被曝の影響/TSLPを標的とした重症喘息に対する新たな治療選択肢

•Nature

1)神経科学 
髄膜リンパ管はミクログリアの応答と抗アミロイドβ抗体療法の効果に影響する(Meningeal lymphatics affect microglia responses and anti-Aβ immunotherapy
 アルツハイマー病の病態に大きく関与するβアミロイドに対しては,モノクローナル抗体による臨床試験がこれまでにも複数施行されている。そのうちアデュカヌマブ(バイオジェンとエーザイ)がP3(EMERGE)試験を行い,高用量投与群でプラセボ群に比べて臨床症状の悪化が有意に抑制されたというポジティブな結果が報告された。一方,その他の抗βアミロイド抗体を用いた試験でもポジティブとネガティブが混合したような試験結果が続いている(リンク1リンク2)。本研究では,そのような治療効果の違いに髄膜リンパ管のドレナージ機能が影響しているのではないかという仮説のもと解析が進められた。米国ヴァージニア大学,メイヨークリニック,ワシントン大学の共同研究の成果である。このグループはもともと2018年にもNatureに類似の内容で報告をしている(西川先生の論文紹介でも以前取り上げられている:リンク)。
 髄膜のリンパ管や髄液の循環の解剖学的な理解が飛躍的に進展したのは比較的最近のことで(),頸部リンパ節がドレナージリンパ節として機能していることが明らかになっている。今回のグループは,5xFADというβアミロイド沈着を伴うアルツハイマー病モデルマウス(WEBから借用:リンク)を用いた解析から,疾患モデルマウスでは野生型と比べて,①上矢状静脈洞などの主要静脈洞に絡むリンパ管が減少すること,②それに伴いβアミロイドが増加すること,③2018年の論文でも使用している,彼らが開発したリンパ管のphotoablationという技術を用いて,同様にβアミロイドが増加することを示しており,それらがマウス用の抗βアミロイド抗体の治療効果を抑制することを明らかにした。さらにVEGF-Cを投与することでリンパ管構築が改善し,抗体の効果を増強することを示している。ここまでは2018年の報告と大きな変わりが無いが,今回はシングルセルRNAシークエンス(scRNAseq)などを用いた解析から,中枢免疫担当細胞であるミクログリアに焦点をあてて解析を進めている。実際のアルツハイマー病(臨床症状が出る前,家族性,孤発性の3つの病態)の患者から集積されたミクログリアのscRNAseqのデータを,今回のモデルマウスで髄膜リンパ管のドレナージ障害を誘導したモデルから採取したミクログリアのscRNAseqと比較している。正常の状態と疾患の状態で比較すると,ヒトとマウスでクラスターの変化が類似し,Apoe(アポリポ蛋白 E)やSpp1(オステオポンチン)などが上昇し,免疫学的な活性化を反映したプロファイルに変化していることを見出している。遺伝子発現の類似性というにはかなり無理があるような結論ではあるが(Figure3e ),興味深いのは,無症候のアルツハイマー病の時期でも,すでにミクログリアの遺伝子発現プロファイルが健常人と比較して相当変化していることが示された。
 以前の報告をさらにサポートするデータではあり新規性にはやや欠けるが,アルツハイマー病では髄膜リンパ管による排出が障害されて,ミクログリアの炎症応答を増悪していることが病態の背景にあり,髄膜リンパ管機能の回復(モデルではVEGF-Cの投与)と抗体治療を組み合わせることで治療効果を改善できる患者集団がいる可能性を示唆している。造影や画像所見などがバイオマーカーとして活用できる可能性が期待される。

•Science

 今回のScienceではチェルノブイリ原発事故後35年間の経過の中で明らかになった甲状腺癌発症に関する解析結果が,米国NIHより2つ報告されているので紹介する。In Depthでは現在の状況のチェルノブイリ原発が紹介されている。福島原発の参考となる重要な研究である。西川先生サイトでも紹介されている(リンク)。

1)放射線医学 
チェルノブイリ原発事故後:甲状腺乳頭癌のゲノムプロファイルに与える被曝の影響(Radiation-related genomic profile of papillary thyroid carcinoma after the Chernobyl accident
 事故後に特に小児期で被爆した際に甲状腺癌の発症が有意に上昇することが報告されている。今回,チェルノブイリ原発の被爆後に甲状腺乳頭癌として病理診断された440の凍結検体(359例が小児期もしくは母体が妊娠中に被爆,81例が事故後に出生した症例。診断時の年齢の中央値は28歳で,10.0~45.6歳で診断された)と同一患者の血液または正常な甲状腺組織をコントロールとして全エクソームシークエンス,RNAシークエンスなどが行われた()。被爆と関連のない甲状腺癌のシークエンスデータは公共データベースに公開されており,変異数が少ないこと,発癌のドライバー遺伝子変異としてはMAPキナーゼ経路の関連遺伝子の異常な活性が多くを占めることが報告されている。このような孤発例と被爆後の症例(被曝量により分類),遺伝子変異プロファイルを検証した(サマリーはFig1に掲載)。変異の内容としては,DNA切断の後におこる非相同末端結合(non-homologous end joining)が生じたことを裏付けるような小さな欠失と単純な構造変化が被曝量に相関して増加していた。それに対して,一塩基置換や挿入には相関が認められなかった。ドライバー変異については,1つ以上の候補遺伝子変異をもつ症例が大半を占め(440検体分401例),そのうち194例ではBRAFに変異を認めた。被曝とは関係のない甲状腺癌と同様に,ドライバー変異についてはMAPキナーゼシグナル経路に集中していることが示された。また融合型の遺伝子変異も176例で認めた。エピジェネティックの過程に関しては,ドライバー変異との相関以外に特に特徴的な変化は認めなかった。また,より若年時に曝露された症例の方が,放射線被曝に伴うDNA障害の線形的な増加が急峻になることがわかった()。
 以上の結果から,事故発生後,甲状腺に放射性ヨードが持続的に大量に取り込まれ,ランダムなDNA切断とその修復が継続的に生じる過程で,高い確率で変異が生じ,被曝と関連のない甲状腺癌と同様に,MAPキナーゼシグナルに関わる遺伝子に変異が入った際に,発癌に至ることが明らかになった。

チェルノブイリ原発事故後:放射線被曝の影響は次の世代へは伝わらない(Lack of transgenerational effects of ionizing radiation exposure from the Chernobyl accident
 チェルノブイリ原子炉の事故処理を担当した人やチェルノブイリ関連の放射線の影響をうけた症例〔12~41歳の間に平均365mGy(0~4080mGy)の被曝をした父,または10~33歳の間に平均19mGy(0~550mGy)の被曝をした母〕とその間に産まれた子供(1987〜2002年に生まれた子供)合計130名に関して,血液をシークエンスし,親には認められない子供に特有のGerm lineにおけるde novo変異数を評価し,両親の生殖細胞ゲノムへの放射線の影響を評価した。放射線被曝によるde novo変異は認めず,蓄積した被曝線量とde novo変異の数も相関は認めなかった。喫煙とde novo変異(),一塩基置換と被曝線量いずれにも有意な関連は認められなかった()。

•NEJM

1)呼吸器病学 
重症・コントロール不良喘息を有する成人および思春期の児童に対するテゼペルマブの有効性(Tezepelumab in adults and adolescents with severe, uncontrolled asthma
 重症喘息に対する治療薬として,IgEやTh2サイトカインに対する抗体製剤が相次いで承認されているが,今回胸腺間質性リンパ球新生因子TSLPに対する抗体治療の有効性を評価した臨床試験。アストラゼネカ社,アムジェン社が主導する試験で,NAVIGATOR 試験と呼ばれる。TSLPは主に上皮細胞や肥満細胞などから分泌され,TSLP受容体とIL-7受容体がTSLPを介し協調してシグナル伝達することによってTh2反応を誘導することが,様々なアレルギー性疾患の増悪に関わることが報告されている()。テゼペルマブ(tezepelumab)は,TSLPを遮断するヒトモノクローナル抗体で,試験のサマリーを添付する(リンク
 P3のRCTで12~80歳の重症喘息患者(1年以上fluticasone propionate換算で500ug以上の吸入ステロイド±ステロイド内服,1年以内に2回以上の増悪=入院,救急受診,3日以上の全身性のステロイド治療を示した患者)を対象として,テゼペルマブの皮下投与を4週ごと52週間の治療群とプラセボ群で比較した試験()。
 プライマリーエンドポイントは,52週間における喘息増悪の発生率で,副次的な評価項目は①1秒量,②6段階の喘息コントロール質問票(ACQ-6)のスコア,③7段階の喘息QOL質問票(AQLQ)のスコア,④4段階の喘息症状日誌(ASD)のスコアを使用している。プラセボ群と比較して治療群では,喘息増悪の年間発生率が有意に低下し(95%CI:0.37~0.53,p<0.001)し,血中好酸球数が300/μL未満の患者においても有意であった(95%CI:0.46-0.75,p<0.001)(リンク)。52週の時点で治療群ではFEV1の改善が有意に大きく(0.23L 対 0.09L,95%CI:0.08-0.18,p<0.001),いずれの質問票スコアについても明らかな改善を認めた。有害事象の頻度と種類については,群間で有意差は認めなかった。
 好酸球数とは関係なく治療効果が認められていること(非好酸球性喘息が標的となること),これまでの抗体製剤が標的としていたエフェクター分子(Th2サイトカインやIgE)とは異なる作用点に有効であることなどから,endotypeに基づく治療法選択が今後より重要になると考えられる。

今週の写真:北野天満宮 青もみじ 


(小山正平)

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