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scRNAseqが明らかにする線維芽細胞の多様性と疾患特異性/レジオネラは感染細胞の小胞体を改変しながら増殖している/「良性」疾患における体細胞変異
線維芽細胞系譜の組織をまたぐ構成(Cross-tissue organization of the fibroblast lineage) |
間葉系細胞には,線維芽細胞の他,間質細胞,周皮細胞,血管周囲平滑筋細胞,間葉系前駆細胞が含まれており,線維化,がん,自己免疫疾患,創傷治癒などへの多彩な関与が注目されている(最新のNat Immunol誌の総説を参照)。ただ大方の線維芽細胞に対するイメージは,「体中どこの組織にもあって,細胞外マトリックス蛋白質を産生しながら,その組織固有の細胞機能を地味にサポートしている黒衣的な細胞」というところかと思われる。米国Genentech社からの本報告では,このイメージを覆すように,線維芽細胞は単一な細胞集団ではなく,マウスでは10種類のクラスター,ヒトでは6種類のクラスターから成ることを明らかにした。さらに,これらの細胞クラスターの中に,様々な組織に共通して存在する未分化なクラスター,組織や疾患(非小細胞肺癌,特発性肺線維症,COVID-19)に特異的なクラスターを同定した。今回同定された線維芽細胞クラスターは,細胞組織機能の新たな理解につながるだけでなく,新たな治療標的となることが期待される(当該のNews & viewsの図参照)。
まず筆者らは,マウスの16の組織から線維芽細胞を単離し,12万個の線維芽細胞で単細胞RNAシーケンシングを行った(図1)。そして,10種類の細胞クラスターを同定した。そしてクラスターの細胞系譜を「Slingshot lineage inference」で解析したところ,Pi16陽性クラスターとCol15a1陽性クラスター,この二つの線維芽細胞クラスターはあらゆる組織に存在し,他の線維芽細胞クラスターへ分化する前駆細胞であることがわかった。Pi16陽性クラスターは血管周囲に認められる外膜間質(adventitial stromal)細胞で,Col15a1陽性クラスターは基底膜近傍で基底膜蛋白質を分泌している線維芽細胞と考えられた。
さらに筆者らは,膵臓(膵臓がん患者由来),腸管(潰瘍性大腸炎患者由来),肺(非小細胞肺癌,特発性肺線維症,COVID-19患者由来)のヒト線維芽細胞を1万個解析したところ,6種類の細胞クラスターを同定した(図4)。非小細胞肺癌ではNPNT陽性肺胞線維芽細胞が,特発性肺線維症ではPI16陽性線維芽細胞が,COVID-19ではCOL3A1陽性筋線維芽細胞が多く認められた。特に特発性肺線維症において,マウスで幹細胞的とされた外膜間質細胞(Pi16陽性クラスター)が増殖していた事実は,特発性肺線維症の病態を考える上で大変興味深い。
感染宿主の膜構造を改変するエフェクター分子(Dynamic remodeling of host membranes by self-organizing bacterial effectors) |
米国テキサス大学からの報告である。
レジオネラは細胞内増殖菌で,マクロファージはレジオネラを貪食するものの,レジオネラを取り込んだファゴゾームは,リソソームと融合せずに,ミトコンドリアや小胞体に近づき,やがて粗面小胞体膜に取り囲まれた特殊なLCV(Legionella-containing vacuole,総説参照)となる。そしてLCVの中でレジオネラは増殖を続けることになる。このLCVを構築するために,レジオネラは「Icm/Dot」と呼ばれるIV型分泌装置を有しており,Icm/Dotを通じて300種類以上のエフェクター分子を宿主細胞内に分泌している。しかし,これらのエフェクター分子を単独に変異させても,レジオネラの細胞内増殖には影響はなく,エフェクター分子同士が相補的に働いていると考えられていた。これに対し本論文では,Icm/Dotのエフェクター分子の中から,単独に変異させてもレジオネラの細胞内増殖を抑制する分子として,MavQとSidPを見つけた。
構造解析の結果から,MavQはフォスファチジルイノシトール(PI)3カイネースで,逆にSidPはPI 3-フォスファターゼであることがわかった(図1)。そして細胞質内に注入されたMavQは,小胞体や小胞小管(vesicular-tubular)の膜に会合することがわかった(図2)。小胞体はPIの細胞内プールとして知られている。生細胞イメージングの結果,小胞体の一部にMavQが集積すると,そこから小胞小管構造が出芽し,その延びた小胞小管構造は再び小胞体に融合する,ということを分単位で繰り返していた(図3)。この繰り返しのためには,MavQ のPI 3カイネース活性に対し,同じくIcm/Dotのエフェクター分子であるSidP が,PI 3-フォスファターゼ機能を担っていた(図4)。このMavQとSidPの分単位の周期的変動によって,LCV内のレジオネラは,宿主細胞の小胞体構造を改変し,レジオネラ自身の細胞内増殖を優位に進めていた(図5)。
レジオネラがLCVを構築する分子メカニズムは,レジオネラ研究の大きな焦点である。その焦点を少し外して,今回の論文では,「レジオネラはLCVを構築した後に,自身の細胞内増殖を助けるように,宿主細胞の小胞体構造を勝手に作り変えていること」を明らかにしている。
「良性」疾患における体細胞変異(Somatic mutations in “Benign” disease) |
悪性疾患を除く「良性」疾患について,変異とクローン,体細胞クローンの病態生理学的機構と疾患,結論という章立てで,解説されている。
体細胞変異は決して稀ではなく,70歳以上の男性の半数ではY染色体が欠落していること,1回の細胞分裂で1ゲノム当り1塩基以上の置換が生じていることが挙げられている(図1A)。ただし体細胞変異が疾患として表出するためには,体細胞変異した細胞がクローナルに増殖する必要がある(図1B, C)。そのため,体細胞変異による「良性」疾患の多くは,造血幹細胞に生じた体細胞変異による血液疾患や免疫異常である。しかし,正常組織のRNAシークエンスのデータから,皮膚や食道や肺でも,肉眼的な領域の広さで細胞のクローン増殖が示されており(2019年Science誌),体細胞変異による「良性」の呼吸器疾患も今後見つかってくる可能性が期待される。
今週の写真:ミャンマーのヤンゴンにある寺院シュエダゴン・パゴダ。一日も早く騒乱が治まってくれることを願っております。 |
(TK)