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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 148

公開日:2021.6.16


今週のジャーナル

Nature Vol. 594, No.7862(2021年6月10日)日本語版 英語版

Science Vol. 372, Issue #6546(2021年6月4日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 23(2021年6月10日)日本語版 英語版







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COVID-19後遺症の系統的かつ包括的な特徴づけ/デングウイルスに対する抗体の糖鎖修飾で予後を予測する/ネッタイシマカ共生細菌の力を借りてデング熱の流行を制御する

•Nature

1)感染症:Article
COVID-19の急性期後の後遺症の高次元の特徴解析(High-dimensional characterization of post-acute sequelae of COVID-19
 脱毛やブレインフォッグと言われる状態など,ロングCOVIDとして流行拡大からまもなくよりCOVID-19罹患後の後遺症は話題となっている。各国からその実情が報告されているなかで今週のnature誌には,米国退役軍人省の全国的な医療データベースを用いたCOVID-19罹患後の後遺症に関する大規模かつ包括的な報告がなされた。COVID-19の非入院例73,435人,対照群4,990,835人,COVID-19の入院例13,654人,季節性インフルエンザで入院した例13,997人を対象とし,各々を比較することによりCOVID-19発症後30日以上生存した例のその後半年間での臨床的な後遺症の特徴を明らかにしている。

 入院を必要としなかった無症状から軽症のCOVID-19罹患者でも発症後30日以降で死亡リスクが上昇し〔HR:1.59(1.46-1.73)〕,対照群と比較した場合の過剰死亡数は8.39/1000人,外来診療の過剰必要数は33.22/1000人であった。各臓器で出現する症状,必要とする投薬内容,検査値以上などのCOVID-19罹患者1,000人あたりの対照群との比較での上積み(excess burdenという文言が用いられている)は,ほぼあらゆる臓器でハザード比が1を超え有意であった(Figure 2)。
 他のウイルス感染症との比較のために入院を必要としたCOVID-19と季節性インフルエンザ例との比較が行われた。発症後30日以降のCOVID-19例における上積みは,死亡数で28.79/1,000人,外来診療必要数で6.37/1,000人であった。各臓器の後遺症も呼吸器系だけでなく,神経系障害,精神疾患,代謝異常,心血管系障害等,等の相当数の臓器後遺症で上積みが認められた(Ext. Fig. 2d,e,f)。
 重症度別による後遺症のリスクを,非入院,入院,ICU入室例で比較したところ,急性冠疾患,慢性腎臓病,糖尿病,記憶障害,血栓症など様々なリスクが非入院例でも高くなり,そのリスクは重症度に応じて高くなることが明らかになった(Figure 3)。これらがウイルス感染症で一般的なことなのか,あるいはCOVID-19に特徴的なことなのかの検証は,入院が必要であった季節性インフルエンザ例との比較を行い,COVID-19感染例で幅広い症状や多臓器病変のリスクが高まることを示している(Ext. Fig. 8)。
 どの後遺症が実際にCOVID-19と直接的に関連するのか,あるいは感染者をとりまく社会的状況などの影響による間接的な関連なのかを明確にはできていないが,この検討では,COVID-19例は発症後30日を過ぎても肺だけでなく,肺以外の複数臓器にまたがる相当な健康被害を経験していることが明らかとなった。現時点で1億7500万人以上の既罹患者が存在するが,医学的視点だけでなく社会的な視点からもパンデミック後を見据えた後遺症に対してのケア戦略を検討していくことが世界的にも必要であろう。

•Science

1)感染症・コロナ:letter
抗体のフコシル化が2回目のデング熱の重症度を予測する(Antibody fucosylation predicts disease severity in secondary dengue infection
 しばしば話題になるが,世界中でヒトの命を奪う動物のトップ10をご存じだろうか。トップ1は蚊,次点で我々ヒトがランキングしている。蚊は実に年間70万人以上のヒトの命を奪っており,低緯度地域で暮らすヒトにとっては病原微生物を媒介する大きな脅威である。ネッタイシマカが媒介するデングウイルスによるデング熱は年間1億人の有症状者と1万人の死者を出していると推定されている。1990年以降,10年毎に倍増しており,気候の温暖化とグローバル化とに相まって世界的な対策の必要性が叫ばれている。2014年夏には東京の代々木公園周囲で多数の症例が発生したことを記憶している読者も多いと思う。

 デング熱の疫学的研究では既存のデングウイルス抗体価が疾患の重症度を決定する重要な要素であることが示されている(Science 2017)。感染症に対しては抗体濃度依存的に疾患が抑制されることが通常と考えられるが,これらの疫学的データでは特定の抗体濃度群では疾患が重症化するという不思議な結果が示されている。実際にデング熱はデングウイルスの血清型によっては一次感染の際には無症状であるが,二次感染の際に重篤化することがある。これはIgG抗体が中和レベル以下で免疫担当細胞への感染を増強することが原因とされており,この現象は抗体依存性感染増強(Antibody-dependent enhancement:ADE)と呼ばれる。その一部の説明として,ウイルスが抗体に認識された後に,免疫担当細胞上のFcγ受容体を介して取り込まれ感染を促進することが知られる。
 本報告は免疫学の分野で非常に有名な米国ロックフェラー大学のRavetchラボからである。彼らは先行研究として,IgG-Fc部の糖鎖のバリエーションとデング熱の関連を調べており,重症デング熱例では活性化FcγⅢa受容体に高い親和性を示す抗デングウイルスIgGのFc部位の糖鎖の特徴として,アフコシル化IgG1糖鎖が増加しているとして報告している(Science 2017)。それを踏まえて,本報告では『抗体の糖鎖修飾が感染症病態に影響を与えるのか』を,アフコシル化抗デングウイルスIgGが重症二次感染の結果であるのか,あるいは重症化の予後予測因子となるのかを検討している。後述もするがSARS-CoV-2との関連も併せPerspectiveに取り上げられており,抗体の糖鎖修飾についてでわかりやすく記載されている。検討内容はシンプルであり,入院前後での抗体のフコシル化の程度を比較してその結果を説明しえる解釈を示している。入院を擁するデング熱例では,特異的IgG1と総IgG1においてアフコシル化IgGは増加しており(Fig1),さらに重症度に応じてその割合は増加していた(Fig2c)。入院時の検体の解析結果からは,入院を必要とするかどうか,あるいはその後の重症度を反映してすでにアフコシル化IgG1の増加を認めており(Fig2FFig3)結果ではなく予後因子であること,疾患感受性因子であることが示されている。このフコシル化による抗体の糖鎖修飾が他のウイルス感染症に影響するかについては,ウェストナイルウイルス,ジッカウイルスで検討し,感染による抗体のフコシル化状態は変化がないこと,またフコシル化の程度と症例の重症度は関連しなかったことを示した(Fig4,D,E,F,G)。
 これらの事実から,デングウイルス感染によりアフコシル化されたIgG1が特異的に増加することが裏付けられた。その詳細なメカニズムは明らかになっていないが,デングウイルスがB細胞への間接的,あるいは直接感染により抗体の糖鎖修飾に影響を及ぼす可能性が考察されている。今年のScience誌の2月26日号ではSARS-CoV-2に対するアフコシル化IgGと惹起される炎症の強さとの相関も報告されており,今回の報告と併せると感染後の過剰な炎症の引き金になる可能性を持ち,予後を左右する要因となり得ることが示唆されている。

•NEJM

1)感染症:Original Article
デング熱制御を目的とするボルバキア感染蚊の投入の有効性(Efficacy of wolbachia-infected mosquito deployments for the control of dengue
 Science誌のデング熱予後因子に続いて,NEJM誌からもデング熱の感染予防に関する報告を取り上げる。本報告はオーストラリアとインドネシアの合同グループによる蚊が媒介するデングウイルス感染症(デング熱)を,蚊に感染する細菌の力を用いて公衆衛生学的にコントロールすることを目的とした介入研究の結果である。米国南部では蚊媒介の感染症はしばしば流行していることもあるからかEditorialにも取り上げられている。

 今回の話の主役は共生細菌であるボルバキア(Wolbachia pipientis) である。ボルバキアは昆虫の中に高頻度認められ,ミトコンドリアのように母から子に伝わり,宿主の生殖システムを自分に都合の良いようにコントロールする機能を持っている。デングウイルスを媒介するネッタイシマカでボルバキアに感染している個体は自然界には存在しないが,特定のボルバキア株(今回はwMel株)を安定的に感染させることが可能である。この臨床研究を理解するにはボルバキア感染により以下のふたつが起こることを知ることが重要である。①ボルバキア感染個体はデングウイルスの感染密度を顕著に抑制する表現型を持つようになる(蚊のなかでデングウイルスが増殖しない)。②ボルバキア感染個体の雄と非感染個体の雌が交配すると,細胞質不和合という現象によりその胚は死にいたる。つまり世代が進むたびにボルバキア感染個体が増えていくこととなる。
 この2つの現象を利用して研究は計画された。仮説は以下となる『ボルバキア感染ネッタイシマカを環境中に放つと,デングウイルスを体内で保持することのできない個体が次第に優位となり,最終的にデング熱を発症する住民が減少する。』
 ネッタイシマカの高密度地域であるインドネシアのジョグジャカルタ特別州のある地域をほぼ1km四方の24の地域クラスターに分割し,12のボルバキア感染個体を放つクラスター(介入クラスター)と,12の何も放たないクラスター(対照クラスター)に無作為に振り分けた。各クラスターは蚊が境界をまたいで移動しにくいような地理的要件で隔離されているように設計された。介入クラスターには2017年3月から12月にかけて9〜14回に分けてボルバキア感染個体が放たれた。ボルバキア感染ネッタイシマカの割合はモニタリングされ,2018年1月から2020年3月までの評価期間内では介入クラスターでは95.8%がボルバキア感染個体であった(Fig2)。主要評価項目としてこの27カ月間でデング熱を発症した住民の割合が評価された。鑑別困難な急性発熱性疾患で各クラスター内の診療所を受診した3〜45歳の8,144例の住民が組み入れられた。適格基準を満たさない症例が除外され,血液検体のRT-PCRもしくはELISAによりデング熱の診断がなされた。最終的に介入クラスターでは67/2,905例(2.3%),対照クラスターでは318/3,401例(9.4%)がデング熱と診断され,有意に発症者を抑制した(オッズ比0.23,95%CI:0.15 to 0.35,p=0.004)。介入による発症の防御効果は77.1%(95%CI:65.3-84.9),入院の防御効果は86.2%(95%CI:66.2-94.3)であった。
 共生細菌が宿主をコントロールするという表現型を利用して,公衆衛生学的に感染症をコントロールできることが証明されており,個人的にはこんな介入研究があるのか! と目からうろこが落ちた。


今週の写真:赤牛ハンバーガー
 熊本・阿蘇の雄大な草原では牧畜が盛んに行われており,赤牛は赤身に適度な脂肪分が含まれ,うまみとやわらかさに加えヘルシーさを備えた肉として名物にもなっている。あか牛丼,ステーキ,ハンバーグ等々,様々な食べ方があり,いずれも大変美味しい。写真は,阿蘇にあるお店で,あか牛パティに自家製ベーコンをアレンジしたハンバーガーを提供している。食すとこぼれ出る肉汁と厚みのあるベーコンの香ばしさ,新鮮なトマト・レタスの相まって大層おいしい。かなりのボリューム感があるが,あか牛独特のあっさりさもありペロッと完食してしまう。家族みなでリピーターである。




(坂上拓郎)

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