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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 149

公開日:2021.6.25


今週のジャーナル

Nature Medicine  Vol.27, Issue 7(2021年7月)英語版

Science Immunology Vol. 6, Issue #60(2021年6月18日)英語版

NEJM Vol. 384, No. 24(2021年6月17日)日本語版 英語版







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COVID-19後遺症解析-対照設定をどう議論?/OAS-1機能獲得変異と低γグルブリン血症・肺胞蛋白症・自己炎症性疾患/妊娠女性における mRNA COVID-19 ワクチンの安全性に関する最新報告

 先般,厚生労働省からCOVID-19後遺症に関する中間報告が発表された(Link)。日本呼吸器学会による多施設共同研究の中間報告(Link)や筆者が所属する慶應義塾大学からの中間報告(Link)が含まれている。この発表は案の定,センセーショナルにマスコミに報道されて,改めてコロナ禍における情報の伝え方の難しさを実感した。筆者は,後遺症研究に当事者として参加してきたが,「適切なコントロール群が設定されていないのではないか?」「他の感染症では`後遺症`の実態はどうなっているのか? COVID-19が社会的に注目を浴びているため,過剰に取り上げられている部分はないのか?」という疑問を強く持っていた。このような疑問に向き合ってくれている「Nature Medicine」の記事を見つけ,今週はこちらの記事から取り上げることとした。


•Nat Med 2021 Jun 17

1)感染症:Correspondence

因果関係なのか交絡因子なのか?COVID-19後遺症の解析のためにコントロールが重要である理由(Causation or confounding: why controls are critical for characterizing long COVID

 本Correspondenceでは,英国の公衆衛生部門の医師が,世界のCOVID-19の後遺症研究を取り上げ,問題点を総括してくれている。COVID-19の後遺症に関しては,英語表記でも「post-acute COVID-19」,「post-COVID syndrome」,「long COVID」など表記がバラバラであり,この症候群に関する名称・期間・症状については意見がそもそも一致していない。自己申告の症状の多くは,頭痛や疲労感などの非特異的なものであり,一般の人々にも広く認められるものである。また,あくびができない,唇が荒れるなど,生物学的には考えづらい症状も多く含まれている。

 COVID-19のメカニズムが十分に解明されていないため,感染後の合併症や神経心理学的な後遺症を発症する患者がいるということは,予想され得ることである。実際に,他の感染症,特に伝染性単核球症やインフルエンザ後の病態で同様の症状が報告されている。しかし,これまでの感染症と違い,COVID-19後遺症によりもたらされる社会への疾病負荷が前例がない程,甚大であることが大きな違いであると言えよう。2021年3月の時点で,英国ではなんと人口の1.7%がCOVID-19後遺症を訴えていると推定されている。

 これまでに報告されているCOVID-19後遺症に関する研究は,ほぼすべてが高所得国で行われたものである。また,一貫した症例の定義がないだけでなく,適切なコントロール群が設定されておらず,選択バイアスにより解釈や比較が困難である(Figure 1)。ある特定の地域住民を対象とした研究では,症例の代表性に疑問が持たれている。また,オンラインで研究へのエントリーを募集した研究では,多くの研究が症状の自己申告に頼っており,SARS-CoV-2感染のしっかりとした診断が確認されていない。また,オンラインの患者サポートグループを通じて研究参加者を募集した場合,この選択バイアスはさらに顕著になっているようだ。

 もう一つの重要なLimitationは,長期的な後遺症の評価において,症状を客観的に特定し,定量化するために必要な適切なコントロール群がないことである。SARS-CoV-2検査で陰性だった人をコントロールとした研究もあれば,症状が持続している患者と症状が短期間しか続いていない患者を比較した研究などが混在している(Table 1)。報告されているCOVID-19後遺症の症状の多くは非特異的であるため,一般集団でもよく見られている可能性あり,また,報告されている症状の中には,断続的であったり,感染後数週間から数カ月後に新規に出現した症状もある。

 このようなバイアスに対処するため,本Correspondenceの筆者を含むいくつかの研究グループは,COVID-19のパンデミック開始時からの縦断的コホートを用いて,SARS-CoV-2に対する抗体検査を定期的に実施し,感染状態を血清学的に確認している。COVID-19の後遺症に関連すると報告されている72の症状について,医療従事者の参加者に質問したところ,軽度から中等度の症状のあるCOVID-19の血清陽性患者140人と,無症候性で血清も陰性であった対照群1,160人とで,精神状態,消化器症状,皮膚の症状が,同頻度の頻度であることが判明した。この報告は医療従事者を対象にしたものであり,別の味方をすれば,COVID-19によるパンデミック自体が医療従事者に与えた甚大な影響を浮き彫りにした面もあると言えよう。

 筆者らは,COVID-19の後遺症に関するエビデンスに基づいたガイドラインを作成し,医療資源を最も必要とされる箇所により医療資源を投入するためにも,COVID-19の後遺症の適切な特徴を明らかにし,より堅固で科学的に適正に実施された縦断的研究が早急に必要であると締めている。


•Sci Immunol Vol. 6 Issue 60

1)免疫学:Article

ヘテロ接合性のOAS1 Gain-of-function(機能獲得型変異)は自己炎症性の免疫不全症を引き起こす(Heterozygous OAS1 gain-of-function variants cause an autoinflammatory immunodeficiency

 近年,「自己炎症性疾患」という用語を頻繁に耳にするようになっている。地中海熱などが自己炎症性疾患の代表格であろう。ヘテロ接合性のOAS1 Gain-of-functionが自己炎症性疾患を引き起こす機序に迫った,ミュンヘン大学と東京医科歯科大学による研究である。最近ではOAS1(2'-5'-oligoadenylate synthetase 1)は,COVID-19の疾患感受性遺伝子としても報告されており,この観点からも本研究を興味深く感じた(Link)。

 OAS1(Link)はcGAS(Link)と機能的・構造的にもホモロジーを有するOAS1タンパクファミリーである。OAS1もcGASも,細胞質内でウイルスを認識し,抗ウイルス免疫反応を開始することが知られている。cGASは,STING(Link)を活性化し,複数の抗ウイルス遺伝子の発現を誘導する。STINGの変異も,自己炎症性の先天性免疫不全症を引き起こし,STING–Associated Vasculopathy with Onset in Infancy(SAVI)として2014年にNEJMに報告されている(Link)。OAS1の変異は,低ガンマグロブリン血症を伴う肺胞蛋白症を発症することが2018年に北海道大学の長先生のグループから報告されたが,その詳細な機序は明らかではなかった(Link)。

 今回,国際共同研究グループは繰り返す発熱,潰瘍性皮疹,気道症状,下痢の臨床症状を呈し,画像上は間質性肺炎と肺胞蛋白症を認める6家系を詳細に解析している。尚,肺胞蛋白症は実際に病理でも確認されている(Figure 1C)。また,一部の症例は,骨髄移植で回復の転帰をたどっている。

 この6家系の内,エクソーム解析でA76V,C109Y,V121G,L198Vの4つのミスセンス変異を認めた(C109Yが3例)。これらの患者のT細胞数は正常であったが,単球数とB細胞数は末梢血中で減少していた。すべての患者で低ガンマグロブリン血症を認めていた。

 健常者からの単球,B細胞,T細胞ではOAS1が発現しており,さらに,IFNα,CpG,CD3/CD28の刺激により,このOAS1の発現がさらに増加していた。次に,血液検体が入手可能であったA76V,C109Yの症例を解析すると,単球,B細胞ではOAS1の発現が低下しており,T細胞では正常であった。さらに,健常者のB細胞でCpG(TLR9を刺激)で刺激してサブセット解析を行うと,ナイーブB細胞(IgD+CD27-)と比較し,クラススイッチしていないメモリーB細胞(IgD+CD27+),クラススイッチしているメモリーB細胞(IgD-CD27+),プラスマブラスト(CD27+CD38+)でOAS1の発現が高かった。一方,A76V,C109Yの症例を解析すると,すべてのB細胞サブセットにおいて,アポトーシスの前段階のように見える細胞(preapoptotic looking-cells)が多く存在していた(Figure 1I)。以上より,この重度の自己炎症性の免疫不全において,ヘテロ接合性のOAS1ミスセンス変異と単球およびB細胞におけるOAS1の低下と相関していることが判明した。

 次に,A76V,C109Yの症例では,定常状態及び刺激下において,単球とB細胞のアポトーシスが増加しており,さらに,この結果,B細胞の増殖・分化・共刺激の障害,単球においても翻訳開始・共刺激・抗原提示能が低下していた。そして,これらの機能低下により,単球・T細胞・B細胞において,ウイルス刺激に対するI型インターフェロン応答が低下していた(Figure 2)。

 また,研究グループは,この病態が肺胞蛋白症を引き起こすことに注目し,GM-CSF,IL-3,pervanadate(Link)の刺激下でCD14陽性単球におけるSTAT5のリン酸化を評価し,A76V,C109Yの症例では,GM-CSF,IL-3の刺激下で,STAT5のリン酸化が低下していることを確認している。さらにL198Vを有する1症例ではBALFから肺胞マクロファージを回収することができ,貪食能が低下していることを確認できた(Figure3B)。

 次に,CD34陽性造血幹細胞からiPS細胞を作成し,そこからマクロファージに分化させている。このiPS細胞由来マクロファージでも,患者の単球でも,IFNαから誘導されるRNase L(RNA分解酵素の一種)依存的に,細胞接着,クラスタリング,スカベンジャー受容体の発現,貪食作用が阻害されていることを示している(Figure 3)。

 次に,T細胞,B細胞,単球をそれぞれFACSでソートし,それぞれの細胞集団でRNA分解度を評価するためにRIN値(Link)を計算している。すると,T細胞では認めなかったが,A76VおよびC109Yの単球およびB細胞では,RNAの分解が見られ(Figure 4A,B),以前の先行研究と比較し,RNase LによるRNAの分解と類似する結果であることが判明した。さらに研究グループは,OAS-1の変異タンパクが,機能を獲得し(Gain-of-function),dsRNA非依存的に2-5Aの合成活性(2-5Aは不活性型単量体RNase L を活性型二量体へと構造を変化させる)を示し,RNase L依存的にRNA分解,翻訳停止,細胞のアポトーシスを引き起こすことを示している。また,この機能獲得はL198Vで最も弱く,A76V,C109YとV121Gという順番で機能獲得活性が強くなることを示している。

 最後に,OAS1の構造解析を進めている。変異型OAS1タンパク質では,アロステリックに制御されていた構造的制約(structural constraints)が消失し,部分的にdsRNA結合型の構造をとることで,dsRNA非依存的に2-5A合成酵素活性が現れ,RNase Lが活性化することで機能不全に導いているのではないかと結論づけている(Figure 5F)。

 以上より,ヘテロ接合性のOAS1機能獲得型変異が自己炎症性免疫不全症の原因であり,RNase Lを介したRNAの切断が発症のメカニズムであり,さらに,OAS1がⅠ型IFNによって誘発される単球およびB細胞の過剰炎症炎症を制御する重要な因子であることを示した。


•NEJM

1)感染症:Original Article

妊娠女性におけるmRNA Covid-19 ワクチンの安全性(Preliminary findings of mRNA COVID-19 vaccine safety in pregnant persons

 首相官邸や厚生労働省のTwitterアカウントが,COVID-19のワクチン接種と流産が関係ないと呼びかけるなど,SNS上で流布されている言説に今回ばかりは必死で対抗しているようだ(Link)。新しいタイプのワクチンが登場すると,その不安から様々な風説が出回るのが世の常であるが,そのような風説に対抗するためには,科学的に検証し,できるだけ丁寧に説明する必要がある。米国では,そのような取り組みの一環として,ワクチン副反応報告システム(Vaccine Adverse Event Reporting System:VAERS)を導入している。本研究では,その他にもV-safe After Vaccination Health Checker(Link)を使用し,妊婦における安全性を評価している。研究母体はCDCのCDC v-safe COVID-19 Pregnancy Registry Teamというチーム(Link)で,筆頭著者(Link)は日系人の方であるようだ。

 前述のV-safe After Vaccination Health Checkerと,V-safe から登録された妊娠レジストリー,VAERSの 2020 年 12 月 14 日~2021 年 2 月 28 日のデータを用いて,妊娠女性における mRNA Covid-19 ワクチンの早期の安全性の特徴を調査している。

 16~54歳のV-safe参加者の内,35,691人(ファイザー19,252人 モデルナ16,439人)が妊娠を申告した。妊娠女性では,非妊娠女性よりも注射部位疼痛の報告が多く,頭痛・筋肉痛・悪寒・発熱の報告が少なかった。この内,V-safeから登録された妊娠レジストリー 3,958人のうち,827人が妊娠を終えた。827人の内,妊娠喪失は115件(13.9%)で,生児出産は712件(86.1%)であった。生児を出産した女性の大部分は妊娠第3半期に接種を受けており器官形成期のワクチン接種は報告が少ないようである。新生児の有害転帰としては,早産(9.4%),在胎不当過小(体重が在胎期間に対して10パーセンタイル未満の乳児)(Link)(3.2%)などがあり,新生児死亡は報告されなかった。直接比較はできないが,COVID-19ワクチンを接種し妊娠を終えた人の妊娠および新生児の有害転帰の割合はCOVID-19ワクチンパンデミック以前に行われた妊娠女性を対象とした研究で報告された発生率と同程度であった。VAERS に報告された妊娠に関連する有害事象は 221件であり,もっとも報告が多かったのは自然流産(46件)であった。

 今回の予備的検討からは,mRNA Covid-19 ワクチンの接種を受けた妊娠女性における明らかな安全性シグナルは示されなかったが,妊娠早期に接種を受けた女性の調査を含む,より長期の追跡調査が必要であると結論付けている。


今週の写真:1年前に,自宅から見えた「ダブルレインボー」

「ダブルレインボー」は1本目と2本目で虹の色の順番が逆になることをこの時に知った(Link)。筆者が所属する慶應義塾大学では6月4週目から「職域接種」が始まる。多忙な日常業務・研究の中で,「職域接種」を担当することは,多くのエフォートが割かれ,なけなしの体力が着実に消耗されていくが,一刻も早い社会の正常化に向けて尽力できればと思う。



(南宮湖)


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