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呼吸臨床
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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 152

公開日:2021.7.14


今週のジャーナル

Nature Vol. 595, No.7866(2021年7月8日)日本語版 英語版

Sci Transl Med Vol. 13, Issue #601(2021年7月7日)英語版

NEJM Vol. 385, No.2(2021年7月8日)日本語版 英語版







Archive

高脂肪食が薄毛を引き起こす理由が明らかに/肺腺癌の免疫逃避に関わる新たな分子A20の発見/尋常性乾癬の新たな抗体薬ビメキズマブ

•Nature

1)幹細胞生物学

肥満は毛包幹細胞に作用して薄毛を増悪させる(Obesity accelerates hair thinning by stem cell-centric converging mechanisms

 東京医科歯科大学のグループから肥満と薄毛の関連を示す大変興味深い論文が報告されたので紹介する。この研究はアデランスのサポートを受けている背景もあり,論文の内容についてもわかりやすく紹介されている(リンク)。本研究グループは毛の再生の元となる毛包幹細胞に着目し,加齢による薄毛・脱毛が毛包幹細胞の枯渇によって生じることをこれまでに明らかにしてきた(2016年サイエンスに報告)。毛包幹細胞は,毛包のバルジ領域と言われる部位に局在しており,自己複製によって幹細胞プールを維持しながら毛を生やす毛母細胞を供給していることが明らかになっている(一般的なサイトでもわかりやすい図解で説明されているようなコモンな概念のようである)。
 この研究では,まず高脂肪食が毛の周期的な再生に与える影響を老化の影響と併せて検討するため,月齢が2〜12カ月のマウスに高脂肪食を与え,その違いを評価した。その結果,高齢マウスでは,1カ月の高脂肪食摂取だけで毛の再生が障害されるのに対し,若齢マウスでは,数カ月以上の高脂肪食に加えて,毛周期を繰り返す(何度か生え変わる)ことによって毛が薄くなることを明らかにした。次に,本グループが樹立した毛包幹細胞にGFPを発現したマウスを用いて,高脂肪食を投与し続け,細胞分化をイメージングでトレースし,さらにGFPを用いて単離した細胞についてRNAシークエンス・ATACシークエンスを行い遺伝子発現解析およびエピゲノム解析を行った。その結果,短期の高脂肪食では,高齢マウスでは毛包幹細胞において,酸化ストレスや表皮分化に関わる遺伝子発現が誘導されるものの,若齢マウスでは毛包幹細胞のプールは維持され,毛の再生への影響を認めなかった。一方,3カ月以上にわたり高脂肪食を摂取した場合は,毛包幹細胞内に脂肪滴が蓄積し,毛包幹細胞が分裂する際,表皮または脂腺へと分化することで幹細胞の枯渇し,毛包の萎縮が生じることがわかった()。そのメカニズムとして,著者らはソニックヘッジホッグ(SHH)シグナルに着目した。毛包幹細胞が分裂する際,SHHシグナルが活性化されるが,長期の高脂肪食によってその活性化が阻害されることがわかった。

 SHH抑制するメカニズムとして,高脂肪食による酸化ストレスの増加に加えて,IL-1b産生やNF-KB誘導が関わることを明らかにした。さらに毛包幹細胞においてSHHシグナルを再活性化するトランスジェニックモデルや,SHHシグナルのアゴニストであるsmoothened agonistを投与することによって,高脂肪食の開始初期からSHHシグナルを活性化させ幹細胞を維持すれば,脱毛症の進行を抑制できることを明らかにした。高脂肪食・肥満と薄毛・脱毛の分子メカニズムがわかりやすいサマリーのとして最後に掲載されている。
 生活習慣が薄毛・脱毛を引き起こすメカニズムを大変綺麗に分子生物学的に証明した論文であると共に,治療効果まで明らかにしており,臨床応用を含めた今後の展開が期待される。

•Sci Transl Med

 今週はScience Translational Medicine(TR)から肺癌の免疫逃避に関わる新規のメカニズムに関する論文を紹介させていただく。
 また今週のScience TRには,TJHメンバーの後藤先生のグループから,iPS細胞および流路デバイスを用いた繊毛上皮機能に関する報告が掲載されている(リンク)。素晴らしい研究ですので,ご本人から改めてご紹介いただけると思います。おめでとうございます。


1)腫瘍学

A20発現低下は肺腺癌の免疫逃避を促進する(Down-regulation of A20 promotes immune escape of lung adenocarcinomas

 肺癌に限らず,癌細胞に生じる一部の遺伝子変異は免疫逃避と強く関わることが知られており,遺伝子変異がtumor mutation burdenの様に非自己の癌抗原の産生を増やすような要因となるだけでなく,癌抗原が提示できなくなったり,代謝環境を変えたり,抑制性細胞を誘導したりするなど免疫抑制に繋がることも複数報告されている。A20〔別名tumor necrosis factor alpha–induced protein 3 (TNFAIP3)とも呼ばれる〕の遺伝子変異や機能障害が様々な自己免疫疾患と関連することは古くから報告されているようだが(Fig. 1),今回オーストリアの研究グループから,肺腺癌においてA20が減少もしくは欠損した場合,免疫回避がより誘導されやすくなり,癌が増悪することを明らかにしている。
 はじめにTCGAを用いた解析から,Kras変異を有する肺癌患者の約55%にA20の欠損を含めた発現低下に関わるような変異が認められ,発現低下は予後不良因子になることを明らかにしている。そこで,Kras変異を有する肺の自然発癌モデルにA20の変異を追加して腫瘍増殖を調べると,マウスモデルで腫瘍増殖が悪化することがわかった。Kras変異を有する細胞株においてA20を欠損させた場合,細胞増殖は変わらず,マウスモデル(in vivo)においては,A20欠損の腫瘍では,好中球型のMDSC浸潤の誘導およびCD8T細胞浸潤の低下を認めることがわかった。さらにヒトの肺腺癌組織のRNAシークエンスデータを用いて,A20と抗腫瘍活性遺伝子のsignatureの発現を比較すると有意な発現の相関を認めた。A20欠損によってKras腫瘍が増悪することがわかったが,その理由として腫瘍環境に浸潤するT細胞数の低下が関与していることを示唆されたため,CD8T細胞を抗体によって除去したところ,腫瘍増殖の差が消失したことからA20欠損による腫瘍増悪は,T細胞依存的な変化として生じている可能性が示された。Kras変異とA20欠損を両方有する腫瘍とA20が野生型の腫瘍に関して,遺伝子発現を比較するとインターフェロン関連シグナルが,A20欠損で特に上昇していることがわかった(ここではインターフェロン関連シグナルの亢進が癌細胞では増大に関わっている)。
 A20はもともとユビキチン化を修飾する作用が知られており,NFkBのシグナルを抑制するなどの報告が知られている()。ただKras変異肺癌では,NFkBとの関連はなく,A20が作用(阻害)している他のシグナルとして,TBK1-STAT1があり,A20欠損株では,TBK1-STAT1シグナルが過剰になることが腫瘍増殖と関わることがわかった。上皮特異的にIFNシグナルを欠損させることで腫瘍の増悪がキャンセルされることでもそれを証明している(この概念は,2009年にNature誌で最初に報告されている:リンク)。
 ここで興味深いのは,癌細胞内でのインターフェロンシグナルは癌の細胞増殖という点では有利に働き,さらにPD-L1発現の亢進ということで前述のようなT細胞浸潤の低下を誘導している反面,Kras変異陽性A20欠損の癌細胞は免疫逃避をPD-1:PD-L1に依存していることになるため,PD-L1抗体に対しては治療反応性を示しやすくなることを最終的には示している。複雑な内容ではあるが,A20の機能低下が,癌細胞としてのTBK1-STAT1-IFNシグナルを亢進し,増殖を促進する一方,PD-L1を介した免疫逃避に依存するようになるため,ICIへの治療感受性は高まるということが示された。肺癌で治療効果を示す症例にもこのような遺伝子変異・発現が関与している可能性があり,バイオマーカーとしての可能性が期待される。


•NEJM

 呼吸器内科と少し離れるが,尋常性乾癬に対してIL-17AおよびIL-17Fの両方を阻害する抗体薬ビメキズマブの有効性が証明された2つの試験について紹介する。


1)皮膚科学
 ビメキズマブ(bimekizumab)は,IL-17AとIL-17Fの両方を阻害するIgG1モノクローナル抗体で,中等症~重症の尋常性乾癬患者を対象として行われた2つの臨床試験の結果が今回報告された。①ではTNF阻害薬アダリムマブ,②ではIL-17Aのみの選択的阻害薬セクキヌマブとの非劣性・有効性を比較した。

 

①尋常性乾癬に対するIL-17A・IL-17F阻害薬ビメキズマブとTNF阻害薬アダリムマブとの比較(Bimekizumab versus adalimumab in plaque psoriasis

 1)ビメキズマブを4週間毎56週間投与する群(158例),2)ビメキズマブを16週まで4週毎,16週以降56週まで8週毎に投与する群(161例),3)アダリムマブを2週間毎24週間,その後ビメキズマブを4週間毎56週まで投与する群(159例)の3群に分けて検討。Primaryエンドポイントとして,16週の時点における乾癬の面積・重症度指数スコアについてベースラインから90%以上改善した患者(PASI 90)の割合,さらに担当医師の評価で皮疹がほぼ消失もしくは完全消失と判断された割合を評価している。90%以上改善した患者の割合は1)2)を併せて86.2%,3)47.2%であった。さらに乾癬の病変がほぼ消失もしくは消失した患者の割合は,1)2)を併せて85.3%,3)57.2%であった。以上からビメキズマブの非劣性および優越性が示された。有害事象として,ビメキズマブで上気道感染,口腔カンジダ症,高血圧,下痢の頻度がより高かった。尋常性乾癬の治療におけるビメキズマブの有効性と安全性を明らかにするために,他の治療薬との違いも含め,より長期かつ大規模な試験が必要と考えられる(リンク)。


②尋常性乾癬に対するIL-17A・IL-17F阻害薬ビメキズマブとIL-17A阻害薬セクキヌマブとの比較(Bimekizumab versus secukinumab in plaque psoriasis

 1)ビメキズマブを4週間毎48週間投与する群(373例)(この群はさらに16週の時点で,4週毎に投与持続する群と8週間毎に持続する群を1:2でさらに割り付け),2)セクキヌマブを1週毎4週目まで,その後4週毎に48週間投与する群(370例)に分けて検討。Primaryエンドポイントとして,16週の時点における乾癬の面積・重症度指数スコアについてベースラインから100%改善した患者(PASI100)の割合を評価した試験。16週時点で,100%改善した患者の割合はメキズマブの投与群で67.0%,セクキヌマブの投与群で46.2%であった。以上からビメキズマブは16~48週間の投与期間では,セクキヌマブよりも皮疹の消失効果が大きかった。有害事象としてはメキズマブの投与群で口腔カンジダ症が高かった(リンク)。

今週の写真:万博公園 太陽の塔 2021年春

(小山正平)


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