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肺癌組織内には4種類のマクロファージ・単球分画,そのうち肺胞マクロファージが肺癌の腫瘍形成を援助している/中枢神経の骨髄球の由来/前向きコホートによるCOVID-19mRNAワクチンの効果
1)腫瘍学:Article
Tissue-resident macrophages provide a pro-tumorigenic niche to early NSCLC cells(腫瘍の浸潤と増殖における組織常在型マクロファージの役割) |
米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学からの報告である。組織常在型マクロファージ(肺胞マクロファージ)は,腫瘍形成期に腫瘍細胞の傍で,腫瘍細胞の上皮間葉移行や浸潤を促すと同時に,制御性T細胞反応を誘導して獲得免疫応答から逃れるように腫瘍微小環境を整えていた。「組織常在型マクロファージは抗炎症性,一方,血中から遊走してくる単球由来マクロファージは炎症性」という従来のコンセプトを,癌細胞は巧妙に利用しながら腫瘍形成していることを示した。
筆者らはまず,初期の非小細胞肺癌35例の腫瘍組織からマクロファージ・単球分画を分離してscRNA-seq(単細胞RNA発現)解析を行った(図1a)。その結果,腫瘍内のマクロファージ・単球分画は,4つのグループに分けられた。グループ1は組織常在型マクロファージで,「肺胞マクロファージ」ということになる。グループ1は,自己複製能に優れており,成体の造血幹細胞とは無関係である。その他,グループ2は単球由来マクロファージ,グループ3はCD14陽性単球,グループ4はCD16陽性単球である。同様の結果は,マウス同所性非小細胞肺癌モデル(KrasG12Dを有しp53を欠損している肺上皮細胞,「KP細胞」を経静脈的にマウスへ移植)でも得られた(図1b)。
これらの細胞の局在性をマウス同所性非小細胞肺癌モデルで調べたところ,グループ1の「肺胞マクロファージ」は,腫瘍の形成期には腫瘍細胞と近接して分布していた(図2)。しかし,腫瘍の進行期になると腫瘍内から消失し,代わりにグループ2の単球由来マクロファージが腫瘍内に増えてきていた。腫瘍の進行期で,腫瘍内にグループ2の単球由来マクロファージが増える現象は,ヒトの腫瘍でも確認された(図2a)。
そして図3では,マウス由来のKP細胞を用いたスフェロイド(オルガノイドではありません)で,グループ1の「肺胞マクロファージ」が,腫瘍細胞の上皮間葉移行や浸潤能を誘導していることを示した。
最後に,グループ1の「肺胞マクロファージ」を枯渇させたマウス(Siglec1プロモーターでジフテリア毒素受容体を発現させたトランスジェニックマウスにジフテリア毒素を経気道的に投与)で,マウス同所性非小細胞肺癌モデルを作製した(図4)。「肺胞マクロファージ」を枯渇させると,腫瘍形成期の制御性T細胞の集積は抑制され,形成される腫瘍も縮小してしまった。
腫瘍形成の初期段階で,肺胞マクロファージが腫瘍細胞に寄り添って,その腫瘍形成を手助けしている,という図式は興味深く,「肺に出来たから肺癌」を超えて,肺癌特有の癌化機構が想像される。なお本論文は,AASJの論文ウォッチでも取り上げられている。
1)免疫学:RESEARCH ARTICLE
髄膜や中枢神経実質の骨髄球は,頭蓋骨と脊椎骨の骨髄に由来する(Skull and vertebral bone marrow are myeloid cell reservoirs for the meninges and CNS parenchyma) |
ドイツのヨハネス・グーテンベルク大学マインツらのグループからの報告である。上述のNature誌で紹介した論文が「癌と肺」なのに対し,本論文は「炎症と脳」と全く分野は異なる。しかしどちらの論文も,「組織常在型マクロファージは抗炎症性,一方,血中から遊走してくる単球由来マクロファージは炎症性」という共通コンセプトに基づいている。そして本論文では,髄膜や脳実質の「組織常在型マクロファージ」は,頭蓋骨と脊椎骨の骨髄由来であることを示した(PERSPECTIVEの図参照)。
脳実質は,くも膜や硬膜からなる髄膜で覆われており,骨化脈管(ossified vascular channel)で頭蓋骨の骨髄腔と硬膜は交通している(SUMMARYの図参照)。まず筆者らは,平常時の脳脊髄やその周囲の単球や好中球が,血中由来ではないことを,マウス並体結合モデルで示している(図1)。図2では,AMD3100(CXCR4アンタゴニスト)をマウス頭蓋骨の骨髄腔に投与して骨髄球の遊出を促すことによって,平常時の脳脊髄やその周囲の単球や好中球が,頭蓋骨の骨髄由来であることを示している。さらに,実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE),脊髄損傷,視神経圧挫損傷の3つのマウスモデルを用いて,炎症によって脳脊髄へ遊走してくる単球は血液由来で炎症性であること示している(図3)。
1)感染症:ORIGINAL ARTICLES
mRNA ワクチンによる Covid-19 の予防と症状緩和(Prevention and attenuation of Covid-19 with the BNT162b2 and mRNA-1273 vaccines) |
論文タイトルを一見すると,「ファイザー社製のmRNAワクチン(コミナティ)と,モデルナ社のmRNAワクチン(COVID−19ワクチンモデルナ)を組み合わせて接種すると効果抜群?」と予想されるが,そういう論文ではありません。
これまで,それぞれのワクチンとプラセボを比較した無作為化試験(コミナティ・モデルナ)や大規模観察研究で,ワクチンの有効性は示されてきているが,本論文では,それぞれのワクチンを接種する医療従事者や救急隊員など(3975名)を対象に,前向きコホート研究(米国CDC主導)を行った。2020年12月14日から2021年4月10日まで毎週,参加者は鼻腔検体のRT-PCR検査を受けている。その上で,ワクチンの有効率を,居住地や職業や地域の感染状況で調整している。
その結果,いずれかのワクチンを2回接種後2週間以上経過した際,SARS-CoV-2陽性者でみた調整ワクチン有効率は,未接種者に比し,コミナティで93%,モデルナで82%と,コミナティ接種者にやや分が良い結果であった。さらにこの調整ワクチン有効率を,50歳以上と50歳未満で比べてみると,50歳以上94%,50歳未満90%と,一般にワクチン接種後の副反応が軽い中高年者であっても,ワクチンの有効性は劣らないことが示されている。
またSARS-CoV-2に感染しても,ワクチン接種者では,未接種者に比し,ウイルス量が40%,発熱リスクが58%,臥床期間が2.3日とそれぞれ減少していた。感染しても,mRNAワクチンの接種者ではより軽症で経過することが示された。
「SARS-CoV-2感染を正確に判定するために,参加者全員4カ月間毎週鼻腔のPCR検査を行う」というストラテジーにおいて,4,000人の参加者数は多からず少なからず,絶妙な研究デザインと思われる。
今週の写真:高知市内を流れる鏡川。7月16日公開の映画「竜とそばかすの姫」の一場面に出てきます。 |
(TK)