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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 159

公開日:2021.9.8


今週のジャーナル

Nature Vol. 597, No.7874(2021年9月2日)日本語版 英語版

Science Vol. 373  Issue #6559(2021年9月3日)英語版

NEJM Vol.385 No.10(2021年9月2日)日本語版 英語版








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自然免疫cGAS-STING経路の新研究/ドライバー遺伝子変異で発癌するのに必要なクロマチンプログラム(oncogenic competence)/希少症例から明らかになったパピローマウイルス感染防御に必要なNK細胞

•Nature

1)免疫学 

ショウジョウバエでは,cGAS様受容体がRNAを感知して3′2′-cGAMPシグナル伝達を制御する(cGAS-like receptors sense RNA and control 3′2′-cGAMP signalling in Drosophila

2つのcGAS様受容体がショウジョウバエで抗ウイルス免疫を誘導する(Two cGAS-like receptors induce antiviral immunity in Drosophila

 自然免疫で重要な「cGAS-STING経路」についてのショウジョウバエでの新たな知見が発表されており2つの論文について紹介する。

 cGAS-STING経路はウイルス感染の際のDNAに対する自然免疫応答に必須の経路として研究されてきたが,現在では自己免疫疾患,炎症性疾患,神経変性疾患や抗腫瘍免疫において重要な役割を担うことがわかってきている(リンク)。哺乳類ではDNAウイルス感染の際に細胞質内のDNAはcGASにより探知され,セカンドメッセンジャーであるcG[2‘–5’]pA[3‘–5’]p  (2’3’-cGAMP)が産生される。続いて2’3’-cGAMPと結合したSTINGは活性化してTBK1,IRF3の活性化を介してI型IFN応答を誘導する(Fig. 1)。

 キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)ではSTINGに相同する分子dSTINGが研究されてきたが,DNAウイルスに反応する哺乳類STINGとは異なり,RNAウイルスへの応答において重要であることがわかっていたが,その上流の仕組みについては不明であった。これらの背景をもとに,ショウジョウバエにおけるcGASに相当する分子cGAS様受容体(cGAS-like receptor:cGLR)の働きを解析したのが今回の2本の論文である。

 1つ目の論文は,米国ハーバード大学を中心とした施設からの報告であり,結晶構造解析などから,cGLRの表面をリモデリングするとリガンドの特異性を変えられることが実証され,さらに前向き生化学的スクリーニングを用いて,cGLR1がモデル生物であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の二本鎖RNAセンサーであることが明らかになった。

 2つ目の論文はデンマークのオーフス大学からの報告で,同様にショウジョウバエのcGASについての研究だが,cGLR1とcGLR2という2つのcGLRを同定している。cGLR1とcGLR2は,RNAウイルスあるいはDNAウイルスの感染に応答して,StingとNF-κBに依存的な抗ウイルス免疫を活性化することが示された。cGLR1は二本鎖RNAによって活性化されて,3’2’-cGAMPを産生する一方,cGLR2は未知の刺激に応答して,2’3’-cGAMPと3’2’-cGAMPの組合せを産生することが明らかとなった。

 哺乳類における他の自然免疫反応で大切なToll-like receptor(TLR)は,本来ショウジョウバエで同定されていたTollに相同する分子「Toll様受容体」として見つけられ解析されてきた。今回のcGLRは先に哺乳類で研究されていたcGASの相同分子として,今回ショウジョウバエで「cGAS様受容体」として研究が進んでいる点で興味深い。しかも哺乳類の防御経路に似ているが,GLR1では感知する核酸はDNAではなくRNAであり,セカンドメッセンジャーは2’3’-cGAMPでなく3’2’-cGAMPであるという重要な違いがあることが明らかとなった。2’3’-cGAMPと3’2’-cGAMPを産生するGLR2の認識する分子は不明であり,今後の研究が期待される。さらにショウジョウバエでは他のcGAS関連遺伝子などの存在など未解明の点も多く,自然免疫の進化の観点からも新たな多方面の展開が予想される。

 これらの2論文はNews and Viewsでも取り上げられており(リンク),説明のがわかりやすい。


•Science

1)癌 

発達クロマチンプログラムは悪性黒色腫の発癌能力を決める(Developmental chromatin programs determine oncogenic competence in melanoma

 細胞によってはドライバー遺伝子変異といった同じDNA変異があっても細胞を形質転換できる状況もあれば,そうでない状況もあることが報告されており,この癌化できる状態をoncogenic competence(発癌能力・発癌資格)とよんでいる。米国ニューヨークのメモリアルスローンケタリング癌センターからの本論文では,BRAFV600E悪性黒色腫について,ゼブラフィッシュの遺伝子導入とヒト多能性幹細胞(iPS細胞)モデルの組み合わせを使用して研究している。そもそも癌化していないメラノサイトにもBRAFV600E遺伝子変異がみられること,ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)の半数などにおいてもBRAFV600E遺伝子変異がみられること,および悪性黒色腫はどの細胞から発生するのかといった起源の問題など,諸々の臨床的な疑問にせまる研究である。

 発達の段階で,神経堤細胞がメラノブラストを生じ,メラノブラストはさらにメラノサイトに分化するが,これら3つの細胞状態のそれぞれにおけるBRAFV600Eに対する発癌反応を評価している。ゼブラフィッシュでは,p53欠損させた系で,各々細胞特異的なプロモーターでBRAFV600Eを発現させる系で調べている。ヒトiPS細胞モデルでは,RBとp53とp16を欠損させた系でBRAFV600Eを発現させて各々の細胞へ分化させて研究している。どちらのシステムでも,メラノサイトはBRAFV600E変異に対する反応性が低いのに対し,神経堤とメラノブラストの両方の集団は容易に形質転換される。これらの違いの解析から,エピゲノムのクロマチン因子であるATAD2(adenosine triphosphatase family AAA domain–containing protein 2)の関与を同定した。ATAD2をiPS由来のメラノサイトに強制発現させると神経堤関連遺伝子へのクロマチンが転写されやすくなることを明らかにしている。

 すなわち細胞の種類で異なるoncogenic competenceは,発癌遺伝子(BRAFV600Eなど),系統特異的転写因子(SOX10など),および発生的に調節されるクロマチン因子(ATAD2など)といた要因の組み合わせによって決まることが明らかとなった。これらの組合せは,腫瘍のタイプごとに異なる可能性があり,それらの発現を調節するメカニズムを研究することでoncogenic competenceを治療標的とできる可能性が考えられた。

 本研究はPERSPECTIVESでも取り上げられており(リンク),わかりやすいで説明されている。


•NEJM

1)HPV

ヒトパピローマウイルスに対する防御におけるナチュラルキラー細胞(NK cells in defense against HPV

 23歳のX連鎖重症複合免疫不全症(X-linked severe combined immunodeficiency:X-SCID)患者の病態解析と治療から明らかとなったNK細胞の役割についての米国NIHを中心とした研究グループからの論文である。1症例の解析から実に多くのことを示唆していて興味深いので解説する。

 まず,X-SCIDはX連鎖性劣性遺伝の原発性複合免疫不全症である(X連鎖重症複合免疫不全症)。IL2RG遺伝子(X染色体q13.1)の変異による共通γ鎖(common γ chain)を介するシグナル伝達不全が病因である。共通γ鎖はもともとIL-2の受容体複合体の1つとして発見されたが,IL-2のみでなくIL-4,IL-7,IL-9,IL-15およびIL-21の受容体のサブユニットに共通であるため,IL2RG変異によってこれらのサイトカインのシグナル伝達が障害される。その結果,Tリンパ球,NK細胞数は欠損または著減し(<300/ul),B細胞数は正常であるが,B細胞の成熟,T細胞・NK細胞への分化,抗体産生能に障害を来し,重篤な免疫不全状態となる。一般には通常生後数カ月以内に日和見感染を含む様々な重症感染症を発症し,根治的治療である造血幹細胞を行わなければ生後1年以内に死亡するといわれている。

 それでは造血細胞移植を受けていない23歳男性の本症例では何が起きているのか? ヘルペスウイルス関連脳炎の既往があり,ヒトパピローマウイルス(HPV)によって引き起こされた皮膚粘膜病変が複数認められ,治療抵抗性の鼻腔扁平上皮癌再発もある状態であった。実は,本患者ではc.191T→C(p.V64A)変異が確認されており,患者の祖母,母親,姉,妹がヘテロ変異であることから遺伝性のX-SCIDであることがわかる(図2C)。しかしながら,本患者の血液細胞の詳細な解析から,実はT細胞では正常DNA配列が確認され,T細胞では生殖細胞変異の場所に体細胞変異が生じて正常化していることが判明した。NK細胞や単球ではIL2RG遺伝子変異があり機能していないことが病態の原因と考えられた(図2E)。

 治療として,ヘテロ変異の姉から同種造血細胞移植を受けた結果,患者のNK細胞は正常となり,鼻腔癌をはじめとする HPV 病変が消失,病態が改善した。

 興味深いことに同種造血細胞移植の前後に皮膚のマイクロバイオームを調べている。正常では皮膚では70%くらいの細菌叢と25%くらいのHPVなどのウイルス叢が検出されるが,移植前の患者の皮膚では90%くらいがHPVウイルス叢であったが,移植後にはHPVウイルス叢が40%くらいに改善していた(図3C)。おそらくNK細胞が皮膚をはじめとしたHPVウイルス叢の制御に関わっていること,癌をはじめとしたHPV関連疾患の防御に必要であることが示された。

 X-SCIDの中には,体細胞変異で一部免疫能が正常化している比較的軽症な患者がいること,偶然にNK細胞の機能のみが欠失した患者の造血細胞移植前後の解析から,NK細胞がHPVウイルス感染と関連疾患の制御に重要なことが明らかとなった貴重な報告である。


今週の写真:コロナ禍の夏の花火


(鈴木拓児)


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