•Nature
1)腫瘍免疫学
頭頸部癌患者におけるHPVに特異的なB細胞応答(Defining HPV-specific B cell responses in patients with head and neck cancer)
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チェックポイント阻害薬の多様な癌に有効であることから,癌免疫応答がT細胞機能に大きく依存していることが知られているが,近年B細胞の抗腫瘍免疫における役割に関しても注目が集まっている(
リンク)。癌によって腫瘍環境に3次的なリンパ濾胞構造が生じることが知られており,そこにはB細胞がたくさん存在するが,そのようなB細胞が癌免疫応答において具体的にどのような機能を果たしているのかはまだ不明な点が多い。
今回の報告は,エモリー大学のグループからであるが,同グループは9月1日にもAOPとしてヒトパピローマウイルス(HPV)蛋白に対するT細胞応答に関して同じくNatureに報告している(T細胞応答に関しては本研究紹介の最後に簡略に追記する)。本研究では,HPV陽性頭頸部癌患者の癌組織において,HPV特異的なIgG抗体を活発に産生しているB細胞〔HPV-specific antibody secreting cells(ASC)〕が腫瘍内で検出されることを示し,その抗体産生細胞が,いわゆるどの患者も有するようなインフルエンザウイルスに対して応答するバイスタンダーB細胞とは異なり,腫瘍局所でHPV抗原特異的に応答する細胞であることを示している。さらに抗原としてはHPVタンパク質のE2,E6,E7を標的としており,E2に対して最も高い抗体産生が示され,血漿中の力価とも相関していることを明らかにした。さらに著者たちは,患者腫瘍由来のB細胞(活性化B細胞:CD19+IgD-CD20+CD71+とASC:CD19+IgD-CD20.CD71+)から,複数のHPV特異的ヒトモノクローナル抗体を作成した。解析の結果,体細胞高頻度変異が多く認められ,慢性的に抗原に曝露されたことによる変化であることが示された。腫瘍環境中のB細胞について,シングルセルRNAシークエンスを施行したところ,腫瘍環境には,活性化B細胞やASCに加えて,胚中心B細胞とTransitory細胞も検出された(
Fig.4)。最終的に,これらのB細胞のうち,活性化B細胞が特に多く存在し,腫瘍実質と比較して,腫瘍間質に選択的に局在することを示し,胚中心応答が主に間質で誘導されていることを明らかにした。
HPV陽性の頭頸部癌で示された今回の知見は,他のウイルス感染に基づく癌でも同じようなB細胞応答が認められる可能性を示唆している。また今回腫瘍環境で産生されているIgG抗体はウイルス蛋白を特異的に認識するもので,体細胞高頻度変異を経て高親和性のものまで高いバリエーションを獲得していることがわかった。個人的な意見ではあるが,HPV陽性頭頸部癌が比較的予後良好である背景には,このような免疫応答が基盤にあり免疫監視が常に働いていることも一因かもしれない。最も重要な課題は,今回患者から検出された癌抗原特異的抗体が腫瘍環境中のT細胞応答をどのように修飾しているか明らかにすることであり,新たな治療標的としての活用,ワクチン開発やirAE発症の理解などに繋がるかもしれない。
同グループはHPVのE2, E5, E6蛋白に対する特異的T細胞応答についても報告している。
頭頸部癌におけるHPV特異的なPD-1陽性のStem-like CD8陽性T細胞(Functional HPV-specific PD-1+ stem-like CD8 T cells in head and neck cancer) |
HPV特異的なCD8陽性T細胞をシングルセルシークエンスによって3種類:TCF-1陽性のStem-like T細胞,最終分化型の細胞,その中間にあたる細胞に分類している。中でもTCF-1陽性のStem-like T細胞がHPV抗原刺激に対する増殖能が高く,他の一般的な癌でも認められる事象がHPV陽性頭頸部癌でも確認された。著者らはHPV抗原としてワクチンに用いられているE6やE7抗原のみではなく,E2やE5を標的することも抗癌免疫応答には重要である可能性を指摘している。
•Science
今週はScience Translational Medicineから白斑の発症機序に関しての論文を紹介する。
1)免疫学
白斑病変のシングルセルRNAシークエンスから見えた症状出現前の免疫細胞活性化とCCR5依存的な制御性T細胞の機能制御(scRNA-seq of human vitiligo reveals complex networks of subclinical immune activation and a role for CCR5 in Treg function)
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自己免疫の1つとして知られている白斑は,免疫チェックポイント阻害薬の副作用としても出現するなどその発症機序がT細胞によるメラノサイトの脱落であることが知られているが,なぜ局所的にしか症状が出現しないのか,そのメカニズムについては不明である。
今回マサチューセッツ州立大学のグループは,健常人の皮膚,白斑患者の正常皮膚と白斑部位の3カ所から細胞を回収し,シングルセルRNAシークエンスを行うことで(サンプリングと解析方法:
Fig.1),白斑部位における特徴的な変化を解析している(こちらの論文は西川先生のサイトでも紹介されている:
リンク )。白斑が生じる原因の本体として知られているIFNγは,ケラチノサイトでもともと産生されているが,健常皮膚と白斑を比べても,ケラチノサイトからのIFNγ産生は有意な変化を示さなかった。またリンパ球も重要なIFNγ産生のソースになるが,健常皮膚と白斑患者の白斑でない皮膚を比較した場合,CD8陽性T細胞,制御性T細胞,ガンマデルタT細胞,NK細胞の4種類でIFNγの産生が亢進していることがわかった。さらに,そのうちCD8陽性T細胞のみが,白斑患者の白斑でない部分と白斑の部位を比較した際に,白斑部位でIFNγの産生を亢進していることがわかった。つまり,何らかの原因で,白斑部位ではCD8陽性T細胞がさらにIFNγを産生するメカニズムが生じていることが明らかになった。その結果,抗原提示のもとになるMHCクラス1の発現は白斑病変部位で一番上昇し,接着因子の発現低下,リンパ球の遊走に関わるケモカイン産生の亢進,さらにCCR5・CCR8・CXCR3などのケモカイン受容体を発現したNK細胞,CD8陽性T細胞,制御性T細胞の集積が生じていることがわかった。特に興味深いのは,白斑を抑制すると考えられている制御性T細胞は,白斑患者では健常部ではIFNγを発現し,白斑部ではその発現をさらに亢進させるだけでなく,CCR5をより強く発現していることがわかった(Fig.4)。著者らは制御性T細胞上のCCR5受容体の発現に着目し,白斑のモデルマウスを用いた検討から,制御性T細胞上のCCR5がその抑制活性に重要であることを示し,白斑病変では制御性T細胞でむしろCCR5の発現が上昇していることから,何らかの理由で抑制機能が障害されている,もしくはCD8陽性T細胞のメラノサイトに対する傷害活性が高まり過ぎていて抑制できていない可能性が論じされている。
以上から白斑患者における白斑部と健常部において免疫細胞応答はかなり異なることが明らかになるとともに,健常部においても免疫応答のトリガーがすでに認められていることがわかった。なぜIFNγの産生が健常部と思われるところでも亢進するのか,CCR5高発現の制御性T細胞がなぜ白斑部ではむしろ多くなっているのにIFNγの産生はむしろ亢進しているのかなど,まだまだ解決すべき課題が山積されている印象を受けた。
•NEJM
1)救急医学
移動式脳卒中ユニットの前向き多施設共同臨床試験(Prospective, multicenter, controlled trial of mobile stroke units) |
呼吸器科としてのテーマからは少し離れるが,脳卒中に対して可能な限り早急に組織プラスミノーゲンアクチベータを投与した場合の臨床的転帰に関して興味深い報告がされているため紹介する。
米国では移動式脳卒中ユニット(Mobile Stroke Unit)として,脳卒中専門のスタッフと CT scanをのせた救急車が存在するようで,一般的な救急隊による標準的な対応と比較して,より早く組織プラスミノーゲンアクチベータ(t-PA)を投与できる可能性がある。このような先進的なMSU によって脳卒中の臨床アウトカムが改善できるのかを評価した試験で,簡単なサマリーが動画でも参照可能である(
リンク)。
全米の多施設共同による前向きの観察試験で,急性期脳梗塞としての症状が発現してから 4時間半以内に(4時間半の意味は,急性期脳梗塞に対する静脈内血栓溶解療法の開始が,一般に発症後4.5時間以内に限られるため。一方,2019年5月の EXTEND 試験(
リンク)では,画像上,脳組織の虚血がみられるが梗塞は認めない患者では,治療が可能な時間を9時間まで延長できる可能性が示唆されている),MSUによる管理を行う週と通常の救急隊による管理を行う週を交互にまわし,臨床アウトカムを修正Rankinスケールのスコアで評価した(日本版は
こちら。今回の試験では,実用性を加味しさらに修正が加わっている)。主要評価項目としては90日の時点で,実用性を加味した修正Rankinスケールスコアを検討している(スコアは≧0.91 または<0.91 に分類。それぞれ修正 Rankin スケールスコア≦1, >1 とほぼ同等)。 1,515 例がエントリーされ,1,047 例が t-PA 投与の適応であり,617 例はMSUで,430 例は通常の救急搬送後に治療を受けた。脳梗塞発症からt-PA投与までの時間の中央値は,MSU 群で72分,通常救急搬送群で108分であった。t-PAが適応となる患者のうち,MSU群では97.1%が投与を受けられた。一方,通常搬送群では79.5%が投与を受けた。t-PAの適応があった患者で,90日時点の実用性を加味した修正Rankinスケールスコアを比較すると,平均値は,MSU群で0.72,通常搬送群で0.66だった(スコア≧0.91 のオッズ比2.43,P<0.001)。副次的なアウトカムとして,90 日での死亡率は MSU群で8.9%,通常搬送群で11.9%であった。以上から,MSUでごく早期の治療介入が開始されるとアウトカムの改善に繋がることが示された。日本国内でも急性脳梗塞の多い地域では,有効な戦略になるかもしれない。
今週号ではREVIEW ARTICLEとしてサルコイドーシスが取り上げられているので,最新の病態に関する知見や治療介入の推奨(
リンク)などを含め,是非参照頂きたい(
リンク)。
今週の写真:大阪中之島付近
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(小山正平)