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「ほぼ週刊 トップジャーナル・ハック!」No. 165

公開日:2021.10. 22


今週のジャーナル

Nature Vol. 598, No. 7880(2021年10月14日)日本語版 英語版

Sci Immunol Vol. 6  Issue 64(2021年10月15日)英語版

NEJM Vol.385 No.16(2021年10月14日)日本語版 英語版








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ACE2を介したSARS-CoV-2感染を増強させるレクチン/T細胞性炎症の火消し役としてのコレステロール代謝/ブレークスルー感染では感染前に中和抗体価が低下

 今回も3論文中2論文がCOVID-19関係であった。特にNEJMの論文では,我々,医師・研究者とも密接に関連するブレイクスルー感染が取り上げられている。そのキーメッセージは中和抗体価の低下とブレイクスルー感染が関連していることである。我々,医療従事者は3回目のブースター接種が予定されているわけであるが,医療従事者ではない方々は,現時点で3回目接種が予定されていない。この結果を見ると,自分の中和抗体価を測定した上で,3回目のブースター接種を希望してくる方も出てくるであろう。そのような希望者に,我々がどのように対峙するべきかは,今後も考え続けなければいけない。

•Nature

1)免疫学
レクチンはSARS-CoV-2感染を増強し,中和抗体に影響を及ぼす(Lectins enhance SARS-CoV-2 infection and influence neutralizing antibodies
 SARS-CoV-2の侵入経路として,ACE2受容体が重要な働きを行っているのは広く知られている事実である。しかし,気道におけるACE2受容体の発現レベルは低いことから,感染を促進する別の機構があることが示唆されていた。この疑問に対して,VIR Biotechnologyというベンチャー企業が,SARS-CoV-2によるACE2依存性感染を増強するレクチン依存性経路を報告している。このVIR Biotechnologyにはゲイツ財団やソフトバンクグループのビジョンファンドも投資しているとのことである(Link)。
 まず,SARS-CoV-2感染を増強させる因子を同定するアッセイを開発するために,ACE2の内因性の発現レベルが低いHEK 293T細胞を使用した。HEK 293T細胞に,ACE2をコードするベクター,また,レクチンを含む13種類の因子をそれぞれトランスフェクトしてから,SARS-CoV-2のpseudo virusを感染させている。HEK 293T細胞にACE2を過剰に発現させるとpseudo virusの侵入が顕著に増加した(Fig. 1b)。それ以外にも,HEK 293T細胞にC型レクチンであるDC-SIGN,L-SIGN,SIGLEC1をトランスフェクションしたところ,感染力の増加が認められた(Fig.1a)。HeLa細胞やMRC-5細胞などのACE2が発現していない細胞においてはこの現象が認められず,これらのレクチンは一次エントリーの受容体としては機能しないことが示された。
  これらのレクチンとACE2との相互作用が同じ細胞内(cis)が起きているのか,もしくは,違う細胞(trans)と起きているのか調べるために,肺細胞アトラスを調べている。ACE2の発現は,Ⅱ型肺胞上皮細胞,基底細胞,杯細胞のサブセットに限られているのに対し,DC-SIGNはIGSF21陽性の樹状細胞に最も顕著に発現し,L-SIGNは血管構造に限定的に発現し,SIGLEC1は肺胞マクロファージ,樹状細胞,単球の細胞表面に広く発現していた(Fig 2a)。
 さらに,重症のCOVID-19のBALまたは喀痰から得られた上皮細胞および免疫細胞のシングルセル・トランスクリプトームデータを解析した。細胞あたりのウイルスRNAの分布は細胞タイプによって異なっており,特に,マクロファージのウイルスRNAの含有量は,分泌細胞に比べて多かった(P < 2.2 × 10-16)。SIGLEC1は,SARS-CoV-2+マクロファージの41.4%で発現していたが,ACE2の発現はごくわずかであった(Fig. 2a)。逆に,SARS-CoV-2陽性の分泌細胞の10.6%では,ACE2の発現を認めたが,SIGLEC1の発現はごくわずかであった。DCのうちSARS-CoV-2が検出されたのは2%未満である一方,そのうち47%にSIGLEC1の発現が見られた。さらに,解析を進め,ACE2とSIGLEC1はトランスの関係でSARS-CoV-2感染を増強していることが判明した。SIGLEC1は,肺の骨髄系細胞に顕著に認められることから,骨髄系細胞が感染の直接の標的ということはなく,トランス(別の細胞への)感染,そして,組織への拡散,骨髄系細胞による免疫反応の惹起につながるものである。
 その後の実験により,Sタンパクの各部位(Link)の特異的モノクローナル抗体がACE2,レクチンにどのような中和活性に影響を与えているか観察している。N末端ドメイン(NTD)に対する抗体や,受容体結合ドメイン(RBD)の基部の保存された部位に対する抗体は,ACE2過剰発現細胞への感染を中和する活性が低い一方,これらの抗体はレクチンによって促進された感染を効果的に阻害した。一方,受容体結合モチーフ(RBM)に対する抗体は,ACE2過剰発現細胞への感染を強力に中和する(Fig. 4)一方で,DC-SIGNやL-SIGNなどのレクチンを発現する細胞への感染を中和活性は低く,さらに,スパイクの融合性再構成(Link)を引き起こして,細胞間の融合を促進していた。
 以上から,今回,SARS-CoV-2によるACE2依存性感染を増強するレクチン依存性経路が同定されるとともに,同じスパイク内であっても,異なるクラスのスパイク特異的抗体が異なる中和活性・中和メカニズムが存在すること明らかになった。

•Sci Immunol

1)免疫学
コレステロール25-ヒドロキシラーゼは,皮膚において,T細胞が介在する炎症を制御する代謝スイッチである(Cholesterol 25-hydroxylase is a metabolic switch to constrain T cell–mediated inflammation in the skin
 本研究は,慶應大皮膚科グループとNIHの国際共同研究グループによる,T細胞性炎症におけるコレステロール代謝の役割を明らかにした研究である。近年,免疫と代謝の関係がホットトピック(Link)となっているが,その主人公は糖代謝であった。今回は,コレステロール代謝との関連をIL-27の視点から紐解いた研究である。TH1, TH2, iTreg, TH17, TH0の各種のCD4陽性T細胞のサブセットとIL-27(+TGFβ)で処理したCD4陽性T細胞をそれぞれ,トランスクリプトーム解析を行っている(Fig 1A)。IL-27で処理したCD4陽性T細胞が特異的にCh25h(コレステロール25-ヒドロキシラーゼをコード)を発現している。IL-27 をCD4 陽性 T 細胞に作用させると,T 細胞がCh25hを発現するだけでなく,その代謝産物である 25 水酸化コレステロール(25OHC)を分泌することを確認している。また,IL-27,IFN-β,TGF-βの組み合わせで処理しても,Ch25hKOのCD4陽性T細胞は25OHCをまったく産生できず,25OHCの産生にこのCh25hが必須であることを確認している(Fig 3B)。
 この現象がSTAT1依存的であることを示し(Fig 1I),STAT1がIFN-γシグナルに関与すること,また,IL-27とIFN-γはともにT-betを誘導することから,IL-27により誘導されたT-betもCh25hの発現にも関与しているのではないかと筆者らは仮説を立てて,研究を進めている。Tbx21(T-bet)KO CD4+T細胞では,IL-27刺激後,Ch25hがwild typeのT細胞に比べて有意に上昇した(Fig 2A)。この結果と一致し,Tbx21KOのT細胞では,IL-27刺激後にwild typeのT細胞よりも多くの25OHCを産生した(Fig 2B)。一方,T-bet誘導において重要な役割を果たすIFNγは,Ch25hの発現を誘導しなかった(Fig 1E)。しかし,T-betの非存在下(Tbx21KO)では,IFNγはCh25hの発現を有意に上昇させた(Fig 2A)。これらの結果は,T-betがCh25hの発現とそれに続く25OHCの産生を負にコントロールしていることを示している。
 次に25OHCの刺激を受けたT細胞の解析を進め,低用量の25OHCでは,コレステロールの生合成やその他の代謝経路が影響を受けているのに対し,高用量の場合は,主に細胞周期,DNA複製,DNA修復,セントロメアに関連する経路が影響を受けていた(Fig.3D)。次に,分泌された25OHCがコレステロール合成を抑制することで,周囲のT細胞の細胞表現型にどのような影響を与えるかを調べた。これまでの報告によると,25OHCはステロール合成抑制を介して,DNA合成やリンパ球の増殖阻害の先行研究に注目し,25OHCがCD4陽性T細胞及びCD8陽性T細胞に細胞死を引き起こすことを示している(Fig. 4)。さらに,代謝要求の高い活性化T細胞ではde novo生合成が阻害されるため,細胞内のコレステロールが減少することにより細胞死が引き起こされることが原因の一つであった。
 次に,自己反応性 CD4 陽性 T 細胞が皮膚の表皮細胞を攻撃することで皮膚炎を起こす自己免疫性皮膚炎マウスモデル(experimental autoimmune dermatitis:EAD)を用いて,生体内での Ch25h の機能を観察している。この自己免疫性皮膚炎マウスモデルでは皮膚内の T 細胞に Ch25h の発現が確認されたが,皮膚の所属リンパ節の T 細胞ではCh25h の発現が確認されなかった。つまり,皮膚炎を起こしている局所の T 細胞のみに Ch25h が発現すると考えられた。一方,IL-27 の非刺激下では,皮膚炎に存在する T 細胞の Ch25hの発現が低下し,さらに,皮膚炎のフェノタイプも増悪した。この T 細胞から Ch25hを欠失させると,皮膚炎が増悪した。さらに1-フルオロ-2,4-ジニトロベンゼン(DNFB)により惹起される接触皮膚炎モデルでも,Ch25h KOマウスでは皮膚炎が遅延した。
 以上より,IL-27 は Ch25h 発現 CD4 陽性 T 細胞を炎症局所に誘導し,25OHC の分泌を促し,周囲の炎症に関連する免疫細胞に作用し,コレステロールを不足に陥らせることで細胞死を誘導し,炎症の収束に寄与する機序が考えられた。

•NEJM

1)感染症
Covid-19 ワクチン接種を完了した医療従事者におけるブレイクスルー感染(Covid-19 breakthrough infections in vaccinated health care workers
 今週のNEJMもイスラエルからのファイザーのmRNAワクチンにまつわる報告である(Link)。SARS-CoV-2に対する mRNA ワクチンの高い有効性にもかかわらず,ブレイクスルー感染が医療従事者などで報告されている。本研究では,Sheba Medical Center(イスラエル最大の医療センター)で,有症状で,感染曝露があった医療従事者を包括的に評価し,ブレイクスルー感染を同定している。SARS-CoV-2 が検出される1週間前(感染周辺期)の抗体価のデータが得られたブレイクスルー感染者と,非感染者をマッチさせ, 2 群の抗体価比を観察している。感染性については,中和抗体価と N 遺伝子の増幅サイクル数(Ct 値)との相関も評価している。
 ワクチン接種を完了し,経時的にRT-PCR のデータを入手しえた医療従事者 1497 例の内,39 例で SARS-CoV-2 ブレイクスルー感染を認めた。ブレイクスルー感染を認めた患者における感染周辺期の中和抗体価は,マッチさせた非感染者の対照群よりも低かった(オッズ比 0.361,95%CI 0.165~0.787)。感染周辺期の中和抗体価が高いほど,より低い感染性(より高い Ct 値)と関連した.ブレイクスルー感染を認めた患者の大部分は軽症または無症状であったが,19%の症例では 6 週を超えて症状が持続していた。 ブレイクスルー感染の内,85%で B.1.1.7 変異株(アルファ株)が認められた。ブレイクスルー感染患者の 74%は,経過中のある時点で高いウイルス量(Ct 値<30)を示したが,観察範囲内で二次感染は確認されなかった。


(南宮湖)

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